今日は、少し短いかも許して…
新馬戦から戻ってきた俺は、
もう気分が最高だった。
(ふふん……見たか、あの走り!俺、めちゃくちゃ速かったよな!?)
胸を張る、というより――
巨体をブンブン揺らしてドヤっていた。
洗い場に入ると、周りの馬たちがこっちを見る。
俺は首を高く上げて、耳をピンと立てた。
(どうだ?すごいだろ?俺、勝ったんだぞ?)
スタッフたちも笑っている。
「ソブリン、今日の勝ちで気分良くなっちゃったなぁ」
「いや〜、あの暴走からのごぼう抜きは反則ですよ」
(だろ!?もっと褒めていいんだぞ!?)
そんな時、
奥から足音が聞こえてきた。
不二沢、岡戸、そして松田さん。これはもしかして、俺を褒めに来てくれたのか!!
そう思い、俺はさらに胸を張った。
(ほら来た!俺の勇姿を見に来たんだな!さぁ褒めてくれ!)
……と思ったら。
不二沢が、低い声で言った。
「ソブリン。お前なぁ……」
(……え?なんでその声?)
「勝ったのは立派だ。よく頑張った。だがな、あの暴走はなんだ。折り合いもつかず、ペースも考えず……あれじゃ怪我するぞ」
(えっ……怒られてる!?俺、勝ったのに!?)
岡戸も腕を組んで言う。
「お前の脚は確かにすごい。だがな、競馬は“走りたいだけ走る場所”じゃない。勝つために走るんだ。今日のは……たまたま勝てただけだ」
(た、たまたま……!?俺のあの華麗な走りが……!?)
しゅん……と耳が倒れた。
巨体が少しだけ小さくなる。
(うぅ……なんか……悔しい……)
だが――
松田さんだけは違った。
優しく微笑んで、俺の首を撫でてくれた。
「でも……本当にすごかったよ、ソブリン。君の力を信じて良かった。これから一緒に、もっと強くなっていこう」
(……っ!)
胸の奥が、じんわり熱くなる。
(松田さん……!俺、もっと頑張る……!)
岡戸が苦笑しながら俺の首を叩いた。
「まぁいい。怒られるうちが華だ。次は“暴走じゃない勝ち方”を教えてやる」
不二沢も頷く。
「そうだ。今日の勝ちは“才能”だ。次は“競走馬としての勝ち方”を覚えような」
(……うん。俺、もっと強くなる。もっと褒められたいし……こんな売れ残りだった俺を買ってくれた松田さんに胸張ってもらいたいし)
俺は反省の意をこめつつ、大きな頭をコクンと下げた。
ソブリンがしゅんと耳を倒して反省している横で、不二沢が腕を組んで言った。
「さて……次のレースの話をしようか」
岡戸も頷く。
「今日の走りを見る限り、ソブリンは“器”が違う。だが、だからこそ慎重にいきたい」
松田大輝オーナーは、まだソブリンの首を撫でながら聞いていた。
「慎重に……というと?」
不二沢が真剣な表情で言う。
「2歳の内に、栗東でのトレーニングを経験させておきたいです。」
不二沢が、カルテを閉じながら静かに言った。
「正直、このまま美浦でトレーニングをさせても良いのですが、トレーニング設備では栗東の方が優れています。ソブリンの場合はパワーが優れているので、そこを伸ばすためにも栗東の坂路を使いたいですね…そのため、“栗東留学”を前提に考えたいです」
岡戸も頷く。
「今日の新馬戦を見て、確信した。あいつは“普通の馬場”じゃ収まらんただ――」
そこで一度言葉を切る。
「今日の走りは、怪我してもおかしくなかった。あれだけ飛ばして、失速して、そこからもう一回伸びるなんて芸当、身体への負担は相当だ」
不二沢が続ける。
「だから、次走は少し間隔を空けたいです。今は、デイリー杯2歳ステークスから、G1の朝日杯フューチャリーステークスに向かうローテーションを考えています」
松田大輝は、完全に固まった。
「で、デイリー杯って……重賞ですよね……?しかも、その先が……朝日杯……G1……?」
声がわずかに震えている。
岡戸は真っ直ぐに松田を見る。
「松田さん。今日の走りを見て、まだ“普通のレース”に出しますか?」
不二沢も静かに言葉を重ねる。
「ソブリンは、器が違います。だからこそ、最初から“その舞台”を目指すべきです」
松田はしばらく黙り、
テーブルの上の手をぎゅっと握りしめた。
「……正直、怖いです。馬主になって、1年も経っていないのに、新馬戦すらもこんなにあっさり勝って、僕なんかが、そんなレースに馬を出していいのかって…」
岡戸が、少しだけ柔らかい声で言う。
「怖いと思えるなら、大丈夫ですよ。無謀じゃないってことですから」
不二沢も微笑む。
「我々がいます。ソブリンのことは、任せてください」
長い沈黙のあと――
松田は、ゆっくりと頷いた。
「……分かりました。デイリー杯から、朝日杯へ。ソブリンを、お願いします」
その言葉に、不二沢と岡戸は静かに頷いた。
(これで――ソブリンの進む道が決まった)
「あとは、あの無器用な馬をどう鍛えるかですね!」
「本当にそうだな!」
「「ワッハッハ!!」」
『はぁ……はぁ……やっと逃げられたか』
荒い息遣いだけが、暗がりに響いている。
どこか分からない場所。土の匂いと、かすかな青草の香り。遠くで、風が木々を揺らす音がする。
『これで、のんびりでき――』
その言葉を、逃げ切ったはずの背後からの声が遮った。
『ねぇ……?』
冷たい。背筋を撫でるような、細い声。
『なんで、私から逃げるの……?』
ゾクリ、と全身の毛が逆立つ。
『そんなに、ワタシのこと嫌い…?』
悲しい顔をして、俺を追いかける彼女はそう問いかける
『い、いや…むしろ好きな方だけど…』
そう、問いを返した瞬間、悲しい顔から妖艶な笑みを浮かべ、こちらに迫ってきた。
『なら、問題無いわね』
『…え?』
『さあ!!思う存分!!ワタシを愛して!!!!』
「ほぎゃーーーーーーーー!?!?」
本当にどうしてこうなった…
悲鳴が、まだ明るい馬房の中から響き渡った…
さぁ、誰なんですかね?(棒)
ちなみに、この方はヒロインのつもりです。