衝撃のその先へ…   作:アグD

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今度こそ、ソブリンのレースです、
どうぞ!


第13話:朝日杯フューチュリティステークス 前編

 

「みなさんこんにちは!!」

 

馬運車の中で、俺は元気よく鼻を鳴らした。

 

「え?俺のレースはいつかって?まぁまぁ、そんな焦らないでくださいよ~」

 

(……本当は俺も早く走りたいんだけどね)

 

「でもね!“今日、俺のレースがあるらしい”んですよ!!」

 

俺は胸を張って続けた。

 

「というわけで、俺のレースについては現地に着いてから語るとして、最近、俺の知り合いがいっぱい走ったらしいんですよ!」

 

 

「まずは、エリザベス女王杯!」

 

スティルさんとグルーヴさんが、ついに正面からぶつかったらしい。

 

「けどね……どっちも勝てなかったんですって!」

 

(いや…本当にあの二頭が!?って感じですよ…)

 

「勝ったのは スイープトウショウ さん。グルーヴさんが2着、スティルさんが3着だったらしいです!」

 

(スティルさん……悔しかっただろうな……)

 

「それから、天皇賞(秋) にはロブロイさんとグルーヴさんが出たんですけど……」

 

ロブロイさんは2着。グルーヴさんはまさかの17着。

 

「……あんなに強いグルーヴさんでもダメな時があるなんて、びっくりしちゃうぜ……G1って怖いね…」

 

(あと、そのあとの落ち込み具合がひどくて慰めるのが大変だったよ……)

 

「最後に……」

 

俺は少しだけ声を落とした。

 

「シーザリオさんが……繋靱帯炎?って病気のせいで、しばらく放牧に出ることになったらしいんです」

 

(……大丈夫かな)

 

あの青毛の、静かで優しい瞳がふっと浮かぶ。俺たちが最後に会ったのは、俺が栗東を離れる日の朝だった。

 

(あの時……なんか言いたそうにしてたのに。もっと話しておけばよかったな……)

 

胸の奥がじんわり痛む。

 

 

そのことを聞いたのは、馬運車に乗る前のことだ。

 

七瀬さんが、少し言いにくそうに俺の前にしゃがんだ。

 

「ソブリン、聞いてね……あなたが向こうで仲良くしてたシーザリオちゃんが……繋靱帯炎を患っちゃってね、しばらくお休みすることになったんだ」

 

その言い方で、“今は会えない”ってことが自然と分かった。

 

思わず、声が漏れた。

 

「ヒヒン……ヒヒィン……!」

 

(……会いたい。もう一度……)

 

七瀬さんは困ったように笑って、それでも優しく俺の首を撫でてくれた。

 

「気持ちは分かるよ。でも今はね、シーザリオちゃんも頑張ってるから」

 

(……そっか)

 

分かってる。分かってるけど――

 

(いつか……また会いたい)

 

 

 

――そう思ったところで、馬運車がふっと揺れ、速度が落ちていく。どうやら、目的地に着いたらしい。

 

「……おっと」

 

気持ちの奥に沈んでいた重さが、揺れと一緒に少しだけ浮かび上がる。

 

(今は……走らなきゃな)

 

ゆっくりと扉が開き、外の空気が一気に流れ込んできた。

 

冷たいけど、どこか懐かしい匂い。レース場の匂いだ。

 

七瀬さんが顔を覗かせる。

 

「ソブリン、着いたよ。行こうか」

 

俺は小さく鼻を鳴らして頷いた。

 

(よし……切り替えよう)

 

馬運車から降りると、地面の感触がしっかりと蹄に伝わる。遠くから聞こえるざわめき。風に乗って流れてくる実況の声。そして、どこかで鳴く他の馬の声。

 

全部が、“レースが始まる”って教えてくれる。

 

七瀬さんに導かれながら、俺はパドックへ向かう通路を歩き出した。

 

(シーザリオさん……俺、あなたの分まで走って来るから、見ててね…)

 

胸の奥に残った想いをそっと押し込んで、前を向く。

 

そして――視界が開けた。

 

ぐるりと囲む観客席。ざわめきと期待の熱気。芝の匂いと、馬たちの気配。その中心に、俺は足を踏み入れた。

 

(……よし)

 

ここからが、俺の舞台だ。

 

そう思いながら七瀬さんに手綱を引かれ、ぐるっとあたりを見回す。

 

(……おお、いるいる)

 

前回のデイリー杯で見た顔ぶれがちらほら。あの時と同じ落ち着いた目をしてるやつもいれば、今日はやけに気合いが入ってるやつもいる。

 

それに――見たことのない新顔も何頭か混じっていた。

 

(へぇ……みんな強そうだな)

 

そんな中、ひときわ目立ってる芦毛の馬体が視界に飛び込んできた。

 

「おっ、ソブリンじゃん」

 

軽い声。振り向くと、友達の フサイチリシャール がいた。

 

「リシャール君!」

 

俺が声を返すと、彼はいつもの調子でニッと笑った。

 

「久しぶりだな。元気してた?」

 

「まあね。そっちは?」

 

「絶好調。今日は負ける気しないし」

 

相変わらず自信満々だ。でも、その目は冗談じゃなく本気のやつ。

 

「ソブリンも調子良さそうじゃん。……でもさ」

 

リシャール君が少しだけ顔を寄せてきた。

 

「今日は絶対勝つから!」

 

その言い方は軽いけど、芯の部分は鋼みたいに固い。

 

胸の奥が、ふっと熱くなる。

 

「言うねぇ。じゃあ俺も――本気で行くよ

 

その言葉を聞いた瞬間、リシャール君の耳がピクリと動いた。ほんの一瞬だけ、彼の目がわずかに見開かれる。

 

(……あ、今、驚いたな)

 

すぐにいつもの余裕の笑みに戻ったけど、その一瞬の揺れは確かに見えた。

 

「……へぇ…そう来るんだ?」

 

声は軽いのに、どこかさっきより真剣味が増している。リシャール君は満足そうに鼻を鳴らした。

 

「その方が面白いだろ?」

 

二頭の間に、静かだけど確かな火花が散った。パドックのざわめきが、少しずつレース前の空気へと変わっていく。

 

 

 

(よし……やるぞ)

 

そう心に決め、前を向いた俺は、背中に乗ってきた岡戸さんに導かれパドックを出て、返し馬のためにコースへ向かった。

 

続いて冷たい風が頬をかすめる。観客のざわめきが、さっきよりずっと近い。

 

「ソブリン、軽く流すよ」

 

岡戸さんが手綱を軽く引く。俺は頷くように鼻を鳴らし、ゆっくりと走り出した。

 

(ふぅ……緊張してきた……)

 

芝の感触を確かめるように、軽くステップを踏む。

 

トン、トン、ふわっ。

 

(……あれ?なんか今日、体が軽いな)

 

もう一回。

また一回。

 

脚が勝手に弾むように動く。自分でも理由が分からないけど、なんだか気持ちが乗ってくる。

 

その瞬間――

 

「おい……あれ見た?」

 

「え、ちょっと待て……あいつ……」

 

観客席からざわめきが起きた。

 

(え?なに?俺なんかした?)

 

「テイオーステップじゃねぇか!?あれ!」

 

「いや……でもなんか……スキップがド下手だな……」

 

「リズムは似てるけど、なんか惜しいんだよな!」

 

(……スキップが……下手……?)

 

胸がキュッと縮む。

 

(うそ……俺、そんな変な動きしてた!?)

 

岡戸さんが苦笑しながら俺の首を軽く叩く。

 

「ソブリン、テンション上がってるのは分かるけど……あんまり跳ねすぎると笑われるぞ?」

 

(わ、笑われてるの!?)

 

観客の声はさらに大きくなる。

 

「でも可愛いなあれ!」

 

「頑張れよーソブリン!」

 

(うぅ……恥ずかしい……!)

 

耳が熱くなる。顔まで熱くなる気がする。

 

(もう絶対あんなステップしない!

 ………けど悔しいからこっそり練習しとこ…)

 

でも――その声援が、胸の奥にじんわり染みてきた。

 

(……よし。気持ち切り替えよう)

 

俺は深く息を吸い、ゲートへ向かう道を進んだ。どうにか、自分の感情を抑えつつ、ゲート前をぐるぐる回り、ゲート入りを待つ。

 

 

 

《さぁ、阪神競馬場メインレース!第57回 朝日杯フューチュリティステークス!》

 

観客のざわめきが一気に変わる。笑い声が消え、期待と緊張の色に染まっていく。

 

《今年も注目の2歳馬が揃いました!まずは人気どころ、フサイチリシャール!前走東京スポーツ杯2歳ステークスを制し、勢いそのままにここへ挑みます!》

 

 

リシャール君が前を歩きながら、ちらっと俺の方を振り返った。

 

 

(……さっきの動揺、もう完全に消えてるな)

 

 

《そしてこちらも大注目でしょう、一番人気ダークソブリン!前走の末脚は強烈でした!返し馬では少し跳ねるような動きを見せていましたが……》

 

(やめてぇぇぇぇぇ!!実況さん言わないで!!)

 

《……気合いが入っている証拠でしょう!》

 

(……あ、フォローしてくれた……)

 

少しだけ救われた気がした。

 

だが実況は続ける。

 

《さて、ダークソブリンといえば父は名馬トウカイテイオー。しかも、ここまで無敗!!!ということは!ディープに続き、無敗の3冠を期待してしまいますね!!!さらに、その血を思わせるような軽いステップも……》

 

(ていおー?……どこかで聞いた事あるけど……忘れちゃった!(∀`*ゞ)テヘッ)

 

《……しかし!テイオーが見せた“テイオーステップ”とはリズムがまったく違いますね!》

 

(違うって……そんなに変だったの!?)

 

《むしろ……そうですね……ここまで違うのならば“ソブリンステップ”とでも呼びましょうか!》

 

観客席がどっと沸く。

 

「ソブリンステップだってよ!」

「可愛いじゃん!」

「いや下手なだけな!」

 

(下手って言うなぁぁぁ!!)

 

耳まで熱くなる。でも、声援はどこか温かい。

 

《さぁ、各馬がゲートへ向かっていきます!運命の一戦、まもなくスタートです!》

 

ゲートが近づくにつれ、恥ずかしさは薄れ、代わりに熱が胸に満ちていく。

 

……よし。

 ステップは下手でも、走りは負けない。

 

俺は深く息を吸い、ゲートへと歩みを進めた。

 

 

 





いやーまさかテイオーステップができないとは…
こんなテイオー産駒の架空馬ほかにいないでしょw



あと、シーザリオの扱いどうしようかな…?
史実通り引退させるか、現役続行か…
意見あったら、感想にお願いします!

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