衝撃のその先へ…   作:アグD

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騎手は皆さんお待ちかねのあの人です!!




この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


第五話:騎手?

 

どうも、皆さんお久しぶりです。

俺です!!

 

え?前もこんな感じのことがあったって?

気にしない。気にしない。

 

今は、ロブロイさんに弟子入りした日から

大体二か月は経ったくらいですね。

 

で、その間俺が何をしていたかというと、

 

『不二沢さんの鬼…あ、悪魔……ひ、人でなし……』

 

と、こんな感じでバテてました。

食欲は湧かないくせに、喉だけは無性に渇いてしまう。

さっきから、岩塩と水を行き来しすぎて、

おなかが水ッ腹なんだけど……。

 

 

「食欲なさそうですね、ソブリン。」

「ちょっと無理させすぎたかな? 昼飼い(ひるがい)*1の量を増やしておけ。」

「さすがに他の馬の3倍はやりすぎですよ、不二沢さん…」

 

 

そう、不二沢さんは俺の調教の量を"3倍"に増やしたのである!

 

――え!? 3倍!!!

それは聞いてないぞ!!

 

最初は

「この先もっと強くなるために、少しだけ量を増やすぞ~」

とか言ってたのによ。

 

少しじゃねぇよ!!

増やしすぎだろ!!

 

てか、だからか。

俺と一緒にトレーニングを開始した仔が――

 

『お、お前……まだ走るのか……?』

『ソブリン……お前、何者なんだ……?』

『あいつ絶対中に人間入ってるだろ……』

 

(いや、入ってないよ!?

 ……いや、入ってるようなもんか?)

 

そんなことを考えてる余裕もないくらい、

毎日ヘロヘロになっていた。

 

(いやぁ、まあね、鍛錬するのは好きなんだよ?

 好きなんだけど……これは……やりすぎ……)

 

「不二沢さん。ソブリンがこっちをめちゃくちゃ睨んでますよ」

「ダークソブリンは賢いからな。

 自分の調教量が他の馬より多いのに気づいているのかもしれん」

 

そうです!!

気づいてるんで早く量を減らしてください!!

 

よく俺の世話をしてくれる、七瀬さんが腕を組んで言う。

 

「けど、実際、ダークソブリンの量は多いですよね。

 父のこともありますし、減らした方がいいんじゃないですか?」

 

(そうそう! その通り! もっと言って!)

 

不二沢さんは、俺の方をちらっと見てから言った。

 

「……いや、減らすつもりはない」

 

(はぁぁぁ!?)

 

「ソブリンは真面目だし、言いつけをきちんと守る。

 それに、体力の回復が異常に速い」

 

(……褒めてる? それ褒めてる?)

 

「前に、さすがにやりすぎたかと思って様子を見ていたが、

 翌日にはケロッとして、同じ量を軽々こなしていた」

 

七瀬さんが笑いながら言う。

 

「こんな馬が売れ残ってたのは本当に不思議ですよ。

 2歳馬ではとびぬけていますよね」

 

「素質は間違いなく一級品だ。

 だからこそ、調教量を増やしている。」

 

(……あ、そういう理由だったのね……

 いや、理由は分かったけど……

 3倍はやりすぎだろ!!)

 

不二沢さんは俺の目をまっすぐ見て言った。

 

「ソブリン。

 お前は強くなる馬だ。

 俺はそれを信じてる」

 

(……っ!!)

 

胸の奥が、じんわり熱くなる。

 

 

「ヒヒィン!!(よーし! 頑張るぞ!!)」

 

 

三浦さんが肩をすくめて笑った。

 

「ちょろいなぁ、お前」

 

(ちょろくて悪かったな!!

 でも褒められたら頑張っちゃうんだよ!!)

 

 

 

その後も、俺はもう少しだけ鍛錬を続けた。

 

坂路を登り、

ウッドチップを走り、

最後はヘロヘロになって馬房へ戻る。

 

「ヒヒ……ヒン……(もう無理……)」

 

藁の上に倒れ込むと、

全身がじんわりと沈み込むように休まっていく。

 

(あぁ……藁って……こんなに柔らかかったっけ……)

 

寝藁の上でウトウトしていると隣の馬房から声が聞こえた。

 

「……ヒヒン (……ソブリン。)」

 

隣から聞こえる、落ち着いた低い声。

 

ロブロイさんだ。

 

「ビヒン。 (今日もよく頑張ったな。)」

 

「ヒヒン……(ロブロイさん……)」

 

「ブフン。 (けど、お前はもう少しサボることを覚えた方が良い)」

 

その言葉は、疲れ切った身体にすっと染み渡った。

 

(え、サボる……? でも、サボるってどうやるんだろう……)

 

ロブロイさんは続けて言った。

 

『強くなるには、休むことも大事だ。

 だが、休むのは手を抜くこととは違う。

 計画的に力を抜けるようになれば、長く走れる馬になる』

 

その声は、いつもの厳しさの中に優しさが混じっていて、

疲れた心にじんわりと効いた。

 

(……なんか、泣きそうだ)

 

「ブヒン? (明日も走るんだろう?)」

 

「ヒヒン!(もちろん!!)」

 

「ブルッ (いい返事だ)」

 

ロブロイさんの声は、夜風みたいに優しくて、

それだけでまた頑張れる気がした。

 

(よし……明日は、ちょっとだけ賢く休む方法を覚えてみるか……!)

 

流石に今日は疲れたから、また明日…おやすみなさい……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

よーし!

昨日はよく寝たから、力が湧いてくるぜ!!

今日も調教頑張るぞ~!

 

 

「この仔が…ああ、本当にルドルフのような流星がある…」

 

「それだけじゃないぞ岡戸、こいつの柔軟性はテイオーに近しいものがある。

 その上、体は丈夫だ…」

 

「それは、この上なく嬉しい情報だな。」

 

 

ん?誰か知らない人がいるな…

こんなところに迷い込んじゃったのかな?

 

「ソブリン。

 今日はお前の騎手を紹介しよう。」

 

騎手?

いつもは、不二沢さんが俺に跨って、調教しているけど、

不二沢さんが騎手じゃないの?

 

そう俺が疑問に思っていると、それを察したのか不二沢さんは説明を続けた。

 

「ここで言う騎手は、お前がレースで走るときの騎手だ。」

 

おお!

それはめちゃくちゃ重要じゃないか!

全力で審査してやろう!

 

「私は君の騎手の岡戸幸生(おかべゆきお)だ。

 よろしくなダークソブリン!」

 

ほう!

なかなか男前な人じゃないか!

よろしく頼むぜ、岡戸さん!

 

「そしたら、ソブリン。

 岡戸を乗せて自由に走ってみろ。」

 

え!?自由に走っていいの?

 

ヤッホーーーい!!!

 

 

「ッ!」

「これは……ッ!」」

 

 

あ、は、はは!

やっぱり走ってる時が一番楽しいや!

 

真っ向から吹いてくる風を、

どんどん切り裂いて突き進むこの感じ!

 

車と同じくらいのスピードで走るこの快感!

どんなことよりも楽しい感覚だ!

 

「走る、というより“押し出す”ような力強さ……

 これはテイオーというより、ルドルフか? 

 いや、この地面を蹴りだす感じは、オグリキャップにも近いな…」

 

このままどこまでも行けるぞ!

さぁて、さらにギアを上げ――

 

「ここまでだ!」

 

ぐえっ!?

な、なんで急に手綱引くの!? って……あ。

 

(……いつの間にかコースの端になっちゃってたか。気づかなかった)

 

「手綱を引いたらすぐ止まる……

 賢さも併せ持つか! これは、ますます楽しみな子だ!」

 

はぁー。

これで終わりか…なんか不完全燃焼だな~

もっと走らせてくれよ!!

 

岡戸さんと不二沢さんが、俺を見ながら話している。

 

「どうだ? G1は確実だろ?」

 

「この仔は、そんなもんじゃない。

 ダークソブリンは“それ以上”を目指せる。

 脚のバネは天性のモノ、そこに賢さも併せ持っている。

 ルドルフの賢さとはまた違うが……

 しかも“自分の力で押し出して走る”タイプだ。

 これはテイオーの欠点が無くなったものだぞ!!

 この時点でこの能力なら――とんでもない馬になるぞ」

 

「お前にそこまで言わせるか」

 

岡戸さんは俺を見て、目を輝かせた。

 

「これがダークソブリンか…

 やはり、私の目に狂いはなかった!!!」

 

「俺も驚いたよ……

 まさか、ここまでの馬があわや廃棄寸前だったとは。」

 

「そうだろう!和男さん!!

 しかも待ちに待った、ルドルフの仔だ!

 私はこの仔に今までの競技人生のすべてを捧げようと思う。

 幸い、怪我をしていたせいかお手馬はいないしね。」

 

ね、熱量が凄いぜ…岡戸さん…

けど、そこまで思われるのは悪くない気分だぜ。

 

「それで、ソブリンの鞍はどうする?」

 

「意地が悪いな和夫さんは、

 むしろこちらからお願いしたい。」

 

「決まりだな。」

 

(ってことは……岡戸さんが俺の騎手ってことか!?

 この人、今まで乗ってくれた人の中で一番走りやすかったから……

 めっちゃ嬉しい!!)

 

よし!

ここは俺の奥義、“ペロペロアタック”の出番だな!

 

そーれ、ペロッ……ペロペロッ……

 

「うお!? これは……」

 

「はッはッは! 岡戸! お前もやられたか!」

 

(ふっ……これが俺の必殺技だ……!)

 

 

 

 


 

 

 

 

「七瀬。ソブリンを馬房まで頼む。」

 

「わかりました。ソブリンこっちよ。」

 

ハイハイー。今、行きまーす!

 

そしてその後は、

調教が終わり、俺は馬房へ戻された。

 

藁の匂いがふわっとして、

身体がじんわり落ち着いていく。

 

(ふぅ……今日も走ったなぁ……)

 

そんな俺を横目に、

馬房の前で岡戸さんと不二沢さんが話していた。

 

「さて……問題は新馬戦だな」

 

不二沢さんが腕を組む。

 

「どこを使うつもりだ?」

 

「本当なら中距離が理想だが……

 この仔の脚質なら、長距離でも持つ。

 むしろマイルでもスタミナで押し切れる」

 

「確かに。

 あの“押し出す走り”なら、前に行ってそのまま勝てる」

 

岡戸さんは俺を見て、ニヤリと笑った。

 

「ソブリンは、スタートも悪くない。

 ゲート練習でも飲み込みが早い。

 新馬戦から勝ちに行ける馬だ」

 

「だな。

 この仔は“勝ち癖”をつけた方がいい。

 初戦から強い勝ち方をさせたい」

 

「じゃあ、芝1800で行こう。

 ここで勝てば、一気にクラシック路線に乗れる」

 

「そしたら、7月24日の函館はどうだ?」

 

「いいね。そこで行こう。」

 

「そしたら、俺は馬主さんに伝えてくる。」

 

二人の声は落ち着いていたけど、

その目は完全に“本気”だった。

 

(新馬戦……

 いよいよ俺のデビューか……!)

 

胸の奥がドクンと高鳴る。

 

(よーし……絶対勝つぞ……!)

 

藁の上で横になりながら、

俺は静かに闘志を燃やした。

 

 

*1
馬の昼飯





やっとレースに行けそうです…

あと走り方は、テイオーじゃなくてオグリになりました。なぜ!?



※新馬戦を 東京→函館 に変えました。
夏で東京の新馬戦って聞かないな~と思ってたけど、ないのね。
ガラッと変わってしまって申し訳ない。
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