しかし、くれあさんからハルと同様の光属性暴走機関の香りが漂ってきたのですが⋯⋯もしそうなら本作のるるかさんは大変かもしれません。後、トップオブリリーと聞いて、世間は百合の新たな表現と湧いている中、トップオブ彼氏の類義語かと思った自分は異常なのかもしれません。
今回は原作アニメ5話が中心のお話です。何と言いますか蚊帳の外なのにハルが曇ります。
ハルが後にその日を振り返ると、昼頃からの曇天模様の空のように暗い日だったと思い出す。
いつも通り朝食を作り、洗濯物を干しているとアゲセーヌから「招集がかかった」と伝えられた。
だが、劇場の雰囲気はいつもと違い、重く沈んだ空気が満ちていた。理由は舞台を見下ろすように座し、苛立ちを隠さない声色のウソノワールと叱責を受けているニジー。
「マコトジュエルを……なぜ取りに行かぬのだ?」
深海のように低く、冷たい声が劇場に響く。静まり返った空間の中で、その言葉はまるで錘のように空気を沈ませており、まだここに来て日が浅いハルですらもその異様な雰囲気にオロオロすることしか出来ない。
「はい! 未來自由の書に出たマコトジュエル。手に入れるため念入りに調べ、策を練っております!」
(ニジー……最近妙に不安定だったのに、どうしたんだろう……?)
一方、ニジーはいつものような気障な言い回しも軽薄な表情とは違う、非常に真剣な面立ちで答える。それを見たハルはニジーの本気さ────本当にマコトジュエルを奪うつもりだと感じ取るが、何があってここまで変わったのかと疑問に思う。
「度重なる失敗……ニジーよ……手に入れなければ……」
「………ライライサー!」
そんな彼を置き去りにして会議は進む。
仮面の奥から溢れ出す怒りを隠さないウソノワールに対し、ニジーは低く、しかし力強く答える。その表情にはハルが初めて会った時のような、軽口も、笑みも、そして余裕はなかった。
────会議が終わり、他のメンバー達が出ていく中。
「て、手に入れなければ……どうなっちゃうの?」
「────今回の任務、失敗すればニジーは消される」
「け、消される!?」
先程の異様な空気をまだ完全に理解できていないハルだが、るるかから告げられた言葉で椅子から転げ落ちそうになる。
「これまで名探偵プリキュア達によってマコトジュエル奪取は4回失敗しているわ」
ニジーの二度の失敗。アゲセーヌの失敗。ゴウエモンの失敗。
ウソノワールの野望のために必要なマコトジュエル奪取は何度も何度も名探偵プリキュア達によって阻止されてきた。
ハルからすればあるべき場所に帰った結果だが、その度にウソノワールの怒りは募っていった。
「度重なる失敗の報告を前にウソノワール様は限界よ。その中でハル、アナタが加わった以上粛清を行っても問題ないと判断したのでしょう」
そして今、ウソノワールの我慢は限界に達しており、とある理由もあってニジーに対して最終通告を行ったのだ。
「え、ボク? 何でそこでボクが出るの?」
「────貴方という強力なピースを手に入れた以上、出来の悪いニジーを置く必要がない」
「アナタのコピー能力、やろうと思えば名探偵プリキュア達を倒しマコトジュエルを奪うのに持って来いの力よ」
それはハルという非常に強力な戦力が流れ着いてきたこと。
最初は半信半疑だったウソノワールだが、模擬戦でハンニンダーを撃破したことに加え、この間の小鳥遊光輝の一件で別分野とはいえ実績を作っているハルに興味が向くのは自然の摂理だろう。
「────偶然聞いたけど、失敗の報告をしていたニジーに対して『あの異邦人の方が余程役に立つ』と詰られていた」
「最近アナタに対して刺々しかったのはそれが理由でしょうね。ニジーの忠誠心の高さはファントム内では一番かもしれないわ。そんな彼からすれば強い嫉妬心を抱くのも無理はないわ」
その中でウソノワールは出来の悪いニジーを役立たずだと罵り、比較するようにハルの有能さを評価していた。
「そんな!? ボク、ニジーの仕事を奪うつもりなんてないよ!?」
ニジーがこの間自分に対して強い言葉をぶつけた理由は焦りと嫉妬だと知ったハルだが、そもそもマコトジュエルの窃盗をするつもりはないし、ニジーを追い出すつもりもないと叫ぶ。
「とにかく、今回は相当荒れること覚悟しておきなさい。最悪ニジーが消されても前を向く覚悟だけは今からでもしておいて」
しかし、既に賽は投げられ後戻りは出来ない。マシュタンとるるかはアジト内に漂う物々しい空気とニジーの表情から激動の一日になると予感していた……
***
────数時間後。
いくら深刻な事態が動いていたとしても、ハルは自身に割り振られた仕事はしなければならない。
天気が悪くなったので干していた洗濯物をるるかとマシュタンと共に取り込み部屋干しに切り替えた後は昨日作ったビーフシチューをリメイクしたドリアを作っていたのだが、心ここにあらずで何度かうっかり火傷しかけてしまった。
(ニジー、大丈夫かな……)
ずっと考えているのは背水の陣にあるニジーのこと。
正直に言えば、同じ組織に属しているとはいえハルとニジーはそこまで関わりがあるわけではない。関わったのは小鳥遊光輝の一件で協力を願った時だけだ。
突然転がり込んできた自分をニジーが信用していないことや、嫌っていることは理解している。ハル自身もニジーとどうすれば仲良く出来るか分からない。
だが、それでも『ニジーが消えるかもしれない』と知らされた今、自分はどうしたいか、どうするべきか分からないのだ。
(だけど、マコトジュエルが奪われると……困る人たちもいるんだよね)
一方、マコトジュエルの窃盗に対し否定的な想いを持つ身として、ニジーの仕事が上手くいったらそれはそれで困る人達が出てしまうことも理解している。あちらを立てればこちらが立たずな状況だ。
思考がぐるぐるしながらも、オーブンのチンという音が響いたため、中のドリア計7個を取り出しているとえらく焦った様子のアゲセーヌがキッチンに飛び込んできた。
「ハル、ニジーが優勢だし! 早く来るし!」
「……えっ!?」
彼女の口から告げられたまさかの知らせに目を丸くしながらも、彼女に連れられ劇場に飛び込んだハル。
「状況は……!?」
「見た方が早いわね」
指定席であるるるかとマシュタンの隣までたどり着いたハルは状況を訊ねるも、マシュタンは画面を見ろとだけ返す。
そこでハルは、出撃したファントムメンバーの仕事ぶりをウソノワールが特等席から観劇するために設けられたアジト中央に投影されている中継映像に目を向ける。
その先には燕を模したハンニンダー二体……いや、二羽によって吹き飛ばされるアンサーとミスティック。
二羽の燕のハンニンダーはこれまでの大柄な巨体が特徴的だったハンニンダー達と比べ、小柄な体躯。更に素体がツバメだからか、普段のハンニンダーよりも動きがかなり素早い。パワーに関しても、ハンニンダーという特異性からか殆ど劣っていないように見える。
『全くもって相手にならない。今のキミたちからならば、逃げ去ることは容易だろう』
画面の中のニジーの声は、退屈そうですらあった。だがその表情はまるでこれまでの鬱憤や怒りを発散するかのような残酷さも覗いていた。
そして次は恍惚とした顔色になったニジーは両手を大きく広げ、空を仰いだ。
『だが名探偵プリキュアを倒せば、ウソノワール様もお喜びになる! ご覧になられていますか、ウソノワール様!!』
優勢な状況もあるのか、ウソノワールからは朝のような苛立ちや不機嫌さは消えており少しだけ興味を持っているかの様子。
一方、るるかとマシュタンは無表情で、ハルは相反する二つの感情を抱えながら画面を見つめ続ける。
『素晴らしいショーをご覧に入れます、ウソノワール様!』
『『ハンニンダー!!!』』
その号令と同時に二羽のハンニンダーが再び動く。
劣勢のプリキュア達は懐から時計のようなものを取り出す。
『像を取り返す!!』
『マコトジュエルを取り返す!!』
(ここで必殺技を使うつもり!? でも……!)
ハンニンダーと決着をつけるための切り札。これまでの戦いで、必ず勝利をもたらしてきた必殺技を放つつもりなようだ。しかし、ハルはその選択が致命的なミスだと気づく。
『『これが私たちの……アンサーだああああああああああっ!!!』』
だが、画面内の二人にその思いが届くはずもなく、まばゆい光に包まれたアンサーとミスティックは同時に地面を蹴り、一気に突撃する。
いつもならそれでTHE・END、悪は成敗され正義の名探偵プリキュアが勝利する展開だろう。
────しかし。
二羽のハンニンダーは、全く微動だにせずアンサーとミスティックの渾身の必殺技を完全に受け止めていた。
(────必殺技は単体で使っても意味がない。場の流れで自然と出るものなんだ)
驚愕に包まれるアンサーとミスティックだが、ハルはどうしてこうなったか理解していた。
必殺技というのは非常に強力だが、それ単体で使用しても効果は薄い。ハルも『ニンジャ』能力の《爆炎の術》、『ビーム』能力の《キャプチャービーム》や《波動ビーム》、『エンジェル』能力の《高速連射》などといった必殺技をコピー能力毎に持っているが、決してそれ単体では使用せず、他の技で相手の体力を削るなど下準備をして頃合いを見計らって放っている。
だが、今回のアンサーとミスティックは劣勢から巻き返そうという焦りから、ただ単純に真正面から放つだけに留まっている。これでは万全な相手に動きが簡単に読まれてしまい、今のようにガードされてしまうのだ。
(それにアンサーさんとミスティックさんの連携が取れていない……? 体調悪いか、喧嘩した?)
更にここまでの光景を見たハルは、アンサーとミスティックの連携が取れていないことに気づく。前回評した通り、同じ新人であるハルの目から見ても動きが単調で力押しな面が多いが連携はきちんと取れていた彼女達。だが今日は何というべきか……足並みがどこか揃っていないように見えた。
「同じ台詞を言わせないでほしいなぁ。足並みが揃っていないんだよ。やれ、ハンニンダー!」
画面の中のニジーもより情報がある中でハルと同じ感想にあるらしく嘲笑いながらハンニンダーに攻撃を指示。
プリキュアたちは、そのまま反撃をまともに受けた。体が大きく吹き飛び、再び地面に叩きつけられるその光景にハルはもうマトモに見ていられなく目をそらす。
『キミたちにはもう、舞台に上がる資格がないのさ!! 名探偵プリキュア!!!』
そして、いよいよ完全に優勢なニジーとハンニンダーが二人にトドメを刺そうとした時だった。
『ポチいいいいいぃぃ!!!』
「あの妖精さんっていつも二人の側にいる……」
アンサー達のすぐ近くにいつもいるピンク色の妖精が前に出ながら、額の宝石から凄まじい閃光を放つ。
ハルはこれまでるるかにとってのマシュタンのような、アンサー達のおとも妖精だと認識していたが画面の向こう側から伝わってくる凄まじい勢いに目を見開く。
数秒後凄まじい爆発音と衝撃が走り、ハンニンダー達はどちらも吹っ飛ぶ。
『ハンニンダー、大丈夫か!?』
『ハンニン……ダー……』
吹き飛ばされたハンニンダー達は相当なダメージを負ったらしく、立っているだけで精一杯、という感じだ。
『ちっ……マコトジュエルはニつ手に入れた。良しとしよう!』
だがマコトジュエルが手中の中にある以上勝ちだと判断したニジーが、ハンニンダー達に空を飛ばせ空中からアンサー達を見下ろし、薄く笑う。
『さらばだ名探偵の諸君!!』
どれだけ身体能力が高くても、名探偵プリキュアに飛行能力まではない以上ニジーの戦略的な勝利は揺るがない。
しかし、劇場では予想だにしない空気となっていた。
「……時空の妖精……!」
低く、押し殺したような声が劇場の闇に響いた。ウソノワールの声に込められているのは、隠そうともしない憎悪と空気が凍りつくほどの怒り。
「時空の妖精……? ウソノワール様と何かあったの……?」
「────私が知っているのはごく一部だけ」
ハルとしても、ピンク色の妖精の捨て身の介入によってニジーはプリキュアを倒しきることができず、撤退を選ばざるを得なかったことは理解している。だが、今のウソノワールの怒りからはただ単にそれだけではない、まるで地底のように底深く得体のしれない感情を感じていた。
「そのごく一部だけでも教えて」
「────おそらくあの子は時空の妖精……。時を自由に行き来出来る力を持つ、妖精の中でもとりわけ珍しい子……」
「時を行き来って、ドラ○もんのタイムマシンみたいだ……」
ウソノワールの怒りの理由を探るべく、小声でるるか達にピンク色の妖精について知っていることを教えてもらう。
「それにあの子のマコトジュエルの危険を感じる力────『ジュエルを在るべき場所へ戻す力』もあるようね」
「在るべき場所?」
「バラバラになったマコトジュエルを集めて元に戻そうとしているのよ」
全てを知っているわけではないるるかとマシュタンが知っているのは、『ピンク色の妖精は時空を行き来出来る力を持ち、そしてマコトジュエルを復元させようとしていること』のみ。
「────ウソノワールとあの妖精の間に何があったかは知らない。だけど、さっき見せた謎の力といい、更なる謎があるのは確か」
(凄く気になるけど……ボクが会いに行ったらややこしいことになっちゃいそうだし無理かも……)
だが、ある意味ハル以上の潜在能力を有し、ウソノワールが強い敵意を感じているのは確か。ハルも強い興味を持ち始めているが、そもそも普段の居場所も分からなければ、怪盗団ファントム所属という身では会いに行くと相当ややこしいことになるので諦めるしかないだろう。
「もうホント、冷や冷やしたし!」
「だが、今回はニジーの勝利だ。新しいマコトジュエルが手に入ればウソノワール様もお気が楽になるだろう」
さて、ハルとるるか達が会話している間に、ウソノワールは劇場から退出し、プレッシャーから解放されたアゲセーヌとゴウエモンが一息ついていたようで話しかけてくる。
「ハル~、今日のお昼何だっけ?」
「……ビーフシチュードリアだよ」
「聞いてるだけでお腹減ってきたし。あんたの料理はチョベリグだから楽しみ」
「そいつは美味そうだ。ニジーが帰ってきたら盛大に祝ってやろうぜ!」
「……そう、だね。温めなおしてくるよ」
ウソノワールの激怒には驚いたものの、同僚のニジーが仕事に無事成功し処刑を免れられそうなことには嬉しそうな二人。
それに加え、美味い料理もあるなら楽しみだと上機嫌な様子の二人にハルは少し曖昧にうなずきながらキッチンへ向かう。
(……これで良かった……のかな)
キッチンで再度ドリアを温めるオーブンの光を眺めながらハルの中で迷いが生まれる。
応援していた名探偵プリキュア達が負けたことにショックを受けているのが正直な気持ちだ。だが、マコトジュエルを持ち帰ればニジーはウソノワールに認められ、処刑される心配も少なくともしばらくはなくなるはずであることに嬉しさをまた覚えている。
(これで良かったんだよね……)
例え距離は遠くとも仲間がいなくならない、それは良いことなのだと半ば言い聞かせるようにハルは何度も頷いた……
***
────一時間後。
異常事態が発生したことでハル達は再び劇場に招集された。
「ニジーは、なぜ戻らない……」
低く、抑えたウソノワールの声が劇場内に響く。
そう、マコトジュエルを見事奪ってきたニジーが未だ帰って来ないのだ。今回の現場であるまことみらい学園からここまではそんなに時間はかからないはず。
「マコトジュエルを二つも手に入れたのに、あいつどうしたんだ?」
「チョーありえないんだけど!」
「もしかして……帰ってくる間に事故に遭ったんじゃないでしょうか……?」
ゴウエモンとアゲセーヌも訝しむ中で口を開いたのはハル。
「今回のハンニンダー、さっきの……時空の妖精さんの攻撃喰らってかなりダメージ負ってそうですし墜落しちゃって怪我で帰れないのかも……」
「…………」
勝利したとはいえ大ダメージを負ったハンニンダー二羽。
それに乗って逃走中のニジーだがその中で二羽の体力が尽きてしまい墜落してしまったのでは、上空から墜落すれば大怪我を負ってもおかしくない。
帰りたくても帰れない何らかの状況に陥っているのでは、と推理するハル。その隣のるるかは、まだ彼がニジーの性格や悪癖を把握しきれていないが故の推理ミスをしているであろうことは指摘しない。
「事故にあったのかもしれないから探しに行ってきます」
「異邦人、キュアアルカナ・シャドウ……ニジーを連れ戻せ!」
純粋にニジーを心配しているハルと、ウソノワールに命じられ仕方なく立ち上がるるるかとマシュタン。
「あ、お腹空いたらドリア温めなおして食べておいてください。それじゃ行ってきます」
「おう、気をつけろよ」
面倒な仕事を命令されても頷き、それに加え他メンバーのお腹事情を気遣い作っておいた料理を食べて欲しいと言い残すハル。
その間にマシュタンがニジーの居場所を占う。
「見えたわ! 『二羽の燕は鉛の空の下、砂浜に羽を降ろす』」
「────きっと、私達が出会った砂浜────虹ヶ浜」
「よし、探しに行こう! コピー能力『クリーン』!」
ハル達は曇天模様の空の下、虹ヶ浜に向かって箒を急発進させた。
☆曇天
『銀魂』のOP曲の一つ【曇天】。
☆ポチタン
当然ですがハルと関わりが全くなかったので、初めて本格的な登場になったポチタン。
一部ではあんなさんを一人ぼっちの過去世界に送り込んだことで「アルセウス並みの邪神だろ。ポチポチ言ってるだけで腹立つ」とガチアンチが発生していますが、個人的には説明がないままタイムスリップは本人も意図していない事故らしいので「そ、そこまでは言わないであげて……」とは思っています。今回のお話のようにあんなさん達のピンチにはナイスな動きしている分、アルセウスとは違いますし。
☆プリキュア達が敗北して内心動揺するハル
「お前はどの立場なんだ」とツッコみたくなりますが、ハル自身は怪盗でありながらプリキュア達に敵意は抱いていないのと系統は違うとはいえ同じ新人として頑張って欲しいと思っているので、今回のお話では動揺するかなと思い描写しました。
評価していただいた
☆9:トトマル様
ありがとうございました。