ギターヒーロー in よう実   作:右から左へ

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生徒会長

 

 

 退学すると決めたのはいいけど、手続きとかどうすればいいんだろ……

 

 職員室? 入学したばかり……いや入学すらしてないから場所分からないし、教室に戻って担任に聞いたら絶対注目の的になる。もうここに来るまでにすでに疲労困憊だし、一旦家に帰ってから改めて電話すればいいか……

 

 そう決めて下駄箱で靴に履き替えていると、クソ真面目そうな男子生徒に声をかけられた。

 

「キミは新入生か? もうすぐ入学式がはじまるだろう。こんな所で何をしている?」

 

「あ、退学したので家に帰ろうかと思いまして……」

 

「いや、どうしてそうなる。訳を話せ」

 

 眼鏡をクイッと上げながらそう詰問された。仕方がないので、エレキギターの申請を忘れて持ってきたら没収されそうになったから、入学を諦めて退学する旨を話すと、

 

「潔すぎだろう……楽器などの持ち込みは、基本的に実績が無ければ無理だ。キミは何か実績はあるのか?」

 

「えーと……じ、実績と言いますと……?」

 

「賞を取るなりコンクールなどに入選すれば確実だが……」

 

「え、エレキギターにそんなコンクールあるんですかね……? 配信はしてましたけど……」

 

「配信だけでは無理だな……ふむ、なら俺が審査してやろう」

 

「えっ……いや、別にいいです」

 

 眼鏡が急に上から目線で審査とか言い出した。生徒にそんな権限は無いだろうに、何を言ってるんだこの眼鏡。

 

「自己紹介が遅れたな、俺は生徒会長を務めている堀北学という。この学校では生徒会の権限は大きい。俺からの推薦があれば一考の余地はでてくるぞ」

 

「えっ、生徒会長……?」

 

 あぁ、なんか見覚えあると思っていたら堀北兄か。完璧超人なシスコンだった記憶がある。堀北兄がそう言うなら従ってもいいかな……このまま帰ったら親に怒られるのは確実だし。

 

「で、ではお願いします……」

 

「よし、ついてこい……生徒会室まで移動する。間もなく入学式が始まるからな。急ぐぞ」

 

「は、はい」

 

 

 

 堀北兄に先導されて、4階の生徒会室まで移動した。新入生は教室で待機、在校生はまだ春休み中なのか上の階には他の生徒の姿は見えず、静まり返っていた。

 

「ここは会議用に防音になっているから、楽器を演奏しても問題ない。早く始めてくれ、入学式で在校生代表の挨拶を述べなくてはならないからな」

 

「は、はい……」

 

 堀北兄に急かさるままキャリーカートに積んでいたケースからエレキギターを取り出し、アンプに繋ぐ。

 

「な、何かリクエストありますか……?」

 

「む……少し待ってくれ」

 

 ギターのチューニングをしながら堀北兄にリクエストを尋ねると、スマホのような端末を操作して曲を流してきた。

 

「最近よく聴いてる曲でな……弾けるか?」

 

「あ、はい……大丈夫です」

 

 曲が流れている端末の画面に表示されてたのは「ギターヒーローちゃんねる」。私が配信してるチャンネルじゃん。

 

 その中でも今世でハマった洋楽を、ギターソロにアレンジした曲だった。

 

「せ、生徒会長も洋楽とか聴かれるんですか?」

 

「む? これは洋楽なのか? ギターヒーローの曲だと思ったが……」

 

「き、基本的にカバーしかやらないので……弾いてみたタグを付けてますし、元のバンドと原曲も明記してますから……そ、それはUKロックバンドの曲、です」

 

「なるほど……俺は流行りものには疎くてな。知り合いに勧められて聴きはじめているところだ」

 

 私のチャンネルは「弾いてみた」しかやってない。弾く曲は前世と今世の曲を両方とも。

 

 そしてギターオンリーの配信なので当然「歌」はない。

 

 堀北兄がリクエストした曲は今世の洋楽だから、カバー先のバンドは存在しているし、記載してあるから詳しい人なら洋楽とすぐ分かると思う。

 

 けど、歌が無いから詳しい人じゃないと洋楽かどうか分からないか。

 

 

「じゃあ、弾きますね。─── のギターソロアレンジです」

 

 

 そういえば、家族以外の前で演奏するのは初めてだな……そう考えると少し緊張してしまう。

 

 

 指先が弦に触れ、覚悟を決めると、

 

 深く息を吸い込む。

 

 そして軽く息を吐き、

 

 ピックを滑らせた。

 

 

 最初の一音が静寂を震わせる。

 

 

 余韻が揺れた瞬間、私の肩からふっと力が抜けた。

 

 

 ん、大丈夫そうかな。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 最後のフレーズを弾き終えると、弦を離れた指先がまだ微かに震えている。

 

 部屋の隅で最後の音がゆっくり沈んでいった。

 

 その静けさに、自分の鼓動だけがやけに大きく聴こえる。

 

 余韻に浸っていると、大仰な拍手の音が聞こえてきた。

 

 不思議に思って前のめりになっていた姿勢をゆっくり起こし、前を見ると、堀北兄が無表情ながらもどことなく興奮した様子で拍手をしていた。

 

 そういえば演奏を聴かせてたんだった。

 

 すっかり忘れてた。

 

 

「良いものを聞かせて貰った……その腕前なら申し分ない。申請は俺の方から推薦をしておこう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 曲に満足してくれたのか、申請の推薦をしてくれることになった。ギターや機材の持ち込みが可能なら文句ないし、親から怒られずに済むから助かった。

 

「一つだけ確認だが、ギターヒーローとして推薦して問題ないか?」

 

「あ、はい、大丈夫です……あれ? ギターヒーローって言いましたっけ……?」

 

「そのくらい音楽に疎い俺でも聴けば分かる。申請は間違いなく通るから安心していい」

 

 ギターヒーローとして申請されるのか……別に隠してた訳じゃないけど『ギターヒーロー』を自称するのはちょっと恥ずかしいかな……元々卓越したテクニックとカリスマ性があるギタリストの称号だ。自称するもんじゃないし、個人名に使うものでもない。

 

 結束バンドを組むつもり満々だったから、原作ぼっちちゃん同様にギターヒーローのアカウント名で配信活動していただけだし、後でアカウント名変えとこ。

 

「良いものも聴かせてくれた礼に、ポイントを譲渡しよう。端末をだしてくれ」

 

「えっ、端末? スマホですか?」

 

 スマホで何するんだろうと思いつつ差し出すと、怪訝な顔をされた。

 

「なぜ私物のスマホを持っている? 学校から支給された端末はどうした?」

 

「???」

 

「もしかして配布される前に教室を出てきたのか?」

 

「た、多分そうなると思います……」

 

「ハァ……」

 

 なんかクソデカため息吐かれたんだけど。

 

「入学式が終わったらまた生徒会室まで来い、改めてポイントを譲渡する……む、いかん。入学式が始まる、直接体育館へ向かうぞ」

 

「あ、はい」

 

「片付けは後だ、施錠すれば盗まれる心配はない。急ぐぞ」

 

 ギターと機材を片付けようとする私を制して、堀北兄に引き摺られるように体育館に向かう。そのまま先導されて体育館に向かうと、すでに入場が終わっていて全員席に座った直後だった。

 

「遅れたか」

 

「ど、どうしましょう……」

 

 今からあそこに座る度胸は無いぞ。入学式に遅れたなら、もうブッチして家に帰ろうかな。面倒くさくなってきた。

 

「仕方ない、こっちに座れ」

 

 堀北兄が壁沿いに移動して、教職員やお偉いさんっぽい人達が座っている反対側、在校生ぽい人達が少数座っているエリアまで進んで空いてる席に座った。

 

「会長、遅いですよ!」

 

「すまん、遅れた。事情は後で話す」

 

 セミロングの髪をお団子にしている女子生徒が、小声で堀北兄に怒っている。そして会長の隣りに座った私を怪訝そうに見てくるけど、もう入学式は始まってるので、追求を諦めて静かに傾聴する姿勢に戻った。

 

 ふーむ、前世で子供はいなかったけど、保護者目線だとこんな感じなのかな。

 

 そう現実逃避しながら理事長の式辞を聞いていると、新入生席に座っていた綾小路くんと目が合い、綺麗に二度見してきた。表情は変わらないけど驚いているようだ。その隣の堀北妹も同じように二度見してきて凝視してきた。

 

 担任の茶柱先生も私を見て驚いていた。ウケる。

 

 

 はぁ……帰りてぇ……

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 眠くなりそうなお偉いさんの祝辞や、堀北兄の在校生代表の歓迎の言葉などが終わると、入学式はつつがなく終了した。

 

 新入生が列になって退場していくけど、在校生側に居る私はどうしたものか……と迷っていると、

 

「生徒会室に戻る。ついてこい」

 

「は、はい……」

 

「この子は新入生ですよね? どうなってるんですか、会長?」

 

 隣に座っていたお団子頭の上級生が、歩きだそうした堀北兄を引き止めて、私の方をちらちら見ながら説明を求めた。

 

「入学早々、退学しようとしていたから事情を聞いていた。端末も持っていなければ、ガイダンスも受けてないようで、荷物は生徒会室に置いたままだ。ついでだから俺が面倒をみる。橘もついてきてくれ」

 

「えぇっ!? 」

 

 橘と呼ばれた女生徒が驚くと、ありえないものでも見たような目で私を凝視してくる。

 

 そして、また堀北兄について生徒会室に戻ると、橘さんが私の端末と書類を職員室から受け取ってきてくれて、堀北兄がこの学校のシステムを説明してくれた。

 

・高育は全寮制で、在学中は敷地の外に出ることが出来なく、特例を除き外部と連絡が一切できない。

 

・反面、学園の敷地は広大で施設も充実している。カラオケルームや映画館、カフェやブティックなど小さな街が形成されているので生活に不自由は生じない。

 

・そして最大の特長がSシステム。入学時に10万ポイントが支給され、1ポイント1円。毎月1日にポイントは支給される。学校の敷地内の通貨として買い物で使用可能とのこと。

 

 と、説明されたことを大雑把にまとめるとこんな感じ。

 

 そういえばアニメでもそんなだったなと、説明を聞いて思い出した。

 

「以上、何か質問はあるか?」

 

「い、一応確認ですけど……毎月10万ポイント支給なんですか?」

 

「……それには答えることが出来ない、とだけ言っておく」

 

 すっと目を細めて、笑みを浮かべる会長。

 

 この反応からやっぱりアニメ同様、評価=支給ポイントに直結するんだな。そして評価はクラス単位で、落ちこぼれのDクラスは学級崩壊を起こして好き勝手に振る舞い、来月には0ポイントになるという絶望しかない。

 

「じゃ、じゃあポイントは節約しないとですね……来月ポイント支給されるかも分からないですし……どのみち10万じゃろくに買い物も出来ないですけど」

 

「えっ? 10万もあれば十分じゃないの?」

 

 私のぼやきを聞いた橘さんがびっくりしている。普通の高校生の小遣いじゃ十分だろうけど、音楽やってると金はいくらあっても足りないんだ。

 

 良いギターやかっこいいギターを見つけたら買いたくなるし、機材やガジェットも色々と買い足したくなる。

 

 それにキャリーカートで持ってきたのは最低限エレキギターが弾ける機材だけだ。録音機材や編集用ソフトが入ってるPCなどは家に置いてきた。

 

 新たに買おうとしたら数百万はかかる。今さら安物は使いたくないし。

 

 と説明した所で、やっぱり私がこの学校に入学したのが間違いだったなぁと思い直した。

 

「や、やっぱり退学します……この学校じゃろくに配信できなさそうですし、もっと早くに辞退するべきでしたね、すみません」

 

「……配信用の機材は家に置いてあるんだな? それの配送手続きをすれば問題ないか?」

 

「あ、はい、一式あれば問題ないです」

 

「なら、それも申請しよう。お前の実績があれば通るはずだ」

 

「えぇ!? 会長、そんな優遇措置ムリじゃないですか? 高育で配信なんて聞いた事ないですよ!」

 

「配信といっても動画の音楽配信だ。この学校は実力で評価される。つまり実力と実績、必要性があれば大抵のことは許される。文化的、芸術的活動も評価対象だしな。それに彼女が配信できなければ、橘も困るんじゃないのか」

 

「へ? なぜ私が困るんです?」

 

「彼女のファンだと、橘が俺に勧めたんだろう。彼女はギターヒーローだ」

 

「えっ……ギターヒーローさん?」

 

 

 きょとんとした顔で、橘さんが私を見つめた。

 

 

 

 






原作だと2日目の部活動紹介まで堀北兄の出番ないみたいだけど、入学式に生徒会長の挨拶くらいあってもいいかなと差し込み

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