ギターヒーロー in よう実   作:右から左へ

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ドラゴンボーイ

 

 

 部活動説明会が終わってから生徒会室を訪ねると、そのまま特別棟にある旧軽音部の部室へ案内された。

 

「ここが元軽音部の部室だ。今は倉庫として使われているが、防音になっているから部室にするには最適だろう。音楽室は吹奏楽部が使っているからな」

 

 その部屋は少人数の文化系の部室用といった広さだ。具体的に言うとSOS団の部室と同程度。特別棟でも端の方で人気(ひとけ)も少なく、周りに気を使う必要も無さそうで良い。

 

 その室内は全体的にホコリっぽく、ダンボールが無造作に積まれていた。

 

「では片付けるか。俺は大物をやるから後藤は小物を運んでくれ。橘は台帳に書いておいてくれ。何を運んだか記録を残す必要があるからな」

「はい!」

「あ、はい」

 

 堀北兄が持ってきた台車にダンボールをてきぱきと乗せて、次から次へと別の部屋へ運んでいく。私は非力なので運べそうな軽いものを抱えて、同様に別な部屋に持っていく。そして橘さんが運んだ荷物を確認しては、書類に書き込んでいた。

 

 それほど荷物もなかったので、小一時間で片付き、軽く掃除をしたら綺麗になった。

 

「こんなものか。搬入予定の荷物は直接部室に届くように手配しておく。後は自分で何とかしてくれ」

 

「た、助かりました……ありがとうございます」

 

 一人でこの荷物を片付けるのは絶対に無理だったから本当に助かった。

 

 

 とりあえずのお礼にと、部室でリクエスト曲の弾き語りを申し出たら、二人とも喜んでくれた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 数日後。

 

 郵送の手続きをした配信と録音機材と、購入したDTM一式、ベースと専用のアンプ、ドラムセットが届いた。

 

 問題なのが寮と部室、どっちに機材を置くかだなぁ……部室に全部置いた方が手っ取り早いけど、施錠後には校舎に入れない。

 

 とはいえ、高育は特殊な学校なので遅くまで居残れるようだから、全部部室に置いてギリギリまで粘るか。寮まで徒歩数分だし。

 

 寮の部屋には予備のアンプとギターさえあればいいかな。

 

 寮に帰ったら風呂に入って寝るだけだ。

 

 そう決めたら、ギターを構えて、アンプの音量を上げる。

 

 

『風呂入って速攻寝る計画!

 風呂入って速攻寝る計画!

 

 なわけで 玄関開けたら風呂場へゴー!

 さあ溢れかえるほど湯水をためれ

 

 幸せって! 幸せって!』

 

 

 何となく、打首の「フローネル」を歌いたくなったから、大音量でエレキギターをかき鳴らしながら声を張り上げる。

 

 うん、やっぱり気兼ねなく音を出せる環境は最高だな!

 

 

『お風呂最高!

 お風呂最高!

 お風呂最高!

 

 百まで数えて

 のぼせりゃいいじゃんよっ!』

 

 

 丸々一曲、弾き語りして満足したので、ギターを降ろそうとしたら、人の気配を感じて後ろを振り返る。

 

 と、そこには入口にロン毛のイケメンが佇んでいた。長身で顔立ちは整っているけど、纏う雰囲気は暴力に慣れていそうなヤンキーのソレ。

 

 そんなヤバそうな奴がじっと私の方を見て微動だにしない。

 

 どうしたものかと迷っていると、そのまま部室に入ってこようとしたので、

 

「あ、あの、ここは軽音同好会の部室なので……関係者以外は遠慮してもらえると……」

 

 そう言うと、足を止めて私の方を睨みつけてくる。

 

 正直、ヤンキーじゃなくても相手の目を見れないコミュ障なのでそのまま俯いて震えていると、ロン毛は部室から出て行ってくれた。

 

「こわっ……とづまりすとこ」

 

 内鍵を閉めて、気分を切り替えてPCを起動する。

 

 色々と機材が届いたからDTMやベースやドラムの練習をしたい所だけど、最近配信を全くやってない。ぼざろロスのショックと、入試とか入学準備とか諸々重なって3ヶ月以上配信を放置していた。

 

 それに以前は結束バンドを組むための手段で配信をしていたけど、これからは将来働かなくてもいいように、がっつり登録者数を伸ばしていく必要がある。

 

 機材も整ったからさっさと新曲配信しないと。

 

 機材が届くまでの数日間、配信する予定の曲の選定と練習は終わってるので、後は収録するだけだ。PCや機材のセットアップを済ませて、いざ録音しようとしたところで、

 

 ガチャガチャと、ドアを乱暴に開けようとする音が鳴った。

 

 そして、鍵がかかっていると分かったのかガンガンと叩きつけるようなノックの音が響く。

 

「ひぇっ……」

 

 居留守を使ってたらドアを蹴破られそうなので、観念して鍵を開けると、やっぱりさっきのロン毛が立っていた。

 

 そして無言で書類を突き出してくる。

 

 恐る恐る受け取ると、入部届けの書類だった。

 

 希望する部活動名には軽音楽同好会。記載されてる名前は『龍園 翔』。

 

 見覚えがありすぎたから現実逃避してたけど、やっぱりドラゴンボーイか……。

 

「これで俺も部員だな」

 

「は、はい……」

 

 断りてえけど、ここで断る勇気は私には無い。渋々書類を受け取って、龍園を中に入れる。

 

 何処からか持ってきたパイプ椅子に、龍園がドカッと座ると、足を組んでじっと私を見てくる。

 

「あ、あの……これから録音するので音を立てないでもらえると……」

 

 無言で頷いてくれたので、とりあえず気にせず収録に入る。

 

 歌有りで収録するのは初めてなので、とりあえず弾き語りで同時に収録して、その次にギターとボーカルを分けて録音してみようかな。

 

 最初に収録する曲は『星座になれたら』。

 

 結束バンドの曲で、その中でも好きだった曲だ。

 

 まぁ、名曲揃いだから殆どの曲が好きだけど、結束バンドを組む予定だったから未配信だった曲。

 

 ギターを構えて、録音開始のボタンを押す。

 

 小さく息を整え、目を瞑ると、すっと五感が研ぎ澄まされる感じがする。

 

 そして、ピックを滑らせて弦を鳴らした。

 

 

『もうすぐ時計は6時

 もうそこに一番星

 

 影を踏んで

 夜に紛れたくなる帰り道

 

 どんなに探してみても

 一つしかない星

 

 何億光年 離れたところから

 あんなに輝く

 

 いいな 君は みんなから愛されて

 いいや 僕は ずっと一人きりさ』

 

 

 原作ぼっちちゃんを歌った詩。孤独だったぼっちちゃんが、結束バンドという仲間に出会い、独りの星から星座になる。そんな詩だ。

 

 

『君と集まって星座になれたら

 星降る夜 一瞬の願い事

 

 きらめいて ゆらめいて

 震えてるシグナル

 

 君と集まって星座になれたら

 空見上げて 指を差されるような

 

 つないだ線 解かないで

 僕がどんなに眩しくても』

 

 

 私もそうなりたいと夢見ていたけど、それはもう叶わない。

 

 この曲を配信するのも、そんな憧れへの決別だ。

 

 どんなに焦がれても、偽物な私は、星座になることは出来ないのだから。

 

 

 そんな想いを込めてギターを弾く。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 演奏を終えて、録音した曲をチェックする。

 

 会心の出来だとは思うけど、一応ギターと歌を分けたバージョンも録音する。

 

 そして編集して聴き比べて、良かった方を採用する。

 

 そして適当にフリー素材から画像を動画に貼り付けて終了。

 

 この辺りはもう何回もこなしているので流れ作業だ。パッパと終わらせる。

 

 仕上がった動画を久しぶりに投稿しようとしたところで手を止めた。

 

 そういえばチャンネル名を変えるの忘れてた。もう面と向かって「ギターヒーロー」呼ばわりされるのも恥ずかしいから、変更しておかないと……

 

 設定からチャンネル名とアカウント名を変更して保存。そして仕上げた歌付きの新曲もアップロードして終了だ。

 

 当然、私のオリジナル曲ではないので、弾いてみたと歌ってみたのタグを付けて、カバー元を「結束バンド」と記載した。

 

 うーん、サクッと終わったからもう一曲配信しておこう。投稿するのも久しぶりだったから、4月中は毎日2曲は投稿しておこうかな。

 

 もう一曲は、前に橘さんがリクエストしていた「私は最強」がいいかな。リスナーにも受けがいいだろうし。

 

 そうして同じように、録音して編集して投稿をしていたら、あっという間に外は暗くなっていていた。

 

「あれ? ドラゴンボーイどこいった……?」

 

 気が付くと龍園の姿は見えなくなっていて、机の端にコンビニのビニール袋が置いてあった。

 

 開けてみたらおにぎりが2つとお茶のペットボトルが入っている。それを見たら「ぐぅ」とお腹が鳴ったのでありがたく頂いておく。

 

 もしゃもしゃと食べながら端末で時間を確認すると19時くらい。窓から見下ろすと、まだ体育館の電気が付いているので、運動部もまだ部活中なのだろう。

 

「よし、ベースの練習しよ」

 

 PCで検索してベースの練習動画を流す。一昔前なら楽器の練習するには教本を読んで独学か、教室に通うしか手段はなかったけど、インターネット全盛になった今なら、ベテランが丁寧に教えている動画が無料で見れる。良い世の中になったもんだ。

 

 まぁ、ギターを覚える時は、父親が元ギタリストだったから教えて貰えてラッキーだったけど。

 

 だけど、教えてもらえるのは上手くなれる方法だけで、結局上達するためには地味な反復練習の繰り返しだ。

 

 

 そして無心でベースの練習をしていたら、いきなり部室のドアが開いて教師が怒鳴り込んできた。

 

「コラッ! いつまで残っているんだ、早く帰りなさい!」

 

「えっ? あ、あれ、もうこんな時間ですか……すみません、今帰ります」

 

 気が付くと、すっかり夜もふけて22時近くになっていた。外を見ると他の校舎の明かりは消されて真っ暗になっている。

 

 見知らぬイカつい教師に怒られながら手早く荷物をまとめる。良いところだったから、帰っても練習をするためにベースと専用のアンプをキャリーカートに積んで部室を出た。

 

 ベースだけなら持って帰るのは苦ではないけど、専用にアンプが必要だから荷物が多くなるのが難点だなぁ……もう一つ買って寮と部室に置きたいけど、そんなポイントは無いから今は我慢だ。

 

 けど、来月は貰えるポイントが0になるからしばらくお預けだったんだ。

 

 まだ入学から1週間も経ってないのに、Dクラスはすでに学級崩壊していてヤバいし。

 

 

 今後も機材を買うために、ポイントを確保する方法を考えないとなぁ……

 

 

 

 






龍園は学校を徘徊して設備を調べていた段階
特別棟を調べていたら変な女が一人でギターを弾いて歌っているところに遭遇した感じ

まだ4月初頭なので、C組の掌握はしてません


フローネル
https://youtu.be/yXtNZMPGTTg?si=ACLXR2XsLKWzJ0en

星座になれたら
https://youtu.be/wSTbdqo-j74?si=7ZM9qRBF84iwcHkE



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