異世界転生したカール・マルクス   作:匿名

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第十三話

 

 

赤い煉瓦の道路が、車輪と擦れつつも堅牢に固まっていた。

 

道路と違う白色。

しかし、同じ寸法の直方体の煉瓦は交互に並べられ、給水場が出来ていた。

 

 

道路と違う黄色。

しかし、同じ寸法の直方体の煉瓦は交互に積まれ、そこには馬車寄りが出来ていた。

 

 

道路と違う青色。

しかし、同じ寸法の直方体の煉瓦は交互に横たわり、給水場が出来ていた。

 

 

煉瓦を絶え間なく焼き上げる窯が街の隅で動き続け、この街の全てを握る場所なのだと煙が雄弁に語っていた。

 

 

石炭は窯に入る前、一度焼かれる。

湿気を飛ばし、より多くの火力を出すためだ。

 

この窯の周辺の建物は、ほとんどが倉庫である。

 

 

窯の交通は前より随分と整理された。

 

領主が徐行命令を周辺地区に出し、石炭を載せた馬車が通る時間が、早朝になった。

 

 

窯の火は高熱で、石炭が足りなくなれば次々と足されていく。

 

火加減がゆらげば煉瓦の硬さは脆さに繋がり、煉瓦の軟らかさは全損に繋がる。

 

少しでも火の温度が下がればその煉瓦は芯まで火が通らぬ、いわば死体と同じである。

 

 

 

だからこそ常時の石炭を必要としたが、石炭を運ぶ馬車が通る時間が朝に限定されてしまった。

 

猛烈な不満が既に渦巻いていた。馬車寄りには常々、石炭を載せた馬車が代わる代わるやってきて、窯の周辺は石炭を運ぶ馬車によって恐ろしい渋滞が発生した。

 

 

粘土を運ぶ馬車は窯にいつでも向かえるから、今は俺たちを優先しろ……

 

そのような言葉が御者の間で言われ続け、石炭を運ぶ馬車と粘土を運ぶ馬車がいがみ合った。

 

 

粘土とは、河や山などから継続して採取可能な資源である。

 

その用途は多岐に渡るが、煉瓦として用いられることが多い。

 

馬車寄りは昼間から夜にかけて粘土馬車が占領するのだから、朝くらい石炭馬車が使わせて欲しい。

 

 

 

現場を無視した狂った制度がどれほど杜撰だったのか、とはこの言論を見れば一目瞭然であろう。

 

 

 

 

単色の鮮やかな通行旗が翻り、交通整理を試みるも、窯の周りは想定を常に上回る馬車の量であった。

 

 

通行旗は交差点ごとに設けられたが、あまりに馬車が密集しているせいで、視界は非常に悪かった。

 

荷降ろしを終え、軽くなった馬車が信号旗の誘導のままに道を往く。

 

 

奇跡的に事故が起きていない状態───────それらは、2週間の間続いた。

 

部分的な交通規制の試みとして行われた時間管理は、あまりにも失敗したことで都市の一般市民から多いに顰蹙を買った。

 

 

窯が連なる街は、東の方向に向かって伸びる。東側には、この領地を南北に貫く主要街道がある。

 

 

粘土など重量物はこれらの主要街道を利用するために左折し、石炭などの比較的な軽量物は様々な道を様々な角度で曲がった。

 

 

どこの道であろうと、どこの曲がり角であろうと、石炭馬車は存在した。

 

 

そしてそれは、朝の渋滞だけという希望的な見積もりを裏切り出した。

 

 

転換点は施行開始から一週間後。廃止まで、半分の時であった。

 

 

 

 

とある鮮魚店を営む市民は、石炭馬車の荷台から石炭の詰まった袋が落ちているのを発見した。

 

主要街道にまで石炭馬車はやってきて、わざわざ店の前に落としたと市民は捉えた。

 

この原因はどこにあるか。

 

それを咎めようと領主の館へ向かった。北西に向かって、この領地を飛び越えると海が広がる。

 

 

魚は氷で冷やされ、六時間の道を通ってここまでやって来た。

 

新鮮な魚を売るというのは中々に難しい。だからこそ、それに腹を立てた。

 

 

鮮魚店を営む平民は領主が、この悪しき規則を止めるまで、当面の間営業を停止すると宣言した。

 

 

店の扉は締まり、四人家族の平民は家族で毎食魚を食べた。

 

 

 

一日に1キロを上回る魚の赤身を食べた平民の家族は日に日に体調を悪くしていった。

 

あまりに冷えた腹が、やってくる魚を拒絶し始めた。

 

 

最初は贅沢だと考えた魚の赤身は食べても食べても減らず、食べ続けなければどんどん届いて増える。

 

 

営業せず消費に消えるというのは商売としてどうなのか、と平民の友人が説いたが、領主への反抗をますます強めた。

 

友人はその様子を見ると、溜息をつきながらも店を閉めることで嫌がらせをする執念に拍手をしたという。

 

 

一週間と五日、廃止まであと二日となった時に、主要街道の商店は目に見えて閉まった。

 

遠く離れた主要街道、それも道に面する店までもがこの抗議に参加した。

 

 

領主は慌てて、石炭馬車の交通制限は解除すると言い、店を閉めた人々を説得しようとした。

 

 

 

 

二週間目、早朝。

 

 

大きな板に載せられた原本は印刷所に運び込まれ、都市の市民は規制解除を知った。

 

 

優秀な信号手は、ここまでやったのに給料が特別手当だけだと!と怒った。

 

領主の行政へのやるせなさを常々感じていたのと、特別手当が臨時の給料としては充分だと感じられなかったからだ。

 

 

 

信号手たちは実際どれだけのことをしていたのか、その能力に関係なく特別手当を受け取った。

 

 

信号手たちは交差点の通行整理に重要な職業である。

それにも関わらず、この特別手当の額とは何事かと、雇用主の役人に苦情が飛んだ。

 

それはほとんど音と同じ速さで、新聞として刷られるよりも早くこの領地の跡取り息子に伝わった。

 

 

こんなひどい行政をした領主なのだから、息子はさぞ優秀なのだろうと皮肉を飛ばしながら信号手たちは恨みを溜めていた。

 

 

 

そんな節の時期に、吉報が飛んだ。

 

帝都はこの男爵領から一ヶ月を超え、約四週間の距離である。

非常に遠いが、首都たる街である以上、動向は常に気になるのである。

 

 

先代の皇帝は建国歴596年、天国に行った。

彼の息子は軒並み夭折していたりと、不吉な噂が根強くあった。

 

代理の皇帝として彼の弟が暫しの間、執政を行っていたりと、正式な即位が待たれる状況であった。

 

次の皇帝は誰なのか。

それは分からないが、その結果がどうであれ、市民らは歓喜することだろう。

 

そんな中、ちょうどこの帝国の建国から6世紀もすぎようかという時。

 

次の皇帝の即位が成されたと伝わった。

 

 

もう街の活気は、さながら祭りである。

 

色とりどりの垂れ幕を軒先に出し、皆が神の祝福を祈った。

選帝は成され、秩序ある帝国は戻った。

 

 

 

正式な皇帝でなければ秩序に不安があった市民も、即位したことでご満悦である。

 

 

禅譲による継承という通常の手順を踏まないということで、皇帝の選出に難儀したのだろうが、そんなことは民衆に関係なく。

 

貧民も富める者も皆、揃って祝う。

 

 

版図の中の全ての土地で、そんな祝日がすぎて、今日も帝国は続くのである。

 

 

 









皇帝及び近親者の名前

おおよそ呼ばれることはほとんど無い。
皇帝陛下と敬われ、実名を隠す。


名前を知られるということは恥ずかしい、という羞恥心から発展した文化。いつしかそれは名前を隠す方向性に行き、称号を作る事で実名を隠すという事が自然と定着した。
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