ギターヒーロー in よう実   作:右から左へ

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ぼっち・ざ・ろっく!

 

 

 綾小路 side

 

 池からメールで遊びに誘われて、放課後に遊びに行くことになった。

 

 メンツは池と山内、そして櫛田。俺含めて4人だ。初めて放課後に友達に遊びに誘われたので、ウキウキ気分で向かう。

 

 初めて友達になった後藤は、軽音楽同好会を立ち上げてから放課後は毎日部室に直行している。昼休みも部室で過ごすようになったので、一緒に食堂に行くことも無くなった。必然的に授業の合間くらいしか交流は無くなったし、一緒に遊びに行ったことも無い。休みの日は一日中、部室にこもっているようだしな。

 

 一度部室を覗いてみたい気持ちはあるが、部外者が行っても邪魔になるだけだろう。流行りの音楽は殆ど知らないし。

 

「おいっす」

「あれ、櫛田は一緒じゃないのか?」

 

 合流予定の昇降口で、山内と池が待っていた。肝心の櫛田の姿は見当たらない。

 

「別なクラスの友達に用事があるから、少し遅れるとさ」

「ま、まさか男じゃないよな……?」

「安心しろ池、確認済みだ。女友達だぞ」

「よしっ!」

「……お前たち、本気で櫛田狙ってるのか?」

「当たり前だろ! ド本命よ!」

 

 そう啖呵をきった池に同意するように山内も頷いている。正直、釣り合いが取れるとも思えない高嶺の花だと思うが。

 

「そういう綾小路は後藤と堀北、どっち狙いなんだ?」

「後藤はやめとけ。地味だし、俺に惚れてるからな」

「そういうんじゃない、席が近いだけだ」

「「ほんとか~~?」」

 

 そう言って二人が訝しむ。

 

「堀北、性格はアレだけど美人だよな~」

「後藤は地味だけど、よく見たら可愛くないか?」

「いや、あれは無いだろ。ブスだし暗すぎて話にならねーし。やっぱり女は愛嬌だ!」

「やっぱり櫛田ちゃんだよな!」

 

 そう言って山内と池が笑う。

 

 まぁ、堀北は顔は良いが性格が破綻しているからな。後藤は確かに根暗で吃音もあって聞き取りにくいが、堀北と違って話しかければ普通に返事が返ってくる。むしろ話しやすい方だ。

 

 ただ、ずっと俯いていて猫背だし、絶対に目を合わせようとしない。それに目が隠れるくらい前髪を伸ばしているので、顔も表情もよく見えない。

 たまに顔が見えた時には結構な美少女だと思ったが……こいつらに教えるとろくな事にならなさそうだから黙っておくか。山内は気付いていそうだけど。

 

「遅くなってごめんね。お待たせっ!」

「うおぉぉ! 待ってたぜ櫛田ちゃん……て、何で平田たちがいるんだよ!?」

「途中で一緒になったから、せっかくだから誘ってみたの。ダメだった?」

 

 櫛田の後ろには平田とその彼女の軽井沢、そして軽井沢を取り巻いている2人の女子を連れていていた。確か松下と森だったか。

 

 そんな平田を見て、池と山内が角を立てずにイケメンを追い返せないかと相談を始めたが、それを察した平田が別行動を提案したところで、櫛田に嫌われたくない2人は諦めてそのまま一緒に遊びに行くことにした。

 

 まだ入学して間もないので、皆でケヤキモールを散策することになった。ケヤキモールは高育の施設内にある、大型ショッピングモールだ。カラオケ店や映画館、ブティックや美容室、カフェやファミレスなど娯楽施設や服飾店がひと通り連なっている。

 

 俺以外のメンツはすでにケヤキモールに通っているようで、慣れた様子でショッピングを楽しんでいる。軽井沢が服を買い漁り、それを平田に持たせたところでカフェで休憩することになった。

 

 そして広いテーブル席に案内されて、皆でソファーに座る。各々で飲み物とポテトを注文すると、それを皆でシェアしてつまみ始めた。こういうの、青春している感じがしてテンション上がるな。

 

「皆はもう学校には慣れた?」

「最初は戸惑ったけど、もうばっちりだぜ。つか、夢の国過ぎて、一生卒業したくねー」

「池くんは学校生活を満喫してるよね」

「あたしは、もっとポイントが欲しいって感じ? 化粧品とか洋服とか買ってたら、もう殆どポイント残らないっつーの。30万は欲しいー」

「高校生で毎月30万も小遣い貰ったら異常じゃね?」

「10万でも多いと思うから、僕は少し怖いよ。このままの生活を続けてたら、卒業した時困るんじゃないかって」

「金銭感覚が狂うってこと? 確かに怖いかもね」

 

 支給された10万ポイントは受け取る生徒によって感じ方は様々なようだ。軽井沢や池、山内はもっと欲しいと言っているし、平田や櫛田は多すぎるから贅沢に慣れるのが怖いと。

 

 そう考えると、初日に110万使いきったという後藤はかなり金銭感覚が壊れているな……それでもまだ足りないから、ポイント貯めてギターも買いたいとか言っていたし。

 

 まぁ、バイオリンとかは良いものを買おうとしたら数千万はかかる。ピアノだって青天井だ。

 

 

「松下さん、何見てるの?」

「ちょっとね……ギターヒーローって知ってる? そろそろ新曲が投稿される時間なんだ」

「知ってる! もうそんな時間かー、私もチェックしよ」

 

 櫛田と松下が端末を操作して何やらサイトを確認しているようだ。

 

「なになに? 櫛田ちゃん何見てるの?」

「ギターヒーローって知らない? 最近すごくバズってるんだよ!」

「あー、聞いたことあるかも?」

「あ、私も知ってるー。ちょーバズってるよね。でも何でギターヒーローって言うの?」

「元々『ギターヒーローちゃんねる』だったのをつい最近変えちゃったのよね……慣れないからギターヒーローって呼んでるだけよ」

「あー、ギターは凄かったけど、歌が無かったからあんまり聞いてなかったヤツだな」

「最近歌も入ったんだよ! これが本当に良いの! 聞いてみて!」

 

 池や山内、軽井沢も話題に食いついて皆で端末を見ている。俺も気になったので後ろから端末を覗き込むと、動画投稿サイトに『ぼっち・ざ・ろっく!』というチャンネル名が見えた。

 

 そして、アカウント名は『ぼっち』。

 

 何だか自虐的な名前だな。

 

 

 そして櫛田が、新着マークが付いている『フラッシュバッカー』という曲の再生ボタンを押すと、

 

 静かな、優しいギターの旋律が、

 

 端末のスピーカーから流れた。

 

 

 どこか寂寥感を孕んだクリーンな音色が、カフェに響く。

 

 そして、イントロが終わると歌が重なった。

 

 冬の夜空に放り出された迷子のように心細く、それでいて澄み渡る歌声。

 

 聴いているだけで、胸が締めつけられるような、大切なものを失ってしまったような、喪失感に襲われる。

 

 騒がしかった池や山内、軽井沢もその曲を聞いたとたん息を潜めて、静かに聞き入っていた。

 

 

 

 

「……とてもいい曲だね。僕もフォローしようかな」

「いいよね! 平田くんも一緒に聞こうよ」

「あれ? 軽井沢、なに泣いてんだ?」

「べ、別に……泣いてないし! ちょっとお手洗い行ってくる」

「まさか、曲に感動して泣いたのか? ……そこまで感情移入するほどかよ」

 

 曲が終わると、何故か軽井沢が涙を流していた。染みる曲だったけど泣くほどのものかと言われたら疑問だが、良い曲だったのは間違いない。

 

 目元を隠しながら誤魔化すように席を立ち、軽井沢が化粧室(トイレ)に消える。

 

「けど、端末のスピーカーだと音が悪いよなー。イヤホンかヘッドホン買いてーけど、もうポイント残ってないんだよな……」

「俺もすっからかんだ。まぁ、もうすぐ5月になるし、また10万入るんだから、その時に買えばいいだろ!」

「だなっ!」

 

「こういうのって、ヘッドホンとかで聴いた方がいいのか?」

「全然音が違うよ。私、奮発して2万のヘッドホン買ったけど、やっぱり安物と比較すると音が違うもの」

「ピンキリだよねー。あんまり安いのは買わない方がいいよ」

「なるほど……」

 

 池と山内がヘッドホンの話をしていたので、俺が疑問を口にすると、松下が鞄からヘッドホンを取り出して見せてくる。お洒落なヘッドホンでいかにも高そうだ。

 

 気になって端末で調べてみたら、もっと高いのだと10万以上するな……流石に手が出ないし、手頃で音質がいいのがあればいいんだが、買ったことがないのでどれがいいのか全く分からない。

 

「ただいま、なんの話ししてたの?」

「おかえりー、ヘッドホンの話だよ」

 

 軽井沢が化粧室から戻ってきた。メイクを直したのか、滲んでいたアイシャドウはすっかり整えられている。

 

「あーね、私もイヤホン買ったけど安物だったから音が悪いのよね……そういえば、あの地味な子、高そうなヘッドホンしてなかった?」

「後藤さん? いつもヘッドホンしてるよね。どこのメーカーか気になって話しかけても、俯いてぼそぼそしゃべるから、なにを言ってるか聞き取れないし」

「ちょっと借りてみよかな」

「それ、借りパクするつもりでしょー? かわいそうだよー」

「大丈夫、少し借りるだけだから!」

 

 そう言って軽井沢たちが笑う。

 

 友達として止めるべきなのだろうけど、俺が注意したところで軽井沢がやめるとも思わない。止めてくれそうな櫛田さんを見ても、困ったように苦笑いしているだけで口を挟む気はないようだ。

 

「そういえばさー、ヘッドホンもそうだけど、何であの子、いつもギターケース持ち歩いてるの?」

「さあ? 音楽好きアピール? 初日に退学するとか言ってたのに、結局退学しなかったし、謎だよね」

「どうせ大して弾けないのに、ファッションで持ち歩いているだけでしょ。それか不思議ちゃんアピール」

「ギターヒーローが流行ってから増えたみたいだよねー、そういう子。弾けないのにギターケース持ち歩くの」

「ちょっとウザイよね」

「ねー」

「もしかして、ギターケースだけで中身入ってないんじゃないのか」

「それだったらマジウケるんだけどw 今度開けて確かめてみよっか」

 

 段々と後藤を嘲るように話が進み、山内も乗っかって良くない方向に話が進んでいる。

 

 そろそろ止めた方がいいかなと思っていると、平田が声をあげた。

 

「軽井沢さん」

「えっ!? な、何かな、平田くん?」

「そういうの、良くないと思うよ」

「な、何が……かな?」

「いない人の悪口を叩いたり、物を取り上げようとしたりだね」

「い、嫌だなぁ、冗談よじょーだん! 本当にやる訳ないじゃん!」

 

「……だよね。軽井沢さんがそんなこと、する訳ないよね」

 

 能面のように無表情だった平田が、そう言ってニコリと軽井沢に笑いかける。

 

 一見爽やかな笑顔だが、目が笑ってない。

 

「あ、ゴメン……用事があったんだった! 私帰るね」

 

 明らかに動揺した様子の軽井沢が手荷物を取ると、そそくさとカフェから出ていってしまった。

 

 ……会計もせずに出ていったな。

 

「わ、私も帰るね……」

「じゃあ、私も帰る。お会計は平田くんに払っておけばいい?」

 

「いいよ、僕がまとめて払っておくよ。ごめんね、楽しい雰囲気に水をさして」

 

「そう? じゃあご馳走さま」

 

 取り巻きだった森と松下も、気まずくなったのか席を立った。だが、松下の方は話に乗らずに空気に合わせて笑っていただけのようだし、最後まで飄々としていたな。

 

 

 そして、そのまま解散する流れになり、空気を悪くしたお詫びとして、カフェ代は男の分も含めて全員平田の奢りになった。

 

 空気を悪くしてたのは軽井沢たちの方だと思うが、イケメンは違うな。

 

 

 帰りにそのままショッピングモール内の電気店に寄り、ヘッドホンやイヤホンを見に行ったが、どれが良いのかさっぱり分からない。

 

 一見どれも変わらないように見えるから、5000ポイントのでもいいかと思ったが、音質が違うらしいからな……

 

 後藤が詳しそうだから意見を聞いてから買うか。

 

 

 話のネタにもなるだろうし、『ぼっち・ざ・ろっく!』の曲を聴けば、共通の話題にもなりそうだしな。

 

 

 

 






フラッシュバッカー
https://youtu.be/1-o7fmQqSNg?si=SKP4U1Cvhms05L1l



軽いイジメ展開も考えたけど、平田が見過ごす訳ないので没

平田の鉄壁ガードでD組は表面上は平和になります




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