Re:TS白黒ストライプバニー老害によるナツキ・スバルの悲喜劇観賞会 作:F・M・T (フランチェスカ、マジ年増)
「フランチェスカ!危ねぇ!!………………あっ」
スバルの言葉虚しく振り抜かれたエルザのククリナイフが、フランチェスカの腹部を無情にも一閃する。
間違いなく腹部にめり込んだその凶刃に、スバルは呆然とするしかない。
「嘘だろ……そんな!」
だが、その最悪の光景にはならなかった……あるいは、そうなった方がスバルとしてはまだ理解できた光景だっただろう。
「っ!…………これは……」
そして、エルザがそれに誰よりも早く気付く。
フランチェスカは自身の腹部に刃物が突き刺さった状態で、エルザに対し笑みを浮かべながら話し掛ける。
「──見る?見たい?見たいよね?女の子のナイショのナ・イ・ゾ・ウ☆」
ククリナイフは受け止められていた。
少女腹部にある、存在する筈の無いその
「なっ……は?…………はあ?」
白くほっそりとした腹部にある獣のような口がある姿は、異形としか呼べないものだ。
その状態でフランチェスカは恍惚とした笑みを浮かべて唇を動かした。
「ウル、ヒューマ♡」
「っ!」
そのまま氷の刃が上空からギロチンのように振り下ろされるが、エルザはククリナイフから手を離して寸でのところで避けた。
少しでも武器から手を放すことに躊躇をしていれば、上から串刺しにされていただろう。
「あの子、風の魔法だけじゃなくて火の魔法も使えるんだ」
「え?火?水じゃなくて?」
「ええ、そうよ。熱くすると火が出るでしょ?その逆に熱を奪ったら氷が出る。氷の魔法は火の魔法の応用なの」
こんな時でも懇切丁寧に教えてくれる彼女は根っからの善人なのだろう。
「……あなた、人間じゃないわね」
「それはお互い様だよねー?
「──へえ、あなた物知りなのね」
口調は穏やかだが、その視線は今までに無いほど鋭くなっている。
「私は人類は好きだけど人類を殺す人外は嫌いなの。人類が滅ぶんだとしてもそれは人類の愚行によってでなきゃダメだからね!それと、私が知っている吸血鬼は【弾丸】っていう命のストックがあったけど、あなたはどうかなぁ?私の見立てだと十回殺しちゃえば充分だと思うんだけど」
そう言うと、エルザは笑みを広げる。
「……そこまで、バレてしまっているとはね。ここまで厄介な存在が居るとは思わなかったわ。あなたは一体何なのか教えて貰っても?」
「スバル君にも言ったけど、私は女神の残滓から生まれた人外だよ?この世界だと類似した存在を探す方が難しいんじゃないかなぁ?」
「おおいッ!?女神由来の人外っていうの天使とか妖精とかじゃなくて、異形タイプの人外系美少女ってことかよ!?」
スバルからしてみれば、まさか過ぎる展開にショックを隠せない。
「あれ?スバル君って人外系美少女はストライクゾーンの範囲外?生殖機能は普通の女の子と違いは特に無いんだけどなぁ?それこそ、エッチなあーんな事もこーんな事もできちゃうんだよぉ?」
おどけたようにそう口にするがエルザから視線は外していない。
その警戒を見れば、彼女が戦場の緊張感を全く感じていないわけではないことが分かる。
生きるか死ぬかの鉄火場でふざけられ続けると、もしものことが起きそうで心配がフツフツと沸き上がってくるため、それが分かっただけでもスバルの精神の安定に繋がった。
厳格な態度の騎士や憲兵が、何故キザったらしい振る舞いやお堅い言動をするのかようやく理解する。
単純に規則云々ではなく、その振る舞いこそが市民に安心感を抱かせるからだ。
能天気な人物が自分の命を守っているという状況は、思っていたよりも怖いのだと知るスバルだった。
「ねえ?どうどう?だんだんストライクゾーンの内側に入って来たんじゃない?スバル君ならそれだけ分かれば全部セーフでしょ?」
「待って!?今、そんな話してなかったよねッ!?別に女の子をそういう対象かどうかで見てる訳じゃねぇから!?」
思春期の男の子という理由もありつつ、想い人である銀髪美少女ハーフエルフの女の子が側に居るため、余りその手の話はして貰いたくないのが男心だった。
「え?でも、スバル君ってあのHENTAIの国である日本出身でしょ?異形系美少女なんて異常性癖の初級編も初級編だと思うけどなぁ。もぉっと、エッグいヤツとか普通にあるよねー?機械○とか四肢○断とかド○カーとか」
「エグいエグいエグいッ!!美少女からそんなドキツイワードなんか聞きたくねぇよ!?なんなら、今のワードセンスが1番のドン引きだわ!!」
「もー、女の子の口からそんな単語の説明を人前でさせるなんてぇ……スバル君ってもしかしてそういう趣味があるのかなー?」
「いきなり言い始めたのそっちだよね!?」
命を懸けた鉄火場とは思えない無駄口言っているフランチェスカを見て、一安心をするスバルだが、これから戦況がどうなるかまるで分からない。
「それで、どうするぅ?まだやるなら、このまま倒しちゃうよ?」
「あら、私を見逃してくれるのかしら?」
「っ、フランチェスカ!そいつはここで倒しておかないとダメな奴だ!生かしておいていいことなんて何一つねぇ!!」
「あなた、初対面なのに随分と私のことを嫌っているのね。どこかで会ったことがあったかしら?」
「ああ……それはもう、死んでも忘れられねぇくらいにな……!」
スバルの瞳に明確な殺意が宿る。
しかし、フランチェスカは肩を竦めて、まるで聞き分けの無い犬を窘めるように言った。
「もー、冷静にならないと死んじゃうよ?スバル君。相手はあの『腸狩り』なんだからどんな隠し球があるか分からないでしょ?仲間が周囲にいないなんて誰も断言できないわけだしね?ここには人質となる人間が多すぎるから捨て身で来られるのが一番面倒ってこと」
「あら、それを私が居る前で言ってもいいのかしら?あなたの嫌がることを私がするとは思えないの?」
「テメェ……!」
どこまでも執拗に殺しに来るエルザに殺意が吹き出るスバルだが、フランチェスカは何でもないように言う。
「そうなったら、こっちも奥の手をふんだんに使って防御を固めるってだけだよ?風の刃だけじゃなくて私は六属性を操れるから、あなたが予測できない攻撃なんて幾らでも仕掛けられるしねー」
「嘘っ!?六属性ってあのロズワールくらいしか扱えない筈なのに……」
銀髪の少女がフランチェスカの言葉に驚愕する。
それがどれだけすごいことなのかは、スバルには分からないがこの世界では相当希少な才能らしい。
「その間にあの『剣聖』を呼べれば私達の勝ちってワケ。お仲間を呼んだとしてもあの『剣聖』なら、どれだけ増援の敵が増えても問題なく倒せちゃうからねっ」
「でも、噂の『剣聖』様がこんな貧民街に来てくれるのかしら?」
「もー、分かってないなぁ♪ あの『剣聖』様にはそんな小さなことは全然関係が無いんだってば。助けを呼んでれば来ちゃうのが彼だからね~。勿論、私もそれ相応の小細工はするけどねっ」
その言葉にエルザの視線が鋭くなる。
子供が口にするような絵物語だが、『剣聖』は片腕が無い状態で挑んで勝てる相手では無いことは、快楽殺人者のエルザでさえも分かる事なのだろう。
「まあ、そうしている間にそこのお爺さんは死んじゃうだろうけどさ」
エミリアが治療を行っているとはいえロム爺は重傷者だ。
スバル達の弱点である彼は狙われる筆頭であり、ここにはスバルが救いたいと願うエミリアと子供のフェルトが居る。
私怨を優先すれば助けられた人が死ぬ。
「くそっ……!」
「うんうん、そこでスバル君が突貫しちゃったらどうしようかなーって思ってたよ。冷静に判断できて偉いっ!………だから、あなたも好きなようにしていいからね?仲間を呼んでまた戻ってくるんだとしても、その間に痕跡一つ残さずに私達は隠れちゃうから、追ってくるのは無理だってちゃ~んと理解していた方がいいけどね!」
「あら、私は追い駆けっこも得意だけれど」
そう言いながら、エルザは舌
「私はあの『剣聖』からですら逃げ切る自信があるよ?相手を追跡可能な『加護』すら無いあなたじゃあ、私との追い駆けっこの土俵に上がることもできないけど……キヒヒ、試してみる?」
自分の能力が全てエルザより上回っていると断言するフランチェスカ。
エルザは暗殺者としてのプライドを刺激されていたようだが…………撤退を開始する。
「フフッ、いいわ。どこまで本当なのかは分からないけど、片腕を繋げないといけないしこの場は引き下がってあげる。でも、ここに居る全員の腸をいつか切り裂いてあげるから、精々それまで自分の腸を可愛がっていてね」
「って、うおおお!?」
去っていく最中にエルザは置き土産として、ククリナイフを投げ付けた。
その投げられたククリナイフはエミリアとスバルの方に向かって飛んで来たが、スバルが眼前に棍棒を構えていたお陰で受け止められる。
「おっと、やるぅ~。それにしても、私の注意を後ろに向けさせているうちに撤退する手際の良さは流石って感じだね」
「あっぶねぇ~~ッッ!!危うく突き刺さって死んじまうところだった……!」
手に伝わるその衝撃と沸き上がる恐怖に冷や汗が吹き出る。
「女の子を凶刃から守るなんて格好良い~♪ 腰が引けてなかったら完璧だったねっ」
「それ言わなくても別によかったと思うんですけど!?俺の絞り出した唯一の見せ場がへっぴり腰のでしゃばり野郎に早変わりだよ!」
「い、いや、そんなことないわよ!私、お爺さんを治していたから完璧に対処ができていたかは分からないしね?」
そんなこんなで一通り騒ぐとようやく実感する。
今夜を乗り切ることができたのだと。
「ふぅー……これで終わったのか」
スバルはその場に崩れ落ちる。
絶望の存在を退けられてようやく『サテラ』を救えた。
それがようやく叶ったのだから、力が抜けても仕方がないだろう。
「スバル君もお疲れ様♪ 人質になる存在がこんなにも居たのに追い返したんだから、ちゃんと感謝してよー?私が本気になったらこんな盗品蔵なんて簡単に倒壊しちゃうんだから」
「マジかよ……」
「人質に建物への配慮に増援の危険性。そんな圧倒的な不利な状況で戦って追い返すまでいったのに、スバル君が吸血鬼ちゃんに喧嘩を売るんだもん。あのままだったら何人かやられちゃってたかもしれないよ?」
「うぐ……悪い」
「うんうん、ちゃんと冷静に戦況を分析して判断しないと助けられる命も助けられないから、次からは頑張ってね」
戦いの素人のスバルが行った愚行で全員の命を危険に晒した。
エルザには何度も殺され、何度も殺されるところを見せ付けられた相手だ。
そのため、スバルは感情的になってしまった。
それに加えて、余りにもフランチェスカが優勢に見えたため、息の根を止めるべきだと言ってしまったが、それは短絡的な考えだったとスバルは自省する。
「それより、スバル君はそこの銀髪のお姉さんにおねだりしないの?」
「は?おねだり?なんのことだ?」
スバルは聞き返す。
「何か理由があってそこの銀髪のお姉さんを助けたんでしょ?初対面の私に頼み込んでまでこんな所に来るなんて、何か理由がないとしないよね?」
「……ああっ!?そうだ!そういや、あった、あった!」
そう言うと、スバルは銀髪のハーフエルフに向き直る。
「ふぅー…………よしっ!」
左手を腰に当てながら右手を天に向けて伸ばし、驚く周りの視線を完全に意識から除外して、スバルは声を張り上げる。
「俺の名前はナツキ・スバル! 色々と言いたいことも聞きたいことも山ほどあるのは分かっちゃいるけど、今は聞いてくれ」
「な、なに……?」
その奇行に少女は引いていた。
明らかに頭がおかしい奴でしかないのだから無理もない。
「俺ってば、今まさに君を凶刃から守り抜いた命の恩人!ここまでオーケー!?」
「おーけー?」
「よろしいですかの意。ってなわけで、オーケー!?」
圧が強い……というよりは、勢い任せなその言動に、少女は顔を引き吊りながらも、「お、おーけー」と応じた。
そんな彼女の態度を見てスバルは畳みかけるように続ける。
「俺ってば命の恩人で、それに助けられた君はヒロイン。そんなら相応の礼があってもいいんじゃないか?ないかなッ!?」
「……分かってるわよ。私にできることなら、って条件付きだけど」
「なーらー、俺の願いはオンリーワン、ただ一個だけだ」
指を一本だけ立てて突き付けながら、くどいくらいに強調する。そのあとに指をわきわきと無駄に動かす動作を付け加え、無駄に少女の不安を誘う。
馬鹿なのかな?と考えるフランチェスカを尻目に、喉を鳴らして悲愴な顔で頷く彼女に向かってスバルは下卑た笑みを浮かべる。
「(通報してもいいかな?憲兵さーん、ここに変態が居まーす…………いや、『剣聖』が来そうだから止めとこうっと)」
あのレイドと同等かそれ以上の化け物なんて相手にしたくはない。
何度あの人斬りに殺されたことか。
寿命で死んでくれて本当によかった。
「そう、俺の願いは……」
「うん」
歯を光らせ。
指を鳴らし。
親指を立てる。
最後にスバルは最大限の決め顔を作ると、自分にできる最高の良い声を出して囁いた。
「──君の名前を教えて欲しい」
それを聞いた銀髪の少女は呆気に取られ、数秒後に笑った。
「うふふっ、エミリア」
「んぁ?」
その言葉を理解できずに眉根を寄せるスバルに、続けて彼女は言う。
「私の名前はエミリア。ただのエミリアよ。ありがとう、スバル。私を助けてくれて」
その諦めでも空元気でも悲壮な覚悟からの笑顔でもない、純粋に楽しそうな笑顔を見ることができた。
それがナツキ・スバルが手に入れた成果だ。
「ああ……全く。割に合わねぇ」
そんな満更でも無い顔をして、九回も繰り返した地獄の先を噛み締めたのだった。
──そして、
「あれ?スバル?……
「え?」
スバルが視線を下にズラすとジャージの腹部に切れ込みが入っていた。
鋭い痛みから自身の体に何が起きているかを直感的に理解する。
「えぇ……マジ?」
そして、そのままスバルの腹は血を吹き出して倒れ伏した。
「スバル……!」
サテラ……いや、エミリアの驚いた声がする。
「(ここまで来て死に戻りかよ……クソ、いつの間に腹を斬られたんだ?全く分からなかった……)」
油断なんてしてなかった筈だ。
それにも関わらず、全く認識できなかった。
このまま死んでまた繰り返す羽目になるのだと理解し歯噛みしていると、ずっと自分の我が
「おっと、このままだと死んじゃうね。私も治療をしてあげようかな♪」
「うん、お願い!」
「(いや、なんか、なんとかなりそうだな……任せるしかねぇか)」
スバルは霞む視界の中で二人の少女が自分のために、懸命に動いてくれてる。
その事に、感謝をしながらスバルはそのまま意識を落として気絶した。