Re:TS白黒ストライプバニー老害によるナツキ・スバルの悲喜劇観賞会 作:F・M・T (フランチェスカ、マジ年増)
「(ようやく、ここまで来たね)」
一息を吐きながらフランチェスカは足元に転がるククリナイフを手に取り、今までの戦いを思い返す。
「俺の名前はナツキ・スバル! 色々と言いたいことも聞きたいことも山ほどあるのは分かっちゃいるけど、今は聞いてくれ」
「な、なに……?」
その奇行にドン引きの表情をする銀髪の少女……いや、エミリアを見ながら、フランチェスカは一歩ずつ歩き出す。
「俺ってば、今まさに君を凶刃から守り抜いた命の恩人!ここまでオーケー!?」
「おーけー?」
「よろしいですかの意。ってなわけで、オーケー!?」
「お、おーけー……」
「うんうん、スバル君は元気だよねー。勢い任せなのはお父さんリスペクトなんだっけ?」
そんなところも可愛いよねーと思いながら、フランチェスカの歩みは止まらない──しかし、そんな彼女に誰も声を掛けないどころか視線一つ向けないでいる。
「俺ってば命の恩人で、それに助けられた君はヒロイン。そんなら相応の礼があってもいいんじゃないか?ないかなッ!?」
「……分かってるわよ。私にできることなら、って条件付きだけど」
「なーらー、俺の願いはオンリーワン、ただ一個だけだ」
喉を鳴らして悲愴な顔で頷くエミリア。
下卑た笑顔をスバルが居ることもあり事案にしか見えない。
「通報してもいいかな?憲兵さーん、ここに変態が居まーす…………いや、『剣聖』が来そうだから止めとこうっと。──来られたら、今回ばかりは本当に困っちゃうもん」
「そう、俺の願いは……」
「うん」
指を鳴らしてキメポーズを取るスバルの前に立ち、自身の腹部にある牙で受け止めたあのククリナイフを手に握り、──そのまま横に振り抜いた。
「──君の名前を教えて欲しい」
「えいっ☆」
ザシュッ!!
スバルの腹部を切り裂いた一撃は見事な切れ味であり、いきなり臓物が外へまろび出ることはない。
その絶妙な加減をフランチェスカは身に付けていた。
スバルに刻んだ傷痕を見ながら、得意気に頷く。
「うんうん!なかなかの出来だね。流石は、『武芸の加護』で覚えた技術。昔取った
『武芸の加護』。
あらゆる武芸を使用可能となる。
しかし、これは『剣聖の加護』のように保持者の潜在能力の最大値を引き出すものではなく、潜在能力の最低値を底上げするようなものであり、言ってしまえば器用貧乏の極致になる。
まさしく、武芸百般。
多種多様な武器を扱う万能の戦士になるが、一芸特化と戦えば敗北必至。
しかし、あらゆることが人並みに行える故に、戦闘の学習をすることに関してはこれ以上の加護はない。
「まあ、今はもう無いからあの感覚を思い出しながらになっちゃうせいで、精度はちょっと下がっちゃうのが難点だけど」
腹部を切り裂かれた当人であるスバルも、目の前に居るエミリアでさえもその凶行にまるで頓着しない。
悠々自適に犯人であるフランチェスカは、
「幻術なんて嘘偽りの虚像でしかないけど、痛みをほぼゼロに和らげたりできるからやっぱり便利なんだよねー。『虚飾の魔女』ほどの絶対的なものじゃないけど、今回みたいな力を絞って使いたい時は最適だよ」
あれが単純な言葉による現実改変なのか、月島さんのような過去改変を行うことで現在にまで変化をもたらしているのか、はたまたそれ以外の理屈なのかは分からないが、世界から愛される『剣聖』に目を付けられて大丈夫なのかは定かではない。
スバルのような世界の巻き戻しならばともかく、世界の変質ではあの『剣聖』の知覚から逃れることは難しい筈だ。
「世界を騙す幻術はあの『剣聖』にも感知はされない。だけど、流石に狂気を僅かにでも滲み出しちゃうと絶対にバレちゃうよねー」
「うふふっ、エミリア」
「んぁ?」
頬を膨らませながら、フランチェスカは愚痴を話し出す。
しかし、その言葉は幻術で音を消すことで誰にも聞こえない。
その姿は誰にも視認できない。
仮にそれができる者がいるとすれば、違和感を数多の加護を使うことで炙り出せるラインハルトぐらいだろう。
「『剣聖』ラインハルト・ヴァン・アストレアが同じ時代に居るせいで、ずっとやってた『──今、授かった』ごっこが出来なくなっちゃったじゃん!まあ、本家はあっちだけどぉ」
「私の名前はエミリア。ただのエミリアよ。ありがとう、スバル。私を助けてくれて」
「もぉー、一時期は加護が二千四百五十九個もあったのになぁ~」
フランチェスカは数百年行っていたごっこ遊びができなくなり、大変ご立腹である。
オド・ラグナに『世界に愛される存在』だと誤認させられれば、ラインハルト同様に幾らでも加護を授けられる。
「本物は別次元だったね。まさか、ラインハルトの生きてる時代に同じことをすると、違和感から偽物だとバレてその詐欺行為にオド・ラグナが報復するなんて思ってもなかったよ。まあ、あらかじめ『先読みの加護』で、ラインハルトが現れた時の影響をちゃんと計算をしていたから、そんなミスはしなかったけど。もし、知らなかったとするならゾッとするよね~」
ラインハルトは世界に愛された存在である。
そのラインハルトと同じ様に加護を得る者が、世界に存在しているとどうなるかを、フランチェスカは思い付きで計算をしたが、それがなければ世界中から魔女認定をされるだけではなく、下手をすればあのナツキ・スバルと殺し合いをするように誘導させられていただろう。
「まさか、オド・ラグナが本物であるラインハルトと私の違いから違和感を持って、幻術を見破るようになるなんてねー。……むぅ~~、本当にあの『剣聖』様は目の上の
ラインハルトという公式チートの一人を思い浮かべて、念のために使った『先読みの加護』による起こり得る可能性を、高度な演算で導いていなければ、オド・ラグナから世界の敵として認識され、『嫉妬の魔女』に続く第二の厄災の魔女として、世界中から狙われ続ける毎日を送る羽目になっていただろう。
「ああ……全く。割に合わねぇ」
「私を倒していいのは人間だけだからね。吸血鬼にも精霊にもオド・ラグナにも殺されてあげなーい。だから、この身体が持っている加護も二つだけ。むぅ、戦力ダウンもいいところだよ~」
加護を失ったとしても戦うにはどうするか。
その答えは魔法だけに囚われず、数多の武術を身に修めたロズワールだった。
「そのためにラインハルト・ヴァン・アストレアが誕生するまでに、加護をたくさん手に入れて様々な事を勉強したんだからね」
『武芸の加護』がまさしくそれだ。
戦闘能力の潜在能力を底上げすることで、様々な武芸の適性を得ることが可能になる加護。
そして、さらに『仕様の加護』。
握った道具の使い方が分かり、使いこなせるようになるため、あらゆる武器とそれを用いた戦術の習得を、10年も掛からずに全てマスターした。
複数の便利な加護を使うことにより、様々な分野でフランチェスカは達人と呼べる技能を身に付けている。
そのような加護を次々と手に入れて学習をすることで、加護が失くなったあとでも、フランチェスカが身に付けた知識と経験は失くならない。
「それこそ、『死神の加護』や『不死鳥の加護』なんかは、経験とか技術で再現できるものじゃないからどうしようもないけどね。まあ、それを抜きにしても戦いの最前線で戦うことも、数百人規模の兵団を率いれて指揮する指揮官も私はできちゃうし、揚げ物の完璧な揚げ具合からフグの捌き方まで、完璧にできちゃ…………って、あっ!もう傷が開いちゃうかな?」
そして、綺麗に切り裂かれたスバルの腹部に付けられた傷口から血が吹き出し、全ては丸く収まったハッピーエンド。
これでフランチェスカが行わなければならない全ての行程は、無事に完遂したのだった。
「ふぅー……今回はやるべき事が多かったよー。もうしたくなーい」
フランチェスカは宿の窓辺から覗く月を見上げながら、独り言を口ずさむ。
そして折り畳んだ指を一本ずつ立てていく。
「一つ、パックとエミリアに魔女であることを確信させないこと。二つ、『剣聖』に目を付けられない程度の実力で『腸狩り』を撃退すること。三つ目、スバル君に見せ場を作ってあげてエミリアちゃんと縁を作ること。四つ目、スバル君のお腹をエルザの代わりに斬って、ロズワール邸に運ぶながれにすること。そして五つ目、スバル君自身にも私の幻術は目標の位置をズラすようなことしかできないのだと誤認させること」
まるで、武勇伝を語るように彼女は話し出す。
「一つ目はあの猫モドキちゃんはエキドナが作った人工精霊だから、私に何かしらの因縁を付けてくる可能性があるってこと。それはちょっと面倒だよね~。エキドナとは散々やり合ったわけだし、人工精霊に私の悪評を教え込んでいてもおかしくはないよね。あと、エミリアちゃんも『嫉妬の魔女』関連で何かキナ臭いからバレないことが最適解。正体を言うにしてもパックが消えてからかなー。『聖域』まで行かないと消えてくれないのが厄介なんだよねー、アレ」
パックは勿論、エミリアに『悲嘆の魔女』であることを伝えるのは、そこそこ仲良くなったあとじゃないと面倒事になる。
「二つ目は『ラインハルト・ヴァン・アストレアだから』で終わりだね。あれに目を付けられて得する存在なんてどこにもいないよ。何回殺されるか分かったもんじゃないんだから」
それほどまでにあの『剣聖』は完全無欠なのだ。
相手をするだけ馬鹿を見るし、これからの物語を考えれば使えるキャラのため殺す選択肢はない。
「三つ目、スバル君に何かしらの功績がないとエミリアちゃんがロズワール邸に連れていく理由がないから。別に傷の治療だけなら王都の治療師に任せればいいだけだしね」
命の恩人という功績を得られなければ、行ける可能性は低いのだから。
「四つ目、スバル君のお腹が裂かれないと、ベアトリスちゃんの優しさや双子のメイドちゃん達の優しさに気付けないから、屋敷から逃げて敵になった存在を処刑していく『粛清王ルート』になっちゃう。『ゼロカラオボレルイセカイセイカツ』のスバル君は、疑心暗鬼の狂気に染まっててステキではあるけど、もう終わりが分かってるから味気無いんだよねー」
愚行を突き進むその姿は好みど真ん中ではあるが、その先の展開である『聖域』や『水門都市プリステラ』、『プレアデス監視塔』、『ヴォラキア帝国』……この先の展開が一切見れなくなるのは少しつまらない。
フランチェスカからすれば聖杯戦争が一夜目で終結してしまうことと同じだった。
より長くどちらに転ぶか分からない混沌とした未来。
その方が好みだったという話。
「五つ目のスバル君に対しての誤解は、あそこで私がエルザを完封するようなすごい幻術を披露すると、その後も彼がそれを期待を続けちゃうから。スバル君は何度もやり直せるけど私は多分そうじゃない。なら、何でここでは手加減するのかとかそう言った疑念を生ませてしまうことになる」
『魔女であることを気付かせないため』だとか言っても、生死がかかった中での余裕はスバルには不愉快でしかないだろう。
だからこそ、手加減をする必要があった。
「私が居るからどれだけ無謀なことをしても大丈夫なんて認識だと、幾らなんでも私に負担が大きすぎちゃうし、私のフォローありきで動かれると、原作から明らかに外れちゃうスバル君になっちゃう」
これから先もスバルのフォローをすることを考えれば、フランチェスカが使う幻術の便利さは教えない方がいいという判断。
楽勝で勝ち進んでもそれはスバルのためにはならない。
あの強靭な精神は幾度の死を乗り越えた先にあるのだから。
フランチェスカとしては寄り掛かられても困る。
是非とも自分の力で立ち上がって貰わなくては。
「スバル君は英雄にならないといけないからねー。誰かに依存してちゃダメなんだよ?」
大事なのは距離感だ。
「親しくはしたいけど、依存されちゃうとあのめちゃくちゃな死に戻りで解決に向かう、ローグライト戦法をしてくれなくなっちゃう。まあ、本人もしたくてしてるわけじゃないけどさ、楽な道を選び続けると堕落しちゃうのが人間だからね」
これが戦いの最中にコンプリートすべき項目だった。
──
戦いが終わったあとにも、フランチェスカの暗躍は終わらない。
「六つ目、ロムお爺さんの大怪我を治すには、ちゃんとした治療院に連れて行くべきだってフェルトちゃんを揺さぶった。王都で名が広まり始めた『腸狩り』との取り引きを証言すれば、
要するに、ラインハルトとフェルトを邂逅させる必要があった。
そうしなければ、フェルトが王選候補者に選ばれないため王選が始まらないし、『水門都市プリステラ』でオットーが『暴食の大罪司教』に殺される。
「まあ、『ハーフエルフであるエミリアちゃんが、偏見で自分を見てこないと断言できて信頼のおける王都の騎士様とか居る?』って聞いたら、簡単に『剣聖』の名前が出てきて良かったよ」
それこそ、『最優の騎士』のユリウス君も偏見で見ては来ないだろうが、王選の競争相手であるアナスタシアの陣営に与する騎士のため、どちらかと言えば頼み辛いだろう。
だからこそ、ラインハルト。
フェルトが王選に選ばれるまではフリーだったことと、その名声を考えれば彼女の口から『剣聖』が出てくるのはおかしな話じゃない。
「七つ目、『剣聖』の前で徽章の故障の可能性を口にすること。『フェルトちゃんが持っている時にも光っていたから、どこか壊れているかも』と口にすれば、『剣聖』は目の色を変えてフェルトを説得した。まあ、ロムお爺さんという存在が居たから、逃げられることはないと踏んで気絶まではさせなかったのかもしれないね」
まあ、これに関してはどちらでもよかった。
意識があろうがなかろうが、王選候補者として認知されてラインハルトが騎士になるのなら、それで構わないからだ。
「そして、八つ目。スバル君よりも1週間遅れてロズワール邸に向かうこと。初日から一緒だと鬼族の2人もそうだし、ベアトリスとの関係値も積み上げることはできないからね。スバル君は3日と4日から殺され始めるからそこで覚醒して貰わないと。まあ、ルート分岐しないように近くで控えとくけどね」
気分はデバッカーである。
バグが生じたらそれに対応し続けることが、フランチェスカの役目となっていた。
「もぉ~、命を懸けた戦いの最中に色々と気を使って、終わったあとも気配りをし続けるだなんて疲れるったらないよっ!それも前世の記憶を『暗記の加護』でしっかりと覚えてなかったら、どうしようもなかったかなー」
『暗記の加護』。
記憶したものを忘れない加護。
四百年経っても前世の記憶を失わなかった理由。
「その加護も失くなっているけど、暗号化した前世の文字で全部記録しているから、もしスバル君の手に渡っても読み解くことはできないから大丈夫。この身体は年齢もまだまだ若いから記憶力も大丈夫だとは思うけど、IFルートを避けるなら細かい原作知識は絶対に必要になることが確定。うんうん、念のために書き記しといて良かったよ」
知識は財産。
それも設定が綿密に練られた【Re:ゼロから始める異世界生活】の原作知識は、ナツキ・スバル育成計画や起こり得るルート分岐を考えると、何よりも優先するべき必須なものだと言えよう。
「四百年も準備してきた私はロズワールなんて目じゃないほどの徹底ぶりだよぉ?」
これからも、スバルの選ぶ選択によっては頭を痛めることになるだろうが、それすらも楽しむことができると確信する。
何故なら──それこそがフランチェスカ・プレラーティなのだから。