「あっ、来た来た。おはよ~」
「おはようございます、ミレイさん」
待ち合わせ場所に到着した私をそう出迎えるミレイさん。「やっほ~」なんて軽快な挨拶をしながら左手をひらひらと横に振っている。
彼女は先週と同じ場所に立っていた。今日は日影が無かったのか日傘を差しながら、という違いはあれども座標的な位置で言えばほぼ一緒と言っていい。
「待たせちゃいました?」
「んーん。アタシもついさっき着たトコ」
そう言いながらにへらと笑う彼女。嘘なんてまるでついていないような明るい表情だ。
けれども先週も私が彼女に送れる形で到着したことを考えると、こちらとしては気がかりにもなる。ただでさえ夏日の炎天下の中だ。その中で相手を待たせている、というのは、例え一分程度でもやはりよろしくない。
とりあえず、次からは約束の十分前には到着することにしよう。私は一人、そう決意する。
……まぁ、今日も五分前には到着しているつもりだったのだけれども、思った以上に手鏡でのチェックに時間をかけてしまったのだが。前髪、本当に定まらないのはどうにかならないものか。
「いやー、しっかし……」
「……?」
ずい、と一歩近寄るミレイさん。上から下へと、ゆっくりと視線を動かしては再度下から上へと向け……。
そして私の顔に視線を固定して、目の動きを止める。
「はーっ、やっぱ可愛い……、えっち……、尊い……、えっち……。トータルしてしんどい」
……えっちが二回あったな。
と言うのは置いておいて。今日はメイクや着こなしを、彼女のアドバイス込みとは言え全部自分でやったのだけれども、どうやら及第点はいただけた様子だ。先週のショッピングでもそうだけれども、彼女の誉め言葉って私のとは文化圏が違うのか、ってレベルで異なっているから、今のも褒められているって断言するのは難しいけれども。
可愛い、とかは誉め言葉だとは思うけど、その……、えっち、とかは誉め言葉と受け取って良いのか未だに分からない。
「エロかわなんて最上級の誉め言葉でしょ! えっちは可愛いの!!」
なんて彼女は言っているけれども……。わからない。ギャルはどうやらえっちがいいらしい。ちょっと不健全ではないか、とは思うけども。まぁきっと、私の頭が固いのだろう。周囲を見渡せば同年代の女子は多かれ少なかれ、肌の露出が目立つし。今の時代、これがきっとデフォルトなのだ。
特に太腿やお腹のあたりは出している人が多い様子。前まではたいして気にしていなかったけれども、今の私的には「日焼け止め塗るの大変そうだなぁ……」って感想が湧いてくるあたり、少しは成長しているのかもしれない。ちょっと前まで、日焼け止めってのは顔や首、それと腕なんかに塗って終わりだったし。
……と、日焼け対策で言うと。
「日傘、だよね……、それ。先週の待ち合わせでは使ってなかったと思うんだけど」
「あー、あの日は家に忘れてたんだよねぇ。あとコレも忘れてたから、ヤバかったし」
そう言って彼女は右手に握る日傘の持ち手と、左手に握る小さな扇風機のようなモノを左右に振って示す。ふわり、と涼しい風がこちらに向かって一瞬吹いた。扇風機の方はずっと静かだったから電源を切っているのかと思っていたけれども、どうやらそうではないらしい。
「手持ちの扇風機ですか。学校にも割と持ってきている女子が居ますよね」
「そーそー、ハンディファン。温暖化が年々ひっどいしさ、日傘とコレなきゃ、死んじゃうね」
「わっぷ……。ほんとだ、涼しい……」
ミレイさんが「くらえ~!」とふざけながらこちらに扇風機……、じゃなくてハンディファンを向ければ、ぶわっとそれはそれは冷たい風が吹いてきた。さっき、手を振った時に一瞬だけこちらを向いただけでもまぁまぁ涼しかったから予測はしていたけれども……。たしかにこれだけ涼しいのなら、最近の暑さには必須急なのかもしれない。
「熱中症で倒れちゃヤバいしね~」
「たしかに……」
数年前まではハンディファンも学校では不用品として取り締まっていたらしいけれども、今はそんなこともなく所持が許可されているところを鑑みるに、学校側もそう言うことなのだろう。万が一、学校で暑さで人が倒れた、となっては大問題だから。
「ステラも買えば? 安いのから高いのまでピンキリだけど、安いのはホントに安いし」
「どうしようかなぁ……」
確かに悩む。いつもだったら暑さくらいなら我慢できる、って断るかもしれないけれども……。ここまで移動している最中に嫌って程、日本の夏の暑さを味わったばかりな私には魅力的すぎる。
……と言うか、なんなら私のは別に買わなくてもいいのだけれども、妹用に買ってあげたいという気持ちもある。なんならそっちの方が何なら強いくらいに。
私は高校と家とが近いから、平日の登校には使わなくても何とでもなるけど、妹の月は片道三十分くらいかけて登校しているし、酷暑の影響は私とは比べ物にならないだろう。
「ま、そこら辺もおいおい考えよっか。今日はまだまだ時間あるんだし」
「……それもそっか」
あれこれと考えこもうとする前に、ミレイさんの声掛けで現実に引き戻される。彼女の言う通り、こんな天下の往来、さらには太陽の真下で考える必要はないだろう。
「じゃ、行こうよステラ。楽しいデートの始まりだよ!」
「デートって……、ミレイさんってば大げさなんだから」
「え~!」
ふふふ、と彼女のオーバーリアクションに笑みを零しながら二人並んで近くのモールの入り口に向かう。時刻はまだ午前の十時を過ぎたばかり。日曜日が終わるまで、まだまだ時間はたっぷりとある。
けれども私たち二人は別に合図をし合ったわけでもないけれど、逸る気持ちを抑えきれず、ちょっとだけ足早になってしまうのであった。