ガクテン♪ソフト版   作:不定音高ふたつ

50 / 71

【前書き】
なぜ記号だらけの楽譜を見て、音にできるのか?
初心者向け楽譜の謎解きエンターテインメント。

● 登場人物(主要な、ハル、ミッツ、ステラ、ショージ、ヤッ子の5人)
♪ ハル:早坂春弥(はやさか・はるや)。中学1年生。男。主人公。ミッツの従弟。手品と謎解きが好き。声変わり前。

♪ ミッツ:蜜霧多岐(みつきり・たき)。中学2年生。女。ハルの従姉。活動的。幼少の頃からピアノを習う。口の表情が豊かで、口が顔の輪郭からはみ出すことが多い。

♪ ステラ:星山空見(ほしやま・くみ)。中学1年生。女。メルヘンが好き。転入して吹奏楽部に入部し、トロンボーン担当になる。老若男女の誰からも、一見して好かれる、無邪気な可愛らしさ。

♪ ショージ:東海林翔児(しょうじ・しょうじ)。中学2年生。男。吹奏楽部でクラリネット担当。恰幅は良いが、デブではない。会話の始まりは紳士っぽいが、話しているうちに、下品な饒舌になる。

この4人の背の高さは、高い方からショージ、ミッツ、ステラ、ハルの順。小学生の高学年から、中学1年生までは、女子の方が平均身長が高いため。

♪ ヤッ子:鍵宮靖子(かぎみや・やすこ)。理科教師(専門は化学)。年齢は30代前半。女。白衣で、すらりとした黒のパンツ姿。プライベートではジャズピアニスト。姉のことが大きく影響。



この作品は、web小説閲覧サイト「小説を読もう」にも投稿しています。

楽譜の読み方「楽典」を、アニメ脚本っぽい形で説明します。
「再放送や、Blu-rayの、長期的な繰り返し需要の視点から、web小説よりも、アニメで説明したい」という気持ちが強いです。




店員がカスハラを作る。知ってて当たり前は、相手もそうだろうか。子供達が、安心してSOSを言えるように。ここは誠実な君が泣ける場所だ。練習は、ゆっくりと成功体験を増やす。

├ ●●第9話 Aパート ( 2 / 3 ) 店員がカスハラを作る。知ってて当たり前は、相手もそうだろうか。子供達が、安心してSOSを言えるように。ここは誠実な君が泣ける場所だ。練習は、ゆっくりと成功体験を増やす。

 

生徒A「ついでに言うと、都会の外食店で、天丼を頼んだんだって」

 

生徒B「うん、それで?」

 

生徒A「もんじゃ焼きとか、お好み焼きとかなら、友達から教わりながら食べるけど、天丼なら出来上がりを、そのまま食べるでしょ」背景に、どんぶりのフタを宙に浮かせて開けた、天丼の絵。お盆に載せて、みそ汁などが付いていても良い。

 

生徒A「ところが、お盆の上に、ご飯だけのどんぶりと、別な器に天ぷら、番茶の湯呑と、その湯呑によく似た器につゆ。こうなると、何が何だかわからない」背景に、何が何だかわからないお盆の絵。天ぷらは、ざるそばのように「すのこ(すだれ)」に載っている。

 

生徒B「だったら、聞けばいいんだよ、どうやって食べたらいいか」

 

生徒A「聞いたんだって。そしたら「普通に食べればいい」って」

 

生徒B「「普通に」って」

 

生徒A「だから、「普通にじゃ、わからないから聞いているんだ。この2つの湯呑は、どっちがお茶で、どっちがタレなんだ」って。そうしたら、悪質クレーマー扱いされたって」ここでは「タレ」と言っているが、「つゆ」に統一しても良い。

 

生徒B「知らないから聞いただけなのに」

 

生徒A「おじいちゃんは、天丼屋さんに入って、壁のメニューにある「天丼」の文字を見て、注文したの。あっ、言い忘れていた、壁のメニューには、「番茶付き」って書かれてあったって」

 

生徒B「うん」

 

生徒A「店員さんは、テーブルの上に立ててあるメニューを広げて、わざと聞こえるような大きな溜息で、メニューを手で2回、バンバンって叩いたの」

 

生徒B「メニュー?」

 

生徒A「メニューには、出て来た天丼の写真と、番茶の湯呑に「番茶が付いてます」って文字や、つゆの器に「つゆはお好みで」って書かれているの」

 

生徒B「でもそれって、そこに書かれているのを知っている人なら、見ることができるよね。こだわりの店なのか、その地域の当たり前なのか知らないけど、見るからに外国人なら、親切に教えてくれたのかもね」

 

生徒A「だから、怒って、大声で「態度が悪い」って言って、1万円札を投げつけて、「釣りは、いらん」って、出て来たの」

 

生徒B「そうなんだあ」

 

生徒A「そもそも、どこに必要な情報があるのか、無いのか」

 

生徒B「親類が、個人事業主で、何か税金関係の届け出なのか、申請なのかの書類を、自分で書くんだけど」

 

生徒A「それって、弁護士か誰か、専門家に任せないの?」背景に、「弁護士は、税務処理をしません」を表示する。

 

生徒B「個人事業主になる時期、「初めての人でも、簡単にできる」って触れ込みの方法で、やってみたんだって」

 

生徒A「うん」

 

生徒B「そしたら、簡単なのは、自分の名前や、住所などを記入することと、どこかの金額を記入すること。つまり、「記入」は簡単だけど、記入元を探すのが大変なんだって」

 

生徒A「へえーっ」

 

生徒B「しかも、聞き慣れていない用語や名前が多くて、「少し違う」が、「実は同じもの」なのか「別なもの」なのか」

 

生徒A「わかるーっ!」

 

背景に例を出す。

 

例1:セブンイレブンの看板。「7」と「ELEVEN」が重なったロゴ。「7i」と「SEVEN&i HOLDINGS」が重なった看板。どちらも、セブンイレブンの店舗で見るので、「同じ」の判断。

 

例2:ダイエーの看板。店舗の看板には、「ダイエー daiei」「グルメシティ Gourmet City」があり、グループ似たデザインではあるが、「違う」の判断。

 

ただし、このような実在の例は、そのまま使わず、創作が良さそう。実際、会社再編などで、変わるため。

 

生徒B「近くで見ていて、見ているこっちが辛くなっちゃったよ。頭をゴシゴシ掻いて、不機嫌な声で「だからよぉ、それがどこに、あるんだよぉ!」って、探し回るの」

 

生徒A「税務処理なら、「必ず、どこかにある」だけど、天丼のメニューなら、「そもそも、情報があるのか無いのか」だよね」

 

生徒B「テレビのCMで、「このパソコンは、指1本で、メールが送れる」っていうのがあったけど」

 

生徒A。失笑する。「当たり前でしょ。送信そのものなら簡単。だけど、メールを書くのが大変、メールアドレスとか、パソコンの環境設定ができないから、困るんだよ」

 

生徒B「環境設定をしないと、メール送信ができないから、パソコンが苦手なら、「要するに、指1本で送れるってのは、嘘か!」って、機嫌が悪くなる」

 

生徒A「他の店では、「ジンギスカン定食」を注文したら、豚肉だったって」

 

生徒B「詐欺だよ。羊頭狗肉(ようとうくにく)だよ。羊頭ブタ肉かな」

 

生徒A「会計の時に、「この店では、豚肉をジンギスカンと言うんですか」って聞いたら、店員は涼しい顔で「そうですよ」だって」

 

生徒B「もう、外食店は、信じられないね」

 

生徒A「それ以来、出張では、コンビニでパンを買って、公園で食べるようになったって」

 

生徒B「知らない土地で、そんなことがあるんなら、旅行に行くのが楽しくない」

 

これ以外は、ラジオで読まれた聴取者からの話がある。幼児を連れた母親が、ファストフード店で「オレンジジュース」を注文。カウンターの店員は、確認の復唱で商品名を言う。

 

母親は「なぜ、わざわざ商品名で返答するのか」を、ラジオに送り、読まれた。

 

ラジオでは、ここまでの放送だった。店員側の言い分を想像すると、「ジュース」は果汁100パーセントと定義されている。幼児に飲ませるので、果汁100パーセントに留意する母親もいる。

 

そのため、店員は「果汁100パーセントではない」を知らせたかったのかも。もしかすると、店員は後に「商品名で復唱よりも、果汁100パーセントではないが、良いか」と聞けば良かったと思い、接客技術が向上したかも。

 

生徒A。音楽の先生に向かって。「どう思います? 店員の態度が悪いって言うのは、カスハラだと思いますか? あたしは、店員がカスハラを作ったと思うんですが」

 

背景に「カスハラ」と、略していない「カスタマーハラスメント」と、説明の「客が理不尽な理由で、横暴な言動をする」を表示する。

 

音楽の先生「僕は、その場にいませんでしたが、お話しを聞いた限りでは、目的の相違が原因だったと推測します」

 

ヤッ子。驚く。心の声。「(どちらが悪いか、比率で答えると思えば、どちらが悪いかではない答え方? なるほど、これは、誰も責めない方法)」

 

音楽の先生「お客さんは、食べたいものを、気分良く食べるのが目的です。店員さんは、もしかすると、昼食時間帯で早く席を空けて欲しかったのでしょうか。当たり前のことを尋ねられて、多忙のに、仕事を邪魔する客だと思ったのでしょうか」

 

ここで、音楽の先生が比喩を用いるのも良い。テレビドラマや映画などで、「犯人逮捕」「人質の解放」「盗まれた物の奪還」など、どれを優先するのかで、警察内部や、その他の立場で、言い合いとなり、自分の望みに反する結果に怒る。

 

ヤッ子「駅の建築に譬えれば、今でこそ言葉が知られるようになったバリアフリーで、駅にエスカレーターを設置した。これで良いのか、改善すべきかを、利用者に問う」

 

ヤッ子「すると、利用者は「せっかく作ったものに、苦情は言えないが、エレベーターが無いと、使い物にならないんだよな」と、心で思うだけ。返答が来ないので、改善もできない」

 

音楽の先生「良い駅を建築するという、共通の目的から、どちらかが目的を変えると、もう話し合いはできません。本人達は当初の目的を保持している気持ちなので、相手が邪魔をしていると判断します」

 

音楽の先生。会話が落ち着いたので、話を戻す。

 

音楽の先生「さて、先程の話に戻りますね。僕は化学は専門外ですが、大人である僕にとっての「化学は難しい」と、学習途中のあなた達にとっての「化学はわからない」は、違うと思います。これは、化学だけでなく、音楽でもそうですね」

 

生徒「基礎的な知識ですか?」

 

ヤッ子「そうだな。ただし、知識が理解の妨げとなることもあるが」

 

生徒「その話は、時々聞きますが、本当ですか?」

 

ヤッ子。ちょっと得意気に「塩基性と酸性の「酸性」という名前の由来は、酸素が含まれていると酸性だという誤解からだ」

 

ヤッ子「大人になるまでの時間のうちの、どこかで、「酸素」と「酸性」は、化学的に繋がりがあると勘違いしてしまう」

 

ヤッ子「しかし、そのような誤解を思い付く前に、君達には酸性の意味を教える」

 

生徒「あ、酸素と酸性。思い付きませんでした」

 

音楽の先生「地球は洋ナシ形だと言われますが、真ん丸と比べて、どれだけ歪んでいるか。太陽を周る地球の軌道は楕円形と言われますが、真円と比べてどれだけずれているか」

 

音楽の先生「ノートを開いて、その見開きの全体に、コンパスで円を書き、地球がその大きさなら、どれだけ歪んでいるか、計算してみてください」

 

生徒「はい」

 

ヤッ子「人類で最初に飛んだのは、どんな方法で、誰だったか?」

 

生徒「もちろん、ライト兄弟が飛行機で飛びました」

 

ヤッ子「では、どうやったら空を飛べるか、小さな子供に「一番、簡単な、空を飛ぶ方法は?」と聞いたら、何と答えると思う?」

 

生徒「何だろう?」

 

生徒「うーん、風船?」

 

生徒「あ、そうか、風船だ」

 

ヤッ子「そう。初めて飛んだのは、熱気球で、モンゴルフィエ兄弟達だ」

 

ヤッ子「熱気球は空気より軽いものだな。では、空気より重いものでは?」

 

生徒「今度こそ、ライト兄弟」

 

生徒「きっと違うよ。だって、ヤッ子先生だもん」

 

ヤッ子「バレたか。次はグライダーで、それを発明したケーリーは自分では飛ばず、御者が飛んだ」

 

生徒「じゃあ、ライト兄弟は、何がすごいんですか?」

 

ヤッ子「グライダーは自分で動力を持たなかったが、ライト兄弟の飛行機は動力があった、つまり、自力で飛ぶのがすごかったんだ。しかも、小さなおもちゃではなく、人間が乗れる大きさで」

 

ヤッ子「まあ、話は逸れたが、最初に空を飛んだのはライト兄弟だと思って話を聞くのと、何も知らないで話を聞くのとでは、理解の仕方が違うということだ」

 

この、最初に空を飛ぶ話は、いらないかも。音楽の先生の、地球の形などで、目的は果たせている。

 

生徒達「ありがとうございます」

 

生徒達がバドミントンを再開する。

 

音楽の先生。生徒達とヤッ子を見て、満足気な表情。

 

音楽の先生「鍵宮先生」

 

ヤッ子「はい」

 

音楽の先生「迷っている時、行き先の看板はたくさんあるのに、ここはどこかを知らせる看板が少ない」

 

ヤッ子「はい」

 

音楽の先生「僕達は、あの子達より年上です」

 

ヤッ子「そうですね」

 

音楽の先生「僕達は、あの子達を俯瞰して、あの子達が今、人生のどこにいるかを、把握できます」

 

音楽の先生「でも、あの子達は、自分がどこにいるのか、自分を俯瞰できません」

 

音楽の先生「僕も、自分が今、人生のどこにいるか、自分では、わかっているつもりでも、実は迷っているのかも知れませんね」

 

ヤッ子「星山君達も、きっと、迷っているでしょう」中庭に来る前の、廊下から音楽室を見た、泣いているステラを思い出す。画像が、ゆるやかに歪んだり揺れても良い。

 

音楽の先生「必要であれば、力になりたいと思います。この年齢になった僕も、きっと、迷っているのですから。この年齢になった僕も、きっと、自分を俯瞰できていないのですから。況してや、未熟な子供なら」

 

ヤッ子。突然、姉の死を思い出す。

 

ヤッ子「先生……」

 

音楽の先生「子供達がSOSを出しやすいように、子供達のSOSに気付けるように、そして、子供達が、安心してSOSを言えるように。そんな人に僕はなりたいですし、子供達が、そんな人と出逢えますように」

 

バドミントンを再開した生徒達は、笑顔。雨上がりで、風景の色は鮮やか。

 

 

 

▽ 場面変更 ● ── ●

 

理科準備室。

 

この場面は、用いるべきか未定。そもそも、この場面が、ステラにとって心のケアになるのか、ヤッ子自身もわからないため、ヤッ子は迂闊な行動は慎むだろう。心のケアは、このような「奇跡的にうまくいった」は、推奨されない。

 

どのタイミングにするか、吹奏楽部の練習の前か、後か、ヤッ子がステラを待ち伏せするか。

 

ヤッ子。理科準備室で、新しい白衣に着替える。白衣は、不足しない枚数が、いつも用意されている。

 

ロッカーの新しい白衣は、クリーニングがら戻って来たシートが掛かっているか、自宅で洗濯したか。脱いだものは、簡易的な畳み方で、ロッカーの下部の手提げ袋に入れる、毎週、洗濯に持ち帰る。

 

ヤッ子。香水、または、消毒用アルコールを、膝の裏側に、控え目に付ける。ステラが安心感を持てるように配慮する目的。

 

ヤッ子。事務椅子(机の前の椅子)の高さを調整し、いつもより低くする。

 

ヤッ子。ステラを、廊下から理科準備室に連れて来る。これが、どのタイミングで、どのような方法で行うのか、未定。

 

ヤッ子。入室する時に、ドアの前に札を提げる。「入室禁止」または「現在、入室禁止」など。

 

ヤッ子。入室して、引き戸に施錠。「邪魔が入らないようにな」ただし、施錠は、ステラを不安にさせる懸念もある。

 

ヤッ子。理科準備室をステラと共に、事務椅子に歩き進みながら。「私は、君に何があったのか知らない。しかし」

 

ヤッ子。事務椅子に座り、ステラの手を取り、膝の上に横向きに座らせる。ヤッ子の左手は、ステラの背中側。

 

ヤッ子「君が辛い気持ちなら、わずかでも、痛みがやわらげば良いのだが」

 

ヤッ子。横座りのステラを、転ばないように支える。軽く抱く形になる。

 

ステラ。無言で、ヤッ子の顔を見ようとするが、見上げることができない。

 

ステラ。ヤッ子の香水(またはアルコール)の匂いが、ほんのり感じられ、「ヤッ子の腕の中は、安心できる別な空間、校内であり、昨日の自室と同じ空で繋がっているが、庇護されている」と思う。

 

ステラ。目を閉じて、頬をそっとヤッ子に付ける。そして、体重をヤッ子に預ける。

 

ヤッ子「居心地が良ければ、座っていなさい。眠ってもいいぞ」

 

ステラ。目を閉じたまま。「あたし、キス……」

 

ステラ。自分の口から出た「キス」に反応し、口角がどうしようもなく下がる。ステラの目は、画面の外にある。涙が流れ落ちる。

 

ステラ「……していません。キスしていません」

 

ヤッ子。ステラの言葉に、いくつかの可能性が考えられるので、迂闊な返答はしない。「キスをしたと疑われている」「ベタなハプニングで唇がぶつかった」

 

ヤッ子。ステラの意に反しない言葉を選ぶ。「キスは、大切だな」

 

ステラ「そうです。大切なんです。初めてのキスなんです」

 

ヤッ子「キスは……。好きな人と、お互いに近付いてするのが、キスだな」

 

ここでは、ヤッ子は饒舌でない方が良い。「お互いが味方同士であることを、態度で示す」など、いつもの楽典で言うような解説は、ここでは省く。

 

ヤッ子。ステラの背中越しに、腕をさする。

 

ヤッ子「好きな人が、いるんだな」

 

ヤッ子。机上のティッシュを持ち、ステラに差し出す。床のゴミ箱を、足で引き寄せる。

 

ステラ。ティッシュを受け取り、鼻をかむ。

 

ヤッ子「私は、何かを解決する力を持っていない。ここは、誠実な君が、泣ける場所だ」

 

 

 

▽ 場面変更 ● ── ●

 

体育館。放課後で、部活動が始まっている。

 

女子生徒が2人、ステージに腰掛けて話している。ガールズトーク。

 

1人は、ステラと一緒に、ストローオーボエで遊んだムギ(大吠麦穂、おおぼえ・むぎほ)。

 

もう1人は吹奏楽部の部員。マスクをして、時々、鼻水をすする。

 

ムギは、ステラがトロンボーン先輩に片想いしていることを知りません。

 

ムギ「あーあ、人生、中々うまくいかないなー」

 

部員「彼氏とのこと? あるよねー。過去の自分を俯瞰したら、ああすれば良かったなんて」

 

ムギ「「あるよねー」って、あんた彼氏いないでしょ」

 

部員「今は彼氏より、クラリネットかな? 自分で頑張れば楽しめるから」

 

ムギ「吹奏楽部だもんね。あれ? でも、今日の練習は?」

 

部員「風邪。吹奏楽では、呼吸器の病気には、敏感なの」

 

ムギ「そうなんだ。まあ、あたしにもうつさないように、気を付けてよぉ」

 

部員「わかってるって。でさあ、クラリネットの個人練習では、誰も練習の邪魔をしないから、こういう音を鳴らしたいって思った通りにできるのが嬉しい。楽器の調子が悪いのも、自分の責任だし」

 

ムギ「でもステラは、思い通りにならないって、悩んでいたよ」

 

部員「きっと、練習方法だよ」

 

ムギ「練習時間を、どれだけ増やせばいいのかって」

 

部員「あの子って、本当は地道なこともできるのに、音楽になると違うよね」

 

ムギ「違うって?」

 

部員「メルヘンの小物だけじゃなく、衣装も自分で作ってるでしょ。そっちの方は、少しずつ形ができている途中でも、完成がわかるよね」

 

ムギ「うん」

 

部員「でも、トロンボーンをゆっくり演奏したら、完成を思い描けていないのかな、ゆっくり練習しないの。もしかすると、音楽は時間の芸術だからって、テンポを崩さないようにって、気遣いしているのかな?」

 

ムギ「どういうこと?」

 

部員「部活の初日に、あんたの彼氏が教えたんだけど、「初めてだから、音の高さは気にしないでいい。みんなの演奏を聞きながら、体を、こう、テンポに合わせて動かしながら、タイミングを合わせて、音を出せばいい」って」

 

ムギ「プンプン、ちょっと嫉妬」

 

部員「それは、初めて楽器を使って、どんな特徴のある楽器なのかを知る段階のこと。息を出すタイミングとか、唇の感触とか、トロンボーンの特徴を知る段階のこと」

 

部員「「慣れるため」と「みんなへの気遣い」を両立させるために、タイミングを合わせるってこと。もう今は、その段階ではないんだよなぁ」

 

ムギ「気遣いかぁ」

 

部員「楽器の練習を知らない人は、「ゆっくりだったら、誰でもできる」って言って、ゆっくり練習を否定する人がいるよ」

 

ムギ「そりゃそうでしょ。ゆっくりだったら、あたしだってできるのに」

 

部員「それが、実際に練習して、初めて勘違いだったって気付くもの。できなかったら、できるまで何回も練習するっていうけど、うまくいかないまま何回も吹いても、意味がないのに」

 

ムギ「できるまでって、当たり前でしょ」

 

部員「4回の失敗の後、5回目で成功して、できたから、曲の続きに行く。そしたら、成功率が20パーセントだけ。そんな難しい箇所が、1曲の中で10箇所あれば、全部が成功するのは無理」

 

部員「失敗しないように、そこだけ急にゆっくりにしたり、失敗して止まったら、「そんな演奏」の体験が増える」

 

ムギ「なるほど。「そこで止まる練習をする」ってことに、なっちゃうんだ」

 

部員「そうなのよ! 大切なのは「スムースにできる」の練習だよ」

 

部員「コンクール向けの話では、「練習でできないことは、本番でもできない」って言うけど、自宅でスムースにできないなら、合同練習でもスムースにできない」

 

部員「合同練習が難しいのは、合奏だから、自分の都合で「ここだけ、ゆっくり」とか、「ここだけ、やり直し」ができないこと」

 

ムギ「そうか。合同練習では、それぞれの人の都合の「ここだけ、ゆっくり」ができないから、一定のテンポで……、あ! だったら、メトロノームを使ったら?」

 

部員「それも役立つよ。っていうのは、「メトロノームと合奏する」の練習になるから」

 

ムギ「へえ。メトロノームと合奏かぁ」

 

部員「演奏の表現方法として、「テンポの揺らぎ」があって、指揮者に合わせるってのはあるけど、今は、そっちの話じゃない。メトロノームを使うのが苦手ってのは、合奏も苦手なんだよ」

 

ムギ「じゃあ、「できるまで何回も」ってのは、運動会の障害物競走のようなものなんだ。ゴールに行くのが目的で、難しい箇所を上手に演奏できないままなんだ」

 

部員「速いスピードで練習していたら、一回も成功しないうちに、失敗の経験ばかり増えて、時間が過ぎて行く。それより、ゆっくりで成功したら、成功体験の回数が増える」

 

ムギ「でも、ゆっくりなら、成功とは言わないでしょ?」

 

部員「それも勘違いなのよ。ゆっくりでもできなかったら、速くでもできないのは当たり前。自転車じゃないんだから」

 

ムギ「あたしは、自転車は止まった状態でバランスをとって練習したよ。お父さんに教わった」

 

部員「あっ、そうなんだ。止まっていてもバランスがとれるから、走っても大丈夫なんだ」

 

ムギ「ステラは、ゆっくり練習しないの?」

 

部員「気持ちが焦っているせいか、ゆっくりしない。大切なのは、テンポじゃなくて、拍なのに」

 

ムギ「拍って?」

 

部員。手拍子で「タラララタラララ」の「タ」で手を叩く。速いテンポ。「この演奏があったとして、失敗しながらなら、こうなる」

 

部員。手拍子しながらだが、「タラララ……タラ……ララタ……ララ……ラ」となる。

 

ムギ「ああ、拍って、手拍子の間隔ってことか」

 

部員「そう。できないなら、全体をゆっくりする」ゆっくりのテンポで手拍子しながら「タラララタラララタラララ」。

 

部員「できるところは速く、できないところはゆっくりなら、拍が崩れる。それよりも、できるところも、できないところも、同じテンポで練習。失敗しないテンポで成功する。成功がしっかり定着したら、ほんの少し速く」

 

ムギ「焦っちゃ、駄目なんだ」

 

部員「焦ったら、きちんと、できていないのに、次に進んでしまう」

 

ムギ「できていないのにかぁ」

 

部員「てきたからって、すぐに次に進むのも、良くない」

 

ムギ「できたら、いいんじゃない?」

 

部員「9回目までできなくて、10回目でできても、次に進んだら、成功確率は10%だよね」

 

ムギ「なるほど。確率が低いのか」

 

部員「プロじゃないんだから、できないことを責めないのは当然だけど、いつでも100%の確率で成功するのは、目指してほしい」

 

ムギ「高い確率で成功するように、ゆっくりで成功体験を増やすのか」

 

部員「そう。成功体験を増やして、成功確率を上げる」

 

ムギ「夏目漱石の、何ていう小説かは知らないけど、読書をすると、知らないことを調べないで、次々と読み進む、悪い癖が付くんだって。それに似ているのかな?」

 

部員「夏目漱石なんて、読んでるの?」

 

ムギ「違う違う。お父さんが、読書が好きで、教えてくれた」

 

背景に、「『門』夏目漱石」「若い僧「書物を読むのは極悪う御座います」」を表示する。

 





次回は …… 練習は、順番を身に付ける。「プレイヤー」「コンポーザー」タイプ。夏目漱石の『門』。綺麗な文字の書き方。何かのついでに恋。ライブハウスのタダ券。半端じゃない練習量。



#楽典 #楽譜の読み書き #ピアノ #ギター #吹奏楽器 #金管楽器 #木管楽器 #人間ドラマ #物語形式 #ラブ要素 #百合じゃれ #海老逃げ #知らない専門用語無し #知らない音楽用語無し #わかりやすい解説 #わかりやすく解説 #簡単な解説 #簡単に解説 #面白く #音楽理論 #難しい言葉を使わない #アハ体験 #目からウロコの説明 #要するに


↓ お気軽に感想をおねがいします ↓

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。