質量交換能力でファイアしようとする話   作:蛮族

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2話 水は全てを解決する

 

 

 こんがり肉で学んだ。

 

 食えば強い。

 

 だが、出すには質量がいる。

 

 同じ重さの何かをPCに取り込まないといけない。

 

 取り込んだものは“容量”として蓄積される。

 

 そして。

 

 現実化した瞬間、そのぶん消費される。

 

 消費され尽くしたものは――

 

 ゴミ箱から消える。

 

「……めんどくせぇ」

 

 黒崎遊馬は、机の前で頭を抱えた。

 

 肉ひとつ出すたびに。

 

 空き缶の容量が減る。

 

 雑誌の容量が減る。

 

 ペットボトルの容量が減る。

 

 ゼロになれば消える。

 

 毎回補充。

 

「もっとこう……手軽なやつ……」

 

 考える。

 

 軽くて。

 

 大量にあって。

 

 安くて。

 

 取り込んでも困らなくて。

 

「……」

 

 沈黙。

 

 そして。

 

「……ゴミか」

 

 思い出した。

 

 近所の河川敷。

 

 不法投棄スポット。

 

 チャリとか。

 

 家具とか。

 

 意味わからんものがよく捨ててある。

 

「……いや、最低だろあいつら」

 

 夜。

 

 ジャージ姿で出かけた。

 

 ◇

 

 河川敷。

 

「うわぁ……」

 

 思った以上だった。

 

 壊れた椅子。

 

 雑誌。

 

 工具箱。

 

 鉄アレイ。

 

 なぜかダンベル。

 

 誰だよ。

 

「……ジム辞めたなら売れよ……」

 

 ぶつぶつ言いながら拾う。

 

「不法投棄すんなよ……」

 

 拾う。

 

「市の回収出せよ……」

 

 拾う。

 

「なんで俺が片付けてんだよ……」

 

 拾う。

 

 結果。

 

 軽バンいっぱい。

 

「……業者か俺」

 

 ◇

 

 帰宅。

 

「……重っ」

 

 黒崎遊馬は、両手いっぱいのダンベルを床に落とした。

 

 ドスン、と鈍い音。

 

「っ、はぁ……っ」

 

 息が切れる。

 

 腕が震える。

 

 部屋の隅には、鉄アレイ、雑誌の束、工具箱、ペットボトルの山。

 

 ――全部、“材料”だ。

 

「……くそ……」

 

 能力のおかげで部屋が片付いた。

 

 そのせいで材料不足。

 

 そして今。

 

 材料でまた散らかった。

 

 意味がわからない。

 

 ◇

 

 翌日。

 

「うぃーす」

 

「顔死んでんな」

 

 配送センターで、佐伯が言う。

 

「材料不足っす」

 

「は?」

 

「いや、なんでもないっす」

 

 言えるわけがない。

 

 荷物を積みながら、遊馬は考える。

 

 重いもの。

 

 大量。

 

 安い。

 

 できればタダ。

 

「……」

 

 ケース飲料。

 

「……あ」

 

 閃いた。

 

 水。

 

 ◇

 

 その日の帰り。

 

 ホームセンター。

 

 遊馬は真顔で立っていた。

 

 目の前には――

 

 ポリタンク。

 

「……たっか」

 

 二十リットル。

 

 二十キロ。

 

 便利。

 

 でもそこそこの値段。

 

「……毎回買うの無理だろ」

 

 悩む。

 

 その横。

 

 ロール式のゴミ袋。

 

「……」

 

 ひらめいた。

 

 ◇

 

 帰宅。

 

 検証開始。

 

 ビニール袋を広げる。

 

 滅茶苦茶狭い台所の蛇口から水。

 

 じゃー。

 

「よし」

 

 パンパンになった袋を持ち上げる。

 

「……いけるだろ」

 

 モニターへ押し付ける。

 

 ぬるり。

 

【WATER 3.2L】

 

「少なっ!」

 

 一枚でこれだけ。

 

 量産。

 

 床一面、水袋。

 

「……邪魔」

 

 一個破れる。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

 終了。

 

「……負けた」

 

 ホームセンターに戻った。

 

 ◇

 

 ポリタンク購入。

 

 二十リットル。

 

「……必要経費」

 

 ◇

 

 帰宅。

 

 早速検証。

 

 ポリタンクを机に置く。

 

「……よし」

 

 モニターへ押し当てる。

 

 ぬるり。

 

 吸い込まれる。

 

【WATER 20L】

 

「……っしゃ!」

 

 成功。

 

 ――で、終わるはずだった。

 

「……ん?」

 

 遊馬は首を傾げる。

 

 机の上。

 

 ポリタンクがある。

 

「……は?」

 

 持ち上げる。

 

 軽い。

 

 中身がない。

 

「……なんで?」

 

 思い出す。

 

 最初に飲みかけのペットボトルを取り込んだ時。

 

 あれは。

 

【PET_BOTTLE_500ml】

 

 丸ごとだった。

 

 容器ごと。

 

「……なんでこれは水だけ?」

 

 混乱。

 

 試す。

 

 空のペットボトルに水を入れる。

 

 押し付ける。

 

 ぬるり。

 

【PLASTIC_BOTTLE 0.6kg】

 

「だよな!?」

 

 やっぱり丸ごと。

 

「なんでだよ!」

 

 ポリタンクを睨む。

 

 試しにもう一度。

 

 今度は。

 

「……水だけ、水だけ、水だけ……」

 

 念じながら押し付ける。

 

 ぬるり。

 

【WATER 2L】

 

「……え?」

 

 机の上。

 

 空のペットボトル。

 

「……は?」

 

 もう一回。

 

「缶の中身だけ……」

 

 エナドリ缶。

 

 ぬるり。

 

【ENERGY_DRINK 0.2L】

 

 缶が残る。

 

「……マジかよ」

 

 理解した。

 

「取り込む時に……何を消費するか意識できんのか……!」

 

 能力の仕様。

 

 雑。

 

 でも融通が利く。

 

「神か?」

 

 テンションが跳ねた。

 

 さっそく試す。

 

【こんがり焼けた肉】

 

 ドラッグ。

 

 ぽぅ。

 

【WATER 19.6L】

 

「減った!」

 

 ゴミ箱を見る。

 

【WATER 19.6L】

 

 残ってる。

 

 容量として蓄積。

 

 使うたび減る。

 

 ゼロになるまで残る。

 

 神。

 

【革のブーツ】

 

 ぽぅ。

 

【WATER 18.1L】

 

【スタミナリング】

 

 ぽぅ。

 

【WATER 17.9L】

 

「やっば……!」

 

「水、最強じゃん!!」

 

 ◇

 

 翌朝。

 

「お前今日また元気だな」

 

 佐伯が呆れる。

 

「水っす」

 

「今度は水かよ」

 

「水はすべてを解決するんすよ」

 

「宗教?」

 

「違うっす」

 

 ◇

 

 その日。

 

 遊馬は無双した。

 

 肉でバフ。

 

 リングでスタミナ強化。

 

 ブーツで移動速度アップ。

 

 全部、水で賄った。

 

「これもうチートだろ……!」

 

 そして。

 

 夕方。

 

【容量不足:質量が足りません】

 

「……は?」

 

【WATER 0.3L】

 

「……」

 

 ぴこん。

 

【WATER】

 

 消えた。

 

「全然無限じゃねぇ!!」

 

 ◇

 

「……いや」

 

 ユニットバス。

 

 狭い。

 

 台所。

 

 狭い。

 

 蛇口。

 

 ある。

 

「……これでよくね?」

 

 ◇

 

 ポリタンクを抱える。

 

 台所へ。

 

 じゃー。

 

 満タン。

 

 数歩。

 

 机。

 

「っはは!」

 

「楽勝じゃん!」

 

【WATER 20L】

 

 また。

 

【WATER 40L】

 

「っははは!」

 

 また。

 

【WATER 60L】

 

「……っ、は……」

 

 また。

 

【WATER 80L】

 

「……っ、ふ……」

 

 また。

 

【WATER 100L】

 

「っ……はぁ……っ……!」

 

 床に崩れ落ちる。

 

 汗だく。

 

 腕ぷるぷる。

 

「……もう……いいだろ……」

 

 百リットル。

 

 十分。

 

「……しばらく……持つ……」

 

 仰向けになる。

 

「……文明って……重い……」

 

 黒崎遊馬は知った。

 

 便利の先には。

 

 だいたい筋肉が必要だと。

 

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