「リモート魔王」――改善してたら魔王に定義されました。家族との絆が削られる魔王に…   作:遠藤 世羅須

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何やら求人サイトがあるのか、スカウトメールが飛んで、候補者が面接に来る。直人は管理者として面接に臨む。


第7話 面接 そして勝負

呼びかけに答えて来たのは2人(2匹)だった。

まずは1体目。

面接室に、巨大な影が現れる。

鱗、翼、金の目。ドラゴンだ。

 

ドラゴンは座らない。ホールから動かない。

机のある場所は天井に頭がつかえるからだ。

直人は即座に理解した。

(狭い)

 

ドラゴンが開口一番、言った。

「狭い」

 

直人は言い返す。

「……すみません」

 

ミリアが耳元で囁く。

「直人さま、“すみません”♡」

 

直人はハッとして口を閉じた。

「……いや、違う。狭いのは仕様だ」

 

ドラゴンは鼻を鳴らす。

「安い」

 

直人はホワイトボードを見る。

(名誉、昇進ポイント、時々肉)

「待遇の話なら、調整――」

 

ドラゴンが被せた。

「飯がまずい」

 

直人が固まる。

「……飯?」

 

ドラゴンは真顔で言った。

「焼けてない肉は嫌いだ。焦げも嫌いだ。骨は抜け。ソースは二種。

 あと、量が少ない」

 

ミリアが小声で言う。

「グルメクレームです♡」

 

直人は低い声。

「世界の最強生物が、社食に文句言うな」

 

ドラゴンは続ける。

「あと、空がない。飛べない」

「ここダンジョンだぞ」

「不満だ。辞退する」

 

淡々と、ドラゴンは姿を消した。

ホワイトボードに赤字で表示が出る。

 

【選考結果】ドラゴン:辞退(理由:狭い/安い/飯がまずい)

 

直人は机に額を当てた。

「何でダンジョンと分かってて来たんだ?」

「面接ってこういう地獄だったか」

ミリアが明るく頷く。

「はい♡ よくある♡」

「ない」

 

 

 

〇第二候補:デーモンロード

 

空気が変わった。

温度が、少し下がる。

影が、きれいに揃う。

次に現れたのは、背の高い男――いや、“男の形をしたもの”だった。

角、黒衣、静かな威圧。

目が笑っていない。

 

ミリアが楽しそうに言う。

「第二候補♡ デーモンロードさまです♡」

 

直人は囁く。

「“ロード”って、上位互換じゃないか」

「しかも、そのまんま『魔王』じゃないのか?」

「デーモンロードは“魔王”ではありません♡ この迷宮の“鍵”を持っていないので」

「採用できるのかよ」

 

デーモンロードは椅子に座り、指を組んだ。

「貴様が魔王か」

 

直人は即答した。

「違う」

 

ミリアが即答した。

「魔王です♡」

 

直人が睨む。

「やめろ」

 

デーモンロードは口角だけ上げた。

「ふむ。面接か」

 

 

直人は現実の言葉に寄せる。

「採用の一次です。条件は――」

 

デーモンロードが手を上げて遮る。

「条件など要らん」

 

直人が眉をひそめる。

「……では何を」

 

デーモンロードは淡々と言った。

「勝負だ。

貴様が私に勝てば、私は働く。

貴様が負ければ――私が魔王になる」

 

直人は一拍遅れて理解した。

(採用面接じゃない。乗っ取りだ)

 

ミリアが嬉しそうに拍手する。

「面接っぽいですね♡」

「どこがだ」

 

 

直人の脳が仕事モードに入る。

勝負を避けたい。

しかし避けると、園に開いた入口が広がる。

最悪だ。

 

 

直人は一度だけ、現実のミュート表示を確認した。

ミュートはON。時間は稼げる。

だが無限じゃない。

 

「勝負の定義は」

 

直人が言うと、ミリアが息を呑んだ。

 

デーモンロードの目が細くなる。

「ほう。定義を求めるか」

 

直人は続けた。

「殺し合いは却下。現実側に影響する」

 

ミリアが頷く。

「コンプラです♡」

 

直人が小声で言う。

「そこで使うな」

 

 

デーモンロードは笑った。

「ならば、支配だ。

この迷宮を、いかに早く“掌握”するか」

直人は即答した。

 

「KPIか」

 

ミリアが囁く。

「直人さま、KPI好きなくせに♡」

「好きじゃない。慣れてるだけだ」

 

 

 

デーモンロードが言った。

「ルールは単純だ。

貴様は“管理者の杖”を使え。

私は素手で行く。

このフロアを、先に自分の色に染めた方が勝ちだ」

 

直人は嫌なことに気づく。

(杖がある=権限がある)

(権限を使う勝負=現実の仕事と同じ)

(俺が一番得意で、一番嫌いなやつ)

 

直人は低く言った。

「……わかった。勝負する」

 

ミリアが拍手する。

「魔王さま、宣戦布告です♡」

 

直人が睨む。

「魔王じゃない」

 

デーモンロードは立ち上がり、薄く笑った。

「負ければ、貴様は“管理者”ではなくなる。

 ただの人間に戻れ」

 

 

直人は、その言葉だけは許せなかった。

「……戻るのはいい。

だが娘の幼稚園に手を出すなら――勝負じゃ済まない」

 

一瞬、デーモンロードの空気が重くなる。

しかし次の瞬間、愉快そうに笑った。

「よい。怒りは強さだ」

 

ミリアが直人の耳元で囁く。

「直人さま、感情が燃料です♡」

「やめろ、燃やすな」

 

 

〇勝負開始

 

 

面接室が消え、迷宮フロアが“盤面”のように俯瞰表示される。

管理者の杖のUIが、勝負モードに変わった。

 

 

【対戦開始】

直人:管理者(杖あり)

デーモンロード:候補者(杖なし)

勝利条件:フロア掌握

禁止:現実側干渉(※努力目標)

 

直人は思わず呟く。

「努力目標って書くな」

 

ミリアが笑う。

「書きやすいので♡」

 

 

迷宮の奥で、デーモンロードがゆっくり歩き出す。

触れただけで影が伸び、空気が変わる。

“支配”が、始まっている。

直人は杖を握り直した。

修繕のための権限。

形状変更のための権限。

そして、現実を守るための権限。

 

現実では、幼稚園の朝はまだ終わっていない。

その裏で、直人の“採用面接”は、勝負へ変わった。

 

「……やるぞ。迷宮を“管理”する」

 

ミリアが、最高に楽しそうに言った。

「はい♡ 魔王さま♡」

 

 

直人は、杖を握った瞬間から、ずっと気になっていることが二つあった。

いまさら、と言われても困る。遅いのは分かっている。

だが、遅れてでも考えないと、脳が壊れる。

 

ひとつ。

――ここは、現実なのか。

幼稚園の隅に“入口”があり、先生としてミリアが馴染んでいて、誰も疑わない。

それを「異常」と判断できるのが自分だけで、

しかもその判断が時々ぬるっと揺らぐ。

魅了。思い込み。集団の合意。

どれも現実にある。現実にあるから、現実っぽく見える。

 

もうひとつ。

――自分は、魔法を使えるようになっているのか。

「管理者の杖」などという、ゲームのアイテムみたいなのが現れた。

でも触感は工具で、UIは業務ソフトで、やっていることは

「修繕」「形状変更」「ルート定義」。

あまりに仕事だ。あまりに管理だ。

魔法というより、権限。

権限というなら、誰が付与した。何のために。どこまで。

 

直人は、答えの出ない二つの疑問を、口に出さないまま飲み込んだ。

口に出すと、どちらかの世界が“確定”してしまいそうだったからだ。

 

ミリアが隣で、軽やかに言う。

「直人さま、考えすぎです♡」

「考えないと死ぬ」

「死にません♡」

「死ぬ」

 

ミリアは笑う。

「では、定義して下さい♡ “現実”とは何ですか?」

直人は答えない。

答えられない。

定義してしまったら、どこかが加速する。

だから直人は、最悪の結論だけを握る。

(分からない。けど、放置すると広がる)

もやもやしたまま、直人は杖を握り直した。

いま必要なのは哲学じゃない。

“勝つこと”だ。

 

目の前で、迷宮フロアの俯瞰表示がゆらりと立ち上がる。

盤面の上に、二つの支配が重なる。

直人:管理者(地の利あり)

デーモンロード:候補者(支配力あり)

ミリアが小声で囁く。

「魔王決戦です♡」

直人は低く返す。

「……まだ俺は魔王かどうかも分かってない」

「分からないまま勝つのが、直人さまです♡」

「褒めるな」

 

〇 デーモンロードの支配

 

デーモンロードは、杖を持たない。

それなのに、迷宮の空気が変わっていく。

彼が歩く。

歩くだけで、影が伸びる。

影が伸びた場所の石が、ほんのわずかに黒ずむ。

壁が“従う”。

分岐が“整列する”。

まるで迷宮が、彼に合わせて道を作り始めるように。

 

「……ふざけるな」

直人が呻くと、デーモンロードが静かに笑った。

「権限がなくとも、支配はできる」

ミリアが楽しそうに言う。

「さすが♡」

直人が睨む。

「さすがじゃない。恐い」

 

デーモンロードは、迷宮を“物語”に変えていく。

侵入者が喜ぶ形に。恐怖が映える形に。

意味のある曲がり角、意味のある暗がり、意味のある待ち伏せ。

そして何より――

「ここを通るべきだ」と思わせる道筋を作っていく。

 

直人の背中が冷える。

(こいつ、現実でもやってるタイプだ)

会議で空気を支配するやつ。

議題をすり替えるやつ。

みんなが「そうですね」と言ってしまうやつ。

 

デーモンロードが淡々と言う。

「貴様の迷宮は、管理だ。

私の迷宮は、支配だ」

直人は小さく息を吐いた。

(管理で勝てるのか?)

ミリアが囁く。

「勝てます♡ 直人さまは“地の利”があります♡」

 

直人は眉をひそめる。

「……地の利?」

「直人さまが作った迷宮です♡」

「俺がか?」

ミリアが笑う。

「魔王さまに近い人が、勝ちます♡」

 

〇 直人の地の利

 

直人は杖を掲げた。

戦闘じゃない。掌握戦だ。

つまり――ルールの上で勝つ。

 

直人は俯瞰表示を開き、短く命令を出す。

「推奨ルート、更新。侵入者目線の“正解っぽさ”を潰す」

「扉の偽装、強化。行き止まりに“報酬”を置け」

「分岐の意思決定を増やす。迷う回数を増やす」

ミリアが拍手する。

「迷わせる仕事♡」

直人は低く返す。

「仕事じゃない」

 

迷宮が変形する。

しかし直人は、デーモンロードのように“雰囲気”で変えない。

指示は全部、理由がある。

侵入者は怒ると事故る。

事故が起きると現実に響く。

だから怒らせない迷宮にする。

戻れる迷宮にする。

それでも“到達させない”迷宮にする。

 

直人の脳が、最悪に馴染んだスキルを発揮する。

「仕様で勝つ」

デーモンロードが目を細めた。

「仕様?」

直人は言う。

「制約」

「ルール」

「例外」

「そして、運用」

ミリアが囁く。

「運用最強♡」

「黙れ」

 

直人はさらに一手を打つ。

――“支配”は、一本道にしたがる。

――“管理”は、冗長性を持てる。

直人は迷宮に、無数の“逃げ道”を増やした。

逃げ道は侵入者のためじゃない。

デーモンロードの支配が広がる速度を落とすためだ。

支配は強い。だが広がるには時間がいる。

なら、拡散させて薄める。

 

迷宮が、デーモンロードの色を受け付けなくなる。

影が伸びても、次の角で途切れる。

黒ずんでも、次の分岐で無意味になる。

デーモンロードの表情が、一瞬だけ曇った。

「貴様……支配を“散らした”な」

直人は低い声で返す。

「支配は一点突破に弱い」

「だから、散らす。

そして――最後に、閉じ込める」

 

〇 勝負の決着

 

直人は杖のUIを開いた。

最後の機能を選ぶ。

 

【形状変更:局所封鎖】

対象:影の濃度が一定以上の領域

効果:通路の再構成(撤退導線は保持)

 

直人は短く言った。

「“支配域”だけを、迷宮の袋小路にする」

ミリアが息を呑む。

「直人さま、それ……」

直人は低く返す。

「殺さない。閉じ込めるだけだ」

杖が淡く光り、迷宮が“仕事のように”組み替わる。

影が濃いところだけを切り出し、

そこへデーモンロードを“誘導”する。

 

デーモンロードは気づく。

気づいた時には、もう遅い。

彼の背後の道が、静かに閉じる。

閉じたように見えるが、実際は“戻れる遠回り”が残っている。

しかし遠回りは、支配を維持できない。

 

デーモンロードは、閉じた道の前で立ち止まった。

怒らない。暴れない。

ただ、状況を受け入れている。

その姿を見て、直人は初めて「負けた相手」を怖がらなかった。

支配力というのは、暴力じゃない。

 

デーモンロードは、一瞬だけ笑った。

「……管理者らしい勝ち方だ」

直人は息を吐く。

「俺は、支配が嫌いだ。だから管理で勝つ」

デーモンロードは肩をすくめる。

「感情を持たず、ただルールで盤面を塗り潰す貴様の冷徹さは、

 並の暴力より恐ろしい」

「よかろう。負けた」

「働け」

「働く」

それはあまりにあっさりしていて、逆に怖かった。

 

ミリアが拍手する。

「採用決定♡」

直人が睨む。

「決定じゃない。まだ信用してない」

デーモンロードは静かに言う。

「約束しよう。門には触れない」

 

直人の背中が冷たくなる。

「……なぜ、その言葉が出る」

デーモンロードは微笑んだ。

「貴様が守りたいものぐらい、見える」

 

直人は杖を握り直す。

胸の奥にあった二つの疑問――現実か、魔法か――が、

まだ答えのないまま沈んでいる。

でも、その答えは今日いらない。

ここは現実か。

魔法か。

それとも――ただの権限か。

 

ミリアが、耳元で囁く。

「直人さま。

“分からない”は、定義しなくていいです♡

でも“守る”は、定義して下さい♡」

直人は、答えないまま、うなずいた。

もやもやのまま、勝負は終わった。

そして、もやもやのまま、次の仕事が始まる。

 

現実の通話表示が、まだミュートのまま点灯している。

幼稚園の朝は、まだ終わっていない。

直人は、最後に自分にだけ言った。

「……分からないなら、分からないまま管理する」

ミリアが笑った。

「はい♡ それが魔王です♡」

直人は、まだその定義を受け入れられないまま、

迷宮の奥へ視線を向けた。

 

 

 

(つづく)

 




デーモンロードとの勝負に勝ち、条件をクリアした直人。しかし、門の封印はまだできない。
門を閉じる鍵が何か?直人は封印に向けて最後の挑戦をする。
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