入厩前です!!
どうぞ!
名前をもらった翌日。
俺は朝からテンションがバグっていた。
「ブルルルルッ!!(俺はダークソブリンだぁぁ!!)」
サムが横でドン引きしてる。
「ヒヒン…(お前昨日からうるさいぞ…)」
いやいや、そりゃテンション上がるでしょ!?
だって昨日まで“名無しの黒いデカ馬”だったのが、
今日から ダークソブリン だよ!?
闇の君主だよ!?
中二病全開みたいな名前で、恥ずかしさは結構あるけど、めっちゃカッコいいじゃん!!
飼育員さんにも言われた。
「お前、今日はやけに元気だな〜。名前ついて嬉しいのか?」
嬉しいに決まってるだろ!!
俺は胸を張って「ブルッ!」と鳴いた。
(※実際はただの馬の鳴き声)
サムが横でため息ついてる。
「ヒヒーン(はいはい、よかったな)」
おいサム、なんだその“はいはいワロス”みたいな態度は。
お前だって名前ついた時テンション上がってただろ!
もういいよ…
そんなことより、最近、飼育員さんたちがやたらと俺のことを見ながら話してる。
なんか俺、やっちゃいました?
心あたりがあるとすれば、
飼育員さんが居ない間に馬房を抜け出して、テレビを見ていたことかな?
それとも、サムのいない隙に残してた食事を奪ったこと?(サムは気づいてないみたい。)
「そろそろだなぁ」
「もう十分大きいし、動きもいいし」
「厩舎に送るタイミング、そろそろ決めないとな」
……え?
厩舎?
なんか聞いたことあるけど、よく知らない場所だぞ。
とりあえず、サムに聞いてみるか。
「ヒヒン? (おい、厩舎って何か知ってる?)」
「ビヒン ヒヒン? (知らん。それより、俺が残してた食料知らん?)」
「ビヒッ!? (ゲッ!?)」
「ヒヒン!!! (お前だったのか!許さん!!)」
ヤベッ、サムが怒っているから、後でお母さんのところに忍び込んで、聞いてみるか。
「ヒヒーン (おかーさん!来たよー)」
アストレアが、のんびり草を食べながら顔を上げた。
「ヒヒン?(どうしたの、そんな慌てて)」
「ヒヒヒン!(サムが怒ってる!俺がサムのご飯食べたのバレた!)」
「ヒヒーン……(あんた、またやったのね……)」
お母さん、完全に“またか”って顔してる。
いや、そんなに食べてないよ?
ちょっと味見しただけだよ?(※馬の味見=ガッツリ食べる)
アストレアはため息をつきながら、俺の顔をペシッと軽く叩いた。
「ヒヒン? ブルㇽ(で、何の用? というか、こっちに来ちゃだめよ。)」
「ブルル! ヒヒン? (多分ばれてないから大丈夫だよ。で、厩舎って何?怖いところ?)」
アストレアは一瞬だけ目を細めて、
そのあとクスッと笑った。
「ヒヒン(厩舎っていうのはね、あんたが“本物の競走馬”になるための場所よ)」
「ブルル?(本物?)」
「ヒヒーン(そう。今までは牧場の子ども。でも、厩舎に行ったら、もう“走る馬”になるの)」
「ヒヒン(大変なこともあるけど……あんたなら大丈夫よ。強い子だもの)」
「ブルッ……(おかーさん……)」
ちょっと泣きそうになった。
いや、泣いてないよ?
目に草の汁が入っただけだよ?
「ヒヒン(あと、向こうに行ったら)」
アストレアが少しだけ真面目な声になる。
「ブルルッ!?(え、なに!?怖い話!?)」
俺は思わず身構えた。
アストレアはクスッと笑った。
「ヒヒーン(ちゃんとご飯も出るし、優しい人もいるわよ)」
……なんだ、良かった。
てっきり“殺処分される場所”とかそういう話かと思った。
「ブルル(じゃあ、厩舎ってそんなに怖くないの?)」
「ヒヒン(怖くないわよ。むしろ、あんたがもっと強くなる場所よ)」
アストレアは俺の首をそっと舐めた。
その仕草が、なんか胸にジーンとくる。
「ヒヒーン(大変なこともあるけど……あんたなら大丈夫。強い子だもの)」
よし……
厩舎、怖くないかもしれない。
いや、むしろ楽しみになってきた!
「ヒヒーン!(よーし!俺、頑張る!!)」
アストレアは優しく笑った。
「ヒヒン(うん。行ってらっしゃい、ソブリン)」
side スタッフ
「……さて、ソブリンもそろそろだな」
放牧地の柵にもたれながら、スタッフの一人がつぶやいた。
黒い巨体がサムとじゃれ合いながら走り回っている。
あれでまだ一歳。どう見ても規格外だ。
「体つきも十分だし、動きも軽い。
あのサイズであのバネは反則だよな」
「気性も素直だし、扱いやすい。
あれなら厩舎に送っても困らないだろうな」
そんな会話をしていると、別のスタッフがニヤッと笑った。
「そういえばさ、松田さんから連絡があったんだよ」
「お、ついにか?」
「うん。“ソブリンをどこに預けるか決めたい”ってさ。
で、ちょっと前に“ある人”から話が来てたんだよ」
「ある人?」
「そう。“ソブリンにぜひ乗りたい”って言ってくれた人がいてな」
「へぇ……あの子に、もうそんな話が?」
「その人の“伝手”で、美浦の
「不二沢厩舎!? あの名門かよ。」
「そう。若い頃から頭角を現して、
今じゃ“馬を壊さずに強くする”って評判の調教師だ」
「おお……あそこなら間違いないな。
ソブリンみたいな馬には、ああいう丁寧な厩舎が一番だ」
「特に、ソブリンは脚部不安があるからな…」
スタッフたちは、少し不安そうだが、誇らしげに笑った。
「松田さんも喜んでたよ。
“あの子は絶対に強くなる”って、電話越しに何度も言ってた」
「はは、あの人ほんと熱いよな。
でも気持ちはわかるよ。あの馬は……なんか持ってる」
「だな。あの黒い馬体、あのバネ、あの気性。
ちょっと、いたずら好きなのが不安だけど、全部そろってる。
あとは環境と運だけだ」
「よし、じゃあ準備始めるか。
ソブリンも、もう“牧場の子ども”じゃいられないしな」
「うん。ここからが本番だ。
あいつの“競走馬人生”は、ここから始まる」
スタッフたちは、少し寂しそうに、でも誇らしげにソブリンを見つめた。
「……行ってこいよ、ソブリン。
お前なら、きっとやれる」
その日の朝、牧場はいつもより静かにざわついていた。
空気がピンと張ってるというか……なんか“特別な日”って感じがする。
飼育員さんたちは早くから動き回ってるし、
普段はのんびりしてるおじさんまで、今日は妙にキビキビしてる。
「ソブリン、今日が出発だぞ〜」
「向こうでも元気でな〜」
「怪我すんなよ〜」
……え、なんか卒業式みたいなんだけど。
俺、今日から袴とか着るの?(※馬なので無理)
放牧地に出されても、なんかみんなの視線を感じる。
サムなんて、朝からずっと俺のこと見てるし。
「ヒヒン(おい、今日だぞ)」
「ブルル(何が?)」
「ヒヒーン(厩舎行きだよ!お前ほんと鈍いな!)」
……あ、今日だった。
いや、知ってたけど、実感がなかったんだよ。
その時、遠くからゴゴゴゴ……と地響きみたいな音がした。
「ブルッ!?(地震!?)」
「ヒヒン(違う。来たぞ)」
サムが顎で指した先を見ると――
でっかいトラックがゆっくり牧場に入ってきた。
あれが……
馬運車。
近づくにつれて鉄の匂いと重たいエンジン音が響く。
俺の心臓もドクドク鳴ってる。
飼育員さんが俺の首を撫でながら言った。
「ソブリン、今日からお前は“競走馬”だ。
向こうでいっぱい走って、いっぱい食って、いっぱい強くなれよ」
……なんか急に実感が湧いてきた。
この人たちは俺のことをずっとお世話してくれた人達だ。
雨の日も風の日も、嵐の日だってやってきて。
俺が不安がらないようにお世話をしてくれた人達。
そんな彼らと別れることになるのは、心にくるものがある。
―皆! 俺、絶対勝ちまくってくるよ!!
サムが横に来て、鼻を鳴らした。
「ヒヒン(お前、緊張してるだろ)」
「ブルル(してないし!……ちょっとだけ)」
サムはフッと笑った。
「ヒヒーン(まぁ、怖いよな。)」
「ブルル(え、サムも?)」
「ヒヒン(そりゃそうだろ。動く鉄の箱だぞ?)」
……やっぱり怖いんじゃん。
でもサムは続けた。
「ヒヒン(でもな、俺ももうすぐ“栗東”に行くんだ)」
「ブルルッ!?(え、サムも!?)」
「ヒヒーン(ああ。場所は違うけど……俺たち、同じ“競走馬”になるんだよ)」
胸が熱くなる。
サムは俺の肩を軽くぶつけてきた。
「ヒヒン(だからよ。ビビってる暇なんてねぇぞ)」
「ブルル(……うん)」
サムはキッと俺を見た。
「ヒヒーン!(向こうで強くなって帰ってこい!
次に会う時は、俺が負けるくらい強くなれ!)」
……ああ、もう。
こういう時だけカッコつけやがって。
でも、嬉しい。
飼育員さんが声をかけた。
「ソブリン、行くぞー」
馬運車の扉がガシャンと開く。
中は暗くて、鉄の匂いがして、ちょっと怖い。
でも――
後ろを振り返ると、サムが胸を張って立っていた。
「ヒヒーン!(行ってこい、ダークソブリン!!俺も栗東で頑張るからよ!!)」
その声に背中を押されるように、
俺は一歩、また一歩と馬運車へ足を踏み入れた。
金属のスロープがカン、カン、と鳴る。
扉が閉まる音が響く。
暗い。狭い。揺れる。
でも――不思議と怖くなかった。
だって、
俺には名前があって、
応援してくれる仲間がいて、
これから走る未来があるから。
「ブルル……(よし、頑張るぞ…)」
そう気合を入れたのも束の間。
馬運車の中は、思ってたより静かで、
揺れも一定のリズムで、なんか……心地いい。
「ブルㇽ(けど、することないから眠くなってきた。)」
最初は緊張してたけど、
暗いし、狭いし、揺れが子守唄みたいだし、
なんか……まぶたが重くなってきた。
「ブルル……(あれ……?なんか……眠……)」
コトン。
首が前に落ちる。
「ブル……(サム…皆…俺……頑張……)」
こうして俺は、
美浦へ向かう道の途中で、
静かに眠りについた。
ある人って、誰なんだろうな~?
あと、06世代って全然話題にならないよね…
メイショウサムソンとか、いかにも主人公って感じなのに。
ウマ娘でも来てほしいな~