Re:TS白黒ストライプバニー老害によるナツキ・スバルの悲喜劇観賞会 作:F・M・T (フランチェスカ、マジ年増)
現在、フランチェスカは森の中で腰を下ろしていた。
「ま、屋敷から逃げてくるスバル君を捕まえるには野宿になるよねー」
スバルがエミリアによってロズワール邸に連れて行かれたあとは、王都で三日間思う存分にフランチェスカは満喫し、例の崖近くで幻術を用いて野宿をし始める。
「私の幻術ってそこまで万能ってワケでも無いから、絶対に見破られないこともないんだけどさ」
だからこそ、警戒する必要があった。
「辺境伯君から見て私がどう見えているのか分からないからね。『叡知の書』に私のことが書かれている可能性も捨てきれないし?」
世界を騙す幻術ならば書かれていない可能性が高いが、予言書の中でも『叡知の書』はかなり高い精度を誇るもの。
フランチェスカの幻術を突破してくる可能性もゼロではない。
「スバル君は青鬼ちゃんや魔獣のイベントを、どれくらいの回数で抜けられるのかなぁ?むぅ、それを観れないのが本当に残念だよ」
この『嫉妬の魔女』による呪いはフランチェスカであってもどうしようもない。
時間逆行を可能とする相手ではどんな幻術を掛けたとしても、どうしようもないのは分かりきっていた。
「完全催眠の『鏡花水月』じゃあ、未来を改編する『
その様な理由で、四日間のサバイバルが始まった。
どうやらIFルートになりやすいナツキ・スバルのため、もしもの時のために準備をする必要がある。
「でも、デバッカーなのに見つけたバグが認識できないのは厳しいよね。仕事をちゃんとできているのか自信がないなんて、私以外には理解できない感覚かも」
失敗をしても反省をし取り返すための行動が取れない。
スバルの中でそういう人間だと認識されて、そのままこちらが気付くことなく進んでしまう。
それがどれだけ取り返しがつかない失敗なのか、フランチェスカは正しく認識しているのだが、それでも何一つ手の打ちようが無い。
「どんなことが起きても対応できるようにしとかないと」
そんなことをフランチェスカは思いながら、四日間も森に隠れ潜みながら見張っていたのだが……、
「うーん、何事もなく終わっちゃったねー」
つまり、スバルの第二の試練であるロズワール邸の一週間は、既に過ぎ去ったということに他ならない。
「本当に一週間の時間経過としか認識できないんだね。スバル君はIFルートに行き掛けたのかなぁ?もしかすると、すんなり原作ルートのまま進んだって可能性もあるよね」
やり直した世界線が認識できないため、ただただ四日間のサバイバルをした気分になる。
ロズワール邸の全ての見渡せる位置に陣取り監視をしていたフランチェスカだが、何も起きなかったため骨折り損にしか感じないのである。
「夜の森に上空から落とされた爆炎から察すると、魔獣は辺境伯君が最後に全滅させて終わらせた、原作のルートにちゃんと入ったんだろうけど、その経緯が推測するしかないのが悩ましいね。熱血キャラや冷徹キャラだと思われていたら、立ち回りが難しくなっちゃうもん」
そんな風に思われるくらいなら、魔女として化け物のように思われていた方がやり易い。
それこそ、魔女としての恐ろしさをスバルが知らなければ、『聖域』の『墓所』で、『強欲の魔女』に取り込まれてしまうのだから。
まあ、そうだとしても『死に戻り』が無い世界軸で、その様なミスをして欲しいのが本音だが。
「それじゃあ、私もロズワール邸に行こうかな」
陰魔法で作り出した異空間にキャンプ道具を押し込む。
「アポイントメントは一週間後。つまり、今日だね。ちゃんと水魔法で身体を清潔にしていたから問題は無いし、ぱぱっと済ませちゃおう」
スバルは治療と共に屋敷へ連れて行かれたが、フランチェスカは正式に書面を送る手続きをしてからロズワール邸に向かう。
それなりの立場のため礼節は尽くさなければならない。
だからこそ、それ相応の見映えが重要になる。
「言われた通りここに来る道すがらで拾わせて頂きましたが、これ僕があなたと一緒に行く必要がありましたかねぇ……」
竜車の荷台に座る彼が徒労感を滲み出しながらそう呟く。
「いやいや、私一人じゃ威厳に関わっちゃうからね。
「そこの辺りも、しっかりとあなたに叩き込まれましたからね、フランチェスカさん」
オットー・スーウェン。
ナツキ・スバルの友となる男であり、エミリア陣営の内政官となる苦労人。
何故か奴隷になっていた彼を見付けたフランチェスカは、彼を買い取り解放し弟子にしていた。
「(何で奴隷落ちになってたんだろ?スバル君はIFルートがあるから納得できるけど、オットー君にそんなルート分岐があったとは思えないんだよねぇ……これはもしかしなくても、私が好き勝手動き回ったバタフライエフェクトかな?)」
彼の価値を知っていたため、それなりの出費(今の地位では端金)で彼を購入したフランチェスカは、教え子として彼に商人のイロハを教えていた。
「これでも、私はルグニカ王国でもそこそこ名が知れた大商人の一人だからねー。それなりに良い経験は積めたんじゃない?」
「ええ、それはもう返しきれないほどに頂いておりますよ。あと、何の嫌味ですか。ルグニカ王国はもちろんカララギでも名が知れているあなたを知らない商人は、モグリでしかありませんよ。『ペンドラゴン商会』は二百年続く大手も大手。渡り合える商会なんてラッセル商会か『ホーシン商会』くらいでしょう」
ちなみに、これは分かりきっていることだが、『ペンドラゴン商会』を立ち上げた創始者はフランチェスカである。
フランチェスカは四百年の時間を、『加護』を用いた技能習得に費やしたワケではない。
『目利きの加護』や『人心の加護』などを使い、金儲けと人脈作りのために商会を建てていた。
『看破の加護』などを使えば相手の思惑を見抜くことは容易く、『策略の加護』を用いれば意のままに相手を手の平で転がす事は容易い。
そして、フランチェスカは他の『加護』と同じく、商人としての思考回路と技術を『加護』を使ってついでに極めることにした。
それがこうして役立つのだから覚えたことは無駄にはならない。
「オットー君にも商いとは関係の無い友達ができるといいね」
「まあ、僕も欲しくはありますけど今の環境でも充分満足してますよ?」
「もー、分かってないなぁ。商人なんて金の切れ目が縁の切れ目なんだから、それ以外の友人関係を作らないと本当に大変な時に誰も助けてくれないよー?それこそ、今まで出会ってきた商人もそうだったでしょ?」
「それは……はい、そうですね……あの人達は僕が使えなくなったら躊躇なく僕との繋がりを絶つことでしょう。仕事相手にはなれても友人となることはありません」
オットーは『まあ、建前としてはそう言うでしょうけど』と口にする。
「でも、僕が損得勘定以外で今さら友人を作ることなんてあるんですかね?自分でも想像ができないんですが」
「オットー君は商人になるには義理堅いにもほどがあるから、そもそも商人自体が向いてないんだけどねー。私がこれから会いに行く辺境伯君の内政官とかの方が向いてるかも」
「何でいきなり僕の事をクビにする話になるんです!?何か粗相とかしましたっけ!?……っていうか、僕ってそんなに商人としてダメなんですか!?」
「うーん、頭も良く回るし状況判断も良いんだけど、利益を最優先できないところは致命的じゃない?故郷を追われた理由も損得勘定じゃなくて正義感からなんだし」
「すごく全うな指摘をされてる!?」
泣きながら『チクショー!』と叫ぶオットーを見ながら、ケラケラとフランチェスカは笑う。
「(このままだと、オットー君って生涯私に尽くしそうなんだよねぇ……言葉にされなくても視線が『このご恩は生涯を掛けて返します』っていうドデカイ感情がビシビシ伝わってくるよぉ~。多分、拾った理由を全部言ったとしても『それとこれとは関係ありません』とか言い出しかねないんだよね、彼…………君さ、商人やめなよ)」
もし、営業だとかの外回りを多くせず事務回りの仕事を多くさせていれば、この先の未来を全て知っていてもきっと手放すのが惜しくなっていただろうと確信できる。
「(でも、必要最低限の技能は教えたから問題は無い筈だけど……やっぱり、私もエミリア陣営に加わらないといけないよねぇ。そうじゃないと、絶対にオットー君は私から離れてくれないよ……このままジリジリと出世しない環境よりも、一発逆転できる王選候補の陣営の方が夢があるよー?私を将来顎で指図できる立場になれるかもだよー?)」
このままだと平社員のままでも満足しちゃいそうだから怖いよ。
「……まさか、辺境伯と同じでオットー君がガバチャートの原因になるなんてねぇ」
「何か言いましたか?」
「何でもないよー」
そんな事を話しているうちに、ロズワール邸に辿り着く。
そして、ここからフランチェスカの手探りの戦いが始まる。
「お招き頂きありがとうございます!『ペンドラゴン商会』の総代をしている、フランチェスカ・ペンドラゴンです。どうぞ、よろしくお願いします!」
「俺さ……すごく頑張ったんだよ。すごくすごくすごくすごく頑張ったんだよ、フランチェスカ……」
「うんうん、すごいよ!本当に頑張ったね、スバル君。よーしよし」
出会い頭に何故か泣き出してしまったスバル君。
あ、あれー?何でこんな展開になっちゃったの?
スバル君、みんな見てるよ?
それこそ、青鬼の子がメチャクチャ睨んで来るんだけど、これってもしかするとモーニングスターを投げ付けられちゃうのかな?
「(うーん、これは何かやらかしたかなぁ……)」
表面上はにこやかに笑いながら、その視線はここではないどこか遠くを見ていたフランチェスカだった。