質量交換能力でファイアしようとする話   作:蛮族

5 / 8
4話 バックアップは正義

第四話 『バックアップは正義』

 

 ◇

 

「っしゃ――」

 

 黒崎遊馬は、路地裏でタブレットを掲げた。

 

 ぴこん。

 

【こんがり焼けた肉】

 

 ぽぅ。

 

 湯気。

 

「文明……!」

 

 かぶりつく。

 

 うまい。

 

 疲れが抜ける。

 

 最高。

 

 ――数秒後。

 

 ぴこん。

 

【致命的なエラーが発生しました】

 

「……あ」

 

 画面が固まった。

 

 フリーズ。

 

 ブラックアウト。

 

「……」

 

 肉を出した時点で。

 

 ゲームが死んだ。

 

「クソがぁぁぁぁ!!」

 

 叫んだ。

 

 そうだった。

 

 同じゲームだ。

 

 データ欠損。

 

 強制終了。

 

 タブレットになっても変わらない。

 

「意味ねぇじゃねぇか!!」

 

 ◇

 

「お前今日うるせぇな」

 

 配送センターで、佐伯が眉をひそめる。

 

「文明に裏切られたんすよ」

 

「何言ってんだ」

 

「裏切られたんす」

 

「病院行け」

 

「それはそう」

 

 遊馬は真顔で頷いた。

 

 ◇

 

 帰宅。

 

 タブレットを机に叩きつける。

 

「クソが……!」

 

 すぐさま再インストール。

 

 ぴこん。

 

 ぴこん。

 

 ぴこん。

 

 数秒。

 

【INSTALL COMPLETE】

 

「……早ぇ」

 

 爆速だった。

 

 未来。

 

 文明。

 

 異常性能。

 

 でも。

 

「……いや、早くても手間は手間だろ……」

 

 押す。

 

 待つ。

 

 確認。

 

 また出す。

 

 また落ちる。

 

 また押す。

 

「だる……」

 

 インストールバーすら一瞬なのに。

 

 面倒くさいものは面倒くさい。

 

「なんか……方法……」

 

 タブレットを見る。

 

「……そういや」

 

 電池。

 

 減ってない。

 

 朝から使ってる。

 

 昼も使った。

 

 今も使ってる。

 

 なのに。

 

 減ってない。

 

「……なんで?」

 

 未来だから?

 

 いや。

 

 未来でも無限はおかしい。

 

「……」

 

 考える。

 

 その時。

 

 机の端のペットボトルが倒れた。

 

「あ」

 

 ごろん。

 

 遊馬のスマホに当たる。

 

 ぬるり。

 

「……は?」

 

 吸い込まれた。

 

「……は?」

 

 スマホを見る。

 

 写真アプリ。

 

 ゴミ箱。

 

【IMG_1045】

 

「……」

 

 タップ。

 

【PET_BOTTLE_500ml】

 

「…………」

 

 沈黙。

 

「はぁぁぁ!?」

 

 立ち上がった。

 

「なんで!?」

 

 PCじゃない。

 

 タブレットじゃない。

 

 スマホ。

 

「……」

 

 思考が止まる。

 

 そして。

 

「……俺?」

 

 口から漏れた。

 

 コンピューターならなんでもいい?

 

 つまり。

 

 能力の主体は――

 

「……俺かよ」

 

 急に怖くなった。

 

「なんだよそれ……」

 

 でも。

 

 便利。

 

 便利が勝つ。

 

 ◇

 

「……よし」

 

 試す。

 

 スマホのゴミ箱。

 

 復元。

 

 ぽち。

 

 ……戻るだけ。

 

「は?」

 

 違う。

 

 じゃあ。

 

 ドラッグ。

 

 できない。

 

「……使いにっっっっっく!!」

 

 スマホだ。

 

 やりづらい。

 

 なんとか写真アプリからファイルアプリへ。

 

 移動。

 

「……で?」

 

 デスクトップがない。

 

 当然。

 

 試しにホーム画面に置く。

 

 ぽぅ。

 

 光。

 

 形成。

 

 ペットボトル。

 

「……おお」

 

 出た。

 

 そして。

 

 スマホの中を見る。

 

【PET_BOTTLE_500ml】

 

 残ってる。

 

「……え?」

 

 もう一回。

 

 ぽぅ。

 

 出た。

 

「……は?」

 

 三本並ぶ。

 

「……コピー?」

 

 遊馬の目が開いた。

 

「……待て待て待て」

 

 整理する。

 

 これはゲームデータじゃない。

 

 現実のペットボトルを収納したデータ。

 

 欠損しない。

 

 複製できる。

 

「……やばくね?」

 

 ◇

 

 さらに試す。

 

 ペットボトルをファイルアプリでコピー。

 

【PET_BOTTLE_500ml_copy】

 

 ホーム画面へ。

 

 ぽぅ。

 

 出る。

 

 その瞬間。

 

 ゴミ箱を見る。

 

【PET_BOTTLE_500ml】

 

 消えてる。

 

「……は?」

 

 今度は別のデータ。

 

【WATER 82L】

 

 減ってる。

 

「ランダムかよ!!」

 

 何を消費するか選べない。

 

 ゴミ箱内からランダム。

 

「クソ仕様!!」

 

 ◇

 

 さらに。

 

 ファイルアプリ内のコピーを削除。

 

 すると。

 

 ぽん。

 

 写真アプリのゴミ箱へ戻る。

 

「戻るのかよ!!」

 

 完全削除じゃない。

 

 Windowsかよ。

 

 ◇

 

 数時間後。

 

 遊馬は真顔でフォルダ整理していた。

 

【食料】

 

【装備】

 

【緊急】

 

【素材】

 

【複製用】

 

【水専用】

 

「……これで」

 

 複製用は保管。

 

 水はゴミ箱。

 

 現実化時の消費を水に寄せる。

 

「……勝った」

 

 黒崎遊馬は笑った。

 

 文明は。

 

 理解した者が勝つ。

 

 ◇

 

 翌朝。

 

「お前寝てねぇだろ」

 

 佐伯が呆れる。

 

「フォルダ整理してました」

 

「……ほどほどにしとけよ」

 

「え?」

 

「徹夜ばっかしてっと、居眠りで事故るぞ」

 

 真面目な声だった。

 

 一瞬だけ。

 

 遊馬は目を丸くする。

 

「……」

 

 佐伯はいつもの調子で荷物を持ち上げる。

 

「ゲームもいいけど、生きて帰れよ」

 

「……っす」

 

 少しだけ。

 

 胸が温かくなった。

 

 黒崎遊馬は。

 

 目の下にクマを作りながら。

 

 それでも満足そうに笑っていた。

 

 ◇

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。