ギターヒーロー in よう実   作:右から左へ

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五月一日

 

 

 朝起きて端末を確認する。

 

 案の定、ポイントの振り込みはない。

 

 うん、知ってた。

 

 あれから順調に学級崩壊を起こし続け、四月末には授業中に大声で談笑しては笑い声をあげたり、端末でずっと動画を見てたり、遅刻してきて授業中に堂々と「おいーす」と入ってきたり、そのまま机に突っ伏して居眠りをする始末だ。

 

 教師が全く注意しないのをいいことに、授業中にやりたい放題していた。

 

 平田くんや堀北妹とか、一部真面目な生徒もいたけど、そんなの焼け石に水だ。きちんと授業を受ける生徒がいてもプラマイゼロなだけだから、マイナスがデカ過ぎた。

 

 そんな結果になると知っていたなら、もっと早く啓蒙活動でもしてポイントが減らないように動くべきだったのかもしれないけど、コミュ障の私にそんな芸当ができるわけがない。

 

 せめて平田くんとか、クラスのまとめ役にそっと伝えて裏で暗躍……なんてムーブも考えたけど、平田くんはいつも女子に囲まれていて近寄る隙がない。

 

 それに、変に原作知識をひけらかして、実は頭がいいみたいに思われても、2年生になったら詰む。私の知識はアニメの1年生分しかないのだから。

 

 だから目立たないようにやり過ごすか。

 

 と、そんな事を考えながら、朝のルーチンを済ませて部屋を出る。

 

 私のポイントは一度すっからかんになってから、堀北兄から5万ポイント貰って、程々に節約しながら4月で15000ほど使った。

 

 確か5月にある中間テストの結果次第でポイントが付与されるようになるハズだ。D組は月に1万ポイントに届かないくらい増えたと思ったから、このままなら夏休みまで十分もつかな。

 

 夏休みになれば、また無人島サバイバルでの綾小路くんの暗躍で結構ポイントを盛り返すはずだし。

 

 そして現在、節約できているのは頻繁に夜食の差し入れがあるのが大きい。

 

 龍園が軽音楽同好会に入会して、どんなバイオレンスに巻き込まれるのかと戦々恐々としていたけど、フラりと現れてはじっと大人しく演奏を聴いているだけ。

 そして、気がついたらいなくなっていて、おにぎりかサンドイッチ、それと飲み物のペットボトルが入ったコンビニ袋が置かれている。

 

 妖精さんかな。

 

 よく練習に夢中になると、気がついたら飲まず食わずになってるからマジで助かる。家なら母親から怒られつつ、ご飯を食べさせられて風呂に入らされていたけど、今は寮暮らしだからそんな面倒をみてくれる人はいないしね。

 

 そんな親のありがたみを再確認しながら教室に入ると、やっぱりクラスはポイントが振り込まれてなかったことに騒然となっていた。

 

「何でポイント振り込まれてないんだよ!」

「今朝、ジュースも買えなかったからマジで辛かったぜ。学校もしっかりしろよな~」

 

 三馬鹿が教室内でそう言って憤慨しているけど、普通に考えてあの授業態度で10万ポイント貰い続けられると思う方がどうかしていると思う。

 

 そして始業のチャイムが鳴ると、手にポスターの筒を持った茶柱先生が教室に入ってきた。

 

 その顔は眉間にシワが寄って、いつもより険しく、いかにも不機嫌なオーラを纏っていた。

 

「せんせー、ひょっとして生理でも止まりましたー?」

 

 池が相変わらず空気を読めないセクハラ発言をとばしてくる。言われた本人以外も、女子の全員が池に冷ややかな視線を向けていた。

 

 そんな池にいっさい構わず、茶柱先生は教壇に立ってHRをはじめた。

 

「これより朝のホームルームを始める。が、その前に何か質問はあるか?」

 

「あの、今朝確認したらポイントが振り込まれてないんですけど、毎月1日に支給されるんじゃなかったんですか?」

 

「あぁ、今月も問題なく振り込まれたことは確認している」

 

「え、でも……振り込まれてなかったんですけど」

 

 いつもより高圧的な茶柱先生に、男子生徒がおずおずと質問すると、先生はクソデカ溜息を吐いた。

 

「……お前たちは本当に愚かだな」

 

「お、愚かッスか?」

 

「ポイントは間違いなく振り込まれている。このクラスだけ忘れられた、という可能性はない。この意味が理解できるか?」

 

「HAHAHA! なるほど、そういうことだねティーチャー。理解出来たよ、この謎解きがね」

 

 高円寺が机の上に足を乗せたまま、高笑いを上げる。そして、周りの生徒に言い聞かせるように説明をはじめた。

 

「簡単なことさ、Dクラスには1ポイントも支給されなかった、ということだ」

 

「だって、毎月10万ポイント振り込まれるって……」

 

「私はそう聞いた覚えはないね。そうだろう?」

 

「はぁ……態度に問題はあるが、高円寺の言う通りだ。全く、これだけヒントをやって自分で気がついたのが数人とはな。嘆かわしいことだ」

 

「……先生、質問いいですか? 腑に落ちないことがあります。振り込まれなかった理由を教えてください。でなければ納得出来ません」

 

 クラスのまとめ役の平田くんがそう声を上げた。だけど、振り込まれなかった理由なんて、4月のD組の授業態度を見ていれば分かりそうだ。

 

 とはいえ、それが個人へのペナルティなのか、クラス全体へのペナルティなのかはまだ明言されてないから、真面目に授業を受けていた人達からすると腑に落ちないか。

 

 普通は連帯責任なんて思わないだろうし。

 

「遅刻欠席、合わせて98回。授業中の私語や携帯を触った回数391回。高育では、クラスの成績がポイントに反映される。その結果お前たちは振り込まれるはずだった10万ポイントすべてを吐き出した。初日に説明したはずだ。この学校は実力で生徒を測ると。そして今回、お前たちは0という評価を受けただけに過ぎない」

 

「茶柱先生。僕たちはそんな話、説明を受けた覚えはありません……」

 

「なんだ、お前らはそんな事も説明されなければ理解出来ないのか」

 

 クラスを代表して平田くんが茶柱先生に食ってかかっているけど、段々と聞いているのに飽きてきた。

 

 私は真面目に授業を受けていたのでSEKKYOUを受ける言われもないし、すでに高育のシステムは知っている。ちゃんとした授業なら退屈でも我慢して受けるけど、自分に関係のないSEKKYOUほど無駄なものはないなぁ……茶柱先生の説教も、高圧的な前世の糞パワハラ上司を思い出して不快だし。

 

 聞くだけ無駄だから、ドラムの練習にエアドラムでもするか。

 

 エアドラムとは、実際にドラムを叩くことをイメージして、動きとリズムを身体に覚えさせることだ。エアなので実際に何かを叩く訳ではないから音は出ないし、周りの迷惑にもならない。そして場所を選ばず練習できて、初心者のドラム練習に良いと動画で見た。

 

 授業の合間の暇潰しにも丁度よいので、最近はよくトイレとかでやっていた。

 

 

 今はHR中なので、綾小路くんの背中に隠れて動きは最小限。

 

 目立たないように小さくリズムを刻む。

 

 

 

 

「……後藤、お前は何をやってるんだ」

 

「え……? あ、あの……エアドラム……です……」

 

 気持ちよくエアドラムしていたら、いつの間にか動きが大きくなったのか、茶柱先生に見つかってしまった。いつも絶対注意してこないのに、何で今日に限って名指しで注意してくるのか。

 

「お前は話を聞いていたのか」

 

「い、一応……日ごろ真面目に授業を受けていたので、わ、私には関係ないかなぁと、思いまして……」

 

「……では、私が何を話していたのか言ってみろ」

 

 何だ、嫌に突っかかるな……生理でも止まったんか?

 

 話を聞いてなかったので黒板を確認すると、

 

 Aクラス:940 cp

 Bクラス:650 cp

 Cクラス:490 cp

 Dクラス:0 cp

 

 と、張り出されていた。

 

 んー……どこまで話したのか聞いてなかったから、適当に勘で答えるか。

 

「じょ、上位のクラスしか、卒業特典が受けられない……ですかね?」

 

「それはまだ(・・)話していない」

 

「じゃあ、Dクラスのお前らは落ちこぼれの欠陥品だー、とか?」

 

「それは今、言おうとしていたことだ」

 

「な、なら、Aクラスから順に優秀な生徒になっている、ですか?」

 

「そうだな、正解だ……そこまで理解していながら、なぜ真面目に話を聞かない」

 

 理解してるんだから話を聞く必要無くない? 何言ってんだ。

 

 関係ない説教でも、真面目に聞かないとポイント下がるなら仕方なく聞くけど……そういえば一応確認しとくか。

 

「わ、私は卒業後の特典に興味がないので……それと確認ですけど、ポイントは0より下がらないんですよね……?」

 

「下がらないな。借金のようなペナルティが課される事もない」

 

「なら、やっぱり関係のない説教を聞くのは時間の無駄かなぁ……と。じゅ、授業なら真面目に受けるつもりですけど」

 

 そこまで弁明すると、茶柱先生が値踏みするようにじっと私を見てくる。

 

 そして気がついたら教室中から注目されていた。

 

 ひえっ、と思いながらじっと机を見詰めてやり過ごす。茶柱先生が話しかけてくるから変に目立ったしまった。

 

「まぁいいだろう。後藤が言ったように卒業後の特典……希望する進学や就職先が100パーセント叶うというのは、上位のクラス、Aクラスだけになる」

 

「そんな話聞いてないです! 滅茶苦茶だ!」

 

 眼鏡をかけた真面目そうな男子が声を荒げた。数少ない、授業を真剣に受けていた優等生だ。

 

 そんな眼鏡くんを冷めた目で見ながら、茶柱先生が冷酷に告げる。

 

「お前たちのような低レベルな人間がどこにでも進学、就職できるほど世の中は甘くできているわけがないだろう」

 

 それはそう思う。

 

 けど、眼鏡くんとか真面目に授業を受けてた上で、学力も申し分ないほど高いのに、十把一絡げにして落ちこぼれの烙印を押すのも酷い話だな。

 

 平田くんも文武両道な上にイケメンでコミュ強で高い実力があるのに、イジメをやめさせるために暴力でクラスを支配した、というだけでDクラス評価というのが不思議だ。暴力を容認している高育的にはプラス査定になりそうなものだけど。

 

 まぁ、本当に能力の出来不出来でA組からグラデーションで配属されていたら、クラス間闘争が成り立たない。ある程度のバランスをとるために、高い能力があっても欠点がある人材を下のクラスに配置する措置なんだろう。

 

 そして、わざと出来の悪い生徒を集めて最下層に置くというのも趣味が悪いよなぁとも思う。高育は表向きはかなり倍率高いんだから、優秀な生徒のみを揃えることは可能なんだし。

 

 明らかに出来の悪い生徒を見せしめにした方が、他のクラスが伸びやすいとか、エビデンスでもあるんか?

 

 

 そんなクラス割りや、Aクラス以外は卒業特典が受けられない事に納得出来ない生徒たちが、喧々諤々と騒いで茶柱先生に食ってかかっているけど、興味無いし暇なので、ぼけーと窓の外を眺める。

 

 

 そして、しばらくして落ち着いたのか、質問も無くなると、

 

「浮かれていた気分は払拭されたようだな。Dクラスの置かれた状況の過酷さを理解できたのなら、中間テストまで後3週間、じっくりと熟考し、退学を回避してくれ。お前らが赤点を取らずに乗り切れる方法はあると確信している」

 

 そう意味深なことを言い残して、茶柱先生は教室から去っていった。

 

 

 そういえば、次の中間テスト限定で過去問が役立つんだっけか。

 

 堀北兄か橘さんに相談して融通して貰おうかな。

 

 

 1教科につき1曲リクエストを弾き語り、とかで何とかなればいいけど。

 

 

 

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