衝撃のその先へ…   作:アグD

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昨日の投稿時間と言い、今日の投稿時間もそうですが、時間が揃っていなくて申し訳ない。
明日は21時05分にできるはず…です。

とりあえず、どうぞ!!


第14話:朝日杯フューチュリティステークス 後編

 

いざゲート前に立つと、さっきまで胸を締めつけていた羞恥心なんて、まるで嘘みたいに消えていた。代わりに湧き上がってきたのは――ここにいる誰よりも速く走り、俺の存在をこの場に刻みつけたいという、燃えるような衝動。そんな思いにふけっていると、岡戸さんが俺の首を軽く叩く

 

「ソブリン、落ち着け。まずはスタートを決めるぞ。そのあとは、お前の走りで良い。」

 

「ブルっ」(あいよ)

 

岡戸さんの掛け声のおかげで、少し冷静にはなったが未だに心の中に燻っている闘争心は消えそうにない。俺はもう一度気持ちを静めるために深呼吸をしてからゲートの中へと足を踏み入れた。

 

隣の枠から、リシャール君の鼻息が聞こえる。

 

「ブルㇽ……」(ソブリン……)

 

小さく、低い声。

 

「ヒヒン?」(本気で来いよ?)

 

「ヒヒン!」(もちろん……!)

 

俺は前を見据えた。観客のざわめきが遠くなる。世界が、ゲートの向こうだけになる。

 

《さぁ、全馬ゲートイン完了!》

 

実況の声が、空気を震わせる。

 

《第57回 朝日杯フューチュリティステークス――》

 

(行くぞ……!)

 

――ガコンッ!!

 

ゲートが開いた瞬間、体が勝手に前へ飛び出した。

 

《今!各馬綺麗なスタートを切りました!!》

 

芝を蹴る音。

風を切る感触。

馬たちの気配が一気に広がる。

 

『速い……!みんな速い!!』

 

前へ出る馬、外から被せてくる馬、内で粘る馬。その中で、白い影――リシャール君が鋭く前へ。

 

『リシャール君……!負けたくない。絶対に。』

 

岡戸さんの声が飛ぶ。

 

「ソブリン、焦るな!リズムを作れ!」

 

『うん……分かってる!』

 

呼吸を整え、脚の回転を一定に保ちながら、じわじわと前との差を詰めていく。

 

《好スタートはレソナル!続いてダイヤモンドヘッ――おっと!先頭へフサイチリシャールが並びかけていく!外には2番人気ジャリスコライト!》

 

俺は外目の中団。岡戸さんと折り合いはついている。この展開も前教えてもらった。

 

《一番人気ダークソブリンは中団の外!ここからどう動くか!》

 

大丈夫……ここからだ……!

風が強くなる。前との差はまだある。でも焦りはない。

岡戸さんが静かに言う。

 

「ソブリン、そのまま。手応えはいいぞ」

 

風が強くなる。前との差はまだある。でも焦りはない。脚は軽い。呼吸も整っている。胸の奥で熱が膨らんでいく。

 

そして――向こう正面あたりで岡戸さんの声が、短く鋭く飛んだ。

 

「ソブリン、リシャールの後ろに付け!」

 

その一言で、俺の体が自然と前へ伸びた。

 

『……了解!』

 

外からスッと加速し、芦毛の馬体――フサイチリシャールの真後ろへ滑り込む。距離はほとんどゼロ。白い尻尾が目の前で揺れる。

 

《おっと!ここでダークソブリンが動いた!中団外からスーッと前へ!フサイチリシャールの真後ろに取りついた!》

 

『ここだ……ここで離されなければ……!』

 

隊列が縦長になり始める。前の馬たちが一斉にペースを上げる。

 

《さぁ、3コーナーへ向かいます!先頭はレソナル!そこへフサイチリシャールが並びかける!2頭が競り合う形!》

 

リシャール君が前へ出ようとする。レソナルが必死に抵抗する。

 

『……リシャール君、行く気だ!』

 

俺はその真後ろで、脚を溜めながら機を伺う。

 

《その後ろにダイヤモンドヘッド、ジャリスコライト!そしてダークソブリンはフサイチリシャールの真後ろ!絶好の位置取りだ!!》

 

観客席がさらに沸く。

 

『……ここだ。この位置なら……行ける!』

 

3コーナーのカーブを回りながら、俺はさらに距離を詰めた。白い馬体がすぐそこにある。息遣いまで聞こえる距離。

 

《さぁ、4コーナー!先頭はレソナルとフサイチリシャール!そのすぐ後ろにダークソブリン!3頭が固まって最後の直線へ向かう!》

 

そして――4コーナーの出口。リシャール君がレソナルを抜きにかかる。芦毛の馬体が前へ躍り出る。

 

その瞬間――岡戸さんの声が鋭く飛んだ。

 

「ソブリン、行け!!」

『今だ!!』

 

俺は内から一気に脚を伸ばした。リシャール君の横腹が視界に入る。そのまま――あっさりと抜き去った。

 

《ダークソブリンだ!!ダークソブリンが4コーナーで一気に先頭へ!!フサイチリシャールを抜き去った!!》

 

観客席が爆発する。

 

『行く……!ここから全部出す!!』

 

しかし――外から黒い影が飛んできた。

 

《外からスーパーホーネット!!スーパーホーネットが大外一気!!ものすごい脚だ!!》

 

黒い馬体が風を裂いて迫る。

 

『……来た!でも……抜かせない!!』

 

胸の奥で、何かが燃え上がる。負けたくないという叫び。それが全身から溢れ出す。

 

《先頭はダークソブリン!外からスーパーホーネット!内からフサイチリシャール!3頭が横一線!!》

 

スーパーホーネットが迫る。リシャール君も食らいつく。

だが――2頭の脚が、ほんの一瞬だけ鈍った。

 

《おっと!?スーパーホーネット、伸びが止まったか!?フサイチリシャールも追いきれない!!》

 

『この程度か…?……来れるもんなら来てみろ!!』

 

俺の覇気が、2頭を押し返した。

 

《ダークソブリンだ!!ダークソブリンが先頭!!残り100!!後ろの2頭が伸びない!!これは……これは強い!!》

 

風が割れる。

芝が弾ける。

世界が前へ流れる。

 

『勝つ……!!絶対に!!』

 

――その瞬間、俺は最後の一歩を踏み込んだ。

 

蹄が芝を叩き、体が前へと投げ出される。

 

そして――

 

ゴール板を駆け抜けた。

 

その刹那。

 

世界が、一度、真っ白になった。音が消えた。風の感触も、蹄の震動も、後ろから迫っていた気配さえも――全部、遠くへ溶けていく。まるで時間が止まったみたいに、俺の意識だけが宙に浮かんでいた。

 

『……今の……俺の全力……?本当に……勝ったのか……?』

 

ほんの一瞬の静寂。だが次の瞬間、耳をつんざくような歓声が競馬場を揺らした。

 

《勝ったのはダークソブリン!!後続に2馬身差をつけての完勝です!!無敗のまま朝日杯フューチュリティステークスを制しました!!強い!強すぎる!!》

 

観客席が波のように揺れる。

 

そして――その歓声が、ひとつのリズムに変わっていく。

 

「「「お・か・べ! お・か・べ!!」」」

 

「「「お・か・べ! お・か・べ!!」」」

 

「「「お・か・べぇぇぇぇぇ!!!」」」

 

岡戸さんの名前が、まるで地鳴りみたいに響き渡る。岡戸さんは俺の首を軽く叩き、息を整えながら笑った。

 

「……ソブリン、やったな」

 

その声が、胸の奥にじんわり染みた。

 

『……うん。俺、やったよ……!』

 

観客の熱気が、風みたいに体を包む。

 

その瞬間――胸の奥から、抑えきれない何かが込み上げてきた。勝った喜び。走り切った誇り。ここにいる全員に届いてほしいという想い。それらが全部、ひとつになって――俺は天に向かって首を伸ばし、腹の底から声を放った。

 

「ヒィィィィィィィィィィィィン!!!!!」

 

勝利の雄叫びが、冬空に突き抜ける。観客席がさらに沸いた。

 

「「「ソブリーーン!!!」」」

 

「「「強いぞーー!!!」」」

 

「「無敗の3冠取ってくれーーー!!!」」

 

『……ありがとう。みんな……ありがとう……!』

 

風が頬を撫でる。芝の匂いが胸に広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――Side 岡戸騎手

 

 

勝利後の騎手へのインタビューにおいて、フラッシュが雪のように降り注ぐ中、マイクが岡戸騎手へ向けられる。

 

「ソブリンは、これくらい勝って当然です」

 

その第一声で、記者たちが一斉にざわついた。岡戸騎手は落ち着いた表情のまま、淡々と、しかし熱を込めて語り始める。

 

「まず、ソブリンの良いところは――私が指示をした瞬間に、“理解して、実行して、さらに上を行く”ところです」

 

そこからが長かった。

 

「3コーナーでリシャールの後ろに付けと言った時も、あれはただの位置取りではなく、“勝つための布石”だということ瞬時に理解して動いてくれました。普通の2歳馬なら、あの密集地帯に飛び込むのは怖いんです」

 

「その上、4コーナーで抜け出す時の反応も素晴らしい。あれはもう、馬というより“戦略家”ですよ。レース全体を俯瞰して走っているような……」

 

「返し馬でのあのステップもですね、ただの跳ねではなく、身体の柔らかさとバネの強さの証拠です。あれを見て私は“今日は勝てる”と確信しました」

 

「そしてスーパーホーネットが来た時の覇気。あれは、私が今まで乗ってきたどの馬よりも……」

 

……10分後。

 

流石に長いと感じたのか、記者の一人がついに口を開いた。

 

「岡戸さん、そろそろまとめを……!」

 

「まぁ、とりあえずはこれくらいですね」(※十分すぎるほど語った)

 

そして岡戸騎手は、最後にふと遠くを見るような目で言った。

 

「今はディープインパクトが幅を利かせているみたいですが、ソブリンはディープに匹敵か、それ以上……」

 

言いかけて、ハッと口を押さえる。

 

「……おっと、これはまずいですね。この話はまた今度にしましょう」

 

だが――記者たちは逃さない。

 

「今の聞きました!?岡戸さん!それは、ソブリンがディープ以上ってことですか!!?」

 

「無敗の三冠確実!?いや、それ以上の存在か!!?」

 

「史上最強馬誕生か!!?」

 

「ダークソブリン、伝説の始まり!!」

 

岡戸騎手は苦笑いしながら、肩をすくめて答えた。

 

「……まぁ、あとはソブリンが証明してくれますよ」

 

その言葉に、記者たちの熱気はさらに高まった。冬空の下、“無敗の三冠候補”の名は、競馬場中に響き渡っていた。

 

 





これは岡戸さんやっちゃったかな?

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