誤解されている方が多いですが、モンスターボールって洗脳装置じゃないですし。
「え? お前人生のパートナー洗脳するの?」と思いそう。
その日、私はガラル地方・新ポケモンリーグ委員長に就任なさったダンデ氏から依頼を受け、ワイルドエリアに足を運んでいた。
依頼内容は“砂塵の窪地”の調査。
氏曰く。
『最近バンギラスの動きが活発であり、繁殖時期が近いせいか気性が荒くなっている。他のポケモンに過度な影響を与えないか調査して欲しい』
というものだった。
ワイルドエリアは新人から玄人トレーナーまでの修行地として人気のスポットだが、その実非常に危険な地帯でもある。
何故ならばワイルドエリアは“まるまるポケモンの巣”のようなものだからだ。
ワイルドエリアに住まうポケモンはそれぞれ各々の好きなように暮らし、独自の生態系が築かれている。
それゆえに、“草むらに入ればポケモンと遭遇する”というようなことがない。
ワイルドエリアに入った瞬間、360度どこからでもポケモンと遭遇する可能性がある。
そしてそれは、凶暴・危険なポケモンも含まれる。
ギャラドス・キテルグマ・オニシズクモ・ブルンゲル……。そして、今回依頼にあったバンギラス。
どれも好戦的であり、“人間の死亡事故”が確認されているポケモン達だ。
普段草むら・水中に生息している彼らは不用意に近づかなければ死亡事故などそうそう起こらない。
だが、ワイルドエリアは別だ。
彼らはワイルドエリアを自由に闊歩している。
そこに入り込む人間こそが異物なのだと言わんばかりに。
よって、バンギラスのような危険なポケモンの調査はある程度の実力を持ったトレーナーしか依頼されず、なおかつそのタイプのエキスパートでなくてはならない。
しかも今回は繁殖期……。ただでさえ普段から凶暴なバンギラスが子を守るためさらに凶暴になる時期だ。
ハッキリ言ってチャンピオンクラスのトレーナーにしか依頼できない案件だと氏から聞かされたものだ。
しかし肝心の現ガラルチャンピオンであるユウリ氏は、就任したてで仕事に慣れておらず多忙の日々。
実力は未だチャンピオン級であるダンデ氏もまた同様の理由で多忙。
チャンピオン歴のある方々にも声をかけたが、
「シャクちゃんとの冒険にド・忙しいから無理だぜ!」
「ごめんね~今見どころのある子がいっぱい来て手一杯だよん」
と断られたという。
そうして別地方のチャンピオンに打診を掛けた所、現ホウエンチャンピオンである私にお鉢が回ってきたというわけだ。
トレーナーとしての実力ならばシンオウのシロナ氏やアローラのヨウ氏などの方が高いと個人的に思ってはいるが……。
今回はバンギラスの調査。
幸か不幸か、私は“いわ・はがねタイプのエキスパート”としてチャンピオンをやっているため、適任だと指名されたらしい。
確かに他の地方のチャンピオンのお歴々にはその二つのタイプを専門としている方は居ない。
オールマイティにやっているか、アイリス氏のようにドラゴン専門にしているかのどちらかだ。
まぁぶっちゃけ面倒事を体良く押し付けられた形になるのだが、別にそこまでイヤでもなかったりする。
実際私はバンギラスが好きであることだし、チャンピオンとしてチャレンジャーを迎え撃つメンツにも採用している。
もちろん先鋒で砂を撒き散らしてくれる頼れる切り込み隊長だ。
ワイルドエリアで生の生態をつぶさに観察できるのもなかなかどうして楽しみである。
そんなこんなで乗り気で来たのは良い、のだが。
「多いな……、襲撃」
ここ、“砂塵の窪地”に到達するまで何度もポケモンの襲撃を受けた。
先述した危険なポケモンも言わずもがな、他のポケモン達も彼らの縄張りに入り込むと容赦なく襲いかかってくる。
先にダンデ氏から“常に護衛のポケモンをボールから出しておいたほうが良い”と忠告されていなければ一度とんぼがえりして病院に駆け込むハメになっただろう。
チャンピオンだろうと生身ではポケモン相手には無力なのだ。
実際レベルの低いジグザグマに体当たりでもされた日にはホネにヒビが入る自信がある。……まぁ、トレーナー歴も長いのでそうそう当たらないが。
そんなわけで、チャンピオンとしての仕事に使うため育てたポケモン達ではなく、自信の“最強の6匹”を引き連れて調査に赴いたわけだ。
「む……」
前方に見えるはカバルドン。
色からしてメスである。
ポケモンはちらほらオスメスの特徴差がある種類がいるが、あそこまでわかりやすいのはカバルドンくらいではなかろうか?
新人トレーナーが“カバルドンの色違い見つけた!”と慌てるのはもはや恒例と化していることであるし。
などとぼんやり考えていたら、自慢の視覚と嗅覚で、砂塵が舞うこの地でも彼女に補足され、猛然とこちらに駆け寄ってくる。
口を大きく開いている辺り、かみくだく気だろうか。
悪いがその餌食になるわけにはいかない。
「ラグラージ、ハイドロポンプ」
連れ歩いているラグラージの渾身のハイドロポンプがカバルドンを直撃。こうかはばつぐんだ。
現チャンピオンの座を勝ち取ったダイゴ氏とのバトルでも八面六臂の活躍をしてくれた頼れる両生類である。
一撃で戦闘不能になったカバルドンは縮こまりどこかの物陰に潜んでいった。
まぁ、一日もすれば回復するであろう。野生のポケモンとはそういうものだ。
よくやった、とラグラージの頭をポンポンしてやり我々一行は探索を続ける。
しかし砂嵐で視界が悪い。
ゴーゴーゴーグルがなければ危うい所だった。
“砂塵の窪地”と名がつくように、常に気候がバラバラに変動し続けるワイルドエリアでは珍しく、この地区は常時砂嵐状態だ。
カバルドンとバンギラス、おまけにギガイアスまでいるのだからしょうがないのかも知れないが。
おっと、噂をすれば影。気付いたら真横にギガイアス。
彼らはとても温厚……というか、危害を加えられなければ基本的に何もせずジッとしている見本のようないわポケモンなのでこういう時は助かる。
なんとなく気分的にギガイアスに会釈をしてスルー。気の所為か彼(彼女?)も会釈してくれたような気がする。それとなく目があった。
そうこうしているウチに指定されたポイントに到着したのだが……確かにバンギラスがいる。
それも大量に。
バンギラスのたいりょうはっせいは……流石に初めてみた。
これがワイルドエリアの本領発揮という事か。改めて気を引き締める。
砂嵐で遠くまで視界が効かないが、ここら一帯はバンギラス達のコロニーであるのか、二体でペアになったバンギラスがあちこちキョロキョロ警戒しながら徘徊している。
繁殖期ということなのであれらは恐らくツガイであろう。それがいくつものグループも。
エリートトレーナーどころかベテラントレーナーでも迷い込んだら死を覚悟する場所だな。ここは。
彼らが徘徊している場所はアリジゴク状の中ぐらいの窪地の範囲のみ。つまりはあれがツガイごとのテリトリーなのだろう。
さて、何故こちらが視認できているのに彼らに気づかれないかの仕組みを説明するとしよう。
バンギラスは砂嵐を自ら起こす生態上、砂嵐の中でも遠くまで見えるよく効く発達した視力を持っている。
だがその代償か、周囲の索敵は視覚に頼りがちである。
そして彼らの敵になり得るポケモンはドサイドンやハガネールなど、巨大なポケモン達だ。
今の我々は砂地に這いつくばり地面スレスレに倒れ伏して彼らを観察している。
視界に水平、もしくは上を見張る彼らは我々を視界に入れてすら居ない、というわけだ。
流石に大きな物音など起こしたら気付かれるだろうが、大抵の会話や物音なら砂嵐の風音がかき消してくれるので問題ない。
というわけで私は支給された砂柄のギリーシートで身体を覆い、ラグラージには物音を立てぬようチョロチョロ水を吐かせ砂を泥にし、地面に潜ってもらう。
あとは長期戦だ。
事前に渡されていた録画用カメラを三脚でセットし、ひたすら見張るだけ。
ダンデ氏からは“可能ならなにか動きがあるまで、なければ半日は観察してほしい”と要請されている。
軽くスマホ(ロトムは入っていない)に目をやると只今の時刻は08:12。
だいたい夕方~夜頃には終わるだろう。
ちょっと喉が渇いたので水分補給にエナジーゼリーを啜りながら長期戦の構えに入った。
◆
結論から言おう。
彼らはただツガイの出産に備えてピリピリしているだけだった。
特にこれといって縄張り争いもせず、他のポケモンが襲撃してくる様子もなく、かといってバンギラス達がむやみに周囲に侵攻するようなこともなかった。
日はすっかり暮れている。彼らも片方が眠り、片方が見張り、という構えに入ったようだ。
目的は果たしたことであるし、我らも撤収するとしよう。
この場で“テレポート”で離脱してもいいのだが、まぁ、余計なことはするまい。
ギリーシートを仕舞い、のそのそラグラージが地面から這い出て、このまま匍匐後進で後ずさりながら彼らの警戒域から脱するとする。
と、思ったのだが。
「────!?」
なにやらラグラージが吠えた。
バンギラス達もこちらに一斉に目を向ける。
私のラグラージは考えなしにイタズラに彼らを警戒させる愚行はしない。
何かあったのだろうか──と、考える暇もなく私は下半身から何かに吸い込まれる感覚に襲われる。
しくじった、エスパータイプの何かだろうか。あるいはゴーストタイプか。
半日も観察を続けていたから集中力が切れていた……などと、言い訳にもなりはしない。
ワイルドエリアで集中力を欠くなど自殺行為に等しいと言うのに。
ラグラージが必死に私の腕を掴んで引っ張り出そうとしてくれているが、恐らく無理だろう。徐々にラグラージまで引っ張られている。
このまま二人共、逸れるのはマズい。
広大なワイルドエリアで再会できるか、という問題もあるが、ラグラージ一人で今もズンズンこちらに迫っているバンギラスの集団を相手取れるかと言うと正直微妙だ。
レベル差もあるため“じしん”で一掃できればあるいは、というところだか。
ピリピリしている彼らに一斉にボコられれば戦闘不能も視野に入る。
もはやエスパーかゴーストかタイプはわからないが、仕掛けられたわざから脱出は不可能だと判断し、ラグラージをボールに戻す。
支えを失った私の身体は急速にナニカに吸い込まれ、落下するような浮遊感と共に意識が途切れた。
めのまえが まっしろに なった。
砂塵の窪地には、目標が急に消えて狼狽えるバンギラスの群れと、仕舞い忘れた録画用カメラだけがぽつんと置かれていた。
◆
………………。
「──~~!!!」
「──……」
「────!!!!」
はて。
なにやら話し声が聞こえる。
まるで啀み合っているような声だが。
トーンの違いからして男女だろうか。
ふと目を覚ますと芝生の上だった。
あれはやはりエスパータイプのポケモンが仕掛けたテレポート系のいたずらだったのだろう。
となるとここはワイルドエリアの草地のどこかか。
迷いでもしたトレーナー同士が喧嘩でもしているのだろうか?
老婆心から諌めようと立ち上がり────。
自身の認識が全く違っていたことに気がついた。
なにやら城のような建造物が見える。
確かにワイルドエリアから見たナックルシティは城にも見えなくもないが、あれはメインカラーは黒だ。
あの城は白い。明らかに別物である。
それにナックルシティに入るための門の前にはお決まりのリーグトレーナーが駐在しているが、どこにも居ない。
即ちここはワイルドエリアではない。
エスパータイプのテレポートはその地方の中なら割と何処へでも行ける飛距離がある。
となるとここはガラルのどこかか。
しかし周囲を見渡すと、草原の広場のような場所で、いくらか建物が見える。
そして制服(皆同じ服を来ているから制服なのだろう)の少年少女がいるのが見える。
ポケモンを侍らせているのを見るにポケモントレーナーだろう。
しかし驚いたのは小柄な女の子(何故か長い杖を持っていた)がラティアスを連れていたことだ。
チャンピオンという地位にもなると結構頻繁に見る機会に恵まれるが、制服を着ている──つまり何らかのスクール生徒が持つには些か大仰すぎるビッグネームではなかろうか。
その隣の大柄の女の子が連れているヒトカゲを見ると月とスッポンとさえ思えてくる。……それはヒトカゲに失礼か。
気絶から覚め周囲も見渡し、ある程度の状況把握もすると冷静になってきてわかったのだが、何やらニヤついている少年少女が多い。
なにがそんなに面白いのやら、どうも侮蔑の視線が含まれている。
そしてそれは私ではなく眼前の──モモンの実のようにピンクい髪の少女と、マルマインかというくらい頭頂部の寂しい中年男性にも注がれているようだ。
これはあれだろうか、スクール特有のイジりやイジメだろうか。
私、そういうのよくないと思うが。
しかしトレーナーズスクールは基本的にまだポケモンを持てない年齢の少年少女が通うものだが、見た感じ彼らは立派に15~6歳くらいはあるように見える。
とっくに旅に出て旅慣れていても良い頃では? と思うのだが私が知らないだけでガラルではスクールに通う年齢上限が高いのだろうか?
まぁ88歳……否、17歳のジムリーダーの方もいることであるし、全体的におおらかなのかもしれない。
そんな全ステータスが下がりそうな事を考えていると件のモモンの実色髪の子がズンズンとこちらに迫ってきた。
何か用だろうか。眼と眼があったからポケモンバトルだろうか?
パルデアでは違うんだったか。
「@@@@@@@@@@@!!!!!」
………………?
ガラル語ではない。
はて、これは困った。
チャンピオンになってから地方外の言葉も学ばねば、と必死にガラル語(イッシュとアローラでも使われている言語なのは助かった)とカロス語・パルデア語を勉強したのだが。
もしやここはガラルでは……ない?
いやこのモモンの実色髪の子が異地方語を話しているだけという可能性も……。
「@@@@@@@……」
マルマインさんもわからない言語で話し始めた。
これは参った。
意思疎通ができないのはまずい。
ポケモンでさえ人間の言葉は理解してくれるというのに。
こうなったら手持ちの子の念話に頼るべきだろうか……。
そう思案していたらモモンの実色髪の子に顔を両手でメタルクローされた。
いきなり攻撃してくるなど実はこの子はポケモンだったのだろうか。それとも知らぬうちに不興でも買っていたか。もしそうなら謝るので許して欲しい。
そんな私の願いも虚しく、モモンの実色髪の子はあくまのキッスで追撃してきた。
……いや、眠らず混乱するからてんしのキッスだろうか。
オーノー。なんということだ。
私の22年間護り通してきた唇の純潔が、名も知らぬモモンの実色髪の少女に奪われてしまった。
とか思っていたら左手がやけど状態。
思わずカバンからチーゴの実を取り出して齧るが収まらない。なんだこれは。
「@@!? @@@@@@@@、@@@@@@!!!」
何を言っているのだモモンの実色髪の少女よ。
わたしは こんらん している。
わけもわからずじぶんをこうげきした!
とりあえず頬にメガトンパンチ。
夢ではないらしい。
はたくではなくメガトンパンチを選択したのは威力が高いほうが夢なら覚めやすいと思ったからだ。
結果的にはたくの方がよかったようだが。
「ちょっ……なにいきなり自分殴ってるのよ……狂った? 平民だからって野蛮すぎるでしょ……」
はて?
急に言葉がわかるようになったぞ。
スマホロトムが翻訳アプリでも起動してくれたのか?
私のスマホにロトムはいなかったのだった。
では何故……。
しかしいまこのモモンの実色髪の子、平民と申したか。
ガラルの一部では未だに旧態依然の貴族階級に固執している一派がいると聞いていたが。
彼女もそうなのだろうか?
確か、王族の末裔を名乗るヤカラがユウリ氏に喧嘩を売って、けちょんけちょんにされたのをネットニュースで見たが。
懲りないものなのだなぁ。
などと得体もない事を考えているとふと違和に気付いた。
彼女たち……。周囲の少年少女やマルマインさんも含め。
腰にモンスターボールがない。
イッシュの先代チャンピオンであるアデク氏のように変わったモンスターボールの所持の仕方をする人も居るには居るが。
それにしたってどこにもモンスターボールがない。
ポケモンを侍らせているのに……?
まさかボール無しでポケモンの使役を?
一時期イッシュで流行ったというカルト教団の真似事か?
若しくはボールも流通していない未開の地か?
わからないことだらけだ。
なのでそのまま口にすることにした。
「あの、何が何やらわけがわからないのですが」
「はぁ?」
呆れと見下しが混ざった声音で返された。
お嬢さん、困った人には親切にしないといけないと思うが。
「私は意識を失ったと思ったらここに倒れていて、状況がつかめないままメタルクローからのてんしのキッスをくらい混乱して、説明を求めたいのですが」
「て、てん……! し、仕方ないわね! そこまで言うなら説明したげるわよ!」
なんだかてんしのキッスに反応されたようだ。
ムチュールやトゲピーなどのベイビィポケモンの得意技なのだが、気に入っているのだろうか?
言われてみればモモンの実色髪はフェアリー感がしないこともない。
妙に納得がいった。
◆
「────というわけよ! わかった!?」
……………………。
理解は出来たが納得ができない。
モモンの実色髪の彼女……失礼。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢(長いな……)が言うには。
私はこの地に彼女により(無許可で)召喚されたと。
そして彼女により(無許可で)使い魔として契約されたと。
メイジ(トレーナーの一種であろうか)と使い魔は一心同体なので一生彼女の世話をしろと。
彼女は貴族で私は平民。立場の差を理解しろと。
…………。
横暴では?
実質拉致では?
というかそれはもはや、奴隷なのでは?
「というかそれはもはや、奴隷なのでは?」
「人聞きの悪い事言わないでよ! 使い魔よ、つ・か・い・ま!」
「では聞きますが主な業務は?」
「主人の衣服を洗ったり、着替えさせたり、護衛したり、魔法の触媒になる物を取ってきたり、手となり足となり誠心誠意働くことね」
「お給金は?」
「は? あるわけないじゃないそんなの」
……やはり奴隷では?
「やはり奴隷では?」
「だから使い魔だっつってんでしょうが!」
私には奴隷にしか思えないのだが。
いっそ逃げてしまおうか。
テレポートかそらをとぶか……。
思わず空を仰ぐ。
と。
見えた。
見えてしまった。
月が……二つある。
……………………?
?????
ダイマックスしたルナトーンでもいるのだろうか?
私が知らないだけで、キョダイマックスルナトーンは満月になるのだろうか?
「あの」
「あによ」
「月が二つあるように見えるのですが、私の幻覚でしょうか」
「はぁ???」
何いってんだコイツ、というような目で見られてしまった。
そういう目をしたいのはむしろこちらの方なのだが。
「私がいた地方では、月は一つだったのですが」
「はぁ~~~~??????」
もっと何いってんだコイツ、というような目で見られてしまった。
そんなにおかしなことを言っただろうか。
「何処に行っても月が二つなのは当たり前でしょ? ていうかなによ、地方って」
「は?」
何いってんだコイツ?
メルヘンしょうじょなのか?
「……………………」
「……なによその目は」
「いえ」
しまった顔に出ていた。
あまりに非常識だったのでつい。
「では質問を変えます。ここはなに地方ですか?」
「だから地方ってなに? 国家のこと?」
国家。
国家ときたか。
ポケモンと人間が共存共栄して以来、国などというものは形骸化している。
古来のパルデアは帝国と分類されていたと文献で読んだことはあるし、イッシュの一部では“アメリカ”なる国がまだ残っているそうだが。
カントーのジムリーダーである、マチス氏がそこ出身だったか。
マチス氏は“ポケモンを使い戦争を生き延びた”と嘯いていた時期があるそうだが、本当の話なのだろうか?
だとしたら野蛮極まりない話である。
古代のカロス地方でもあるまいし。
……それは、今は置いておくとして。
未だ国家を主張するとは、どんな偏屈な地方なのだここは。
そういえば先に述べたイッシュのカルト教団のボスは、王を僭称していたらしいが。
カルトに染まった地方なのかここは?
メルヘンしょうじょかと思ったら、オカルトマニアだったのか。
怖い。
今すぐ実家のミシロタウンに帰りたくなってきた。
本格的にテレポートしようかな……。
◆
なんやかやあって。
私の主人(頑なに奴隷契約だと認めてくれないのでもう諦めることにした)の少女は、どうやらイジメられているらしく。
ここはサイキッカーの養成所のようだった。
修練を積んだサイキッカーは、空中浮遊ができると聞く。
であれば、ゆうゆうと浮遊していった少年少女は、なかなか優秀なサイキッカーなのだろう。
で、我が主人はといえば、落ちこぼれのサイキッカーらしく、空中浮遊どころかボールを浮かすことすらできないんだとか。
それでついたアダ名が“ゼロのルイズ”だそうな。
ゼロはいかんな、わるあがきしかできない。
さんざん主人を罵倒していた少年少女が、解説するような口調で言っていたのでよくわかった。
今私はエスパータイプを手持ちに入れているから、テレポートくらいはできるのだが。
未だ理不尽な扱いに、内心憤っているので、手を貸す義理はなかった。
誰だってそうだと思う。
信じたい。
で。
イジメが堪えたのか終始無言で俯き、トボトボ歩く主人に追従することしばし。
彼女の私室に通された……のだが。
男女が同じ部屋というのはいいのだろうか。
「アンタの寝床はそこ」
藁。
奴隷未満の存在ゆえに、人間として見ていないという意思表示だろうか?
そろそろ怒っても良いのでは?
ミルタンク牧場でさえ、寝床にはクッションやシーツくらい置くだろうに?
「これで寝ろと」
「そう言ってんでしょうが」
「風邪を引きそうなのですが」
「そんなの自己責任でしょ」
…………。
主人と使い魔は一心同体だったのでは?(怒)
彼女がポケモントレーナーだったら、今頃ぶちのめしている所だが。
ポケモンは人を傷つける道具では、ない。
他ならぬチャンピオンのしていい行いではない。
グッとがまんするしかないか。
がまんは2ターン後に倍返ししてしまうのでやめたほうがいいだろうか。
ではオーロラベールでも……。
残念ながらゆきふらしも合わせて、使えるポケモンが手持ちにいない。
詰んだか。
……まてよ、手持ち。
ふとポケモンボックス(携帯版)を取り出し、開く。
「なによそれ?」
主人が覗いてくるが無視だ。
答えてもわからないだろうし、答えたくない。
私が育てたポケモンの中には、オーロラベールを使える個体もいるはずだが……。
無情にも圏外。
ボックスからポケモンは引き出せないようだ。
なんということだ。
ガラルからでも、カントーのボックスを利用できるというのに。
どれだけ離れた地方なのだ、ここは。
失意のままボックスをカバンに仕舞う。
これからどうしようか。
こんなことならスマホをスマホロトムにしておくべきだった。
話し相手くらいにはなってくれたろうに。
とほほである。
ガックリしたら小腹がすいたので、オボンの実を一個取り出して、齧る。
甘くて美味い……。
寂れた心に染みる……。
「……ねえ、なによ、それ」
無視されてヘコんだのか、主人が先程より弱々しく聞いてくる。
だが無視だ。
大人げないと言われようと、気に入らない人間とコミュできるほどできた人物ではない。
そこまで立派な大人ではないのだ、私は。
藁を寝床にされ“勝手に風邪を引け”と言ってくるような手合いなど、暴走行為を繰り返すスキンヘッズよりひどい。
いや、スキンヘッズに失礼か。
彼らはファッション暴走をしているだけでポケモン愛はあるし、バトルの後は握手できるものな。
背後にいるモモン髪の悪鬼羅刹などと比べるまでもない。
すまない全世界のスキンヘッズ。
強く生きてくれ。
私も強く生きる。
今は少々自信がないが。
……はぁ。
思わずため息もでるというものだ。
ふと窓を見る。
ズバットでもフラフラ飛んでいたら、やつあたりにクイックボールをぶつけようと思ったのだが、生憎いなかった。
コロモリでもオンバットでもいいんだが。
いないか。
おのれ。
……はぁ。
手慰みに、産まれたときからの相棒が入ったボールを手の内で弄ぶ。
カタカタ震えて、励ましてくれる。
お前は優しいよ、全く。
「…………ねぇ、だから……なんなのよ、それ……」
うるさいな。
大人げないと言われようと、無視の一手を決め込もう。
……だが一つ、イジワルを思いついた。
本当に大人げない行為だが。
藁ベッドの仕返しくらいは、していいだろう。
「……気になりますか」
「! え、ええ! 見たこと無いもの」
「見たいですか」
「見せなさい! 命令よ!」
「では」
「出てこい、ボスゴドラ」
ポン、という軽快な音とともに、鋼鉄の巨躯が飛び出す。
ボスゴドラは咆哮を上げて、モモンの実をいかくした。
「うひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
ボスゴドラ。
私が産まれたときからのパートナーである。
急に産気づいた母が家庭内出産を行う際に、近くにあったタマゴが私が産まれると同時に孵ったという運命的な出会いをした、22年来の相棒だ。
そんな相棒をイジワルに使うのは申し訳なく思うが。
さすが相棒というべきか。
こちらのうっぷんばらしをするように、茶目っ気たっぷりに吠えてくれた。
やるな、相棒。
床板がミシリと音を立てたが聞かないことにする。
別にヘヴィメタルではないんだがな。
「見せろと言うので見せましたが、何か」
「な、あ、なな、な………………」
「……もう仕舞いますね」
あまり見世物にするのも相棒に悪い。
ボスゴドラをボールに戻す。
彼女は一連の流れを呆然と見ていた。
……いや、今のは流石に大人気なさがすぎたな。
自省せねば。
「ちょ…………っと、なによ、いまのバケモノは……」
前言撤回。
カチンときた。
言うに事欠いて私の相棒をバケモノとは。
モンスターといえ、モンスターと。
こっちからイジワルで見せておいてなんだが、侮蔑されると憤ってしまう。
「……さぁ。ご自身で考えられたら? お貴族様なのでしょう? 博識なのでは?」
「な……ッ!」
今のも少し大人気なかったか。
ただまぁ、“私の相棒を馬鹿にするな”とゲッコウしなかっただけ褒めて欲しい。
普通のトレーナーなら、むしろオーバーヒートして正解の場面だと思うが。
チャンピオンなので、そうも行かないわけで。
ガラルほど、チャンピオンやジムリーダーがマスメディアに露出する地方ではないが。
ホウエンとて、チャンピオンがトレーナーですらない少女にポケモンでオーバーヒートしたら、地方ニュースに取り上げられること間違いなしだろう。
ひたすらがまん……は二倍返しだからまずいので、まもるとみがわりでもしていよう。
あ、そういえばみがわり人形がカバンに入っていたな。
今日はそれを抱いて寝よう。
「ちょ…………、何よその物言いは! 平民の分際で!」
はい、はい。
スルースルー。
スマホを見たらもう22:37ではないか。
いい加減寝なければ、明日に響く。
カバンから寝袋を取り出し、藁をバラバラに部屋中に蹴散らし、寝場所を確保。
スマホにアラームをセットして、みがわり人形を抱きしめ、おやすみなさい。
まだギャースカ喚いているが、聞こえません。
こちとら旅の途中、ドゴームが住む洞窟で野宿したことだってありますんで。
おやすみ。
・ボスゴドラ いしあたま ♂ Lv88 @ボスゴドラナイト ボール:モンスターボール
ゆうかんなせいかく ひるねをよくする。
トレーナーが 0さい のとき。
ジョウトちほう ワカバタウンで Lv1の とき かえって であった。
うんめいてきな であいを したようだ。
おぼえているわざ/
もろはのずつき
ボディプレス
ヘビーボンバー
てっぺき
・チャンピオンの出産と共にタマゴから孵った運命的な出会いをしたバトルでも人生でも相棒中の相棒。
最も信を置いている手持ち。
22年毎日の付き合いで意思疎通はほとんど言葉のやり取りなしでできてしまうレベルだが、
バトルの時はしっかり口にして指示をする。
「そうしなければトレーナーとポケモンが織りなすポケモンバトルである意味がない」というチャンピオンの持論のため。
チャンピオンとしての仕事の時はお留守番だが、他地方に依頼で呼ばれるときなどは必ず連れて行くパートナー。
遠距離攻撃の一切ない完全なインファイター。
・ラグラージ げきりゅう ♂ Lv85 @ラグラージナイト ボール:モンスターボール
のんびりやなせいかく ひるねをよくする。
トレーナーが 12さい のとき。
ホウエンちほう ミシロタウンで Lv5の とき であった。
おぼえているわざ/
ハイドロポンプ
じしん
れいとうビーム
カウンター
・ミシロタウンに引っ越してきて初日に何故か群れのリーダーのグラエナに襲われていたオダマキ博士を
当時ココドラだったボスゴドラと一緒に撃退したお礼で貰ったポケモン。
博士からこの子と一緒に図鑑を貰ったことでジム制覇リーグ挑戦の旅に向かうことになる。
「とりあえずこいつ出しとけばいいや」ポジションであり、便利屋というか雑魚散らしというか。ああ! ラグラージ!
ラグラージはそこまでノロマなポケモンではないので、危険な場所に赴く時はこいつが連れ歩きで表に出る。
基本的に遠距離技主体で近寄られたらカウンター、という隙のないスタイル。