ガクテン♪ソフト版   作:不定音高ふたつ

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【前書き】
なぜ記号だらけの楽譜を見て、音にできるのか?
初心者向け楽譜の謎解きエンターテインメント。

● 登場人物(主要な、ハル、ミッツ、ステラ、ショージ、ヤッ子の5人)
♪ ハル:早坂春弥(はやさか・はるや)。中学1年生。男。主人公。ミッツの従弟。手品と謎解きが好き。声変わり前。

♪ ミッツ:蜜霧多岐(みつきり・たき)。中学2年生。女。ハルの従姉。活動的。幼少の頃からピアノを習う。口の表情が豊かで、口が顔の輪郭からはみ出すことが多い。

♪ ステラ:星山空見(ほしやま・くみ)。中学1年生。女。メルヘンが好き。転入して吹奏楽部に入部し、トロンボーン担当になる。老若男女の誰からも、一見して好かれる、無邪気な可愛らしさ。

♪ ショージ:東海林翔児(しょうじ・しょうじ)。中学2年生。男。吹奏楽部でクラリネット担当。恰幅は良いが、デブではない。会話の始まりは紳士っぽいが、話しているうちに、下品な饒舌になる。

この4人の背の高さは、高い方からショージ、ミッツ、ステラ、ハルの順。小学生の高学年から、中学1年生までは、女子の方が平均身長が高いため。

♪ ヤッ子:鍵宮靖子(かぎみや・やすこ)。理科教師(専門は化学)。年齢は30代前半。女。白衣で、すらりとした黒のパンツ姿。プライベートではジャズピアニスト。姉のことが大きく影響。



この作品は、web小説閲覧サイト「小説を読もう」にも投稿しています。

楽譜の読み方「楽典」を、アニメ脚本っぽい形で説明します。
「再放送や、Blu-rayの、長期的な繰り返し需要の視点から、web小説よりも、アニメで説明したい」という気持ちが強いです。




トロール将軍のプロポーズ。幸せに、絶対に必要なのは。嘘と、冗談と、マナー。そのまま眠ってしまいそうな笑顔。顔は恐いけど、誰も攻撃しない。無であることも、自覚できない無。

├ ●●第12話 Aパート ( 3 / 4 ) トロール将軍のプロポーズ。幸せに、絶対に必要なのは。嘘と、冗談と、マナー。そのまま眠ってしまいそうな笑顔。顔は恐いけど、誰も攻撃しない。無であることも、自覚できない無。

 

▽ 場面変更 ● ── ●

 

回想。

 

大学生時代のトロール将軍。ボロアパートの一室。

 

髪の毛は、やや短髪。少し無精髭(通常は髭を剃っているから)。背景に、現在の顔を表示し、指し棒で「大学生の頃は、こうです」と表示。これにより、回想が大学生時代とわかる。

 

急に回想のトロール将軍を表示すると、わかりにくければ、現在の顔から大学生時代の顔に、スムースに変化する方法も良い。

 

まだ何も描いていないキャンバスの近くの床に、下描きのコピー用紙が散らばっている。

 

トロール将軍。机に顔を伏せている。絵具で汚れた白衣。

 

玄関が解錠され、トロール将軍の彼女が入って来る。

 

トロール将軍の彼女。小学校の体育の先生。仕事が終わって、そのまま来たので、ジャージ姿に、首から笛をぶら下げている。

 

トロール将軍の彼女は、第7話のテレビ番組の収録と、第8話の妊娠発表の時に登場。第7話と第8話の、現在の顔を表示し、指し棒で「結婚前の頃は、こうです」と表示。

 

彼女「どうしたのー? 今日はバイトでしょ。そろそろ着替えないと」

 

トロール将軍「うん。だけど、休みたい」

 

彼女「休んでも、大丈夫なの? あんたそれでも、頼りになってるんでしょ」

 

トロール将軍「うん。だけど、いなくても何とかなる」

 

彼女。精神的に苦しそうなトロール将軍を見て、心配になる。

 

彼女「……じゃあ……、休んじゃう?」

 

トロール将軍「でもみんな、僕が来ると思って、仕事をしている。仕事とは関係無い、僕のプライベートの悩みだし……」

 

彼女「アルバイトとはいえ、接客業でしょっ! そんな落ち込んだ顔見せたら、お客様に失礼よ」トロール将軍の髪の毛を、ワシワシと撫でる。

 

彼女。散らばっている下描きの紙を拾い集める。しゃがんで歩き、集めながら。「精神的な落ち込みはぁ、よいしょっと、ごまかしを続けていると、定着しちゃうよ」

 

彼女。片膝でしゃがんだまま、トロール将軍の方を見る。「一日くらい、いいじゃない。休んじゃえ、休んじゃえ。そりゃ、気紛れに休んでばかりなら悪いけど、いつも真面目なんだから、体調不良ですってことで」

 

トロール将軍。口が思い切り「へ」の字になり、ボロボロと涙を流す。「うん……」職場に電話する。

 

トロール将軍「電話した」

 

彼女「よっしゃー。じゃっ、行くよっ」電化製品をオフにし、火の元を確認する。その他、絵の道具を簡単に片付ける。

 

トロール将軍「え? どこに?」

 

彼女。トロール将軍の手を引く。彼女のライトバンに、二人で乗る。トロール将軍のアパートには、このライトバンで来ていた。ライトバンは、所々、凹んでいる。

 

ライトバンの後部座席は、前に倒していて、車内の後部は広くなっている。

 

彼女「キャンプに行くよー。まずは、道具を持ってこよう」

 

キャンプは、地域と季節の影響が大きい。アニメ化の際は、違和感が無いようにする。結婚前の思い出なので、本編の季節とは無関係。以下のキャンプの場面に相応しい季節にする。

 

彼女の家に寄り、道具を積み、キャンプ場に向かう。夕暮れ。

 

彼女「この時間からでも受け付けできるキャンプ場があるんだ。さっき電話したら、今からでも間に合うって」

 

キャンプ場に着いた頃には、夜になっている。管理棟の前で停め、受け付けを済ませる。

 

彼女。車に乗り。「この時間からでも、キャンプできるって」

 

トロール将軍「良かったね」

 

彼女「あんたが幸運の女神ってことだよ、ありがと」

 

外灯もある場所をサイト(テントの設営場所)にする。

 

ライトバンのヘッドライトに照らされながら、彼女の先導でテントなど、あれこれ設営。設営が終わり、ライトバンのライトを消す。外灯だけの明るさ。

 

椅子は低いもので、脚を伸ばして、後ろにもたれて座る。トロール将軍は大柄なので、がっちりした商品、または、手作りでも良い。

 

焚火台の火を見ながら、コーヒーを飲み、のんびりと話し合う。外灯と焚火だけの明るさ。

 

彼女「なんだかさ、こうして無理矢理、あんたを休ませて誘うってさ、アニメ映画の『魔女の宅急便』みたいだね」

 

彼女「スランプになった魔女に対してさ、パン屋のおソノさんも、友達のトンボも、軽く考えている。親身になって寄り添ったのは、森の絵描きの、ウルスラだけだったね」

 

この「ウルスラ」の名は、映画では呼ばれていないので、代わりに「森の絵描きさん」が良いかも。

 

彼女「あたしは、絵を描くこともない、作曲をすることも無い、芸術の創作をしないから、実感できていないけどさ、飛べなくなった魔女の苦しみは、「生みの苦しみ(産みの苦しみ)」なのかなって」

 

彼女「だから、森の絵描きさんだけが、寄り添えたのかな」

 

彼女「あんたがさ、なーんだか、落ち込んでるみたいだからさ、こりゃ、あたしが寄り添わなきゃ……。なーんて、思ったってわけさ」

 

彼女「もしもこれが、怠けてのわがままだったらさ、バイトを休めなんて、言わないからね」

 

ここで、第4話OP曲前の、大学生時代のヤッ子と彼氏との場面を、少し表示しても良い。

 

木々の向こうに、焚火が見える。別なキャンパーがいるらしい。

 

彼女「キャンプってさ、なんでか知らないけど、わざわざ不便をしに来るんだよね」

 

トロール将軍「うん」

 

彼女「不便を楽しめる生活。爆弾が飛んで来る心配も無い……こんなに平和を享受できるんだ、わざわざ他人と戦うんじゃなく、わざわざ不便を楽しめるって……」

 

彼女「世の中の全部の楽しみのうち、あたしが経験していない楽しみもあるけど、一生のうちで全部は享受できない。でも、好きなキャンプができる。不便を楽しめる」

 

彼女「精神的にも、経済的にも、困っていない。好きなことができるって、幸せだね」

 

第1話の、音楽の先生のセリフ「好きなことがあるのは、幸せですね」に、申し訳なさそうな表情だったステラが、明るい笑顔になって「はい!」と言う場面を表示する。

 

彼女「食べ物を作るための、第一次産業って、広い土地が必要だよね。それを、こうしてキャンプに使えている」

 

彼女「世界中で、地域ごとの「まちづくり」は、自然災害対策と、人間による攻撃への対策も、少なくなかった。安穏とした生活のための「まちづくり」が少なくなかった」

 

彼女「平和ボケと言われてもいい、人間がさ、何千年も何万年もかけて、やっと得られた、安心でいられる日常……」少しの間。「……いいよね」

 

彼女「豪華な設備があるグランピングも楽しいし、あたしには管理棟があって受付とトイレだけがあればいいって感じ」背景に「グランピング」「グラマラス・キャンピング」の文字と、それで楽しむ様子を表示する。

 

彼女「やっぱり、トイレは欲しいな。あたしは一応、女だからさ。サバイバルって程じゃないけど、こんな中途半端な不便も楽しいって、変な趣味だね」

 

彼女「命の危険がある天候の時は、キャンプしない。平穏でいながら、この不便さ加減がいい。しかも、いつでも何かしらのハプニングがある」

 

彼女「こうして、中途半端に不便な一夜を過ごすと、日常の生活は、完璧を前提にしているんじゃないかな……そう思ったりする」

 

彼女「誰も風邪をひかない前提で、スケジュールを組んだり、あらゆることが、運良く、最も理想的だった場合を前提にしてたり。運が悪いことなんて、当たり前なのにさ」

 

背景に、東日本大震災と、原子力発電所を示唆する画像を表示する。

 

彼女「「乙だね」って言葉の語源は知らないけど、もしかしたら、「甲乙丙丁」の、自分にとっての一番いい「甲」じゃなくて、2番目の「乙」でもいいじゃないかってことかなって思う」

 

彼女「もちろん、最も理想的な「甲」を目指しているけど、「乙」を悪いとしないってこと。人生の、あらゆることで、自分の限界を基準とした完璧以外が「悪い」んなら、あたしは、たくさんの「悪い」を持っている人だな」

 

彼女「まあ、もしもあたしが、運が悪くって、悪いことばーっかりの人生だったら、完璧じゃないことを嘆くよりも前に、せめて人並みにって願うんだろうね」

 

この、「ばーっかり」の部分は、しかめっ面だが、笑顔。

 

焚火がゆらゆら。

 

彼女「絵、描けないの?」

 

トロール将軍「うん」

 

彼女「どんな絵?」

 

トロール将軍「好きな絵が、たくさんあって、あの絵のようなのを、描きたいなって思って。……でも、僕が思い描く絵は、どこかの誰かの絵に似ていて」

 

彼女。微笑む。「まあ、言葉にすれば矛盾になるけど……」焚火に、次の薪を加える。「……芸術って、苦しくって、楽しくって……」静かな表情。「……困ったもんだね」焚火を見ながら柔らかな笑顔。

 

トロール将軍「うん」

 

彼女「あたしには、あんたの悩みがわからないなあ。『魔女の宅急便』での、飛べないスランプって、あんたの「生みの苦しみ(産みの苦しみ)」に似ているのかな?」

 

彼女。立ち上がって、マシュマロと割り箸を出す。

 

彼女「悩みを分かち合えなくて、ごめんね。でも、こうして一緒にいること、これがあたしの精一杯っと」

 

彼女。椅子を少しだけ、焚火に近付ける。座ったまま前屈みで火に手が届くように。

 

彼女。割り箸を割り、コンビニで売っているような普通の大きさのマシュマロに刺し、トロール将軍に渡す。もう1本、自分に用意する。

 

焚火で割り箸を使うと熱そうなので、バーベキュー用の長いフォークにすべきか。

 

彼女とトロール将軍が、マシュマロを焼く。会話しながら、マシュマロを食べる動作。

 

トロール将軍。マシュマロが融け始めたので、コーヒーカップを下に用意する。少し垂れ下がったが、融け落ちなかった。熱いマシュマロを、涙と鼻水の顔で食べる。

 

焚火がゆらゆら。

 

彼女「ねえ、幸せに、絶対に必要なのって、何だと思う?」

 

トロール将軍。無言。

 

彼女「お金とか、友達とか、健康とか、適度な生活とか、良い政治とか、戦争じゃないとか、色々考えられるけど、あたしはね、幸せを感じる能力だと思う。もちろん、それ以外も大切だけどね」

 

彼女「幸せを感じる能力が、幸せに絶対に必要。その能力は、感性だから、学校で、子供達と一緒にいる時は、授業中じゃなくても、幸せを感じる感性を磨けるようにしてるんだぁ」

 

彼女「子供達が、何に幸せを感じてもいい。あたしは、あたしの得意なことなら、幸せを見付けやすい、そうすることで、子供達の感性も磨ける」

 

彼女「じゃあ、宮沢賢治の『オツベルと象』のように、騙されているのはどうなんだって話もあるけど、そこまで深くは考えてないから、あはは。難しいことは、わからんっ!」

 

彼女「大人になって、良かったなあって思うのは、自分が頑張るのも、他人が頑張ってるのを見るのも、楽しいって思えるようになったこと」

 

彼女「必ずしも目標が達成できるとは限らないってのは、最初からわかっている。だから、無駄な努力と揶揄することもない」

 

彼女「子供達がさ、人生にとって役に立つのかわからない、曲芸のようなことなのに、できるように頑張っているのって、いいなあって思って見てる。成功体験って、嬉しいな」

 

背景に、小学校の体育の授業風景。トロール将軍の彼女は体育教師。何度も練習している子供に、「いいよ、いいよ。できそうだ。みんなが「おめでとう」と言いたがっている」と励ます。

 

子供の心の声の「あ、今は脚の向きが悪かった」などを文字で表示する。

 

トロール将軍の彼女は「手の動きと、脚の動きの、両方に気を付けるのって、難しいよね」

 

成功した時は、ガッツポーズし、みんなに拍手と「おめでとう」を促す。

 

彼女「体育に興味の無い子供に無理強いはしないけど、頑張っている子供を見ていると、一所懸命は美しいって思う。見てるだけで、幸せのお裾分けをもらっている」

 

彼女。首から笛を外して、トロール将軍の首に掛ける。

 

彼女「まあ、あたしには、あんたの悩みはわからんけど、何か困ったことがあったり、助けが欲しい時は、これを吹いてよ」

 

トロール将軍。言葉にならない声を出し、頷く。

 

雨が降って来る。

 

彼女「うわっ、雨だよ。ニャハハ、まあ、死ぬほどの雨じゃないから、これもハプニング。あんたさ、テントの中から、寝袋を持って来てよ」

 

彼女。立ち上がって、運転席から、ヘッドライトのスイッチを入れる。ライトバンのトランクを開ける。ライトバンの後ろの席のドアも開ける。

 

トロール将軍。テントから寝袋を出す。

 

彼女。食器などを重ねて持ちながら。「後ろを開けておいたから、寝袋を放り込んで!」

 

焚火台、イス、テーブルなどは残ったまま、車内で使うものは車内に運び終わる。寝袋を並べたトランクは、荷物があって、少し狭い。

 

彼女は運転席に、トロール将軍は助手席に座る。

 

ヘッドライトを消す。外灯だけの明るさ。

 

彼女「良かったね、雨が強くなる前に片づけられたね」

 

焚火が消えて行く。

 

彼女「お湯がまだ、残ってる。コーヒーもう一杯、飲もうよ」

 

彼女。シートを後ろに倒し、車内灯を点け、体を反転させ、俯せになるように手を伸ばし、インスタントコーヒーを入れる。トロール将軍に一杯を手渡す。車内灯を消し、椅子を戻して、前向きに座る。

 

彼女「よいしょっと」落ち着く。

 

トロール将軍「ねえ、どうして僕を、好きになったの?」

 

彼女。口を尖らせて、顔が赤くる。「どうしてって……。そんなことを聞くんだったら、なんであんたは、あたしを好きになったの? それを先に言ってよ」

 

トロール将軍。真っ赤になりながら、ゆっくりと話す。「君は太陽だよ。地球で、僕達が生き続けていられるのは、太陽がずっとエネルギーをくれるから」

 

トロール将軍「君は、幸せを見付けるのが上手だ。僕にはわからない幸せもあるけど。幸せを見付けたら僕に教えてくれて、幸せのお裾分けをくれる。君が幸せを感じると、僕も幸せになるんだ」

 

トロール将軍の言葉の背景に、日常やデートの場面(静止画)を思い出す。

 

デートでソフトクリームを食べる、自宅で食事中に、彼女は幸せそうに食べる。

 

高台の階段の上、紫陽花の花壇の近く、雨上がりで閉じた傘の先から雫、遠くの虹を見て喜ぶ。買い物帰りで、手には食材など。

 

商店街の福引から立ち去る所で、手には3つのポケットティッシュを、トランプを広げたように持って、指し棒で「ポケットティッシュ」と示す。彼女は、残念そうだが、大きな口で笑顔。

 

ちょっと無言。

 

トロール将軍「僕は、女の子を楽しませるのが苦手だ。楽しませようとすると、逆に迷惑を掛けてしまう。でも、君は色んなことを楽しみに変える、不思議な化学(ばけがく)、魔法使いみたいだ」

 

トロール将軍「どうして、こんなに幸せなんだろう。君のそばにいると幸せなのは、君がたくさん幸せだから」

 

トロール将軍「君を、独り占めにできる、君にとって僕が特別でいるのが、幸せ……だよ」

 

ちょっと無言。

 

トロール将軍「僕は、君が好きな理由を言ったよ。今度は、君が言う番だよ」

 

彼女。両手で、顔の近くでマグカップを持っている。彼女の視線は、フロントガラス越しに、車外のテントを見ている。

 

彼女「あんたは、他人に気遣うことができない。つまり、優しくない」

 

トロール将軍「優しくないだけじゃなく、気の利いたジョークも言えないし、フェロモンの代わりになるような格好いいことも無いし……」

 

彼女「確かに、あんたには、女がわざわざ近寄りたくなる魅力は無い」

 

彼女。目を閉じて、静かに、しかし、はっきりと。「でも、誰の攻撃もしない」

 

彼女「気遣いができないから、うっかり失礼なことを言ったり、誰かを傷付けることもあるけど、たどたどしい気遣いがかわいいなーって思っていたんだよ」

 

彼女「不器用だから、失礼や失敗があっても、誠実だから、あたしはあんたを責めようとは思わない。立場を逆にして、あたしが誠実であれば、責められることも無い」

 

彼女。目を開け、視線は、再び車外に向け、コーヒーを一口。

 

彼女「顔は恐いけど、何度か会っているうち、「この人は、攻撃しない人なんだ」って気付いた」

 

彼女。幸せそうに、甘えた声で。「安心なんだよ。あんたの隣ならね。あんたは、顔は恐いけど、安心なんだよ」

 

トロール将軍「僕と一緒にいても、楽しくないと思うけど……」

 

彼女。小さく「くすり」と笑う。「ほんとにもう……。何度も言ってるけど、あたしと一緒の時は、そんなの気にしないでぇ。一緒にいるだけで、幸せなんだから」

 

彼女「攻撃される心配も無い。失敗しないように怯える心配も無い。あたしがあんたを大切にしていれば、何も心配は無い。だって、本当に大切なんだもン」末尾だけ、照れた口調になる。

 

トロール将軍。どきりとした顔。

 

彼女「ついでにさ、あんた、嘘を吐けない(つけない)でしょ。嘘と、隠し事と……、エチケットだっけ?」

 

トロール将軍「嘘と、冗談と、マナー」

 

この、トロール将軍の作った分類「嘘と、冗談と、マナー」に対し、彼女はそれの意図を理解しながら少し違っている。美術が主軸と、体育が主軸の違いだが、ステレオタイプというより、個人のキャラ設定。

 

彼女「そうそう、それっ。あたしに心配をかけないようにって、内緒にするってこと、できないでしょ。あたしに話す時、頑張って頑張って……」少し泣き声が混じり、裏声っぽくなる。「……あたしが傷付かないようにしてくれたよね」

 

彼女。少し気を持ち直しての溜息。「ああーハぁー。色々な「安心」があるけど、あんただけの「特別な安心」ってのが……あるんだョ」

 

彼女「あたしは、健康のために、努めて笑顔でいるようにしている。でも……」目を閉じる。「……友達が教えてくれたんだ。あんたの隣にいる時だけ、あたしの笑顔が違うんだって」

 

彼女。コーヒーの香りをかぐ。「義務のような頑張った笑顔じゃない。幸せが湧き出るような笑顔。安心した、素顔のままの笑顔。そのまま眠ってしまいそうな、そんな笑顔なんだって」

 

例:アニメ『ゆるキャン△』で譬えると、普段は大垣千明のような笑顔、トロール将軍の近くにいる時は各務原なでしこのような笑顔。

 

彼女「言われて気付いたんだ。あんたは、友達のうちの一人だったんだけど、いつの間にか、恋していたんだなって。あんたが、あたしの帰る家なんだな。辛いことがあっても、泣きながら走って向かうのは、あんたの腕の中なんだなぁって」

 

彼女。少しの間、小さな吐息の後。「ありがと」その後、声に出さず、口だけ「好き」と動き、字幕の「好き」が添えられる。「好き」の「き」の口の形が、自然と笑顔になる。下唇が、上唇を上に押す。

 

彼女の妄想。泣きながら走っている。悔しさを堪えきれない表情。やがて、トロール将軍の腕の中で、涙が光ったまま眠っている。

 

彼女「こんなこと、あるんだな。恋してたってことに、自分では気付かなくって、友達に言われて気付くなんてさ」

 

トロール将軍「でも、僕が誰かに好かれる理由なんて、からかって遊べるから」

 

彼女「あたしは、あんたをからかうなんて、できないな」

 

トロール将軍「どうして?」

 

彼女「だって、あんたってさ、からかわれたのをきっかけに、楽しい会話に続けることって、できないでしょ?」

 

トロール将軍「うん」

 

彼女「だったら、あんたをからかうのは、虐めだよ。苦手なこと、できないことを、からかうのは」

 

彼女「誰をからかうか、選ぶ基準は、からかわれて面白い話に繋げられる人を選べばいいのに。からかっても反撃されないからって、からかわれて面白い話に繋げられないってわかっているんだから、楽しい場を白けさせる、非生産的なこと」

 

彼女「みんなを楽しませるために、あんたを犠牲にするのは、あたしは誤った方法だと思うな。それに、あんたをからかうと、楽しい場を白けさせるってわかっているんなら、からかった人の責任。あんたは、悪くないよ」

 

彼女「からかったことが、場を白けさせる原因なのに、「お前がいると、つまらなくなる」なんて言う人は、「強くてかっこいい人」じゃなく、「無益に人を傷つける人」だもの」

 

彼女「近付いたあたしも、傷付けられるかもって。だから、怖いよ。恋愛なんて無理。優しく撫でられていても、反対の手が拳になって飛んで来るんじゃないかって、びくびくしてたら、恋愛じゃない」

 

ここで、彼女が教育実習をしていた頃の話をするのも良い。

 

画面にはテント。いつの間にか、雨が強くなっていて、「バラバラ」という雨音で一杯になる。

 

車内の彼女の横顔。雨音は小さい。

 

彼女「人を評価する基準は、たくさんあるけど、自分に都合よく基準を選択して、他人が劣っている箇所を見付けて、からかっても、時間の無駄、命の無駄……」

 

焚火は、すっかり冷えている。

 

彼女「あたしの友達が言ってたのは、「50歳になったら、自殺する」って。「あんな、よぼよぼになって、生きているなんて、怖ろしい」って」

 

彼女「それを聞いて、あたしが思ったのは、誕生日になって、急に、よぼよぼには、ならない。少しずつ変わって行くのだから、自殺のきっかけは、無いだろう」

 

彼女「年寄りと話をすると、死ぬってことが、まるで、冬支度のような、必ず来ると実感している」

 

彼女「子供の頃は、知識で「死ぬ」を知っているけど、遊びや冗談に使う程に、実感が無い。だから、老人と話していて、冬支度のように来たるべく死を話したり、誰かの死を話すと、子供は驚くよね」

 

彼女「あたしも、年寄りから「若い今のうちから、年を取る準備を」って言われても、今はまだ、実感が無い。友達が言ってた「よぼよぼ」って、実感があったからか、無かったからか……」話は完結せず、余韻を持っている。

 

彼女。小声だが、無感情なナレーションのように、絞り出すように、はっきりと。「怖い。死んだら無になるのが。「無であることも、自覚できない無」って、想像するだけで、気が狂いそうになる。でも、あんたがいれば……」

 

ここまで、大正時代の流行歌『ゴンドラの唄』を、BGMにするのも良い。彼女のセリフの声質と、拮抗しない歌声が望ましい。BGMの終わりで、トロール将軍の笛が鳴る。

 

トロール将軍。そっと笛を吹く。

 

彼女。視線はまだフロントガラス越しにテントを見ているままで。「どうしたの?」

 

トロール将軍「大きな音を出したら、あっちでキャンプしている人に、迷惑かなって思って」

 

彼女「うふふっ。雨の音で、どうせ音は届かないよ」

 

トロール将軍「この笛で、君を呼んだよ。こっちに来て……」

 

彼女「こっちにって?」

 

トロール将軍「僕の部屋に来て。一緒、い、一緒に、結婚して……ごにょごにょ……」口からオノマトペの文字「ごにょごにょ」が出ている。

 

彼女「一緒に、なあに?」

 

トロール将軍。再び、小さく笛を吹く。「結婚……しよう? 結婚したい、結婚しよう」

 

彼女。視線はまだフロントガラス越しにテントを見ているままで、大きな口の笑顔。少しずつ大きな口の口角が下がり、大きく見開いた目に涙があふれる。

 

外からフロントガラス越しに、彼女の顔のアップ、そこから引いて、フロントガラス全体を透かして、2人を見る画面。彼女がトロール将軍に近寄るが、雨粒のせいでフロントガラス(ワイパーは止まっている)越しにぼやけて、見えなくなる。

 

彼女。静かに、はっきりと「いいよ」または「ありがとう」または、元気に「うんっ!」

 

ライトバンの周囲で、ハートマークや花々が舞う。

 

画面が、キャンプ場の遠景、街明かりが見えるまで引いても良い。

 





次回は …… オーケストレーションの技術あれこれ。コンビニで売ってるマシュマロを、美味しく食べる方法。ステラが缶飲料を飲む音「コクッ、コクッ」が、『かえるの合唱』に聞こえる。



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