椚ヶ丘中学2年の3月、俺の目の前には転級通知が届けられていた。
「はぁ……まぁこうなる予感はしてたけどさ」
その内容は特別強化クラスへの移動である。
特別強化クラス——すなわち、山の上にある隔離校舎の3年E組への移動。この学校における落ちこぼれが集まるクラスだ。
なぜ俺がそんなクラスに移動することになったのか、それは成績不振だとか素行不良などではなく、ただ二学期期末テストを欠席してしまった事にある。
もちろん、サボったのだとかそういった理由ではない。欠席の理由は交通事故により大怪我を負って入院していたからだ。
「あいつ、E組行きが決まったらしいぞ」
「ははは!だろうな。ようやく『A組の汚点』がふさわしい場所に行ってくれるのか!清々するぜ!」
周囲の会話が聞こえてくる。
もはやこんな陰口なんぞは慣れたものだ。悪口言われて物を奪われて暴力を振るわれて……などなど、挙げればキリがないくらいいじめられたものだ。担任の先生からも嫌われていた。それもE組になった理由の1つなのかもしれない。
いじめのキッカケは何だったっけ?確かE組の先輩に優しくした事だったかな。本校舎の生徒の殆どが例え誰が困っていようともそれがE組ならば助けずにバカにして追い討ちをかけるような奴らばかりだ。それも先生も含めてだ……果たして優等生とは、先生とは一体何なんだろうな
そんな優等生からのいじめをされていても俺は全く気にも留めていなかった。そのせいで余計にエスカレートしていっちゃったけど、それでも気にせず困っていたらE組だろうと手を差し伸べた。
今回のこのE組行きの件もそう。思うのは山の上まで行くのだるいなぁくらいでE組行きになってショックだとかそう言ったものは全然なかった。
そんなこんなで俺は喜んでE組で学校生活する事を受け入れたのだった。
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そうして早くも4月に突入した。
そんな3年生の初めに俺らは2つの事件に同時に遭った。
「初めまして。私が月を
何とあろうことか月が7割方爆発して蒸発し、その犯人が担任として3年E組にやってきたのだ。
見た目は服を着ただけの黄色いタコにしか見えない。本当にこの先生が月を爆発させたのだろうか……いまいち信憑性に欠けるなぁ。
その後、防衛省の烏間さんが説明してくれた。国家機密であること、俺らにこの先生を暗殺してほしいこと、この先生の最高速度がマッハ20であること、生徒に絶対危害を加えない約束がされていること、そして成功報酬が100億円であること。主な情報としてはこんなところだろうか。
色々と思うところはある。ただの中学生には荷が重くない?だとか結局この先生は何者なの?だとか。まぁそんな事を口に出したところでこの先生を殺る事には変わりないだろうから言わないけど。
そして、時間が過ぎて放課後になった。帰りの支度をして校舎を出る。すると突然、背後から声をかけられた。
「ヘーイ、そこの君。今から先生とお茶でもしない?」
「……」
は?なんだこいつ。そう思わずにはいられなかった。
声をかけて来たのはあのタコみたいな先生だ。ちゃっかり都会によくいそうなチャラい感じの変装をしている。いや変装っていうかコスプレだな、これ。
「いやなんか反応してくださいよ!流石に傷つきますよ!」
「ああ、すみません先生。てっきりそれが先生の素なのかなって思って引いてました」
「にゅやッ!?真顔でなんて失礼な事を言うんですか!元気のなさそうな生徒を少しでも元気づけてあげようという先生の心遣いですよ!」
先生が顔を文字通り赤くして怒る。本当にどんな皮膚してるんだろうか。
「そうですか。でも俺は全然元気なので。それでは」
「ま、待ってください!せっかくなんですから少しくらい先生と話しましょうよ!私のこと嫌いなんですか!?」
「あーもう!分かった、分かりましたから!しがみつくな!!」
お願いだからそんなヌメヌメした触手でしがみつかないで欲しい。
俺は先生と距離をおいて一息ついてから会話を再開させる。
「あー俺、そんなに元気なさそうでした?」
「はい。ですが君はどうやら感情が表情に出にくいだけのようですねぇ。今日見ていて全く表情に変化がありませんでしたし、クラスの誰かと話している姿も見かけなかったので心配しました」
「心配かけてすみません。もう独りでいる事に慣れちゃってて」
本校舎にいた時はずっと除け者にされ続けたのもあり、もはや独りでいる事が当たり前になってしまっていた。決して友達がいない訳ではない。ないったらない。
「それではいけませんよ!今日から君達はこの私を暗殺する仲間になったのですから。みんなで楽しい暗殺教室にしていきましょう」
「……分かりました」
「よろしい!あ、そういえば少し聞きたいのですが、今日先生を見ていてどう思いましたか?」
「え……?」
なぜそんな質問を?まぁいいや、とりあえず答えるとしよう。
「えっと……正直、月を爆発させた犯人とは思えなかったです。なんなら今日見ていただけでも良い先生だなって思いましたよ」
「ヌルフフフ、嬉しい事を言ってくれますねぇ。それを聞いて安心しました。もし恐ろしい怪物だなんて思われていたらどうしようかと」
なんていうか、タコ型の超生物な先生が自分の印象を気にしているこの絵面がなんだかおかしくて、それと同時に根拠がある訳ではないがこの先生は信頼できると、本気で先生をやろうとしてるのだと不思議とそう思えた。
「先生、今日俺の事を気にかけてくれたみたいに他の人達の事も気にかけてやってください。何かしら抱えている奴もいるみたいだしさ」
「もちろん、君に言われるまでもありません。生徒達を導くのは先生の役目ですから」
そうして先生と別れて帰路に着く。
暗殺なんてした事ないけれど、やると決まった以上は全力で取り組もう。
「後は友達か……一応何人か話した事ある奴はいるし、距離を縮めて見るか」
でも何を話せば良いんだろうか。何か話題あったかな……?
そんな事を思いながら就寝した。
始業のベルは明日も鳴る