衝撃のその先へ…   作:アグD

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岡戸さんの続きです!
どうぞ!


幕間:騎手②

 

日高から戻った翌日、私は友である不二沢の厩舎を訪ねた。

 

「不二沢さん。相談がある」

 

彼は驚いた顔で振り返った。

 

「岡戸さんがそんな顔で来るなんて……どうしたんです?」

「テイオーの仔を見つけた…」

「おお!良かったですね!!ってことはうちの厩舎に―」

「売れ残っている。」

 

不二沢は言葉を失った。

 

「……売れ残り、ですか?」

「そうだ。売れ残ってるのは、デカいからだ。今で500kg近い。将来は550kgを超えると言われている。だが、テイオーの柔軟性や、ルドルフの様な賢さを持ってる。あれは……走る馬だ」

「そうでしたか… 聞く感じは良さそうですが、やはりネックは馬体重ですね。怪我の危険性を考えると不安が付きまといますね…」

 

不二沢はしばらく考え、静かに頷いた。

 

「ですが、そういう障害を乗り越えてこその一流調教師でしょう。……一緒に、その仔を救いましょう」

 

その言葉に、胸の奥が少し軽くなった。

 

「ありがとう。恩に着る。」

 

 

 

次に私は、長年の騎手仲間に声をかけた。

 

「頼む。テイオーの仔がいる。買ってくれとは言わん。ただ……あの馬を救いたいんだ」

 

仲間たちは皆、真剣に耳を傾けてくれた。

 

「岡戸さんがそこまで言うなら協力します!」

「馬主に話を通すくらいなら任せてください。」

「もちろん、紹介ならいくらでもしますよ!」

 

その温かさに、胸が熱くなった。

 

だが――ここからが本当の苦労だった。

 

 

自分の持つ伝手を最大限に活用して、その上で仲間たちが紹介してくれた馬主に、私は一人ひとり頭を下げて回った。

 

「一度でいい。あの馬を見てほしい」

 

しかし返ってくるのは、どれも同じ言葉だった。

 

「大型馬は怪我が怖い」

「テイオーの仔は……ちょっと」

「悪いが、今回は見送らせてくれ」

 

何十人に頼んでも、すべて断られた。

 

(……やはり、ダメか)

 

胸の奥が重く沈んだ。

 

(あの馬は……このまま埋もれてしまうのか)

 

そんな不安が頭を離れなかった。

 

 

 

そんな不安に駆られながら過ごした数日後の夕方、牧場の知り合いが電話を掛けてきた。

 

「岡戸さん! ソブリン……売れました!」

 

「……誰に?」

 

「松田さんという、新しい馬主さんです。競馬を始めたばかりの方で……“テイオーの血”に惹かれたらしくて」

 

胸の奥が熱くなった。

 

(……救われたのか)

 

だが同時に、不安もよぎった。

 

(どんな人だ?どんな厩舎に入れるつもりだ?あの馬を……ちゃんと育ててくれるのか?)

 

傲慢な考えだと思いつつも、私はすぐに松田さんに会いに行った。

 

 

 

 

 

指定された喫茶店に入ると、

スーツ姿の青年が丁寧に立ち上がり、深く頭を下げた。

 

「初めまして。松田大輝(まつだだいき)と申します。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」

 

その礼儀正しさに、私は思わず背筋を伸ばした。

 

「こちらこそ、お会いできて光栄です。岡戸和夫と申します」

 

席に着くと、大輝は落ち着いた声で話し始めた。

 

「私は貿易関係の会社を経営しておりまして……メイショウ冠の松本さんとは、長年お取引をさせていただいています。そのご縁で競馬に興味を持ちまして…」

 

(松本さんからの紹介なら、筋は確かだな)

 

松田さんは続けた。

 

「ソブリンの話を聞いた時、正直に言えば迷いました。大きすぎる馬体、テイオーの血……リスクがあることは承知しています」

 

そこで一度言葉を切り、

真っ直ぐな目で私を見た。

 

「ですが、あの馬を見た瞬間……“この馬を救いたい”と、心から思ったんです。それだけじゃない。この馬にはロマンがある。そう思い、引き取りました。」

 

その言葉に、私は静かに息を吸った。

 

(この人は……本気だ)

 

「松田社長。もし差し支えなければ、私から一つ提案がございます」

 

「はい。ぜひお聞かせください」

 

「ダークソブリンを預ける厩舎はもうお決まりですか?

「いえ。まだ決めておりません。競馬業界は新人でして、大した伝手もなく途方に暮れていたところでした…」

「そうでしたか… もしよろしければ不二沢厩舎に預けてみませんか? 彼は大型馬の扱いに長けており、馬を大切にする男です。ソブリンを伸ばせるのは、彼だと私は思っています」

 

大輝は驚いたように目を見開いた。

 

「あの不二沢調教師に……?そんな方にお願いできるのでしょうか」

 

「私が責任を持って話を通します。ご安心ください」

 

そして私は、胸に手を当てて言った。

 

「それから……もしお許しいただけるのであれば、騎手は、私に任せていただけないでしょうか」

 

大輝は深く頭を下げた。

 

「……むしろこちらこそ、お願いしたいくらいです。あの芝の名手と呼ばれている、岡戸さんに乗っていただけるなら、これ以上の幸運はありません。ソブリンを……どうか、よろしくお願いいたします」

 

その瞬間、胸の奥で何かが静かに灯った。

 

(あの馬は、もう“売れ残り”じゃない。ここからが始まりだ)

 

こうして、

ダークソブリンは不二沢厩舎に入り、

私が鞍上として走ることが決まった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そして時は戻り、函館第4R、新馬戦。大外12番ゲートにソブリンが収まる。

 

私は手綱を握りながら、静かに息を吐いた。

 

(……ここまで来たな、ソブリン)

 

売れ残りだった馬。

誰にも選ばれなかった馬。

だが、誰よりも賢く、柔軟性があり、強い馬。

 

ゲートの中で、ソブリンは落ち着いていた。

耳をこちらに向け、私の呼吸を感じ取っている。

 

(松田さんが信じてくれた。

 不二沢も、仲間たちも動いてくれた。

 あとは……私が応えるだけだ)

 

ソブリンの首筋を軽く叩く。

 

ソブリンは、驚くほどスムーズに飛び出した。

 

(いい反応だ……!)

 

大外からスッと前へ。

巨体とは思えない軽さで、馬群の外を進む。

 

(やはり柔らかい……!この馬体で、このバネ……常識じゃ測れん)

 

だが次の瞬間、ソブリンが突然ハミを噛み、前へ突っ込んだ。

 

「おい……!」

 

完全に“暴走”だった。手綱を引いても、まるで効かない。

 

(行きたがっている……!この場合は抑えるより、走らせた方がいい)

 

ソブリンは1コーナー、2コーナーをとんでもないペースで駆け抜け、気づけば大逃げの形になっていた。

 

 

スタンドがざわつく。

「飛ばしすぎだ!」

「新馬であのペースは無理だろ!」

「止まるぞ、絶対!」

 

 

(普通なら止まる。だが……こいつは普通じゃない)

 

しかし――3コーナーに差し掛かったところで、ソブリンの脚が一瞬だけ鈍った。

 

(来たか……)

 

巨体を支える脚が、初めて“重さ”を感じたように沈む。4コーナーで、後続が一気に迫り、ついには数頭に並ばれ、抜かれた。

 

 

「ほら見ろ、止まった!」

「やっぱり飛ばしすぎだ!」

「もう終わりだな!」

 

 

(いや……終わりじゃない)

 

私はまだ追っていなかった。

 

(ソブリン。ここからが、お前の“本当の勝負”だ)

 

直線に向いた時、

ソブリンは完全に飲み込まれた形になっていた。

 

だが――

残り200m。

 

ソブリンが、自分からハミを取り直した。

 

(……来たな)

 

巨体が沈む。

そこから、もう一段階。

 

 

「うわっ、また伸びた!」

「なんだあの脚は!?」

「化け物かよ!!」

 

 

ソブリンは、前を行く馬たちを一頭、また一頭と飲み込み、まるで"逃げて差す"かの様な加速した。

 

(これが……お前の本当の脚か)

 

そう思ったのも束の間、ソブリンはもう一段階加速した。

 

(まさか、これほどとは…)

これには流石の岡戸も驚きを隠せなかった。

 

そして、残り100mで先頭に立ち、そのまま差を広げていく。ゴール板を駆け抜けた時、その差は3馬身。

 

完勝だった。

 

 

引き上げてくる途中、

スタンドの声が耳に入る。

 

 

「3コーナーで止まったのに、なんでまた伸びるんだよ……」

「最後のあの伸びは、ディープの新馬戦を思い出したわ」

「いや、あの馬体であの脚は反則だろ……」

「ディープに匹敵するんじゃないか?」

 

 

(……ディープに、か)

 

私は思わず苦笑した。

 

(比べるのはまだ早い。だが、そう言いたくなる気持ちは分かる)

 

ソブリンはケロッとした顔で、まだ走れると言わんばかりに耳を立てていた。

 

(課題は山ほどある。折り合い、息の入れ方、ペース配分……だが――“土台”は、とんでもない)

 

 

 

 

 

その後、ウィナーズサークルでマイクを向けられ、私は落ち着いて口を開いた。

 

「まずは、ソブリンがよく頑張ってくれました。スタートしてすぐ行きたがってしまい、今日は抑えきれませんでした」

 

記者が続けて尋ねる。

 

「3コーナーで失速したように見えましたが?」

 

「ええ。あれだけ飛ばせば、普通は止まります。ですが、この馬はそこからもう一度、脚を使った。“底力”という言葉では足りないほどです」

 

「今後の期待は?」

 

「もちろんあります。ただ、焦らず、馬の成長に合わせて進めていきたい。この馬は……大きく育つ馬ですから」

 

最後に、私は少しだけ笑った。

 

「そして――松田大輝オーナー。あの馬を信じてくださったことに、心から感謝しています」

 

マイクを返し、私はソブリンの首をもう一度撫でた。

 

(お前はお前だ、ソブリン。ここから一緒に、もっと先へ行こう)

 

 





そこまで新馬のためにするか普通…?

あと、今回の走りは、どちらかと言えばディープよりサイレンススズカっぽいと思う。

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