衝撃のその先へ…   作:アグD

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朝日杯だと思ったでしょ!
残念でした。とりあえず、どうぞ!


幕間:エリザベス女王杯

 

秋の京都競馬場。

澄んだ空気とは裏腹に、スタンドには熱気が渦巻いていた。

 

そのパドックの一角で、一頭の栗毛の牝馬が、まるで親の仇でも見るかのようにある鹿毛の馬を鋭くにらみつけていた。

 

その栗毛の馬の名は――スティルインラブ。

三冠牝馬。

かつて“女王”と呼ばれた馬。

 

「もう終わった」

「昔の早熟なだけの馬」

3冠を制した後、レースに負け続け、そう言われ続けた彼女は、前走でその評価を覆し、再び光を取り戻した。

 

そして今日――“女王”の座を奪い返すために、この舞台へ戻ってきた。

加えて、その視線の先にいるのは――自分の大切な人(馬)を奪った鹿毛の女狐。

 

名は――アドマイヤグルーヴ。

 

スティルが近づくと、グルーヴはちらりと横目で見ただけで、冷たく言い放った。

 

『……何?』

 

スティルは一歩も引かず、むしろ前へ踏み込む。

 

『あなたに言いたいことがあるの。』

 

グルーヴは鼻で笑った。

 

『へぇ。“もう終わった三冠馬さん”が、私に何の用?』

 

スティルの瞳が鋭く光る。

 

『終わってなんかない。私は――まだ走れる。今日、それを証明しに来たのよ』

 

グルーヴは首を傾け、まるでつまらなそうに言った。

 

『ふぅん。でも、あなたが何を証明しようと、“女王”の座は私のものよ。そしてあの仔もね…』

 

スティルは耳を絞りつつも一歩も退かない。

 

『それは、走ってみなきゃ分からないわ』

 

二頭の間に、ピリッとした空気が走る。

 

周囲の馬たちが思わず距離を取るほど、その場の空気は張り詰めていた。

 

御幸秀明が手綱を取りながら苦笑する。

 

「スティル……頼むからパドックでケンカはやめてくれよ……」

 

だがスティルは耳も貸さない。

 

(今日こそ――私は“女王”に戻る。そして……あの仔も取り返す!)

 

その瞳には、かつて三冠を制した時と同じ、いや、それ以上の強い光が宿っていた。

 

 

二頭の牝馬が火花を散らすパドック。その空気を切り裂くように、場内スピーカーから実況が流れ始めた。

 

《さぁ、今日の京都競馬場 第11R は G1 エリザベス女王杯。今年も豪華なメンバーが揃いました!》

 

観客のざわめきが一段と大きくなる。

 

 

《まずは一番人気――エアメサイア!今年の秋華賞を制し、勢いそのままにここへ挑みます。3歳の新女王が、古馬相手にどこまでやれるのか注目です!》

 

若い栗毛が軽やかに歩く。その姿はまさに“新時代の象徴”。

 

《続いて二番人気――スイープトウショウ!今年の宝塚記念を制した実力馬。後方一気の鋭い末脚で、今日も勝利を狙います!!》

 

黒鹿毛の牝馬は、騎手の手綱に少し反抗するように首を振りながらも、その瞳には揺るぎない自信が宿っていた。まるで、「勝つのは私よ」と言っているかのように。

 

 

《三番人気は――このレースを2連覇中の女王、アドマイヤグルーヴ!史上初の3連覇なるか、注目が集まっています!》

 

グルーヴはスティルを一瞥し、冷たく鼻を鳴らす。

 

『……邪魔しないでよね』

 

スティルは負けじと睨み返す。

 

『あなたこそ、今日で終わりよ』

 

火花が散る。

 

《そして四番人気――復活の三冠牝馬、スティルインラブ!前走で見事な勝利を挙げ、“女王復活”の声も上がっています!》

 

スティルは堂々と胸を張り、観客の声援を受け止めていた。

 

 

《さぁ、今年のエリザベス女王杯。新旧の女王、そして実力馬が揃った豪華な一戦!果たして栄冠を手にするのは――若き新女王か、実力派の黒鹿毛か、3連覇を狙う王者か、それとも復活を期す三冠牝馬か!》

 

スタンドの熱気が、まるで地面を震わせるように伝わってくる。

 

スティルは深く息を吸い、静かに目を閉じた。

 

(今日こそ――私は“女王”に成る)

 

その瞳には、確かな炎が宿っていた。

 

そして目を開けた瞬間、スタンドの熱気が一気に押し寄せてきた。

 

《さぁ、ゲートインが進んでいきます!2005年のエリザベス女王杯、いよいよスタートです!》

 

ゲートへ向かう馬たち。スティルインラブは静かに、しかし鋭い目で前を見据えていた。アドマイヤグルーヴはちらりとスティルを見て、冷たく鼻を鳴らす。

 

『せいぜい、ついてきなさい』

 

スティルは一歩も引かない。

 

『勝つのは私よ』

 

《ゲートイン完了しました。》

 

 

《今、スタートしました!!エリザベス女王杯、16頭が一斉に飛び出しました!》

 

スティルは中団のやや後ろ。アドマイヤグルーヴはその少し前。エアメサイアは好位の内。スイープトウショウは後方でじっと脚を溜める。

 

《まずは先行争い!

 外からヤマニンアラバスタ、内からオースミハルカ!

 その後ろにエアメサイア!》

 

スティルは御幸騎手の手綱に従い、リズムよく走りながら前を伺う。

 

(焦らない……焦らない……)

 

《スタンド前に入ってきました!大歓声の中、オースミハルカが先頭!逃げる逃げる!エアメサイアは3番手の内!アドマイヤグルーヴは中団の外!スティルインラブはそのすぐ後ろ!》

 

スティルはちらりとグルーヴの背中を見る。

 

(絶対に負けない……!)

 

グルーヴは気づいて振り返り、冷たく言い放つ。

 

『見るだけならタダよ?』

 

(……っ!)

 

《向こう正面に入って、ややペースは落ち着いたか!2番人気スイープトウショウは後方二番手!この馬らしい位置取りです!》

 

スイープは静かに、しかし瞳は燃えていた。

 

(どうせ最後は私が全部抜くんだから)

 

《さぁ、三コーナーに入って、各馬が動き始めた!!》

 

御幸がスティルの首を軽く叩く。

 

「スティル、行くぞ」

 

(うん……!)

 

スティルが外へ持ち出される。アドマイヤグルーヴも同時に動く。

 

『ついて来れる?』

 

『あなたこそ、置いていくわ!』

 

二頭が並ぶように加速する。

 

《さぁ、四コーナーに入って、熾烈な争い!!エアメサイアが前を追う!しかし、外からアドマイヤグルーヴ!さらにその外からスティルインラブ!!》

 

観客の歓声が爆発する。

 

スティルは風を切り裂きながら、グルーヴの横に並びかける。

 

(届く……!)

 

グルーヴが歯を食いしばる。

 

『来ないでよ……!私だって…私だって!勝たないといけないんだから!!!!』

 

 

《さぁ最後の直線!!オースミハルカが粘る粘る!エアメサイアが迫る!外からアドマイヤグルーヴ!さらに大外からスティルインラブ!!これは最後まで分からないぞ!!》

 

スティルの脚は止まらない。

 

(行ける……!行ける!!)

 

御幸が叫ぶ。

 

「スティル!! もう一伸びだ!!」

 

スティルは首を伸ばし、必死に前へ前へと食らいつく。

 

だが――

 

《大外からスイープトウショウ!!ものすごい脚だ!!》

 

黒い影が一気に迫る。

 

(えっ……!?)

 

スイープが風のように抜けていく。

 

(速い……!)

 

《スイープトウショウ!!スイープトウショウが突き抜けた!!宝塚記念に続き、ここでも強い!!》

 

スティルは必死に食らいついたが、わずかに届かない。

 

《二番手争いは大接戦!!アドマイヤグルーヴか、いや外からスティルインラブ!!》

 

スティルは肩で息をしながら、前を走り抜けたスイープの背中を見つめた。

 

(……強い)

 

アドマイヤグルーヴが横に並ぶ。

 

『ふん……今日はあの女が一枚上手だったわね』

 

スティルは悔しさを噛みしめながらも、静かに言った。

 

『でも……私はまだ走れる』

 

グルーヴは少しだけ目を細めた。

 

『女王の座も――あの仔も。簡単に渡すと思わないで』

 

スティルは力強く頷いた。

 

(絶対に、渡さない。)

 

その瞳には、まだ消えていない炎が確かに宿っていた。

 





これが女の争い…


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