質量交換能力でファイアしようとする話   作:蛮族

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5話 あいつ、もしかして。

 

 佐伯宗治、四十三歳。

 

 配送センターの総務チーフ。

 

 ……なんて肩書きはあるが、  実際は何でも屋だ。

 

 ドライバーが持ってくる駐車場代の精算。

 

 高速代の確認。

 

 軍手やガムテープ、  台車の部品なんかの発注。

 

 伝票整理。

 

 荷主対応。

 

 トラブル処理。

 

 忙しい時はフォークリフトに乗って、  荷物の積み下ろしまでやる。

 

 昔は俺も、  一日百件二百件走る、  バリバリの配達ドライバーだった。

 

 ……いや、  少し盛りすぎたか。

 

 でもまあ、  それくらいの気持ちで走ってた。

 

 今じゃ事務所に座る時間の方が長いが、  現場の匂いはまだ抜けちゃいない。

 

 そして。

 

 最近なんだかんだ気にしてるのが――

 

 黒崎遊馬。

 

 二十四歳。

 

 軽貨物。

 

 口が悪い。

 

 愛想も悪い。

 

 態度も悪い。

 

 ……が。

 

 根は悪くない。

 

 頼めばちゃんとやるし、  サボらない。

 

 たまに無茶する。

 

 あと、妙に放っとけない。

 

 なんでかっていうと――

 

「……うるせぇなクソ親父」

 

 最近うちの中学生の息子が、  こんな感じだからだ。

 

 反抗期。

 

 会話は三秒で終わる。

 

 飯食ったかって聞けば、

 

『食った』

 

 学校どうだって聞けば、

 

『別に』

 

 こっち見るなみたいな顔しやがる。

 

 あれだ。

 

 黒崎と似てる。

 

 年齢は全然違うのに。

 

 口の悪さとか、  妙に強がるとことか。

 

 つい声をかけちまう。

 

 ……まあ。

 

 息子には嫌がられるが。

 

 黒崎にも嫌がられてる気がする。

 

 でもまあ、  放っとけねぇもんは放っとけねぇ。

 

 で。

 

 その黒崎が。

 

 最近おかしい。

 

 ◇

 

「佐伯さん、おはようございます!!」

 

「……誰だお前」

 

 朝から元気。

 

 気味悪いくらい元気。

 

 前まで、

 

『……おはようっす』

 

 くらいだった男が。

 

 声がでかい。

 

 しかも。

 

「今日追加いけます」

 

「は?」

 

「まだ回れます」

 

「熱でもあるのか?」

 

「絶好調っす!」

 

 働く。

 

 やたら働く。

 

 件数も伸びてる。

 

 売上も伸びてる。

 

 おかしい。

 

 ◇

 

 昼。

 

 集荷で一回センターに戻ってくる。

 

「佐伯さん、これ午前の駐車場代」

 

「おう」

 

 レシートを受け取る。

 

 そのまま荷物を積み込んで――

 

 ふと消える。

 

「……?」

 

 宗治が目で追う。

 

 数分後。

 

 戻ってくる。

 

 なんか元気。

 

「っしゃ!」

 

 って顔してる。

 

 また走る。

 

 ◇

 

 夕方。

 

 また戻る。

 

「追加一件ください」

 

「まだ行くのか?」

 

「行けます」

 

 やたらやる気だ。

 

 そして。

 

 また消える。

 

「……」

 

 数分後。

 

 戻ってくる。

 

 元気。

 

「なんだあいつ……」

 

 しかも。

 

 車から降りる時に、  やたら慌ててポケットに何かをしまう。

 

 スマホ。

 

 ……いや。

 

 黒い板。

 

 タブレットか?

 

 ちらっと見て。

 

 ニヤついてる。

 

 スマホ見てもニヤついてる。

 

「……怖ぇな」

 

 ◇

 

 宗治は腕を組んだ。

 

 考える。

 

 副業か?

 

 いや。

 

 違う気がする。

 

 宗教か?

 

 いや。

 

 黒崎はそういうの鼻で笑うタイプだ。

 

 薬か?

 

 ……いやいやいや。

 

 そこまで落ちてねぇだろ。

 

 じゃあなんだ。

 

 恋か?

 

「……まさかな」

 

 ◇

 

 その日の昼。

 

 また黒崎が戻ってきた。

 

 荷物を積んで。

 

 いつものように。

 

 消える。

 

「……」

 

 宗治は、  なんとなく後を追った。

 

 倉庫裏。

 

 人目のない場所。

 

 黒崎がしゃがんでる。

 

 こそこそ。

 

 何か食ってる。

 

「……」

 

 覗く。

 

 肉だった。

 

 でかい。

 

 骨付き。

 

 漫画みたいな肉。

 

「……」

 

 黒崎が、  はっと顔を上げた。

 

「うおぁっ!?」

 

 めちゃくちゃ驚いてる。

 

 顔が赤い。

 

 なんか焦ってる。

 

 宗治の脳内で。

 

 線が繋がった。

 

 最近元気。

 

 やたら働く。

 

 隠れて飯。

 

 しかも。

 

 手作りっぽい。

 

 いや。

 

 あれは。

 

「……彼女か」

 

「……は?」

 

 黒崎が固まる。

 

「いやいやいや!」

 

 慌てる。

 

 余計怪しい。

 

 宗治は、  ふっと笑った。

 

「そりゃ頑張るわなぁ」

 

「え?」

 

「若いねぇ」

 

「は?」

 

「手作り弁当か」

 

「……」

 

 黒崎の顔が引きつる。

 

 図星か。

 

 宗治は勝手に納得した。

 

「隠さなくていいって」

 

「いや、違……」

 

「大事にしろよ」

 

「……」

 

 黒崎が、  すげぇ微妙な顔をした。

 

 でも。

 

 否定しきれない感じ。

 

 あー。

 

 若い。

 

 ◇

 

 それから。

 

 黒崎がやたら元気でも。

 

「若いなぁ……」

 

 路地裏に消えても。

 

「電話かぁ……」

 

 ニヤついてても。

 

「幸せそうだなぁ……」

 

 全部。

 

 そう見えるようになった。

 

 ◇

 

 夕方。

 

 宗治は缶コーヒーを投げる。

 

「ほら」

 

「……?」

 

 黒崎が受け取る。

 

「無理すんなよ」

 

「……?」

 

「彼女大事にしろ」

 

「はぁ!?」

 

 宗治は笑った。

 

「青春だなぁ」

 

「違ぇって!!」

 

 配送センターに。

 

 黒崎の叫びが響いた。

 

 宗治は。

 

 少しだけ。

 

 家の反抗期の息子じゃなくて。

 

 素直に騒ぐ若いもんを見て。

 

 なんとなく。

 

 安心した。

 

 

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