「きゃわ~~!!」
「ちょっとミレイさん、ここお店だから。落ち着いて、ね?」
そう、騒ぎ立てる私に対して駆け寄り、抑え込もうとするステラ。けれども、いやいやいや。これが落ち着いていられるものですか。
「ステラってばマジのマジに、超マジかわじゃん! ってか、制服着てるところしか見たことなかったから気づかんかったけどバカみたいにスタイルいいし! 何着ても似合う! 天才!」
「だから静かにって……。それに天才って、そんなこと」
「そんなじゃない! もうヤバいよ、今のステラ! まじ鬼可愛い、見ていて辛い! 死にそう、息ができない! 尊みの化身!」
「ちょっ、もう、わかった! わかったから落ち着いて!」
そう控えめな声で叫ぶステラをもう一度、今度はじっくり舐めるように上から下へ、と真剣に眺める。
いつも通りの顎の高さくらいで切りそろえられた黒髪ボブと整った顔はまるでお人形のようで愛らしく、正直この時点で満点級なのだけども……。今はあくまでファッションがメインだから置いておいて。
「夏ッ、デコルテ! ――最高ッ!!」
顔から下へ目を向ければそこにあるのは真夏だと言うのに積雪を連想させるような白の大地。細く嫋やかな首から始まり、惜しげもなく鎖骨がさらけ出され、さらにその先へといくと……、と言った限界ギリギリくらいのところで閉ざされている絶対領域。夏日らしい清涼感ある開いた装いでありながら、持ち前の白い肌でキリっと占めていることで露出がやや多くてもいやらしさが出ない着こなし。
トップスはもはや狙ったようなザ・ギャルって言った感じのヤツをチョイス。形から入るってのも大事だしね。あくまでステラはギャルになりたいんだから、ギャルっぽくないギャル系のファッションよりも、ギャルっぽいギャルのファッションのが良さそうと判断。Y2Kもありなんだけど、ちょっちステラのイメージっぽくないから今回はパス。あくまでデコルテが綺麗目に出てくれる、白と反対の黒系で攻めてみた。
本当ならパーソナルカラーから服やこの後のメイクも決めたいんだけど、今回は時間がなかったからアタシの独断で色はチョイスしている。ぱっと見じゃあブルべなのかイエベなのかもアタシじゃわかんないし。そんな時は白や黒は無難なんよね、当たりはしないけどハズレもしない、的な?
そんでもってシルエットはガッツリ、タイトめの服をチョイスしてステラの身体の線を目立たせてるんだけど……
「ステラは完全、骨格ウェーブだからね! 女の子らしい柔らかい感じの曲線をくっきり出した方が可愛いんだよ!」
「こ、こっかく……、なんて?」
もちろん骨格ウェーブらしい華奢なデコルテ周辺を曝け出す問題もあったんだけども、そこら辺もちゃんとカバー。まぁ、ステラのポテンシャルでゴリ押しただけなんだけども。正直、ここら辺はスタイルは個人差っていうところの理不尽さを感じたよね。
「アタシとか骨格ストレートで背も高めだからこういうのを着るとマジでシルエットが線一本の木になるからダメダメなんだよねぇ。羨ましい……」
今でこそある程度、自分に似合うファッションがわかってきたから良いけどもさ。最初の頃とかマジで地獄だったのよね。小学生くらいの頃から服とかに興味を持ち出してさ。可愛いめのふんわりした服とか、逆に身体のスタイルが綺麗に浮かぶようなタイトな服とかを着たくてもぜんっぜん似合わんくて。鬱よ、鬱。ファッション誌に出てる子たちはこんな可愛いのに、自分が着るとなんか違うの連続なんだから。
今じゃ背も170とかあるし……。もう絶対可愛い系は着れないから、諦めたとはいえ、どうしても羨ましがってはしまうくらいは許して欲しい。
「……ステラ?」
そんな風にステラのことを羨ましそうに眺めていると、彼女はこちらの失意に気が付いたのか少しだけ近寄りこちらを見上げてくる。
「……その」
そう、ステラは呟くと少しだけ躊躇うような仕草をして、それから意を決したようにこちらの瞳を下から覗き込むようにして口を再度開いた。
「私は……。ミレイさんのその、ファッション。とても似合っていて、綺麗だと思うよ?」
「……ぇ」
「って、あはは。ファッションのフの字も知らない私なんかに言われても困っちゃうか」
そう誤魔化すように笑う彼女の顔をジッと見つめる。いつものように、その整った容姿に目を奪われたから……、ではない。もっと純粋な、もっと深い、もっと、もっと……。
――そもそもアタシにとってファッション、オシャレっていうのは自分のためのものであって、決して誰かに褒められるためのモノでは無かった。あくまで自分が可愛いと思ったものを着れれば、それで十分だって。誰かからの評価なんて、必要がないって。そう、思っていた。
だけど……
(そっか、そりゃ……、そうだよね。そっか……、そっかぁ)
だけど、それは違った。いや、違った、ってのはちょっとだけ違うか。あくまでアタシが誰かに褒められたかったわけじゃないって言うのは本当で、あくまで自分のためのオシャレであったことに嘘はない。
ただ、それはそれとして……
(頑張って色々調べて、メイクとかも試してみて。やっと見つけた自分らしいオシャレをするようになって、それを褒められてさ。あくまで自分のためのものだったからって……。でもそれって、褒められて嬉しくないわけじゃあ、ないんだよね)
別に、これまで誰かに自分のファッションが褒められなかったってわけじゃない。それこそ家族とか友達とかも「その服可愛いね」とか、「いいじゃん、似合うね」とか、そういうことは全然言ってくれる。ステラが言ってくれたのは、そんな人たちが言っている言葉と本質的には同じモノだ。
けれどもあくまでアタシにとってだけど、他のみんなの言葉と、ステラからの言葉の意味、そして価値はまったく違ったのだ。
それはきっと、こうして見つめたままでいる彼女の顔、瞳、そして……。
(すごい、まっすぐ――)
彼女の内側に潜む純白としか形容の使用がない無垢さや純粋さ、そして真摯さによるものなのだろう。彼女の今の言葉がただの出まかせやお世辞、話題の一つやなんとなくの言葉じゃなくって、彼女自身と言う人間から絞り出された本当の言葉であることが伝わってきたから……。アタシはこうして今、目が離せないでいる。
褒めてきた、褒めてきた、褒めてきた。アタシはアタシを肯定してきた。
褒めてくれた、褒めてくれた、褒めてくれた。ステラがアタシを肯定してくれた。
アタシはもう、たまらなくなった。自分の中に浮かぶ感動をどうにか表現したくって仕方がなくなってしまった。偶然、そして突然湧いて出たアタシの隠れたコンプレックスを、こんな形で肯定して癒してくれた目の前の彼女への感謝の念が止まらない。
だからアタシは、そんな気持ちにさせてくれた原因である彼女の、言葉を紡いだ口元、赤く瑞々しい唇をそっと見下ろして……
「嬉しいこと言ってくれちゃってこのぅ!!」
「きゃっ、ミレイさん!?」
そして、上を向いた状態でこちらに寄っている無防備なステラの下半身へと腕を伸ばしてこれでもかと惜しげもなく晒された健康的な太ももを揉みしだいた。
(バッカじゃねーの、アタシ!?)
脳内でそう自分を りつける。
今、寸前で自分がやばいことをやりそうになっていたことに気が付いたから強引にでも今の雰囲気をぶち壊そうと安易なセクハラに走ったが……。
(オシャレ褒められて嬉しいからちゅーしようとするとか、マジで小学生かっつーの!)
あの時、一瞬でも冷静になるのが遅かったらそれこそもうアタシは……、と考えてぞっとする。ノンデリを自覚しているアタシでも、いくら何でもそれがやばいのはわかっているのだ。友達同士でノリでキスくらいするけども知り合って数日の関係でやるもんじゃないし、そもそもあのタイミングはシャレにならん。
大人数で大騒ぎしている時のノリで、とかじゃない。二人っきりの買い物、つまりはデート中に感極まってキス、はもう恋人にしか許されてないヤツ。アウトもアウト、超アウトだよ。
だからアタシは全力でこの場ではふざけたおして、さっきまでのことをうやむやにするのだ。願わくばステラに、さっきまでのことは忘れてもらえるくらいに。
「骨格ウェーブのくせして脚長いってなんなんだよ、ズルだ、ズルッ! もっと太もも触らせろ、このぅ!!」
「いろいろと突っ込みたいけどもね!? さっきから骨格、骨格ってなんなのぉ!?」