続きです。
どうぞ!
――どうして、こうなってしまったのかは
少し前に遡る。
「ソブリン、着いたぞ!!」
『ほげぇ?』
「栗東トレセンに着いたぞ!」
(え……もう着いたの? やっとか……俺もう疲れちゃったよ……)
……え? 「お前は寝てただけだろ」って顔してるな、そこの人間。
だまらっしゃい!!寝るのも疲れるんだよ、諸君!!馬だってな、寝るのは仕事なんだよ!!
そんな心の中の言い訳をしていると、馬房に案内され、荷物(?)を下ろされ、そのまま放牧地に連れて行かれた。
(ふむ……ここが栗東……!広い!空気が違う!なんか強い馬の匂いがする!!)
そして俺は思い出した。
(そうだ……ここって栗東だよな!?ってことは……サムもどこかにいるかもしれない!!)
サム。
俺が美浦に行く前に日高の牧場で仲良くしていた、あの馬だ。
(よし……こうなったら探すしかない!!放牧地で走り回って探すんだ!!)
俺は勢いよく地面を蹴った。
ヤッホーーーーい!!
(待ってろよサム!!今行くからな!!)
――この時の俺はまだ知らなかった。
この“全力疾走”が、
とんでもない存在を呼び寄せてしまうということを。
もうかれこれ30分以上は走り回ってるのに、サムの姿がまったく見つからない。
(おかしい……サムなら絶対ここら辺に――)
と思って、サムが居そうなあたりを探していたのだが。
しばらく俺が走っていると、なぜか後ろから何頭かの馬がついてきてくれる。
(えっ、なにこれ……俺、ここでも人気者!?皆がついてくるならもっと走るしかないだろ!!)
そして気づけば、サム探しはどこかに吹っ飛んでいた。
(ごめんねサム……えへへ……でも走るの楽しいんだもん……!)
風を切って、草を蹴って、後ろからドドドッとついてくる仲間たち。
(よーし、次はあっちの丘まで――)
そう思って方向転換した瞬間だった。
放牧地の端に、ぽつんと一頭の牝馬が立っていた。
まるで、こちらの群れに入りたそうに、でも一歩踏み出す勇気がないような……そんな、寂しげな雰囲気をまとっていた。
(あれ……誰だ?)
そう思った俺は、一緒に走っていた馬たちに聞いてみた。
『おれ、あの仔見たことないっすよ』
『私はたまに見かけるけど……話したことはないわ。でも、私よりずっと前からここにいる仔らしいの』
(へぇ……そんなに前からいるのに、なんであんなに目立たないんだ?)
ぽつんと立つその姿が、なんだか放っておけなくて。気づいたら、俺は声をかけていた。
「一緒に走らない?」
すると、その牝馬は驚いたように目を見開いた。
「あなた……私に気づいて、声を掛けてくれるの……?」
(え?そんなに驚く?)
「いや、声くらいは掛けますよ。先輩らしいですし」
「……あなた、名前は?」
「俺?俺はダークソブリンです!!」
「お姉さんの名前は?」
「私は……スティルインラブって、人間さんに呼ばれているわ」
「そしたらスティルさんですね!よろしくお願いします!!」
スティルさんは、ほんの少しだけ微笑んだように見えた。
こうして俺たちはスティルさんを仲間に入れて、
また走り始めた。
その後、しばらくすると、他の馬たちは飽きたのか、スティルさんを除いていなくなってしまった。
(あれ……みんなどこ行った?)
でも、スティルさんはずっと俺の隣にいた。
「スティルさんって、G1レースを3回も勝ってるんですか!?スゲー!!」
「ふふ……そんな昔の話よ。あなた、2歳馬だったのね。体が大きいから同い年かと思ったわ」
「え?そうですか!?照れます……!そしたらスティルさ――」
「女に年齢は聞かないものよ」
「は、はい……!」
そんな他愛もない話をしながら、俺の放牧時間は終わり、何か心残りがありつつもスティルさんと別れた。
(……なんか、もっと話したかったな)
そう思いながら馬房に戻った。
次の日。
放牧地に出された俺は、昨日のことを思い出していた。
(スティルさん、今日もいるかな……)
そんなことを考えていたら――
「あら、来たのね」
昨日と同じ場所で、スティルさんが日向ぼっこしていた。
(いたーーー!!)
「スティルさん!おはようございます!」
「ふふ……元気ね、ソブリン」
そのまま俺はスティルさんの隣に座り、一緒に日向ぼっこをした。ぽかぽかして気持ちいい。スティルさんは静かで落ち着いていて、なんだか一緒にいると安心する。
(あれ……俺、昨日よりリラックスしてる?)
しばらくすると、スティルさんが立ち上がった。
「少し……走ってみない?」
「えっ、いいんですか!?じゃあ、軽く行きましょう!」
俺は軽く地面を蹴った――つもりだった。
「……っ!?」
スティルさんが驚いたように目を見開く。
「ちょ、ちょっと待って……速いわね、あなた……!」
(あ、やべ……本気じゃなかったのに……)
「す、すみません!!じゃあスピード落とします!!」
「いえ……いいのよ。あなたの“本当の速さ”を見せてちょうだい」
(えっ……?)
スティルさんの瞳が、昨日よりもずっと強く俺を見ていた。
(なんか……嬉しいけど……ちょっと怖い?)
その後も何日か、俺はスティルさんと日向ぼっこしたり、並走したり、他愛もない話をしたりして過ごした。
(なんか……楽しいなぁ)
そう思っていた。
ある日の午後。放牧地の奥で、もう一頭の牝馬に出会った。黒鹿毛で、キリッとした目つき。どこかクールで、近寄りがたい雰囲気。
『あら、新入り?』
「えっ……あ、はい!俺、ダークソブリンです!」
『私はアドマイヤグルーヴ。よろしく』
(グルーヴさん……なんかカッコいい!!)
なぜか分からないが、俺とグルーヴさんはすぐに気が合った。
スティルさんとは違う、孤独な女王気質な人(?)馬だったが俺に対してはすごく優しくしてくれた。
『スティルとは仲良くしてあげてね。あの仔、昔からちょっと……影が薄いのよ』
「え、そうなんですか?」
『ええ。でも悪い仔じゃないわ。ただ……気に入った相手には、ちょっと重いけど』
(……重い?)
(スティルさんが……?いやいや、そんなわけ――)
そう思いながら、俺は放牧地の出口へ向かった。
その背後で、スティルさんがこちらをじっと見ていたことに、俺はまだ気づいていなかった。
次の日の夕暮れ時、放牧地に出された俺は、いつものようにスティルさんを探した。
(今日も日向ぼっこしてるかな……)
そう思っていたら――
「あら、ソブリン。来たのね」
いつもの場所。
いつもの声。
だけど――いつもより、少しだけ近い。
(あれ……?なんか距離近くない?)
「おはようございます、スティルさん!」
「ふふ……今日も元気ね」
スティルさんは微笑んでいる。でも、なんだろう……昨日より“目の奥”が鋭い気がする。
(気のせい……だよな?)
俺が隣に座ろうとした、その瞬間。
「ねぇ、ソブリン」
「はい?」
「昨日……誰と話していたの?」
(……え?)
「黒鹿毛の……クールなあいつよ。あなた、楽しそうに話していたわね?」
(あ、グルーヴさんのことか)
「あぁ、アドマイヤグルーヴさんです!すごく優しくて――」
「優しいの?」
スティルさんの声が、ほんの少しだけ低くなった。
(え……?)
「あなた、あの仔と……仲良くなったの?」
「え、えっと……まぁ、その……はい?」
スティルさんはゆっくりと立ち上がり、俺の正面に回り込んだ。
「……そう。仲良くなったのね」
(な、なんか怖い!?)
「スティルさん……?」
「ねぇ、ソブリン。あなた、私といる時より……楽しそうだったわ」
(いやいやいやいや!?なんでそんなこと知ってるの!?)
「私……ずっと見ていたのよ?」
(見てたの!?)
スティルさんが一歩、近づく。
「あなたが誰と話して、誰と笑って、誰と走っているのか……全部」
(全部!?)
「だって――」
スティルさんの瞳が、ぞくりとするほど深く、暗く、熱を帯びた。
「あなたのことが……好きだから」
(ひっ……!?)
「さあ!!思う存分!!ワタシを愛して!!!!」
「ほぎゃーーーーーーーー!?!?」
俺は全力で逃げ出した。
放牧地に悲鳴が響き渡る。
本当にどうしてこうなった……。
ウマ娘であれだけ重いんだから、これくらいでも大丈夫だよね?…ね?
※誤字修正しました。