Re:TS白黒ストライプバニー老害によるナツキ・スバルの悲喜劇観賞会   作:F・M・T (フランチェスカ、マジ年増)

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2.八つの枢要罪

「何で……何で何で何で何で何で何で……ッ!どうしてこんな事を繰り返さないといけないんだよ!?異世界転生なんだからもっと夢見たっていいだろ!?どうしてこんなに、ままならないんだよ!便利なチートの一つや二つあったってバチは当たらねえだろうがッ!!」

「あ……?何だコイツ?ビビっておかしくなったのか?」

「どれだけやってもアイツに届かない……!俺じゃあ、あの子を……サテラを救えない……!クソクソクソクソクソクソォッッ!!あんな化け物相手にどうすりゃあ、いいってんだよッ!?」

 

 

 目付きの悪いジャージ姿の少年とチンピラ三人による、路地裏での揉め事。

 英雄譚の序章というには余りにも取るに足らない光景だ。

 

 ーーこれが、『死に戻り』を何度も繰り返した後だと言うことを知らなければ、という注釈が入るが。

 

「スバル君の絶望の慟哭は本当に素敵だよねぇ~♡ 『最優』の騎士みたいな品行方正で道を間違うことなく懸命に生きてきた人間が、道を間違えて絶望の声を上げる慟哭も最高だけど、凡人ならではのこのジャンクな感じも癖になっちゃうよ!う~ん、本当にゾクゾクしちゃう……♡」

 

 体を震わして身悶える。

 平和な日本で暮らしていた引きこもりの少年が、異世界で殺人鬼によって(はらわた)を何度もぶち撒けることになる、地獄のループを繰り返していることを知っておきながらこの反応だ。

 少女の形をしていながら間違いなく外道だった。

 

 

 

()()も繰り返して、何度サテラをみすみす殺されてるんだよ!馬鹿野郎がッ!クソ無能野郎がよッ!力も無ければ頭も使えねぇとかマジで救いようがねぇだろうがッッ!!」

 

 

 

「……って、あれ?九回……?」

 

 スバルの絶望の慟哭は原作でも多くあるが、ここでこんな切羽詰まった慟哭を上げてはいなかった筈だ。

 知っている流れと違う。

 その予想外の展開にさしもの彼も目を丸くする。

 

 

「どうして苦しくて辛くて惨めで怖い思いばっかして……何も上手くいかないんだ!特別な力に目覚めて無双の一つでもしていいだろ!?こんなに弱くて……弱いままでどうやってサテラを助ける事ができるんだよ……!十回目を繰り返しても同じ様な事になるに決まってる!どうすりゃいいんだ……ッ!」

 

 

 その言葉を聞いて疑念が強まる。

 

「むむむぅ……?九回もしてかなぁ?私ってweb小説派だからアニオリとかゲームでの独自展開だとかだと付いていけないんだよね……あっ!もしかして、小説での加筆とか?」

 

 熱心に【リゼロ】という作品を追い続けているタイプではなかったため、彼女が手にしている情報がどこまで役立つのか未知数なところではあった。

 しかし、この違和感を無視していいのかの判断は難しい。

 

 ナツキ・スバルの『死に戻り』が認識できないということは分かっていたことだ。

 だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を眺めて、その裏でどんな苦悩があったのかを想像力で勝手に楽しむつもりだった……が、この違和感と差異。

 彼女がとある結論に達するのは難しい事ではなかった。

 

 

「あっ…………でも、えっ、ちょっと待って…………まさか、()()()()()()?」

 

 

 そこで彼女は思い出す。

 原作でIFルートが既に存在していたということを。

 

「……まさか、この世界のスバル君は『ゼロカラアヤマツイセカイセイカツ』のIFルート時空のスバル君……?裏路地で憲兵を裏声で呼ばないルートで起こる、ナツキ・スバルの『傲慢』ルートってこと?」

 

 『嫉妬の魔女』による魔女達の皆殺し(パンドラを除く)から、『王選』の開始まで全てが予定調和で進んでいたことによる、思いもしなかったうっかりに気付き唖然とする。

 400年の月日は神龍ほどではなくとも、彼女の思考を鈍化させてしまったらしい。

 

 致命的な状況になる前だとは言え、彼女にとって不測の事態となってしまったことは変わらない。

 長年予測していた既定路線から外れてしまったのだ。

 その事実で精神が不安定になってもおかしくはなく、その強大な力で災害を引き起こしても何ら不思議ではなかったが……。

 

 

「えー!?何それ何それっ!すっごく刺激的だよ!そんな原作とは全然違う流れで進む世界とか、すっごく興味深くて素敵っ!こんな予想外があるなんて最高ぉ~~っ!!」

 

 

 目を爛々と光らせてその『未知』の世界線に胸を踊らせていた。

 フランチェスカにとって『予想外』な事こそ、何よりも刺激的な事柄だからだ。

 

 だが、あることに気付きピタッとその動きも止まった。

 

「うん?でもこれって……私も含めて魔女因子を持つ存在は全員スバル君に殺されちゃう?」

 

 あの『死に戻り』を何度も繰り返してでも、必ず殺しに来るナツキ・スバルの恐ろしさは原作既読勢なら、誰でも知っている事だろう……それすら、楽しめる精神性をしているフランチェスカには関係のないことだが。

 

「うーん……別に復活する事もできないくらい徹底的に殺されても全然いいけど、それじゃあスバル君の活躍の引き立て役で終わっちゃうよねぇ……。基本的に味方よりで度々ちょっかいを出す感じが一番楽しめそうだし、『英雄幻想』の正史ルートが動きやすいんだけどなぁ」

 

 思案するように目を閉じながら唇を突きだし、人差し指でこめかみ辺りをくるくると擦るその愛嬌のある振る舞いは、どうにもわざとらしくて胡散臭い。

 どこまでが本心か嘘でどこまでが本物か虚構なのか、不信感を与えるその言動はフランチェスカ・プレラーティそのものだった。

 

「下手に介入すると、『嫉妬の魔女』による世界を捲き込んだ終末がやって来てもおかしくないんだけど……ーーうん、もう仕方ないよね!私の想定からここまで外れちゃった訳だし、アドリブで何とかするしかない!想定外を骨の髄まで存分に楽しもー!おーっ!」

 

 そう言い終わると共に屋根の上から飛び降りる。

 普通の女性ならば骨折やそれに近しい怪我をしてもおかしくはない高さからの落下だが、彼はまるで忍者のようにスタッと華麗に着地をしてみせた。

 

「ーーおわッ!?な、なんだ、コイツ!?」

 

「…………え?」

 

 今まさにカツアゲをされそうになっていた現場に乱入をしておきながら、彼が見ているのはスバルのみ。

 その突然現れた、白黒のストライプ柄のバニーのような服装をしている、ウサ耳の代わりに黒リボンを幾つも着けた奇抜な服装の少女の登場に、スバルは目を白黒とさせることしかできない。

 

 

「ア、アンタは……?」

 

「君が面白い声を上げていたから、思わず来ちゃった♡」

 

 

 ()()()()()()()と違いすぎるこの流れにスバルは動揺する。

 スバルとしては今回は明確な何かをした覚えがないからだ。

 それにも拘わらず、変化が起きた事に困惑しか湧かないのは仕方ないことだった。

 

 ーーそして、その間。

 フランチェスカはチンピラの彼らの事を完全に無視をしていた。

 他でもない、待ち望んだこの世界の主人公が目の前に居るのだ。

 一秒でも長くその顔を見ていたいと思うのは自然の成り行きだった。

 

「(うっわ~っ、本当に目付き悪くて冴えない感じなんだー。前に見た『剣聖』や『最優』、若い時の『剣鬼』と比べちゃうのはちょっと可哀想だね。その上、筋肉も並みって感じだし手足が長いってわけでもないから、騎士らしさは全然無いねー。まあ、分かっていたけどねっ)」

 

 まるで子供がずっと欲しかったオモチャを目の前にしたような、好奇心に(あふ)れた視線を、情けない顔をしながら地面に(うずくま)る少年に向け続ける。

 

「お、おいっ!コイツ今、家の上から飛び降りて来やがったのか!?」

 

「この身体能力……まさか、騎士か何かだってのか……?」

 

「馬鹿かよ。そんな訳ねーだろ……騎士がこんな格好してるかっての。道楽好きのどっかの貴族のお嬢様ってところじゃねー?」

 

「ははっ、ならちょうどいいな。俺達はツいてるぜ。おい、嬢ちゃん。痛い目に遭いたくなかったら分かってるよなぁ?」

 

 その精緻の服と整った顔立ちから上級国民だと察したのだろう。

 金目の物とその体を好きしようと舌舐りをする三人に、ようやくフランチェスカは振り向く。

 

 

「ごめんねー。いつもなら君達も含めて遊んであげるところだけど、今の私ってそんなに暇じゃないんだ……だ・か・ら♡

 

 

 そう言うと、一瞬の間が生まれた。

 そして、『トンチンカン』の三人衆がいきなり地面に崩れ落ちる。

 

「…………は?」

 

 理解ができない事が立て続けに起こり続けて、スバルは困惑するしかない。

 突然あれほど威張り散らしていた奴らが、一切の受け身も取らずに地面に向かって倒れ込むなんて、スバルからすれば奇行でしかなかった。

 だが、彼らの奇行はそれだけでは終わらない。

 

「ぐぎぎっ……がはあああああああッッ!?」

「ひぎゃああああああああッッ!?」

「おえっ!?ぐぉえ……!ああああああああッッ!?」

 

「な、何だ!?コイツら、いきなり顔を掻き毟り始めやがった……!?」

 

 脈絡もなく起こったこの異常な光景にスバルは戦慄する。

 折り畳まれた傘を後ろ手で持ちながら、フランチェスカは(とぼ)けたように……あるいは、スバルに向けて懇切丁寧に解説をするように言う。

 

「あーあ、発狂しちゃったねー。これはね、彼らの心が弱いんじゃあないよ?これは、どっちかって言うと、生まれ持った耐性があるかどうかって話だから。免疫を持っているかどうかって言ってもいいかもしれないね……でも、やっぱりスバル君は耐性があって安心だよ。想定外の事ばかり過ぎても調整が難しいし、ある程度は想定通りに進んでくれないとね!」

 

「発狂……?調整……?……何の話をしてるんだ……?」

 

「『魔女の瘴気』だよ。私みたいな魔女因子保有者は空気中にあるマナを汚染しちゃって、有害な毒性を与えちゃうって訳だね。幻術で世界を騙して私の周辺にあるマナを取り除いていたから、今まで『魔女の瘴気』を誰一人として察知する事はできなかったってこと」

 

「は、はあ……?」

 

 その立て続けに言われた言葉の数々に、スバルは眉を潜めるしかない。

 

「アハハ!いきなりこんな専門用語を幾つも言われちゃうと、簡単に飲み込む事なんてできないよね!ごめんごめん。……っとと、そうだそうだ。忘れてたよ……アン・ドゥ・トロワ!」

 

 パチン!と指を弾くと、三人組が正気を取り戻す。

 

「う、あ……?え……?」

「はあ……ッ、はあ……ッ」

「ひ、ひぃ……何なんだよッ!何なんだ……!」

 

 一瞬で正気から発狂し、発狂から正気を取り戻したことで、三人は混乱の極致に追い込まれる。

 自分自身の身に起きた不自然極まりない事象に驚愕を露にしていると、その不気味な白い女が口を開いた。

 

 

「ほら、もう帰っていいよ。あなた達も発狂して死にたくないでしょ?」

 

 

 数秒間、理解が及ばなかったが先程の恐慌が目の前の化け物によるものだと悟り、三人の体から冷や汗が吹き出た。

 

「「「あ、ああ……うわああああああああッッ!?!?!?」」」

 

 心そのものが掻き乱されるその饒舌し難い恐怖に、『トンチンカン』の三人は転がるように逃げ去っていく。

 その一連の流れを眺めることしかできなかったスバルは、理解の外にある現象が次々に発生し続けて困惑する事しかできない。

 

「一体なんだよこれ……アンタは一体、何なんだ……」

 

 こんな状況を見せられれば、目の前の少女を可憐で幼気な女の子だとは、スバルでも見ることは不可能だった。

 

 全うな人間ではない(おぞ)ましいナニか。

 それがこの狂気の具現のような少女なのだと理解してしまう。

 

 そんなあからさまな反応をされても不機嫌になる事はなく、無邪気な笑顔の中に狂気を宿す、異端で異質な女の形をした何かは、そんなスバルに対しても、変わらず親愛の感情を持って彼に視線を向ける。

 

「うーん、どっちで言おうかなー?流石に『問おう』は早いだろうし、ここは【リゼロ】の世界風に名乗り上げるべきだね!」

 

 そう言うと、持っていた傘がポンッと音を出しコミカルに消える。

 その怪奇現象にスバルは唖然とするが、その反応すらも面白がっているフランチェスカは、スバルの記憶により深く刻まれるような所作を行うことに決めた。

 

 ーー今はそうでもなくても、(のち)に必ず関連付けて想起させざるを得ない動作が、ナツキ・スバルには存在している。

 

 その余りにも侮辱的な行為に自然と口角が上がってしまう。

 綺麗で価値がある魅力的な絵画を、汚泥で塗り潰してしまう冒涜的で背徳的な悪徳に、喜悦の感情を抑えられない。

 

 白と黒のストライプ色のバニースーツの腰に付けられた、ほとんど意味をなさない装飾品のような白いスカートを、両手で軽く持ち上げながら片足を引き膝を折り曲げる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、彼女は真名を名乗り上げた。

 

 

 

「私は『悲嘆の魔女』、フランチェスカ・プレラーティ。世界中の人類から嫌悪され殺意と共に憎悪を向けられながら恐れられる、この世界に存在している災害の一人だよ♪」

 

 

 




・八つの枢要罪
 七つの大罪の原型にして枢要な悪徳。

1.暴食
2.淫蕩 (色欲)
3.金銭欲 (強欲)
4.悲嘆・憂鬱
5.憤怒
6.怠惰
7.虚栄心 (虚飾)
8.傲慢

※分かりやすくするために番号を振りましたが、それぞれに順番などは決められていませんので留意してください。
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