スノウボールアース・ハードモード 作:ムダヅモアル改革
最初の報告は民間の天文台からだった。
「新しい天体を発見した」
「その天体は地球に向かっているように見える。確認を求む」
その報告を受け、国連の対銀河怪獣組織『エルデ』の保有する観測装置や様々な国家・組織の多くの望遠鏡により、その天体の調査・観測が行われた。
この迅速な動きは、その天体が
そのビデオ会議には大国と呼ばれる国の首脳数十人が集められていた。
会議のホストはエルデの総司令官だった。
全員との回線がつながったことを確認し、総司令官は口を開いた。
伝えられた内容はそう多くなかった。
1つ、新しい天体が見つかった。大きさは概算で月以上地球以下だ。
1つ、この天体は遊星であり、移動している。移動方向は地球の方向で、5年以内に太陽系に到達する確率は99.9999%だ。
そして、絶望的な情報が述べられる。
1つ、この天体は、「銀河怪獣の巣」と想定され、低く見積もっても100万匹以上の怪獣がいる。
銀河怪獣についてわかっていることはあまりにも少ない。
宇宙の特定の方向から飛来すること。恒星間航行に耐える肉体を持つこと。人を積極的に食らい、殺すこと。
ある日突然、宇宙から飛来した最初の銀河怪獣は、数個の都市と、数万の人を飲み込み、軍の総攻撃によってやっと死んだ。
ピンからキリまであるものの、2つの国を滅ぼした末、数十発の核兵器を叩き込まれてやっと死んだようなものもいる。
銀河怪獣は今も、断続的に、宇宙の特定の方向から、地球に飛来し続けている。
各国首脳の反応は無言一色であった。
銀河怪獣とは1匹1匹が国家の総力を挙げて撃滅するような存在だ。
大国といわれる国々でもそれは変わらない。
だからこそプライドを捨て、莫大な金と人命を注ぎ込み、超国家的に怪獣撃滅を実行するエルデなどという組織が生まれ、活動できているのだ。
100万。
現在までに地球に飛来した怪獣は101匹だ。
飛来ペースは上がっているが、救世主の活躍を契機にエルデのロボット部隊も設立され、宇宙艦隊で防衛線を築く計画も始動し、「安定するのではないか」「なんとかなるのではないか」そんな希望が生まれた矢先だった。
首脳陣の反応は無言一色だったが、その思考はいくつか種類があった。
『地球に来ない可能性もあるのではないか?』
『地球の戦力でどうにかできるのではないか?』
『そもそも観測ミスなのではないか?』
『『『『『救世主なら、何とかしてくれるのではないか?』』』』』
いずれも、現実逃避に違いなく、その自覚もあったからこそ、彼らは誰も、何も、言うことができなかった。
きっちり3分後、最初に口を開いたのは会議のホスト、エルデの総司令官だった。
この発言、演説はのちに一般にも公開されている。
「怪獣どもは来る。必ず来る。観測を続けてもそれがいつ、どれだけ来るのか、確度を上げるだけだろう。
怪獣どもは100万以上だ。
だがそれは敗北も、諦めも意味しない!
これはチャンスだ!
我々は怪獣どもの本拠地を突き止めたのだ!
あのクソの塊を、我々の地球に近づく前にぶっ壊し! 宇宙の塵に変えてやるのだ!
私はここに、『すべての銀河怪獣との戦いを最終的に解決する作戦』の実行を提言する!」
各国首脳の目に光が戻った。
それから18時間ほど、各国軍部や政治、経済の担当者も入れ替わり立ち代わり参加し、喧々諤々の議論が行われた。
会議の最後に『すべての銀河怪獣との戦いを最終的に解決する作戦』の実行が決議され、承認された。
翌日には国連で緊急会合が行われ、こちらでも数日にわたる議論の末、承認された。
人類は、銀河怪獣の巣の撃滅に動き出した。
銀河怪獣の飛来ペースが上がっていた。
『銀河怪獣の巣』から飛来していることも確認された。
『すべての銀河怪獣との戦いを最終的に解決する作戦』は『最終作戦』と通称された。
各国、各組織はそのすべてのリソースを『最終作戦』へと注ぎ込んだ。
作戦の最大の問題は距離であった。
惑星規模の天体に、100万以上の怪獣。
これは太陽系に侵入された段階で人類の生存が限りなく難しくなる、絶望的な情報であった。
地球圏でもなく、太陽系内でもなく、人類の生存圏内に到達される前に撃滅するのは必須の、前提条件であった。
しかし銀河怪獣の巣の移動速度は速く、対して人類はまだ光を超えることができていなかった。
そう『いなかった』。過去形だ。
会議までの間に、救世主の父が光を超える手段を手にしていた。
だからこそ、エルデの総司令官は各国首脳に発破をかけることができたのだ。
外宇宙を超光速で航行可能で、決戦兵器である無限全方位レーザーを搭載する超戦艦『エルデ号』。
超光速には達しないものの超高速で宇宙を駆け、銀河怪獣を撃滅する戦艦群。
エルデが量産し配備する対銀河怪獣ロボット兵器軍団。
そして、救世主の駆るロボット『スノウマン』。
地球にわずかな、物理的に決戦に持っていくことのできない戦力を除き、人類の総力と言ってよい大戦力を投入する。
まさしく乾坤一擲、起死回生、決戦であった。
この日、各国場分担して建造した最初の戦艦が進宙した。
アメリカが建造した宇宙戦艦。
名前は『ニューヨーク』と言った。
この2日後、中国の『北京』とフランスの『パリ』が。
さらに翌日には日本の『東京』とロシアの『モスクワ』、イギリスの『ロンドン』が、続々と進宙を果たした。
並行して建造された艦も多く、この日から100日の間に300艦、作戦発動までの間に500艦が進宙し、決戦へと臨んだ。
『エルデ号』進宙。同日月軌道への試験航海に出発。
『エルデ号』月軌道より帰還。
『エルデ号』、2日にわたる点検ののち、火星圏への超光速航行『ワープ航法』による移動を試験し、成功。
翌日、『エルデ号』地球圏に帰還。
以降、進宙済みの戦艦群とともに銀河怪獣に対する防衛線を構成。
同日、『最終作戦』の準備にリソースが振り分けられたことで、ペースを上げて飛来し続ける銀河怪獣と、文字通り戦い続けていた救世主及び『スノウマン』が400日ぶりに24時間以上の休息を取る。
しかし休みはすぐに終わり、またこれ以降最終作戦発動までの間、18時間以上の休息をとることもなかった。
救世主及び『スノウマン』は、エルデ及び全国家の総力の元、その決戦形態の準備、練度の向上に邁進する。
エルデ保有の拠点複数で同時多発爆破テロ発生。死者負傷者多数。
爆破テロが行われた拠点には、『最終作戦』前のオーバーホールを行っていた『エルデ号』整備拠点が含まれていた。
『すべての銀河怪獣との戦いを最終的に解決する作戦』、通称『最終作戦』、発動。
超光速航行が可能な『エルデ号』に全戦力を接続し、地球圏を飛び立つ。
作戦参加戦力は以下と公表されている。
旗艦 超戦艦『エルデ号』以下、宇宙戦艦 501隻。
旗機 巨大ロボット兵器『スノウマン(最終決戦形態)』以下、ロボット兵器 4001機。
銀河怪獣の巣までおよそ4カ月の、そして人類初の太陽系外への航海であった。
『最終作戦』参加部隊は紆余曲折もなく、予定通りに銀河怪獣の巣へ接近し、予定通りに作戦を開始した。
作戦は多段階に分かれていたが、端的には『近づいて、最大火力で怪獣もろとも巣を破壊する』というものだった。
作戦の経過を以下に示す。
作戦初期段階 銀河怪獣の巣への接近 成功
参加戦力
人類
超戦艦 1隻
戦艦 500隻
巨大ロボット兵器 1機
ロボット兵器 4000機
銀河怪獣
巣 1つ
銀河怪獣 120万匹
損害
人類
超戦艦 0隻
戦艦 322隻
巨大ロボット兵器 0機
ロボット兵器 3402機
人員 35万名
銀河怪獣
巣 0つ
銀河怪獣 60万匹
戦闘中、銀河怪獣の巣から新たに60万匹の怪獣が出現。
銀河怪獣側戦力は140万匹に増加した。
『エルデ号』の艦橋がにわかに活気づく。
「目標地点、到達しました!」
「全方位無限レーザー直ちに発射! カウントは省略! 今すぐ撃て!!!」
「了解! 全方位無限レーザー、発射!」
なにも、起こらなかった。
システム再起動、しかし発射不能。
エネルギーライン切り替え、しかし発射不能。
手動操作による発射、しかし発射不能。
再度、エネルギーラインを切り替え、手動操作による発射、失敗し砲身損傷。
作戦は崩壊した。
作戦最終段階 銀河怪獣の巣の撃滅 失敗
参加戦力
人類
超戦艦 1隻
戦艦 178隻
巨大ロボット兵器 1機
ロボット兵器 598機
銀河怪獣
巣 1つ
銀河怪獣 140万匹
損害
人類
超戦艦 0隻
戦艦 166隻
巨大ロボット兵器 0機
ロボット兵器 588機
人員 20万名(累計55万名)
銀河怪獣
巣 0つ
銀河怪獣 20万匹
戦闘中、銀河怪獣の巣から新たに40万匹の怪獣が出現。
銀河怪獣側戦力は160万匹に増加した。
「まだた!」
『エルデ号』艦長兼『最終作戦』総司令官が吠える。
「全戦艦は本艦を援護せよ! 本艦はこれより怪獣の巣に突貫し、自爆する!!!」
予備作戦 銀河怪獣の巣への吶喊及び自爆 失敗
参加戦力
人類
超戦艦 1隻
戦艦 12隻
巨大ロボット兵器 1機
ロボット兵器 10機
銀河怪獣
巣 1つ
銀河怪獣 160万匹
損害
人類
超戦艦 1隻
戦艦 12隻
巨大ロボット兵器 0機
ロボット兵器 10機
人員 15万名(累計70万名)
銀河怪獣
巣 0つ
銀河怪獣 5万匹
戦闘中、銀河怪獣の巣から新たに10万匹の怪獣が出現。
銀河怪獣側戦力は165万匹に増加した。
いつかどこかで女の顔をした何かが笑う。
「アーハッハッハッハァ! イーヒッヒッヒッヒッヒ! フフフフフ、フフ、フフフ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァ!!!」
「あーおかしい。おかしくておかしくておなかがねじ切れちゃいそう! 口が裂けてしまいそう!」
「一矢でも報いることができると!? 本当に!? 欠片でも!? 希望を持っちゃいましたぁ!?」
「残念でもなく当然なんだよォ! 満足して死ねるなんて思うなよォ? 生きたまま貪り食われて絶望して死んどけ、バァーカァ!!!」
「どうにも、こうにも、ですネ」
「だね。相当頑張ったけどなぁ」
「しますネ、自爆」
「可能性があるとしたらそれだけかぁ。……うん、ユキオ。二人で地球を救おうな」
誰も知らない作戦 地球防衛大機星の自爆 成功
参加戦力
人類
地球防衛大機星 『スノウマン(最終形態)』 1機
救世主 『流鏑馬鉄男』 1名
銀河怪獣
巣 1つ
銀河怪獣 165万匹
損害
人類
地球防衛大機星 『スノウマン(最終形態)』 1機
救世主 『流鏑馬鉄男』 0名
銀河怪獣
巣 1つ
銀河怪獣 150万匹
『スノウマン(最終形態)』には『エルデ号』とは別種の、開発者以外誰も理解していない、強力極まりない炉が搭載されていた。
『
元々爆弾として建造された『スノウマン』にはその設計思想の中心に自爆があった。
誰であっても、どのような手段であっても、『
『
『
銀河怪獣の巣は崩壊した。
『
完全な破壊ではなかった。しかし、巣を巣たらしめていた銀河怪獣を生み育てる機能はほぼ崩壊し、また恒星間航行を可能としていた能力も崩壊した。
銀河怪獣の巣と呼ばれたそれが地球に到達するまで100年以上必要になった。
それだけの時間をかけても銀河怪獣は数万匹しか増やせなくなった。
人類は、銀河怪獣の巣におびえずともよくなった。
だが残念ながら、この戦いの勝利と地球の滅亡には関係がない。
スノウボールアースはここから始まる。
スノウボールアースに
「け、結局、滅んでるー!?」
どうにもならんかったわ。