猫猫が最後に薬草を届けてから数日が経過した。
その日から猫猫は薬草どころか、顔さえも出していなかった。それによって、彼女を妹ように思っていた妓女達は心配していた。
「猫猫ったら…何してるのかしら?」
「心配ね」
売れっ子妓女『三姫』のうちの白鈴と梅梅は退屈そうにしていた。
そしてその情報も当然ながら梟鋒も知っていた。
「猫猫が行方不明か…まぁ、あらかた人攫いだな」
「呑気なこと言ってんじゃないよ。アイツがいなきゃ誰が薬届けてくれるんだっての」
そう言いながらやり手婆は不機嫌そうにキセルを吹かす。緑青館の薬は毎回毎回、猫猫に頼んで届けてもらっている。彼女と暮らしていた養父に届けてもらう事も可能だが、彼は過去のある一件で杖をつくことを余儀なくされているため負担が大きい。
「いや、その点については、テメェに任せればいいけどねぇ」
「また仕事増やしやがってクソババァ…」
梟鋒も梟鋒で猫猫については幼い頃から知っており、妹のような存在でもあるため、心配していた。
できれば連れ戻したいが、人攫いは行方をくらませながら攫う生業のためどうしようもない。
「無事を祈るしかねぇか」
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それから一月、さらに三月ばかり過ぎようと、猫猫は帰っては来なかった。
彼女の養父である羅門も、顔には出さないものの心配しているのか、たまにオロオロしている時がある。
「梟鋒 ちょっといいか?」
「ん?」
そこには、糸目の男性が立っていた。彼の名は『右叫』梟鋒と同じくここ緑青館の男衆であり、梟鋒の先輩でもある。
「右叫か。どうした?」
「この辺りで人攫いが増え始めてきたらしい…しかもやたらと腕っぷしの立つ連中らしくてな…すまないが」
要するに、『しばらく夜中も警備を徹底してほしい』ということだ。ここは管理があまり行き届いていない。夜鷹も近くにあるのだからそんな輩が出てきても珍しくはないだろう。
特にここ緑青館は高級官僚でさえも手が出せない三姫がいるため、ロックオンされていてもおかしくはない。
「分かった」
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その夜、客も商人達もいなくなり、寝静まった花街。その中でも大きい緑青館の付近の建物の影に、数名の大柄な男達の姿があった。
「ここが緑青館か…見るからに高級な感じがするぜ…」
「あぁ。何でも三姫については高級官僚でさえも手が出せねぇらしいぜ…」
「なら、早いとこその尼をいただいちまおうぜ…!!中でも『白鈴』ってやつがよく涼んでるらしいからよ…!!」
それについて他の数名も頷く。彼ら全員は見ての通り人攫いである。彼らは人を攫ってはどこかへ売り捌き、その先から報酬を得る形で稼いでいる。特に女性は高く買われており、見た目や素養を兼ね備えた妓女などならば尚更だろう。
そんな中であった。見張っていた1人が声を上げる。
「おい…!あれ見ろよ…!」
その声に全員が目を向ける。そこには、緑青館の扉が開き、その近くの石段に腰を下ろしながら芭蕉扇で仰ぎくつろぐ白鈴の姿があった。
彼女の姿を見つけた男や他の数名は笑みを浮かべると共に鼻の下を伸ばす。
「うひょぉ…!噂通りだぜ…!!あれが白鈴だ…!!」
「あれをとっ捕まえて売ればいくらだ…?」
男達は次々と頭の中でこの先のことを思い浮かべながら興奮していく。そんな中で、リーダー格の男が全員を制す。
「おい…ヘマすんじゃねぇぞ…?またとない機会なんだからよ」
「「へい…!!」」
その声に頷くと、5名のうち、3名が大きめの袋を手に取り白鈴へと狙いを定めると____
____一気に駆け出した。
その速度は並の野党のものではない。まるでそれに特化した訓練を受けてきたかのような動きであり、一瞬にして、白鈴へと迫っていく。
そして、涼んでいる白鈴へ目掛けて袋を広げ始めた。
「よっしゃああ!!大金いただ______」
その時であった。
____ッ!!!!
突如として黒い影が現れると同時に、白鈴へ飛び掛かろうとした男3人が、吹き飛ばされた。吹き飛ばされた3名は破壊音を鳴り響かせながら付近の建物の壁へと叩きつけられ、そのまま地面へと倒れていく。
「な…なんだ!?」
「何が起こった!?」
その一部始終を後ろから見ていたリーダーと手下が驚きのあまり影から顔を出すと、月明かりが照らし出すと共に、3人を吹き飛ばした影の姿が、露わとなってくる。
「騒がしいと思ったら、何だ行儀の悪い客か」
そこに立っていたのは________
______棒を握り締めながら立つ梟鋒であった。
「悪いな。深夜営業はやってねぇんだ」