Re:TS白黒ストライプバニー老害によるナツキ・スバルの悲喜劇観賞会 作:F・M・T (フランチェスカ、マジ年増)
「何で……呪いを、レムが……?」
スバルには訳が分からなかった。
殺される人間が生き残ると殺す人間が死ぬ。
そんな意味の分からない方程式が生まれている。
「ど、どうして、レムが……」
「触らないでッ!」
手を伸ばしたスバルの手をラムが痛烈に叩き落とす。
「おそらくは魔法によるものだぁね。魔法より、呪術寄りに思えるけどぉね。死因は衰弱によるものだ。眠っている間に生気を奪われ、ゆぅっくりと鼓動を遠ざけられ、そのまま眠るように命の火を吹き消されているということだぁよ」
それを聞いて思い至る。
「呪術とレムは完全に別物なのか?」
だとすると、レムをどうすればいいかという単純な話じゃなくなる。
スバルが必死に頭を巡らすが答えはでない。
そんなスバルに痺れをきたしたのか、ロズワールがスバルを見下してくる。
「お客人。なぁにか、知らないかぁな?」
「それは……」
そう、言えない。
言葉にすればまたあの痛みと恐怖に怯えることになる。
「何か知っているのなら逃がさない。洗いざらいぶちまけなさい」
それからは、ベアトリスの手も借りながら必死に屋敷から逃げる。
耳に響く『絶対に殺してやる!!』という怨嗟の怒号を聞きながら、スバルは足を進ませ続けた。
「──ようやく気付いたかしら」
崖の上で力尽きたスバルを見下ろすベアトリス。
「お前の身の安全を守るのがベティーの交わした契約なのよ。その相手が死んだとなったらベティーの威信に関わるかしら」
「今日の朝まで……って、内容だったと思ったんだけど。まだ、俺との契約を守ってくれるのか……」
「契約は契約。どちらかが倒れるまでそれは有効なのよ。……そう考えると、まともに期限を決めなかったのは失敗だったかしら」
スバルから口にしたことを記憶から全て消去したように、平然とするベアトリスの姿にスバルは胸が締め付けられる。
「言っておくけど、ベティーがやってやれるのはもうここまでなのよ。屋敷に戻ってあの姉妹の姉に弁明する機会なんて作ってやれないかしら。そのチャンスがあったとしたら……投げ捨てたのはお前なのよ」
「俺は……ッ」
言いたくても言えない。
それを誰にも言えないのだから八方塞がりでしかない。
「俺が、逃げることを選べば……」
「屋敷の連中に見つからないように手助けぐらいはしてやるのよ。そのあとでどこへ行方をくらますかは、お前の勝手にするといいかしら」
「俺が、ラムと話したいって言ったら、どうする?」
「……無駄なのよ。姉妹の姉はもうお前の言葉に耳を傾けるだけの余裕がないのよ。何を言っても聞かないし信じないかしら」
ベアトリスは既に何もかもが終わったのだと告げる。
否定できるだけのものを持ち合わせていないスバルには
「結界に触れないように境界をなぞりながら森を抜けるのよ。山向こうの街道まで出れば人里まで歩いていくのも難しいことじゃないかしら」
ベアトリスが指し示す方向に視線を向ける。
──もし、これがスバルにとって異世界で初めての居場所となる機会ならば、再び奮起をしただろう。
しかし、そうではなかった。
スバルの心の中にはエミリア達とは別の居場所……信用をおける場所が存在した。
「っ!」
スバルは鬱蒼と草木が生い茂る獣道を走り出す。
頭は真っ白なまま一縷の希望を求めて。
ただ生きるために。
「フランチェスカ……フランチェスカのところに行けば……」
スバルには存在した。
この異世界で誰よりも信じることができて、何よりも頼りになる存在が1人だけ。
「エミリアに助けられた借りはあの盗品蔵で返せてる筈だろ……もう、許してくれ……俺には無理だったんだよ……」
スバルはフランチェスカが居ないという事実に心が折れていた。
前回は全てフランチェスカが居たからどうにかできたと言ってもいい。
フランチェスカが能動的に動いてくれたからスバルは助かっただけ。
決してスバルが自分自身の力で運命を変えた訳ではない。
「助けてくれ……もう無理なんだよ……」
そして、フランチェスカにスバルは親近感を勝手に抱いている。
魔女というだけで『嫉妬の魔女』だと勘違いされるフランチェスカと、『魔女の残り香』というものがあるせいで魔女教だと勘違いされるスバル。
人から勘違いにより殺意を向けられる理不尽な境遇。
このシンパシーはエミリアへ向けているアイドルを応援する感覚とは、とても比べられない強さだった。
さらに、『死に戻り』も『元の世界の知識』のことも知っているフランチェスカは、スバルにとって心から安心を手に入れられる唯一の人物だ。
「──逃がさない」
「ひっ……!」
後ろから飛んできた風の刃。
それが目の前の木を真っ二つにして両断する。
後ろを見れば、そこには憎悪を瞳に宿した赤鬼が居た。
もう逃げ出すことはできない。
「全てを晒け出して死になさい」
スバルはもう察している。
前回の周回で風魔法を用いて足を切り飛ばしたのはレムではなく、目の前のラムだ。
つまり、姉妹揃ってスバルを殺しにきていた。
「なん、だよ……!俺が全部悪いみたいな事を言いやがって……!」
だからこそ、スバルは弾けた。
「──テメェらが散々人の事を疑って騙しておきながら、自分達に何か不都合が起こると全部の責任を押し付けやがって……ッ!!ふざけるなッ!!何でそこまで俺が全部受け止めなくちゃいけないんだよ!?俺はな、お前らを見捨ててフランチェスカのところに行くこともできたんだぞ!?それなのに、どうして俺が諸悪の根源みたいな扱いをされるんだ!?」
助けるために死ぬ思いをしたのにも
勿論、ラムには知り得ないことなのだから仕方がない事ではあるが、そうだと受け入れる余裕がスバルにはもう一欠片もなかった。
「騙してた癖に被害者ぶってんじゃねぇよ!!信用も信頼もしてなかった癖に裏切られたみたいな顔してんじゃねぇ!!俺にはなぁ!お前らを助けてやる義務なんて存在してねぇんだぞ!?それなのに、その俺に対する仕打ちがこれかよ!?この恩知らず共が!!」
怒りにまみれたその顔を見てラムはどこまでも冷たい瞳をする。
「……聞くに堪えない妄言ね。ここまで
ラムがスバルの首に風の刃を放つ寸前に、黒い影が周囲の木々の隙間から飛び出してくる。
「くっ……!?これは、ウルガルム!?何故、こんなところに……」
犬のような魔獣がそこらじゅうから飛び掛かってきた。
ラムがそのまま風の魔法で周囲の魔獣を切り伏せる間に、スバルはまたもや逃走を始める。
「クソッ!何なんだよ!?次から次に……!」
ウルガルムは仲間を殺しに来るラムの方がが危険だと認識したのか、スバルよりも優先的に襲い掛かった。
それを好機と見たスバルは隠れながらも全力で逃げ続ける。
「殺す……必ず、殺してやる……!」
その怨嗟の声に答える余裕などはない。
逃げて、逃げて、逃げて、逃げて……そして、とうとう追い付かれた。
ミシミシミシミシ……と首を両手で締め付けられる。
スバルには逃げる自由などない。
馬乗りにされ肩と手を押さえ付けられているスバルは、ラムの憤怒が宿る瞳に見下ろされながら、酸素を求めてもがく事しか許されていない。
「ぶ……くく」
「……何がおかしいの」
何がおかしい?
そう言われてもスバルからすれば困るしかない。
別にこの状況に興奮している訳ではないのだから。
敢えて言うのなら、少し滑稽過ぎたというだけ。
信頼を得ようと努力をすることだとか、自らの価値を示せるように成果を出そうとしたことだとか、スバルはそんな自分の真剣な取り組みが余りにも馬鹿馬鹿しくて下らなかった。
その結果がこれなのだから、何も救えない。
結局は自分一人ではどうしようもなく、自分では彼らを救う資格すらなかったというだけなのだから。
この場所には頼れる味方は居らず、敵ばかりしか存在しないのだ。
つまり、どうしたって最初から詰んでいるということに他ならない。
「ひ、ひひひひ……」
「もういいわ。さっさと死になさい」
そう言うと、ラムは手に力を込めた。
それが握力で首をへし折るつもりなのか、風の魔法で切り飛ばすつもりなのか、首を絞められているスバルには分からないが、これで今回の周回が終わることを理解する。
その瞬間がほんの一秒後にやって来る次の瞬間、スバルはあの声が聞いた。
「──そこまでだ。……なんてね♪」
ラムのすぐ後ろに白と黒の少女が現れる。
そこは完全なる間合い。
もしナイフでも持っていれば首を切り裂かれてラムは死んでいただろう。
「なっ!?……くっ!」
「流石は元『鬼神の神童』。対応が的確だね。振り向き様にフーラを首に一閃。間合いに入られている時点で相手は格上か当主な技能持ちの二つに一つ。今の状態で唯一生き残る可能性があるとしたら、油断をしているだろう今しかない。私じゃなかったら首が切り飛ばされてたよ~」
「直撃をして、何故……ッ!?」
「この身体は何十年も掛けて作った特別製だからね!その程度じゃ傷一つ付けられないってこと♪ ……それじゃあ、お休み~」
ラムの頭に彼女の手が触れると、プツリとそのまま意識を落として、糸が切れた操り人形のように力なく左側に倒れた。
あれだけ泣き叫び、殺意を怒りと共に吐き出していた少女が眠るように意識を落としている姿を見て、スバルは現実味が無いながらも必死に呼吸を繰り返して酸素を補給する。
「はぁ……っ!はぁ……っ!がはっ!ごほっ!……ふぅーっ、はぁ……!」
そこでようやくスバルは生きている実感を得た。
泥だらけになりながらも、ようやく死地から生還した。
その事実に全身の細胞が歓喜する。
全力でスバルは生きていた。
「俺……俺もう、どうしようも……なかったんだよ…………俺なりに頑張ってみたけど、どうやっても認めて貰えなくて……ずっとずっと疑われて、嫌われて、殺されて、もう無理なんだよ……」
スバルは泣きべそを掻きながら弱音を吐く自分が嫌いだ。
情けない姿を二度も同じ少女に見せるなんて余りにも惨め過ぎる。
ここまでの醜態を見せることに勿論、恥は当然あった。
しかし、そんな気持ちが霞んでしまうくらいに安堵が心を満たしていたのだ。
「俺を、助けてくれ……フランチェスカ」
「(危ない危ない。観覧するのを楽しみ過ぎてIFルートに入っちゃうところだったね!)」