(完結)灯之村発熱事件 記録集   作:埴輪庭

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第七話 火渡り

【資料6-A】行動記録────

 

 対象者:花村園子

 日時:2025年9月14日

※携帯電話のGPSデータおよび撮影映像から再構成

 

 06:30 自宅出発(レンタカー)

 09:45 灯之村入口到着

 10:00 村役場訪問

 10:30〜13:30 役場資料室で古文書調査

 14:00 寺院訪問、過去帳閲覧

 16:00 診療所訪問

 18:30 火渡り祭りに遭遇(神社境内)

 20:00頃 民宿チェックアウト

 21:17 県道で交通事故発生

 

【資料6-B】映像記録書き起こし────

 

 撮影者:花村園子

 日時:2025年9月14日 10:30〜13:30

 場所:灯之村役場資料室

 

(埃っぽい資料室。段ボール箱が山積みになっている)

 

 花村(独白):明治の戸籍、大正の村議会議事録、昭和の広報誌……。あの挨拶についての記述が見つからない。

 

(箱を一つずつ開けていく)

 

 花村(独白):江戸時代の文書……。読みにくいけど、村の年中行事や慣習が書いてあるみたい。

 

(黄ばんだ和紙を手に取る)

 

 花村(独白):「客人ニ対シテハ……」

 

(沈黙)

 

 花村(独白):……虫食いで、ここから先が読めない。

 

(別の文書を手に取る)

 

 花村(独白):これも水濡れで文字がにじんでいる。結局、はっきりしたことは何もわからなかった。

 

(さらに別の箱を開ける)

 

 花村(独白):あ、これは……。

 

(古い帳簿のようなもの)

 

 花村(独白):「火渡帳」と書いてある。明治時代のものみたい。

 

(ページをめくる)

 

 花村(独白):日付と名前が並んでいる。「明治三十二年九月十五日 火渡り執行 参列者……」

 

(ため息)

 

 花村(独白):祭りの参列者名簿か。でも、「火渡帳」という名前が気になる。祭りの記録なら「祭典帳」とか「神事帳」とかになりそうなのに。

 

【資料6-C】映像記録書き起こし────

 

 撮影者:花村園子

 日時:2025年9月14日 14:00〜15:00

 場所:○○寺(灯之村内)

 

(寺院の本堂。若い僧侶が過去帳を見せている)

 

 花村:村の古い慣習について調べているんです。

 

 僧侶:慣習ですか。うちは明治に建て直されたので、古い記録はあまり……。

 

(過去帳をめくる)

 

 花村(独白):死者の名前と没年が並んでいるだけ。でも、一つ気づいたことがある。

 

 花村:この時期、死者の数が異常に少ないですね。

 

(過去帳の該当ページを指す)

 

 僧侶:本当ですね。江戸後期から明治初期にかけて……。

 

 花村:まるで、その時期だけ誰も死ななかったみたいに。

 

 僧侶:さあ、特に聞いたことはありませんが……。

 

 花村:この時期に、村で何か変化はありませんでしたか。新しい風習が始まったとか。

 

 僧侶:……私の代になってからは、特に変わったことは。

 

 花村:あの挨拶は、いつから……。

 

 僧侶:(遮るように)それは村長にお聞きください。私どもは、村の風習には口を出さないことにしておりますので。

 

 花村(独白):いつから、あの挨拶が始まったんだろう。そして、それ以前と以後で、何が変わったんだろう。

 

【資料6-D】映像記録書き起こし────

 

 撮影者:花村園子

 日時:2025年9月14日 16:00〜17:00

 場所:灯之村診療所

 

(診療所の診察室。前回と同じ医師がいる)

 

 花村:観光客の方で、体調を崩した人はいませんか。

 

 医師:観光客? いえ、特には。うちに来院される方は村民だけですから。

 

 花村:そうですか……。

 

 医師:ただ、不思議なことに、村民の健康状態は年々良くなっています。

 

 花村:年々? 

 

 医師:ええ。特にここ数年は顕著です。まるで若返っているかのような。

 

(医師、データを示す)

 

 医師:血圧も、コレステロール値も、血糖値も、すべて改善傾向にあります。

 

 花村:それは……いつ頃からですか。

 

 医師:五年前くらいからでしょうか。観光客が増え始めた頃からですね。村おこしが始まって、外から人が来るようになってから……。

 

 花村:……。

 

 医師:何か関係があるんですかね? 

 

 花村:いえ、きっと偶然だと思います。

 

【資料6-E】映像記録書き起こし────

 

 撮影者:花村園子(携帯電話)

 日時:2025年9月14日 18:30〜19:30

 場所:灯之村神社境内

 

(神社の境内。薪が積み上げられている。大勢の村人が集まっている)

 

 田中:あ、SONOKO様。また来てくださったんですね。

 

 花村:田中さん……。

 

 田中:今夜は火渡り祭りがあるんです。ぜひご覧になってください。

 

(田中、例の挨拶をしようとして、途中でやめる)

 

 田中:もう一度済んでますものね。

 

(田中、普通に会釈する)

 

 花村(独白):一度受ければ十分、ということか……。

 

(日が沈む。村長が松明を持って現れる)

 

(薪に火がつけられる。炎が夜空に立ち上る)

 

(村人たちが円を作って、火の周りを回り始める)

 

(単調な太鼓の音)

 

 花村(独白):観光客たちが、村人たちに混じって歩いている。

 

(村人が観光客と出会うたびに立ち止まる)

 

(両手を差し出す。あの挨拶)

 

 花村(独白):観光客は戸惑いながらも、その挨拶を受けている。まるで、それが祭りの一部であるかのように。

 

(炎に照らされた村人たちの顔)

 

(両手を差し出す仕草が、何度も繰り返される)

 

 花村(震える声で):火を……渡している……。

 

(映像が揺れる。花村、その場を離れる)

 

 花村(息を切らしながら):これは妄想だ。単なる祭りの風景を、勝手に解釈しているだけだ。

 

(太鼓の音が遠ざかっていく)

 

【資料6-F】映像記録書き起こし────

 

 撮影者:花村園子

 日時:2025年9月14日 20:00頃

 場所:民宿「やまびこ」

 

(民宿の玄関。女将が心配そうな顔をしている)

 

 女将:顔色が悪いですよ。大丈夫ですか? 

 

 花村:少し疲れただけです。

 

 女将:今夜はゆっくりお休みになってください。

 

 花村:いえ、今夜中に帰ります。

 

 女将:えっ、こんな時間に? 山道は危ないですよ。

 

 花村:大丈夫です。明日、仕事があるので。

 

(花村、荷物を持って出ていく)

 

 女将:お気をつけて……。

 

【映像終了】

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