ホウエンチャンピオンは帰りたい   作:鵲一号

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主人公が常識の差異によりやらかします。
ちなみに、独自設定でこのゼロ魔の世界には野生ポケモンがいくらか迷い込んできている、という設定になっています。
前編で学園の生徒達が召喚していたポケモンはそれらだったんですね。
一体何ーパの仕業なんだ……。


中編

 ポケモントレーナーの朝は早い。

特に旅を経験したトレーナーは。

大抵、朝日が登ると同時に目覚める習慣が根付いているのだ。

結局今日も、アラームより早く起きてしまった。

現時刻06:41。

うむ、いい日の出。アラームをオフにする。

彼女はまだ寝こけている。

さっさと外に出てトレーニングでもしよう。

“朝起きたら、顔を洗い、歯を磨き、朝食前にランニング”

現役ジムリーダーである父・センリの教えである。

トレーナーになった時から、チャンピオンになってもなお、例外がある時以外は欠かしていない習慣だ。

例外とは飛行機の中で2~3日過ごすとか、そういうランニングが不可能な時である。

さっそくこの伏魔殿から出て、目についた広場に出るとラグラージを呼び出し、カバンから取り出したプラ桶に水を汲んでもらう。

ラグラージの口から出た水で顔や歯を洗うとか正気か? と思われるかも知れないが。

ポケモンの“わざ”が原料の水は紛うことなき純水であり、彼の唾液などの余分な成分は一切含有していないため問題ない。

なんなら飲水にだってできる。

今のラグラージの水はハイドロポンプをごくごく微弱にした放水なので全く問題はないのだ。

気持ちの問題?

もう慣れた。

というわけで顔を洗い歯磨きをし、タオルで拭いて歯ブラシもしっかり乾かして、全てをカバンに締まったらランニングスタート。

とりあえず一時間くらい走ろうか。

スマホにタイマーをセットして、ランニング開始。

いつもはさっさと自分からボールに戻るラグラージだが、今日は気が乗ったのか付いてきてくれている。

見知らぬ土地に飛ばされた私を、慰めてくれているのだろうか。

私を見上げる顔つきから、なんとなくそんな気配がする。

手持ちに心配されるとは、情けないチャンピオンもいたものだ。

頼もしい限りである。

伏魔殿(後で知ったのだがこの学園の寮らしい)の周囲をランニングしてしばし。

タイマーが鳴ったので終了とする。

先述のようにラグラージに水を出してもらい、タオルを濡らし、除菌液(消臭剤入)を少し含ませ全身の汗を拭う。

野宿続きでシャワーも浴びられない旅のトレーナーの、せめてもの身だしなみ術である。

ラグラージも穴を掘ってケロケロと水を入れて、泥沼にしたプールに浸かりのんびりしている。

ふと、“貴族の敷地内に泥沼を作って良いんだろうか”、と思ったが。

私は拉致被害者なので、気にしないことにした。

文句は私を拉致した人物に言って欲しい。

もっとも私は彼女を主人と認識しないことにしたが。

それはさておき。

全身を拭き終えた私は、タオルをプラ桶を使い洗剤で洗い、水気を絞り、折りたたみ式網棚を広げ乾かすことにした。

ついでに折りたたみ椅子も出して、一呼吸入れるとしよう。

ラグラージも得意のあくびをカマして、のほほんムードだ。

風が心地良い。この勢いの風なら、ハンドタオルもすぐ乾くであろう。

さて何か朝食をと思ったが、生憎としたことに、バンギラスの生態調査を終えたら、ナックルシティで悠々と外食でもしようと思っていたので、携帯食料の類を買い込んでいないことに気付いた。

旅をしていた頃なら、常に一定数買っていたのだが。

仮にカバンの底に眠っていたならば、と思い、漁っても出てこない。

あてがはずれたな。

ガラルと言えばカレー……とも思ったが。そもそもカレールウもない。

土産目的でもいいから、買っておけばよかった。

過去の私の愚か者。

仕方がないのでオボンの実を二個取り出し、一個ずつ私とラグラージでもりもり食べることにした。

オボンの実は甘くて美味しく、ビタミンミネラル栄養満点かつ腹持ちも良い高カロリーの完全食料なのだが。

昨夜も食べたので……、流石に飽きる。

カバン(謎の技術で収容量無限モデル)の中には、きのみが数千個以上入っているので、食料に困ることはないんだが……。

いっそのことマトマの実でもかじって、テンションブチ上げようかとも思ったが。

確実にかえんほうしゃを吐いて腹を壊すので、辞めておくことにした。

あれは人間の食い物じゃない。

食後にラグラージと揃って背もたれに体重をかけ、重い溜息を付いて空を見上げていると。

ふと伏魔殿付近の水場に、人影(ヒトカゲに非ず)が見えた。

しくじった、お貴族様だろうか。

だとしたら、泥沼を作ったことにウダウダ言われるに違いない。

先んじて言い訳するべきか。

とりあえずラグラージには、掘って出た土を被せて隠蔽させおくことにする。

……芝生の中ぽっかり円形に泥ができたので、言い訳にならないな、これは。

しょうがない、業腹だが、ラグラージにも頭を下げさせ、なんとかゴキゲンとりをすることにしよう。

予想通りすぐに乾いていたタオルと網棚を仕舞い、ラグラージ共々トボトボ歩き出した。

 

 

水場に居たのは、メイドさんのような格好をした、若い女性であった。

お貴族様にも、そういうファッションが流行っているのだろうか?

風のうわさで、あえてホームレスをしてみる大企業の社長がいる、と聞いたことがある。

大企業の御曹司である、私の先輩たるダイゴ氏も、今は元気にやまおとこをやっていることであるし。

そういうファッションも、流行るのかも知れない。

ともあれ声をかけねば。

そして謝らねば。

 

「あのすいません」

「はいなんでしょう……うひゃあ!?」

 

なにやらビビられた。

視線はラグラージに向いている。

ラクラージが珍しいのだろうか?

昨日見た少年少女は(ラティアス除き)たねポケモンばかり連れていたので最終形態が珍しいのかも知れない。

それは悪いことをした。

 

「驚かせてすいません。こちらは私の手持ちのラグラージです」

 

ペコリと挨拶をするラグラージ。

えらいぞ。

 

「は……はぁ……? ラグ……?」

 

なにかこんらんしているようだが何故……?

まぁいい。

 

「私はこういう者です」

 

すかさず名刺を差し出す私。

高貴な身分の方に、名刺を出すのはマナー的にどうなのかは知らないが、無いよりは良いだろう。

 

「……? あの、すいません、私は文字が読めなくて……」

 

…………?

文盲……だと?

いくら未開の地でも、ガラル地方ならありえないのでは……?

確かガラルの識字率は、ほぼ100%と聞いたぞ?

ガラル語の名刺を渡したはずだが……。

もしかして……、彼女も奴隷のような扱いを受けているのではなかろうか。

メイドさんファッションではなく、正しく女中なのだろうか。

お貴族様に奴隷のごとく扱われる、召使い。

単なる予想でしか無いが、そうだとしたら悲劇なことこの上ないぞ。

まぁ出してしまったものは、仕方がない。

とにかく平謝りあるのみだ。

 

「あぁ、これは申し訳ない。改めて、ホウエン地方のチャンピオンをしております、今は一介のポケモントレーナーです」

「……?????」

「先程ウチのポケモンが広場に泥を作ってしまって……、その事を謝りに来たのですが」

「え? あっ、あれですか……まぁ大変、貴族様方に知られたら、怒られてしまいますね」

 

むう。

やはり彼女は、お貴族様ではなかったか。

悪い予感は当たるものだ。

 

「この通り謝罪しますので、どうかお許しを。ほらラグラージも」

 

二人して深々頭を下げる。

誠心誠意。これしかない。

あいにくと、グラスフィールドを貼れるポケモンが、手持ちに居ないのだから。

ボックスさえ使えれば……。

 

「え、その、いや、私に謝られても……」

 

はっ。

そういえばそうだった。

とにかく謝らねばという意識が先行して、この方がお貴族様ではないことを無視していた。

いわれてみればそうである。

 

「……そういえばそうですね。すいません」

「い、いえ……こちらこそ……」

『……………………』

 

見つめ合ってしまうと、おしゃべりできない。

助けてペラップ。

無言の、間の悪い空気が流れる。

誰かぼうふうでも起こしてくれ。

ラグラージをチラ見するとそっぽをむかれた。

ラグラージ……お前……。

 

「あ、あの、もしかして貴方、噂の召喚された使い魔さんですか?」

「噂……?」

 

噂になっているほど、広まっているのか。

どうやらイジメっこ達は、イジメ対象をイジメるためなら、手段を選ばないらしい。

召使い同然に扱っている者にまで、広めるとは。

 

「……まぁ、桃色髪のお貴族様の少女に、強制拉致され、強制的に奴隷契約された、哀れな平民と言うなら、間違いなく私ですね」

「そこまで言わなくても」

 

そこまで言いたくなる理由があるんですよ、お嬢さん。

 

「え、ええと、そっちの……ラグラージちゃん? でしたっけ? 貴方の使い魔ですか?」

「使い魔」

 

ピシリ、と額に血管が奔る音が、聞こえた気がした。

済まないが、それは今の私の地雷ワードだ。

目の前の女性がお貴族様だったら、だいばくはつしていた所だぞ。

 

「ラグラージと私はそのような低俗な関係ではありません。ラグラージは私の手持ちポケモンであり、友人であり、戦友であり、共に旅した仲間であり、大事な存在ですが?」

「本当に使い魔にどんな印象を抱いているんですか!?」

 

おっといけない。

つい単語に反応して、やつあたりしてしまった。

この地方への懐き度が低いから、さぞ威力が出たことであろう。

申し訳ないことをした。

 

「……いや失敬、件の主人にヒドい目に合わされましてね。ついやつあたりしてしまいました。申し訳ない」

「いえいえそんな……。それよりその主人さん酷いですね。どなたですか?」

「…………? ……………………?????」

「あ、覚えてないなら大丈夫です」

 

もはや彼女のフルネームは記憶にない。

なんか長い名前だったのは、わかるんだが。

 

「それで、あのう……気になったんですが」

「はい、なんでしょう」

「“ぽけもん”てなんです?」

 

……………………。

?????

…………………………………………。

?????????????????????????

ポケモンがいる地方なのに……ポケモンを知らない……?

いや……いやいやいやいや。

流石に。

流石にそれは……。

それはないだろう……?

召使いとはいえ、ポケモンを目にする機会がないのは、ありえないだろう?

いくら文盲だからとはいえ……、言語は話せるのだし……。

どうせお貴族様のことだから、自分で世話せず、召使いにポケモンの食事やブラッシングを、丸投げするんだろうし。

その時この生き物はなんですか? と聞かれたらポケモンだと答えるものだろう?

お前が知る必要はない、なんて言うやつは流石に居ないだろう?

……居ないよね?

……まさかね?

いや、仮にそこで教えられないとして、他の召使い仲間から聞いたりするものでは……?

その手の情報通くらい、いるものなんじゃないのか……?

そこまで情報規制がされているのか……?

おかしいぞこの未開の地……?

おかしいぞお貴族様……。

……。

待てよ。

カントー・ジョウト・ホウエン・シンオウのあるニホン列島のごく一部では未だポケモンの事を古風に“携帯獣”と呼ぶド田舎もある。(これまた古風な手作りぼんぐりボールを使用してるんだとか)

イッシュでは“ポケットモンスター”が“アレ”を意味するスラングらしく、わざとらしくポォッキモゥン、と発音するらしいし。

それに“ポケモン”を知らないだけで“ポケットモンスター”なら知っているかも知れない。

 

「……携帯獣、ポケットモンスター……といえば解りますか?」

「え、わかりません。モンスターなんですか?」

 

??????????????????????????????????????????????????

わたしは こんらん している。

わけもわからずじぶんをこうげきした!

とりあえず頬にメガトンパンチ。

痛い。

 

「うわぁ! 急に何してるんですか!?」

「夢かと思って」

「なぜ!?」

 

 

 結局その後、メイドの女性……シエスタさんに、思い切り腫れた私の頬を心配され、彼女の職場の休憩所だという場所に連行された。

こんなもんキズぐすり吹いときゃ一発で治るから大丈夫なのに……。

 

「とりあえずガーゼ貼っておきますね」

「すいません、どうも」

 

わざわざ手当までされてしまった。

これは頭が上がらないな。

 

「おう大変だなお前さんも! そりゃあお貴族様に受けたキズかい!」

「いやこれは自傷です」

「なんで?」

 

豪快に話しかけてきたコックらしき人も、思わずおにびを喰らった物理型ポケモンのように、機能停止していた。

そりゃまあ、意味不明だよな。

 

「で……そっちのその……カエルみたいなのはなんでぇ、お前さんのつ」

「いけませんマルトーさん! この人にそれは禁句です!」

「なんで?」

 

多分使い魔と言おうとしたんだろうな、シエスタさん、ナイスインターセプト。

実際に口にされたら多分だいばくはつしていた。

だが向こうから疑問を持ってくれるなら、丁度いい。

今此処に複数人……、この部屋の奥に見えるキッチンも含めるともう少し。

人数がいることだし思い切って聞いてみよう。

 

「この子は私の手持ちポケモンなんですが。ポケットモンスター、縮めてポケモン……聞き覚えがある方は?」

『……ぽけもん?』

「ほらやっぱり皆知りませんよね……?」

「……では携帯獣という呼び名はどうですか?」

『けいたいじゅう……?』

「やっぱり私だけじゃないですよね!?」

 

……。

なんということだ。

考えられる可能性は二つに一つ。

お貴族様が、ポケモンを独占したいから、平民には教えていない可能性。

もしくは……。

この未開の地は……。

ポケモンという概念を知らないか……、だ……。

…………。

ポケモンが生息している地方で、お貴族様だけが独占するのは無理があるだろう。

ポケモンはモノじゃない。知能ある生命体だ。

“おや”が嫌なら逃げ出すし、不当な扱いを受ければ、トレーナーを攻撃だってする。

だというのに無力な芋虫(キャタピーに非ず)のように、虫かごの中に入れて閉じ込めるような行為など、いばるだけのお貴族様に出来るかと言えば否だろう。

…………となると……。

此処は本当に、どんな未開の地なんだ…………。

だんだん怖くなってきた…………。

とりあえず……ラグラージは仕舞おう。

これ以上奇異な目を向けられたら可哀想だ……。

 

「な、なんだ!? 今そこにいたのに消えたぞ!?」

「ま、魔法ですか!?」

「…………違います」

 

当然ながら、モンスターボールも知られていないようだ。

怖いなぁ……。

 

「で……そのぽけもんってのはなんでぇ、お客人」

「ポケモンというのはですね……、あ」

 

とりあえず、見栄えがそこまでモンスターモンスターしていない手持ちを披露しようと思ったが、丁度いい子を見つけた。

賢そうな子だし、現状も聞いてみよう。

 

「そこの貴方」

「え。はい? 私ですか?」

 

私は成人男性のコックに声をかける。

別に何かを手伝ってもらいたいわけじゃない。

ただ単に。

 

「君、メタモンでしょ」

「────バレタ?」

 

メタモンだったからだ。

コックの人は人間らしさ姿とは一変、全身紫色になり、顔が“例のかんたんなメタモンのアレ”になる。

 

『ひぃッッッ!?』

 

……あれ?

ものすごい悲鳴が聞こえる。

どうしたんだろう、人間にへんしんしたメタモンなんて、身近な存在ランキング上位だと思ったんだが……。

賢いメタモンはそういう生活を取るので、町中でよく見かける光景だと言うのに。

 

「お、お、お、お、お、お前、3年前にここに入った、へへ、平民の、テテテ、テリーじゃ……」

「ウン、ソウダヨ。ボクテリー。カリモノノ、ナマエダケドネ」

「か、かかか……借り物ォ……?」

「えぇと、メタモンとはこういうポケモンなんです。何にでも変身でき、その変身相手の能力を全て完璧にコピーする。人間なら、言語能力や知能、技量も」

「ソウダヨー。チョウド、リョウリガトクイナ、ヒトガイテ。ソノヒトノ、スガタヲカリタノ。コレナラ、コックトシテ、ハタラケルカラ」

「じゃ、じゃあ……本物のテリーは……?」

「サァ? ドコノマチ、ダッタッケ。ワスレチャッタケド。イマモ、ヘイワニ、クラシテルンジャナイ?」

「あ、そう……」

「キミ、スゴイネエ。ボク、ケッコウ、レベルタカイ、ヘンシン、デキルンダケド。スゴウデノ、トレーナー?」

「畏れ多くも、ホウエン地方のチャンピオンをやらせてもらっているよ」

「ヘエ、チャンピオンカア。ソリャア、スゴイヤ」

 

ふむ、この子、トレーナーやチャンピオンの概念を知っているということは、トレーナーに親しい地方出身かな?

 

「少し聞くが、君は何処の出だい?」

「ボク? ナナシノドウクツ、ッテ、シッテルカナ。カントーチホウニ、アルノ」

「名無しの……。あぁ、ハナダの?」

「ソウソウ。クワシイネ。ホカノミンナ、ツヨクッテ。イッツモ、カクレテタノ」

「それはまた大変だったね」

「タイヘン、ダッタヨー」

 

名無しの洞窟、というと。

近年になって発表された、旧グレンタウン(現廃島)の、ジムリーダーカツラ氏と、フジ博士が共同開発したいでんしポケモン、ミュウツーが根城にしていた洞窟ではないか。

そんな所に住んでいたとは、この子は猛者だな。

件のミュウツーだが、レッド氏により捕獲され、ポケモンリーグで保護されたそうだが。

今どうなっているのやら。

 

「それが……、またなんでこんな、ガラルの辺境に?」

「ガラル? ガラルチホウ、ナノ? ココ」

「……多分。私もまだあまり、調査していないから……」

「フーン。デモボクモ、ワカンナイヤ。ナンカ“ヒカルマル”ニスイコマレテ、イキナリ、ソウゲンニ、イタノ」

「光る丸……?」

「ソレデ、ナントカシテ、タベテカナキャ、ナラナイカラ、ニンゲンガ、イタカラ、ヘンシンシテ、シュウショク、シタノ」

「就活までこなすとは、凄いなぁ。流石は高レベルメタモン」

「エヘン。ボク、タベルノ、ダイスキダカラ。シカツモンダイ、ダッタ」

「苦労したんだなぁ」

「シタヨー」

 

ふむ、光る丸……ね。

伝承ではカロス地方の伝説のポケモン、フーパが、次元をくぐり抜ける輪っかを持っていると聞くが、それだろうか?

フーパはいたずら好きだ、と伝承に書いてあったしな。

となると、私にいたずらを仕掛けたのもフーパ? ……ガラルまで来て?

……それはどうだろうか……。

いや待てよ、近年アローラで発見された、ウルトラビーストという新種のポケモンが、異次元出身だという論文を読んだな。

異次元から、この世界に繋がるゲートを開くことが出来るとかなんとか、通常のモンスターボールでは捕まりにくく、エーテル財団が開発した、ウルトラボールなる高価なボールでしか、容易に捕まえられないとか……。

さらに論文には、アローラの伝説のポケモン、ソルガレオ・ルナアーラにも同じ力が備わっているとあったが。

それらが……、野生のポケモンや、一人間に干渉するか?

まだフーパのほうが、可能性が高いのでは……。

しばし顎に手を当て、思案する私。

 

「ナンカ、ワカッタ?」

「いや、まだ……ん?」

 

ふと周囲を見ると、みんな壁際にひっついて、及び腰になっているのが見えた。

一体どうしたのだろう。

ゴキブリでも出たか?

キッチンなら、一匹二匹いても、おかしくないと思うんだが。

 

「どうしました皆さん? そんなに怯えて……」

「どど、ど、どうしたって客人、おめえ、なにをそんな、平然と、バケモノと話を」

 

ムッ。

聞き捨てならない単語。

 

「バケモノではありません。彼はポケモン。ポケットモンスターです。リピートアフターミー」

「ポ……ケモン」

「そうです」

「そ、その人間もどきが…………?」

「……? ……あぁ」

 

そういえばこの子、まだ全身紫の、メタモン顔人間のままだった。

……そうか、冷静に考えてみれば、ポケモンに親しくない立場の人間からすれば、この状態は怖いのかも知れない。

今まで何度も、人間に変身したメタモンと話した経験があったので、すっかり頭からすっぽ抜けていた。

 

「……すまない。君も怖がられっぱなしはイヤだろう? 元に戻ると良い」

「ウン、ソウスルー」

 

そう言うとするする縮まり、メタモンは“いつものよく見るメタモン”になった。

 

「モンモン!」

「へ……? あ、あぁ……?」

「あ、なんかかわいい……」

 

シエスタさんには、好評のようだ。

確かにメタモンは可愛いからな。うん。

女性人気も高いし。

各地方でも、メタモングッズいっぱい売ってるもんな。

私もメタモンマグカップ、持ってるし。

お湯を注ぐと、色違いのメタモン色になって面白いんだ、あれ。

 

「お、お前……テリー……だったやつ……か?」

「モン!」

「……話せなくなったのか?」

「モンモンモン!」

「…………」

 

当たり前の話だが、変身していない、素のメタモンは、素のメタモンでしかない。

この子はかなり賢い子だったから、知能は据え置きかもしれないが。

メタモンに人間の発声器官は存在しないので、人語は話せない。

それに、悲しいことだが。

 

「……………………」

 

周囲のメタモンを見る目が厳しい。

これは、もしかしなくても。

……やらかしてしまったようだ。

 

「……どうやら、私の迂闊な行動で、君の立ち位置を奪ってしまったみたいだ」

「モン…………」

 

結局の所、悪意はない、わかりやすいケースを見せるため、などと、言い訳を並べたとは言え。

彼の正体を暴いてしまったのは、私だ。

そして、恐怖の対象にさせてしまったのも。

責任を取らなければ。

それがトレーナーの……いや、人間として最低限の義務だろう。

 

「私と一緒に来よう、嫌だったら、君の次の就職先を探させてくれ」

「モン!」

「……そうか、ありがとう」

 

どうやら、嫌ではないようだ。

メタモンの素朴な笑顔は、とてもよくわかるからありがたい。

とりあえずどれが気に入るかわからないので手持ちのボールを全種類並べる。

なんでもあるぞ。

前述のクソ高価いウルトラボール以外は。一個百万円てなにさ。

あとプレシャスボールもないが、あれは勘弁してくれ。

それと……ごめん、GSボールもない。

なんでもと言ったが、すまんありゃウソだった。

 

「どれがいい?」

「ン~~~。モン!」

 

おお、ヒールボール。

色合いがにてるから気に入ったのかな?

メタモンが自分で開閉ボタンをタッチすると、赤い光になってメタモンがヒールボールに吸い込まれる。

本人に抵抗する気がないのでボールは一度も揺れない。クリティカルだな。

 

「よろしくな、メタモン……。いや、そうだな、ニックネーム……。うん、モンモン。よろしくモンモン」

 

私がボールを拾い上げてニックネームを付けてやると、カタカタと震えて返事をくれた。

気に入ったのか、抗議してるのかは、わからないが。

まぁ、今度聞けばいいだろう。

生憎今手持ちは6匹なので、自動でボックスに転送された。

そういえば今はオフラインだから、オフラインボックスに一匹だけか。

ちょっと寂しい思いをさせるかも知れない。

 

「あぇ……? お、おい、今の奴ぁどこいった?」

「え? ボールでゲットしたんですよ」

「……?????」

「あぁ……」

 

そういえばボールがない未開の地だったか。

一からモンスターボールの構造を説明するのはちょっと……いやかなり面倒だな。

タマムシ大学に、特別教授として呼ばれた時を思い出す。

あれはしんどかった……。

 

「まぁ、なんですか、とにかく元気ですよ、うん」

「そうか……」

「これでポケモンという生き物がどういうものか、よく解っていただいたと思いますが」

『いや全然』

 

あれー?

 

「さて、では私はそろそろ、お暇させていただきます。元々、怪我の治療だけで招かれましたんで」

 

あまり長居をするのも失礼だろう。

そう思って立ち上がろうとしたのだが……。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。テリー……じゃねえや、メタモン、だったか? 連れてっちまうのか?」

「……はい。私の不手際ですが、怖がられてしまった彼は、もう、ここには居られないでしょう。正体を暴いてしまった私が、言えた義理ではないのは、重々承知の上ですが……」

「…………。すまねえお客人、そいつともう一度会わせてくれねえか」

「え? はい、いいですよ」

 

携帯ボックスを操作して、モンモンと手持ち一体を交代。

なにげに初めてオフラインで使ったが、問題なく使えるな。

よしよし。

 

「出てこい」

 

ポン、と軽快な音と共に、モンモンが飛び出す。

 

「モンモーン!」

 

元気よくのびーっとしている。。

うん、やっぱり名前に不満はないようだ。

それで……コックさんはなんの用なんだろうか?

 

「な、なぁおい、お前さんよ」

「モン?」

「……ここに嫌気が差したのか?」

「モンモン?」

 

ふるふると首を横に振るモンモン。

なんだかんだで3年も居たんだ。居心地が良かったのだろう。

 

「……別によ……、別に俺らぁ、お前を不気味がったりなんかしねえよ」

「モン!」

「お、な、何だ、怒ってんのかよ」

 

モンモンがしゃべれないと会話が成立しない気が……。

 

「モンモン、もう一度へんしんしたら喋れないかな?」

「モン!」

 

頭に電球が浮かんだような顔で、モンモンは“へんしん”した。

 

「じゃじゃーん! メイドさんのぼくでーす!」

「ひええ!? 私!?」

「シ、シエスタが二人になったぁ!?」

 

おお、驚いている驚いている。

メタモンは“目の前にいる人物・ポケモン・その他の生き物や無機物にしかへんしんできない”のだ。

既にこの場に居ない、テリー氏とやらは、再現不可能だろう。

何故モンモンがあえて、シエスタさんを選んだかは、謎だが。

男性より女性になるほうがいい気分……、だったのかな?

わからないが。

 

「えっと……お前さんもう話せるのか?」

「ぼくもう話せるよー」

「ええええ、私の姿でぼくとか言われると違和感が」

 

気持ちはわかる。

 

「じゃあよ、なんでさっき怒ったんだよ?」

「えーだって! ぼくのことから必死で逃げたり、バケモノだとか言ってたじゃん! 今更何さ!」

「あ……! れは……。だな…………」

 

……気持ちはわかる。

ポケモンに慣れていない人間なら、人間のへんしんを解きかけたメタモンは、不気味に思うことだろう。

ましてや、バケモノに見えてもしょうがないだろう。

私は……、そう思いたくはない、が。

 

「仕方ねえだろ……。初めて見たんだ……。咄嗟だったんだよ……」

「ふーん」

 

モンモンは しらんぷりした!

 

「お前がその……、割と愛嬌あるヤツが、正体だってわかったら、そんな事思わねえさ。それによ……、お前だって今まで此処に3年もいて一緒に仕事した仲間なんだ。名前はまぁ……テリーじゃなかったってだけでよ……」

「ふーん」

「慣れりゃあ……、不気味なんて思わねえよ」

「……ふーん」

 

おや? モンモンの ようすが……?

 

「ジャア、コレデモ?」

 

全身紫のメタモン顔になるモンモン。

彼らが、バケモノだと称した姿だ。

……。

 

「……………………! お前らァ! コイツが不気味かァ!!!」

『思いません親方ァ!!』

「お前らァ! コイツイジメるかァ!!!」

『イジメません親方ァ!!』

「………………フーン」

 

再び色を戻しシエスタさんそっくりになるモンモン。

彼は今何を思い、何を考えているのか。

残念ながら、付き合いが浅い私にはわからない。

彼らのほうが、よっぽどわかるかもしれない。

 

「口ではなんとでも言えるけどさ。そのうち無理になるんじゃないの。だって君たち、ポケモンのこと知らないんでしょ? 自分とは相容れないバケモノだって、すぐに気づくよ。……どうせ」

 

だが……。

なんとなく、今の言葉は、否定してもらいたがっているように、聞こえた。

 

「そんなことねえ!! ……って断言できりゃよかったんだが……。確かに俺らは、おめえらポケモンってやつのことがよくわかんねえ……。今後も何かに付けてビビっちまうかもしれねえ……」

「……ほらね」

「それでも……それでもだ!! 少なくとも俺は! 仲間に縁を切られたくねえんだよ!! バケモノ呼ばわりしたことは悪かった! このとおりだ!!」

「…………、親方……」

「だから……! まだここで働いてくれよォ!!!」

 

コックさんは、膝をついて頭を下げる。

奇しくも、ニホン列島に伝わる土下座に似ていた。

カントー出身のモンモンには、刺さるものがあるかも知れない。

…………。

私はモンモンの自由意志を、尊重したいと思う。

 

「……ふーん。ねえ、チャンピオンさん」

「ああ」

「ごめんね?」

「いいさ」

 

どうせ、出会って一日もしない仲だ。

だったら……、3年の付き合いを優先するのは当たり前だもんな。

そう言うとモンモンはぐにゃりとカタチを変えて、コックさんそっくりになる。

 

「そこまで言うなら残ってやらァ!! ただし途中で放り出したら承知しねえぞ!!」

「うお俺!? お、おおう! のっ、のぞむところでぇ!!」

「迫害したら、ドラゴンに変身して襲いに来てやるからな!!」

「そんなことできんのお前!?」

「できますよ」

「マジで!?」

 

うん、メタモンは、相手がメガシンカポケモンだろうが、伝説のポケモンだろうが、平然とへんしんしますが。

バチュルにもホエルオーにもなれるんだから、本当にへんげんじざいだろう。

最も、この子は“かわりもの”のようだが。

またもニュルンとシエスタさんにへんしんしたモンモンは、笑顔で告げる。

 

「しょーがないなー! ぼくが居ないと寂しいって言うなら残ってあげる!」

「お……おう!」

「にひ、よろしくね? 親方!」

「お、おおう……、シエスタの顔と声で言われると……」

「ちょっとマルトーさん?」

「あっ、なんでもないです……」

 

どうもモンモンはシエスタさんの姿が気に入ったようだ。

だったら……預けるのは彼女が適任だろうな。

 

「シエスタさん」

「え? はい」

「これが、モンモンの入ったポケモンボールです」

「ポケモン……ボール?」

「ポケモンと紐付けされたモンスターボールのことを、そう言うんですよ。ここの真ん中の窪みを押すと光が出ます。それをモンモンに当てればモンモンはこのボールに戻りますよ。で、また出したい時は同じように押すと出ますんで。まぁ……この子のことだから勝手に出てくるかも知れないですけど」

「は、はぁ……。なんで私にこれを?」

「……それなんですがね」

 

ふと、モンモンに視線を向ける。

 

「うぇーい! 料理もできるメイドさんだー!」

「馬鹿お前! 料理すんなら制服にくらい着替えろ!」

 

……このように。

 

「貴女の姿を気に入ってしまったようですので」

「ええええ!!」

「貴女に一番懐くんじゃないかなぁと」

「ええええええええ!!」

「モンモンのお世話、宜しくおねがいします」

「ええええええええええええええ!!」

 

おめでたい。

今此処に一人のポケモントレーナーが新しく誕生した。

トレーナーカードを発行できないことだけが無念だな。

 

「わーい! ぼくのトレーナーさんだー! これからよっろしくー!」

「わあああ! 私が私に抱きつきました! ナンデ!? ナンデ!? 二人いる!?」

 

だが、まぁ。

何時見ても、いいものだよな。

 

「ぼくメタモンのモンモーン! “おや”に付けてもらった名前だからそう呼んでねー!

 改めてよろしくみんなー!」

「お……おう! よろしくなモンモン!」

『モンモン!』

「せめて私の姿はやめてモンモン……」

「気に入ったからやだー♪」

「そんなぁ……」

 

ポケモンと人間の友情が築かれる瞬間というものは。

 

※ここにいる全員、この学園の某生徒が呼ばれるとイヤなアダ名があるということを知りません。

 

「ぶぇーーっくしょい!!!」

「おや風邪かい? 僕の愛しの──」

 

 

 さて。

モンモンと、台所番の皆様に別れを告げて。

これからどうするか。

彼女のもとに帰る?

ははは、論外。

誰がアレを、御主人様と捉えるものか。

では……どうするか。

昨日の制服の少年少女を見るに、ここはサイキッカー専門のトレーナーズスクールであるようだし。

講師としてでも、売り込んでみようか?

……いや、彼女とエンカウントする確率が、ぐぐーんと上がるから却下だな。

どうせ私を見るなりキャンキャン喚いて、終いには首輪でもかけようとしてくるに違いあるまい。

いやだぞ、リードで引かれて後ろを歩くなんて。

若輩者だがこれでも、チャンピオンの自覚はある。

私にも人並みの誇りや、プライドというものがあるのだ。

となると……。

 

「このスクールに留まるのはダメだな」

 

そう結論付けた。

話が決まれば行動あるのみ。

カバンからマッハじてんしゃを取り出して即座に組み立て、私はスクールの門から凄まじい勢いで飛び出し、主(個人的には否定したい)の元から出奔した。

あばよとっつぁん。

二度と会うこともないだろう。

 

 

「……あれ、もう朝……? ふぁああ……。…………。なにか忘れてるような…………。

 ……あ! 使い魔! なんか変なフルーツ食べてたりバケモノ出したり生意気な口聞いてきた……、名前も聞いてない使い魔! アイツなんで起こさ…………。

 ……あれ。いない。もしかして夢? ……そうよねえ、私がねえ、平民の使い魔なんてねえ、いくらなんでも、ねえ? ありえないわよねぇ~。

 な~んだ夢か~。じゃあ今日が使い魔召喚の日ね。気合い入れていかなくっちゃ。まずは教室に行かないと」

「あらルイズ、今日は遅かったじゃない」

「なんでみんな使い魔連れてるのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

マッハじてんしゃを漕ぐと、ついつい歌を口ずさみたくなる。

カントーで流行った曲だったか、子供の頃、ジョウトでもよく流れたものだ。

一人だけじゃ少し寂しいから、スマホから音楽を流してマッハドライブと洒落込もうかな。

久しぶりに広大な草原に来たんだし、思う存分漕ごう。

私は今自由だ。

奴隷解放万歳。

……いや、それ以前にナックルシティに帰る手段を探さねば。

今思い出した。

私、任務の途中だった。

アホか私は。

ダンデ氏から、直々に依頼されたというのに。

まぁ結局、バンギラスはなんともなかったという事実だけが、救いだが。

これが緊急事態だったら、チャンピオン辞任もありえたぞ全く。

さっさと帰らないとまずいよな。

チャレンジャーも困るだろうし……。




・メタモン/モンモン かわりもの Lv62 ボール:ヒールボール

 のうてんきなせいかく たべるのがだいすき。
 トレーナーが 22さい のとき。
 トリステインちほう トリステインまほうがくえんで Lv62の とき であった。

 おぼえているわざ/
 へんしん
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 ・“おや”はチャンピオンだがシエスタに譲渡。
  ハナダのどうくつ出身の高レベルメタモン。香水の人の悪口ではない。
  原因不明の召喚で見知らぬ草原に喚ばれ、右も左もわからない状態のまま、時には鳥になり時には猫になり、
  なんとか人間の住む街までたどり着いた賢いメタモン。
  適当な人間にへんしんして情報収集、後に魔法学園でコックを募集してることを知り料理上手な人間にへんしんして潜伏。
  結構な美食家でありちょくちょくつまみ食いして舌鼓を打っていた。
  チャンピオンに潜伏がバレ、まぁトレーナーの庇護下に入れるなら良いか、とお気楽に考えていたが、
  3年の付き合いのある親方の必死の訴えに絆されて居残ることに。
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