今日はちょい長めです。
これくらいの方がいいのかな?
「ソブリン。着いたぞ!」
「ブヒっ? (え?)」
ガタン、と馬運車が止まった衝撃で目が覚めた。
あれ?俺、寝てた?
いや、めっちゃ寝てたわ。
『……あれだけビビってたのに、寝るんかい俺。』
自分で自分にツッコミを入れながら、
ゆっくりと首を上げる。
扉が開くと、冷たい空気が一気に流れ込んできた。
北海道の寒さとは違う、なんか“キリッ”とした空気。
「よーし。 ゆっくり降りろよ~」
『ここが、…美浦……!』
牧場の雰囲気とは全然違う。
どこが空気がピリッとしていて、
浮ついてきた自分が恥ずかしくなってくるぜ…
「おっ! この仔がダークソブリンですか! デカいですね!」
「ええ。 見た瞬間にピンッ!ときまして、この名前の様に走ってくれるのを願うばかりです。」
俺が牧場と美浦の違いにふけっていると、俺の所有者である松田さんと、見知らぬ人が話をしていた。
てか、松田さんはいつの間にここに来たんだ?
まさか、瞬間移動!?(※馬運車に乗ってました。)
俺がそんなくだらないことを考えていると、その見知らぬ人が近づいてきた。
「私がこれから君の調教をする、不二沢和夫だ。よろしくなソブリン。」
ふむ。調教ということは、この人が俺のトレーニングのコーチってことかな?
まぁ、そうだよな。
ぶっつけ本番でレースしてくださいとか言われたら、俺、テンパって変なことするかもしれないしね。
「ソブリン、この人は日本でも指折りの“馬を壊さない調教師”だ。
丁寧で、慎重で、でも勝負どころではしっかり攻める。
お前みたいな馬には、これ以上ないくらい相性がいい人だよ」
「松田さん。そこまで、言われると照れますよ~(〃▽〃)ポッ」
ほぅ!つまりは、馬思いのトレーナーってことか!
そりゃ、俺たち馬にとってはありがたい限りだぜ!
よろしくな不二沢さん!
「ヒヒン! (よろしくな!)」
「よろしく頼むよ、ソブリン!」
そう言うと、不二沢さんは俺の首のあたりを、
優しく、でもしっかりと撫でてくれた。
その手つきがまた絶妙で、
「この人、馬の扱い慣れてるな……」
ってすぐ分かる。
気持ちよくて、つい俺も――
ペロッ……ペロペロッ……
「うわっ、顔を舐めてきた!?
いや、この仔ほんと人懐っこいですね!」
松田さんが笑いながら言った。
「牧場でもそうだったんですよ。
気に入った相手にはすぐこうやって懐くんです」
「なるほど……これは可愛いなぁ」
不二沢さんは、完全に俺の“懐き攻撃”にやられていた。
(へっへっへ……効いてる効いてる。
これぞ俺の奥義、“ペロペロアタック”ってね!)
ただの舐めただけなんだけど、
それで、相手が嬉しそうにすると、
なんかこっちまで嬉しくなるんだよね。
(これが……永久機関ってやつか!!)
※違います。
俺がそんなアホみたいなことを考えている間に、
どうやら大人同士の話は終わっていたらしい。
「では不二沢さん。この仔をお願いします」
「はい。承りました」
不二沢さんは軽く会釈すると、
俺の横にすっと立ち、軽く手綱を持った。
「よし、ソブリン。まずは厩舎を案内しようか。
今日からここが、お前の新しい家だ」
「ブルル!(おおっ!)」
声のトーンも優しいし、
歩くテンポも俺に合わせてくれる。
(うん……この人、絶対いい人だ)
そんな確信が、自然と胸に湧いてきた。
「ここがソブリンの馬房だ」
案内された馬房は、牧場より少し狭いけど、
藁はふかふかで、木の匂いが落ち着く。
「藁は毎日交換するし、温度管理もしてる。
輸送で疲れただろうから、後で放牧をさせるよ。」
「ブルル(ふかふか〜!)」
思わず鼻を突っ込んでスンスンしてしまう。
「ははっ、気に入ったみたいだな」
不二沢さんが笑う。
「こっちが洗い場だ。
調教が終わったらここで汗を流す」
「ヒヒィン!(シャワー大好き!)」
「お、いい反応だな。
シャワー嫌がる馬も多いんだが……お前は大丈夫そうだ」
(むしろ好きです)
「アハハ! お前は賢いな!
今までの説明がすべてわかってるみたいじゃないか!」
「ヒヒン!(もちろん!)」
そりゃ、中に人間が入ってるからねw
……ってのは冗談だけど、
こういう時は素直に褒められておくのが一番だ。
「そしたら、このまま放牧するか」
不二沢さんがそう言って、俺の横に立つ。
その瞬間、俺の胸がドクンと高鳴った。
(放牧……!
つまり、走れる……!
草食べれる……!
自由だぁぁぁ!!)
「よし、行こう。ついてこい、ソブリン」
不二沢さんが歩き出す。
俺もテンション高めで後ろをついていく。
厩舎の通路を抜けると、
外の光がパッと広がった。
風の匂いが変わる。
土の匂いが濃くなる。
遠くから他の馬たちの声が聞こえる。
(うおお……!
牧場とは違うけど、これはこれでワクワクする!)
「ここが放牧地だ。
今から、ここで体をほぐしてもらう。
他の馬もいるから、仲良くするんだぞ?」
「ブルル!(任せろ!)」
……と言ったものの、
放牧地の向こうには、
すでに数頭の馬がこちらをじーっと見ている。
(あれ……なんか視線が鋭い……?
え、ちょっと怖いんだけど……?)
でも不二沢さんが俺の首をポンと叩いた。
「大丈夫だ。お前ならすぐ馴染めるさ」
その言葉に背中を押されるように、
俺は放牧地へ足を踏み入れた。
『うわ~ 自由だ―!!
よーし! 走るか!!』
そう決めた俺は、地面を思いっきり蹴り上げた。
瞬間、風がドンッと身体にぶつかってくる。
まるで「ここから先は簡単じゃないぞ」って言われてるみたいに、正面から立ちはだかる。
『う、はぁっ!』
でも関係ない。
四本の脚を全部使って、勢いのままに、本能のままに走る。
風を切る感覚が気持ちよすぎる。
空気の壁をズバッと切り裂いて、全身で風を受けるこの感じ。
広い放牧地を、青い草の上を駆け抜けていくこの時間がたまらない。
人間の頃じゃ絶対に味わえなかったスピードで、世界が後ろに流れていく。
本当なら坂を上るのなんてしんどいはずなのに、
走ったら疲れるはずなのに、そんなのどうでもよくなるくらい楽しい。
(やばいやばい、超楽しい!!)
スマホのゲームも、球技も、人間の頃の遊びも確かに楽しかった。
でも――
今はどんなゲームよりも、どんな遊びよりも、
この“風を切って走る”感覚が一番楽しい。
人間の頃に走ってたあの感覚なんて、
今の俺からしたら、まるで別物だ。
(やばい……楽しすぎる……!)
風を切って、草を踏んで、地面を蹴って、
ただそれだけなのに、胸の奥がずっと熱い。
『ひゃっほぉぉぉ!!』
放牧地の端から端まで、
何往復したか分からないくらい走りまくった。
でも――
(……あれ?)
急に、脚がズシッと重くなった。
(ちょ、ちょっと待って……
楽しいけど……楽しいけど……)
『はぁ……はぁ……』
風を切る音が、いつの間にか
自分の荒い息の音に変わっていた。
(……疲れたぁぁぁ……)
勢いのまま走ってたけど、
さすがに体力が追いつかなくなってきた。
「……よし、ちょっと休憩しよ」
そう思った瞬間――
ドサッ。
俺はその場に寝転んだ。
草の匂いがふわっと鼻に入ってきて、
地面のひんやりした感触が気持ちいい。
(はぁぁ……生き返る……)
空を見上げると、雲がゆっくり流れていく。
さっきまで全力で走ってたのが嘘みたいに、
身体がじんわりと落ち着いていく。
(……ちょっとだけ……休も……)
まぶたが重くなってきて、
俺はそのまま、草の上でゴロンと横になった。
そして――目が覚めたら、夕暮れ時になっていた。
空はオレンジ色に染まっていて、
さっきまで青かった放牧地が、
まるで別の世界みたいに静かで綺麗だった。
(……あれ? 寝てた?
てか、どれくらい寝てたんだ俺)
ぼんやりと身体を起こしたその瞬間。
『おい、新入り。
どこで寝てんだよ』
「ヒヒン(ん?)」
気づけば、俺は――
先輩馬たちにぐるりと囲まれていた。
でっかい栗毛、鹿毛、芦毛までいる。
みんなガタイが良くて、目つきが鋭い。
(え、なにこれ……
なんで囲まれてんの俺……?)
『お前さぁ……
放牧地のど真ん中で寝る奴いるか?』
『危ねぇだろ。誰か走ってきたらどうすんだよ』
『てか、よくこんな場所で熟睡できたな』
先輩馬たちが口々に言う。
(いやいやいや……
そんなこと言われても……
気持ちよかったんだもん……)
俺は思わず、草の上で丸くなったまま固まった。
「ヒヒン……(す、すみません……)」
すると、栗毛の先輩が鼻を鳴らした。
『まぁいいけどよ。
新入りのくせに大胆だな、お前』
『度胸あるのか、ただのアホなのか……』
『どっちにしろ、目ぇ離せねぇタイプだな』
(やめて……褒めてるのか貶してるのか分かんない……)
そんな微妙な空気の中――
放牧地の奥から、
ゆっくりと、重みのある足音が近づいてきた。
コッ……コッ……コッ……
夕陽を背にして現れたその馬は、
他の馬とは明らかに“格”が違った。
黒鹿毛の大きな身体。
落ち着いた目。
一歩一歩に重みがある。
先輩馬たちが一斉に道を開ける。
「ロ、ロブロイさん……!」
栗毛の先輩が小さく震えながら言った。
俺は思わず息を呑んだ。
ロブロイさんは、
俺たちの真ん中までゆっくり歩いてくると、
静かに、しかし確実に場の空気を支配した。
夕陽の光が背中に差し込んで、
その姿はまるで“王”みたいだった。
『……お前たち。新入りを囲んで何をしている』
低くて落ち着いた声。
怒鳴っているわけじゃないのに、
背筋がゾクッとする。
栗毛の先輩が慌てて言い訳を始めた。
『い、いや、その……
別にいじめてたわけじゃなくて……
ちょっと様子を見てただけで……!』
『そうか』
ロブロイさんは一言だけ返した。
それだけで、先輩馬たちは完全に黙り込む。
(な、なんだこの圧……!
声のトーンだけで、全員黙らせたぞ……!?)
ロブロイさんは俺の方へ視線を向けた。
その目は鋭いけど、
どこか優しさもあって、
不思議と怖くはなかった。
『新入り。名前は?』
「ヒ、ヒヒン……(ダ、ダークソブリンです……)」
噛んだ。
馬なのに噛んだ。
ロブロイさんは少しだけ目を細めた。
『……ソブリンか。
ここで寝ていたのは、お前だな?』
「ヒヒィン!(す、すみません!!)」
反射的に謝ってしまった。
するとロブロイさんは、
ふっと小さく笑った。
『謝る必要はない。
よく眠れるのは、いいことだ』
(え……怒ってない……?)
『だが、放牧地の真ん中で寝るのは危ない。
次からは端で休め』
「ヒヒン!(はい!!)」
ロブロイさんは頷くと、
先輩馬たちに向き直った。
『おい。お前たち、あんまり新入りを脅すな。
ここは、休む場所だ。仲間をいじめる場所じゃない。』
『は、はい……!』
先輩馬たちは一斉に頭を下げた。
(すげぇ……
この人、マジで“王”じゃん……)
俺はただただ圧倒されていた。
そして――
気づいたら、口が勝手に動いていた。
「ヒヒン!!(ロブロイさん!!)」
ロブロイさんが振り返る。
「なんだ?」
「ヒヒィィン!!(弟子にしてください!!)」
ゼンノロブロイいいよね~
ウマ娘化するとメガネっ子になるのもいいよね~
これが二度おいしいってやつか!