佐伯宗治、四十三歳。
配送センターの総務チーフ。
……なんて肩書きはあるが、 実際は何でも屋だ。
ドライバーが持ってくる駐車場代の精算。
高速代の確認。
軍手やガムテープ、 台車の部品なんかの発注。
伝票整理。
荷主対応。
トラブル処理。
忙しい時はフォークリフトに乗って、 荷物の積み下ろしまでやる。
昔は俺も、 一日百件二百件走る、 バリバリの配達ドライバーだった。
……いや、 少し盛りすぎたか。
でもまあ、 それくらいの気持ちで走ってた。
今じゃ事務所に座る時間の方が長いが、 現場の匂いはまだ抜けちゃいない。
そして。
最近なんだかんだ気にしてるのが――
黒崎遊馬。
二十四歳。
軽貨物。
口が悪い。
愛想も悪い。
態度も悪い。
……が。
根は悪くない。
頼めばちゃんとやるし、 サボらない。
たまに無茶する。
あと、妙に放っとけない。
なんでかっていうと――
「……うるせぇなクソ親父」
最近うちの中学生の息子が、 こんな感じだからだ。
反抗期。
会話は三秒で終わる。
飯食ったかって聞けば、
『食った』
学校どうだって聞けば、
『別に』
こっち見るなみたいな顔しやがる。
あれだ。
黒崎と似てる。
年齢は全然違うのに。
口の悪さとか、 妙に強がるとことか。
つい声をかけちまう。
……まあ。
息子には嫌がられるが。
黒崎にも嫌がられてる気がする。
でもまあ、 放っとけねぇもんは放っとけねぇ。
で。
その黒崎が。
最近おかしい。
◇
「佐伯さん、おはようございます!!」
「……誰だお前」
朝から元気。
気味悪いくらい元気。
前まで、
『……おはようっす』
くらいだった男が。
声がでかい。
しかも。
「今日追加いけます」
「は?」
「まだ回れます」
「熱でもあるのか?」
「絶好調っす!」
働く。
やたら働く。
件数も伸びてる。
売上も伸びてる。
おかしい。
◇
昼。
集荷で一回センターに戻ってくる。
「佐伯さん、これ午前の駐車場代」
「おう」
レシートを受け取る。
そのまま荷物を積み込んで――
ふと消える。
「……?」
宗治が目で追う。
数分後。
戻ってくる。
なんか元気。
「っしゃ!」
って顔してる。
また走る。
◇
夕方。
また戻る。
「追加一件ください」
「まだ行くのか?」
「行けます」
やたらやる気だ。
そして。
また消える。
「……」
数分後。
戻ってくる。
元気。
「なんだあいつ……」
しかも。
車から降りる時に、 やたら慌ててポケットに何かをしまう。
スマホ。
……いや。
黒い板。
タブレットか?
ちらっと見て。
ニヤついてる。
スマホ見てもニヤついてる。
「……怖ぇな」
◇
宗治は腕を組んだ。
考える。
副業か?
いや。
違う気がする。
宗教か?
いや。
黒崎はそういうの鼻で笑うタイプだ。
薬か?
……いやいやいや。
そこまで落ちてねぇだろ。
じゃあなんだ。
恋か?
「……まさかな」
◇
その日の昼。
また黒崎が戻ってきた。
荷物を積んで。
いつものように。
消える。
「……」
宗治は、 なんとなく後を追った。
倉庫裏。
人目のない場所。
黒崎がしゃがんでる。
こそこそ。
何か食ってる。
「……」
覗く。
肉だった。
でかい。
骨付き。
漫画みたいな肉。
「……」
黒崎が、 はっと顔を上げた。
「うおぁっ!?」
めちゃくちゃ驚いてる。
顔が赤い。
なんか焦ってる。
宗治の脳内で。
線が繋がった。
最近元気。
やたら働く。
隠れて飯。
しかも。
手作りっぽい。
いや。
あれは。
「……彼女か」
「……は?」
黒崎が固まる。
「いやいやいや!」
慌てる。
余計怪しい。
宗治は、 ふっと笑った。
「そりゃ頑張るわなぁ」
「え?」
「若いねぇ」
「は?」
「手作り弁当か」
「……」
黒崎の顔が引きつる。
図星か。
宗治は勝手に納得した。
「隠さなくていいって」
「いや、違……」
「大事にしろよ」
「……」
黒崎が、 すげぇ微妙な顔をした。
でも。
否定しきれない感じ。
あー。
若い。
◇
それから。
黒崎がやたら元気でも。
「若いなぁ……」
路地裏に消えても。
「電話かぁ……」
ニヤついてても。
「幸せそうだなぁ……」
全部。
そう見えるようになった。
◇
夕方。
宗治は缶コーヒーを投げる。
「ほら」
「……?」
黒崎が受け取る。
「無理すんなよ」
「……?」
「彼女大事にしろ」
「はぁ!?」
宗治は笑った。
「青春だなぁ」
「違ぇって!!」
配送センターに。
黒崎の叫びが響いた。
宗治は。
少しだけ。
家の反抗期の息子じゃなくて。
素直に騒ぐ若いもんを見て。
なんとなく。
安心した。