ギターヒーロー in よう実 作:右から左へ
翌日、学校2日目。
登校すると、朝一で茶柱先生に職員室に呼び出された。
「エレキギターと機材一式は、持ち込み許可が降りた」
「え……も、もうですか?」
昨日の今日なのに、堀北兄の仕事が早すぎる。出来る男は違うなぁ……。
「生徒会長殿が熱心に理事長に掛け合ったようだな、特例だそうだ」
「は、はあ……良かったです」
「それと、録音や配信機材の郵送も問題ないそうだ。この書類に必要事項を記入し、搬入したい機材をリストアップして提出してくれ」
そう言って椅子に腰を下ろしながら茶柱先生が書類を手渡してきた。
胸元はシャツのボタンが谷間がのぞくほど開いており、タイトスカートから伸びる黒いストッキングの脚をゆったりと組んでいる。
いや、エロすぎだろ。AVに出てくる教師役の女優みたいだ。
これで性格がまともなら男子生徒からの人気はうなぎ登りだろうけど、自分の担当のクラスをAクラスにする為には生徒に恐喝する事も厭わないくせに、ろくに生徒のフォローもしないというダメ大人っぷりだからなぁ。
けど、黒いストッキングってやっぱりエロいよなぁ……と思いながら脚を見ていたら、茶柱先生も何故かじっと私を見てくる。
「あ、あの……なんでしょう?」
「いや、話は終わりだ。もう行っていいぞ」
「は、はい……失礼します」
そう言われて職員室を後にする。
何か獲物を狙うような品定めするような目で見られたけど、私はギター弾く以外は無能な自信あるから、クラス間闘争には役に立たないぞ。
◇
教室に戻るとすぐ一時間目が始まった。
授業中、教師たちは一見フレンドリーそうに接して、生徒がおしゃべりしていたり、寝ていても全く注意しようとしない。
Dクラスのメンツは緩いと分かると加速度的にだらけていった。赤髪の不良そうな男子は、授業の途中に遅刻してきてそのままガン寝するという大物。底辺ヤンキー高並の奔放さだ。
この調子だと、アニメと同じく来月は確実に0ポイントだろうな……と思いながら、私は真面目に授業を受けていた。勉強は好きじゃない。でも授業中に寝て、あとで勉強をやり直すのはもっと無駄だ。
だから授業中は集中して、自由な時間は全部ギターに回したい。
それに、一応前世では大卒だ。社会人になると学生時代の知識なんてほとんど忘れるけれど、授業を聞けば案外すぐ思い出せるものだ。
とはいえ、地頭は良くないぼっちちゃんボディなので、転生という下駄を履いてようやく人並み程度だけど。
そんな教室が騒がしい中、真面目に授業を受けていたら四時限目が終了して昼休みになった。
クラスメイト達が三々五々と席を立って教室から出ていく。私はご飯は一人で静かに食べたい派だけど、今は金欠でコンビニで飯を買う金も無い。
昨日案内された食堂には、タダで食べられる山菜定食があると聞いているので、それを食べようかなと席を立つと、何故か綾小路くんがこっちをガン見していた。
「あ、あの……食堂に行くんですけど、一緒に行きます……?」
「行く」
寂しがり屋さんか。
まぁ、初めての学校生活で学食も利用したこと無いなら二の足を踏むのも仕方ないか。
「私も一緒して構わないかしら」
「「えっ!?」」
綾小路くんの隣の席、ツンドラ系ヒロインの堀北妹が同席したいと声を掛けてきたので、思わず二人で驚愕の声を上げてしまう。
「私と一緒だと不都合でもあるの?」
「いや、お前が声をかけてくるとは思わなくてな……」
「ひ、一人が好きなタイプかと……」
「それは間違いないわね、少し後藤さんに聞きたいことがあるのよ。いいかしら?」
「は、はい……」
嫌ですとも言いにくいので了承する。綾小路くんとの会話を後ろから聞いているけど、口を開けば否定か罵倒ばかりなので、付き合いたいと思えない性格だ。
仕方なく3人で連れ立って食堂に向かい、食券機に並ぶ。色々と美味しそうなメニューが並んでるけど、金が無いので高育名物『山菜定食』のボタンを押す。
そしてカウンターで注文した山菜定食を受け取ると、先に空いていた席に腰掛けていた綾小路くんの隣に座った。
「山菜定食……美味いのかそれ?」
「き、金欠でして……これ、
「……何故、2日目で金欠になるのかしら?」
「お、音楽はお金がかかるので……」
堀北妹が呆れた顔をしている。
山菜定食を食べてる新入生は私だけで、食堂にいる他の新入生たちは、みんな豪華な定食を食べていた。
だけど上級生ぽい人達には、ちらほらと山菜定食を食べている人達もいる。
「他にも山菜定食を食べている生徒はいるんだな。美味いのか山菜定食?」
「う、うーん、思ってたより悪くはないですけど、それほど美味しくはないですね……まぁ、他の方も金欠なのでは」
「上級生も月初めに10万ポイント支給されるはずでしょ? よほど金使いが荒いのね」
「い、いやぁ……来月も10万ポイント貰えるとは限らないかなぁと……」
「何故? 担任の先生は月初めに支払われると言っていたわよ。貴女、説明を受ける前に教室を出て行ったから把握してないだけじゃないかしら?」
「あ、生徒会長から説明は受けました……月初めにポイントは支払われるとは言ってましたけど、10万とは言ってませんでしたよ……? 担任はそう言ったんですか?」
「……確かに10万ポイントとは明言してなかったな」
綾小路くんが、ミックスフライ定食を食べていた箸を止めてそう呟く。
「ちょっと待って。何故、貴女が兄さんから直接説明を受けてるの? 入学式に隣に座っていたのも関係あるのかしら?」
「……兄さん?」
綾小路くんが不思議そうに頭を傾げている。
「ほ、堀北さんのお兄さん、高育の生徒会長をしてるんですよ。在校生代表の歓迎の言葉をしてた人です」
「あぁ、確かに似てるな」
「似てないわよ……私は兄さんに遠く及ばないもの」
そう言いつつ、似てると言われて嬉しかったのか、どことなく声が弾んでいる。重度のブラコンが。
「じゃなくて! どうして貴女が兄さんから直接説明を受けていたのか説明してくれないかしら」
「た、退学するから家に帰ろうとしていたら、会長に声をかけられて、事情を説明したらギターの持ち込み申請の推薦をしてくれることになって……そのまま流れで、個別に説明をされただけです」
「どうしてそうなったのかしら? 兄さんはそんな甘い人じゃないハズだけど……」
だいぶ端折って説明したら怪訝そうな顔をされた。普通そんな舐めた新入生、勝手に退学しろでFAだよね。私でもそう思う。
「昨日はいきなり帰ろうとしてびっくりしたが、持ち込みの申請とやらは解決したのか?」
「は、はい、生徒会長のお陰で何とか……朝に茶柱先生から申請が通ったと通達はあったので」
「よく分からないが、許可がでて良かったな。心配していたんだ」
「私は、楽器が持ち込めないから退学しようとしたというのが理解できないわ」
「The music is in my blood……なので」
「何それ、格好つけてるつもり?」
兄に憧れて高育まで追いかけてくる激重ブラコンに言われたくねぇなぁ。
と、話しながらちまちまと山菜定食を食べていると、
「後藤、なぜ山菜定食を食べているんだ?」
「……か、会長?」
生徒会長の堀北兄が現れた。
手には天ぷら蕎麦を乗せたトレーを持っている。
「き、金欠でして……」
「金欠……? 昨日渡したポイントはどうした?」
私の返事を訝しんだ堀北兄が、私の前、堀北妹の隣に腰を下ろす。妹の存在は無いかのように、其方をチラリとも見ようとしない。
その隣に、影のように付き従っている橘さんも腰掛けた。
「あ、あの……殆ど使ってしまって」
「……何に使った。言ってみろ」
私が一日で散財したことに静かに怒っている堀北兄に、DTMの機材一式とベースとドラムを買ったことを正直に伝えた。今後はギターソロだけじゃなくて、打ち込みも使って配信に力を入れたいからと。
「なるほど……未来への投資と言ったところか。ならば問題ないな」
「それでも普通は100万ポイントも使いませんよ! それも初日なのに!!」
「あ、110万ポイントです」
「どっちでも同じです!」
「橘、そういう事を大声で言いふらすな」
理解を示してくれている堀北兄と、ぷんすこと怒っている橘さん。
「100万ポイント……どういう事かしら?」
「あ、会長からポイントを頂いたんです……」
「どうしてッ!?」
「な、何故でしょう……?」
「後藤への評価と投資だ。それだけ支払っても惜しくないと思える価値があっただけ……後藤、端末を出せ」
堀北妹がびっくりしているけど、それを無視して堀北兄が端末を差し出してきた。
何だろうと思って私も端末を出すと、堀北兄が自分の端末を操作して私の端末に近づける。
「少しだけ振り込んでおいた。それは今月の食費だ、無駄遣いするなよ……無くなったからといって再度振り込むほど俺は甘くない」
端末を確認したら5万ポイント増えていた。やったぜ。
「あ、ありがとうございます……」
「十分甘くないか……?」
綾小路くんがボソリと突っ込んでくるけど、私もそう思います。
「わ、私もポイント払います!」
「あ、橘さんはいいです……」
「何故ッ!?」
いきなり有り金全部ベッドしてくるとか、普通に怖い。拗らせて後で刺されても嫌だし。
そんなやり取りをしていたら、スピーカーから音楽が流れ、可愛らしい女生徒の声でアナウンスが聞こえてきた。
『本日、午後5時より第1体育館にて、部活動の説明会を開催いたします。部活動に興味のある生徒のみなさまは、第1体育館に集合してください。繰り返します───』
「部活動の紹介か……後藤さんは、何か部活動に入るのか?」
「と、特に入るつもりは無い……あ、軽音部があるなら興味ありますね」
アナウンスを聞いた綾小路くんが話題をふってくる。部活動には興味が無かったけど、軽音部があるなら入りたいかもしれない。
別にバンドを組みたい訳ではないけど、気兼ねなく音を出せる環境が欲しい。ドラムとか勢いで買ったけど、そういえば叩く場所が無いのに気が付いた。寮で叩いてたら苦情待ったなしだ。
そう綾小路くんに伝えると、
「……何でドラムを買ったんだ?」
不思議そうに問い返されてしまった。
「い、いやぁ……勢いですかね。とりあえず楽曲のために一通り練習してみたいなと思いまして……」
自分一人で楽曲を完成させるのが目標だから、できることは増やしておきたい。もし無理そうなら打ち込みに頼ればいいし。
そう考えていたところで、天ぷら蕎麦をきれいに食べ終えた堀北兄が会話に入ってきた。
「以前、軽音楽部があったのは記憶している。部員が全員卒業したので廃部になっていたが……後藤にその気があるなら、部活動とまではいかなくとも同好会として認可しよう」
「い、いいんですか?」
「問題ない。特別棟に当時の部室はまだある。今は倉庫として使われているから、荷物をどかせば使えるようになるだろう」
「あ、ありがとうございます」
「部活動説明会には俺も生徒会として参加する予定だ。その後に案内するから、生徒会室に来てくれ」
「は、はい」
「それと、昨日は生徒会にいつでも歓迎すると言ったのは撤回しよう……生徒会員は部活との兼任は禁止されている。後藤が軽音楽同好会を立ち上げるなら、生徒会に誘えなくなるからな」
そう言い残して席を立ち、食堂から出ていく堀北兄と橘さん。
認めて貰えて、色々と優遇してくれるのは助かるけど、妹さんの前でやるのは勘弁して欲しい。
まるで親の仇でも見るような目つきで、私を睨みつけている堀北妹を何とかして……