ポケットモンスター 配信画面の境界線。100万人の「ナンジャモ様」ではなく、目の前の「君」だけに狂わされたいボクの末路   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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電気の街の目覚め

ハッコウシティの朝は、電子の唸り声から始まる。

 

窓の外では、巨大な広告用ホログラムが寝ぼけた街を叩き起こすように色彩を撒き散らし、規則正しく配置された街灯が、夜の残滓を消し去るために一斉に輝度を上げる。その無機質な光の粒がカーテンの隙間から滑り込み、私の頬を遠慮なく撫で回した。

 

「……ん、……っ」

 

喉の奥で小さな鳴き声のような溜息が漏れる。

まだ重い瞼をこじ開けると、視界の端で二つの「目」がこちらをじっと見つめていた。

 

私の髪飾りに擬態するように浮遊している、二匹のコイルだ。

彼らは私が目覚めたことを感知すると、微かな磁気音を鳴らしながら、その金属質の体を私の頬に寄せてくる。

 

「……おはよ。ちょっと、冷たいってば……」

 

指先で冷えた鋼鉄の感触を確かめる。彼らの体温は、常にこの街の空気よりも少しだけ低い。その冷たさが、私の脳内にこびりついた眠りの霧をゆっくりと、けれど確実に剥ぎ取っていく。

 

ベッドから這い出し、裸足で床を踏みしめる。

床暖房の入ったフローリングの温もりが足裏から伝わってくるが、私の心はまだ、昨夜の配信の余熱と、これから始まる「今日」という舞台への緊張の間に浮いている。

 

洗面台の前に立ち、センサーが反応して点灯したLEDライトに目を細めた。

鏡の中に映っているのは、ボサボサの髪に、焦点の定まらない瞳をした、どこにでもいる……いや、どこにでもいてはいけないはずの少女の姿だ。

 

私は蛇口を捻り、痛いほどの冷水で顔を洗う。

水滴を拭い、もう一度鏡を見る。

 

ここからが、私の「仕事」だ。

 

「……よし」

 

小さく呟き、私は指先で自分の口角を左右に引っ張った。

一ミリ、二ミリ。ミリ単位の調整。

視聴者が「元気をもらえる」と感じる絶妙な角度。

瞳に光を宿し、眉を少しだけ上げ、自信に満ち溢れた「ナンジャモ」の輪郭をなぞっていく。

 

鏡の中の少女が、私を嘲笑うように完璧な笑みを返してくる。

それは、祈りに似た行為だった。

この笑顔を貼り付けている間だけ、私はこの眩しすぎる街の一部になれる。

この笑顔が剥がれ落ちたとき、私はただの、電気の匂いに酔いそうなだけの子供に戻ってしまう。

 

「おはこんハロチャオ。……おはこんハロチャオ」

 

何度も繰り返す。

声のトーン、語尾の跳ね方。

コイルたちが満足げに私の周りを旋回し、放電の火花がチリリと空気を震わせた。

 

外では、ハッコウシティが完全に覚醒したようだ。

数百万人の視線が、今日もこの街に、そして私に降り注ぐ。

 

私は最後にもう一度、鏡の中の完璧な自分に向かって、深く、深く頷いた。

朝の冷えた空気が、いつの間にか熱を帯び始めている。

私の「今日」という24分の1話が、今、再生ボタンを押された。

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