セカイと6人の観測者   作:がくしゃ気取り

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やっとスタートラインに立ったぜ!
それはそうといちミク、いちさき、いちえむ、いちかなで揺れ動く今日この頃です。


きっとそれは、帰り亡き長い旅。

 ……病院の一室、1階の59号室で、心電図の音が一定のリズムを……正確にはテンポがどんどん

下がりながら音を刻んでいた。

 そのベッドに、1人の少女が横たわっていた。

 虚な目には小さな、それでも確かな欲望と、大きな絶望が浮かんでいた。

 どうやら少女はもうじき……

 

◆◆◆◆◆◆

 

「…………」

 

 天井を、見ていた。

 息は前よりか細くなって、視界もぼんやりしたり、急に暗くなることが増えた。

 思考はぼんやりしていて、何かを考えるのにも時間がかかった。

 お医者さんには、「少なくとも余命は2年」って言われたけど、その5ヶ月後が今だ。

 戦争が長く続いて優秀なお医者さんが全員戦場に送られて死んじゃってるっていう話を

お母さんから聞いたことがあった。

 お父さんからは、最近では免許が無い人でも最低限の知識さえあれば

お医者さんになれることもあるって聞いた。

 最初は他人事だと思ってたけど、今ではこういうのは意外と自分にも起きるっていう、

“人生最後の新しい知識”を脳が覚えていた。

 病院では適切な治療も診断もされなかった。

 お医者さんからは、家で安静にと言われたけど、結局その日の帰りに倒れて入院した。

 お母さんもお父さんもお見舞いには来なかった。

 お母さんは2年前に、お父さんは4年前にどちらも空襲で亡くなった。

 今度はどうやらアタシの番みたい。

 表情が作れているのか分からない状態で苦笑していたら、ラジオからけたたましく

警報が鳴った。

 ————空襲警報。

 病気よりも先に空襲で死ぬ可能性の方が高くなって、私は不思議な繋がりを覚えていた。

 まさかお母さんとお父さんと同じ理由で死ぬなんて。

 天井が崩れて押し潰されるのかな。

 火災で燃えて焼けちゃうのかな。

 それとも爆弾で吹き飛んじゃうのかな。

 もしかしたら運よく免れて病気で死ぬのかもしれない。

 ……結局、私の未来には死以外が見えなかった。

 結局今日が命日になることを考えると、全身の力が抜けた。

 やる気がどことなく失われた気がする。

 これが、諦めるってことなのかな。

 人生初の感情にしんみりしていた……その時。

 

「……死んじゃうの?」

 

「…え?」

 

 隣から声が聞こえた。

 声の方向に視線を向けると、そこには少女がいた。

 私と同い年ぐらいで、黒くて長い髪が綺麗だった。

 

「病気?それとも、空襲?」

 

 少女は悲しそうな声で私に問いをぶつけた。

 なんで初対面なのに悲しそうにするんだろう?

 そんな疑問が頭に浮かびながらも、ぼんやりする頭では質問に答えるのが限界だった。

 

「……分かんない。アタシも、どっちが先なんだろ〜って考えてたの。」

 

「そっか。」

 

 やはり少女の声は悲しそうだった。

 ふと気になったので、名前を聞いてみる。

 

「えっと、名前なんていうの?アタシは、天馬咲希。」

 

「私は、星乃一歌。」

 

 一歌……素敵な名前だなって、そう思った。

 そう言えば、と思って忠告した。

 

「もうすぐ空襲されちゃうから危ないよ。お母さんとお父さんは?」

 

「ん、居ないよ。それに、空襲が来ても大丈夫だから、安心してほしいな。」

 

 そのセリフに、アタシのぼんやりした頭では、そっかと返すことしかできなかった。

 一歌ちゃんは周りを見渡して、ふと、ルーズリーフに目を向けた。

 

「これは?」

 

 一歌ちゃんはそれを拾って中身を見た。

 

「アタシが、歌詞を書いてたんだ。もう書けないけど……」

 

「そうなの?凄いね、歌詞をかけるなんて。」

 

「そんな凄いことじゃないよ〜…でも、ありがとう。」

 

 一歌ちゃんはしばらく歌詞を見ていたが、徐に歌い始めた。

 不思議なことに、それはアタシの頭で描いた曲とまるで同じだった。

 そのことに驚いていると、それに気づいた一歌ちゃんが答えた。

 

「この歌詞には咲希の強い想いが込められていたから、私にも伝わったよ。

 それで分かったんだ。」

 

「凄い……なんか、想いが伝わるって嬉しいね。」

 

「自分の気持ちが方法はどうあれ届くっていうことだからね。」

 

 そこからしばらく、一歌ちゃんと話していた。

 途中で呼び方をいっちゃんに変えたり、アタシがいっちゃんのイケメンムーブに照れたり……

 もうすぐ死ぬのが嘘なんじゃないかって思うほど楽しかった。

 でも、それは唐突にやってきた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

 10分ほどだろうか、いっちゃんと話していたら、妙に鼻をつく匂いが漂ってきた。

 これは……

 

「…いっちゃん。」

 

「うん、お別れ、みたいだね。」

 

 この匂いがもう何度も嗅いだ匂い。

 物が焼ける匂い……どうやらアタシの運命は焼け死ぬことだったみたい。

 

「咲希、最後にさ。歌わない?」

 

「え?」

 

 このままじゃ咲希の最後の思い出が火事になっちゃうから、いっちゃんはそう言った。

 いっちゃんは最後まで悲しそうだったけど、それでも最後までアタシを

元気づけようとしてくれた。

 気づけば空元気が元気に変わっていた。

 いっちゃんに会えて、本当に良かったな。

 アタシは少し息を吸って、答えた。

 

「うん!一緒に歌おう!」

 

 これはきっと、帰りの亡い長い、長い旅。

 でも、いっちゃんとの思い出があるから、きっとどんなに長くても大丈夫。




人って死んだらどうなるんでしょう?
答えを知っている人とは話せない、理解する人だけ増えて知識が全く共有されない不思議な問題。
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