【暗殺教室】は終わらない   作:チキンうまうま

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大石 忍
クラス  1年D組
学力   A
知性   A-
判断力  A-
身体能力 B+
協調性  C

入学時点では優秀な成績を納めていますが中学1年、2年時の欠席の多さ、及び素行不良によりDクラス配属とする。

【以下関係者のみ閲覧可】
この生徒は中学3年次に1年間超破壊生物と接触している。現状精神的不安定さは見受けられないが、いつ変化が起こるかは不明なため担任、または養護教諭による定期的なカウンセリングを行うことを義務付ける。




調査の時間

 

 茶柱先生が出て行った後。平田という性格の良さそうなイケメン提案の自己紹介を無難に終えた俺は即座に校内の探索に出かけていた。親睦を深めるためのカラオケ?知らん。勝手にやってくれ。

 

(把握しておくべきなのは監視カメラがどこにあるのかと、移動教室で使いそうな教室と、治安悪そうなクラスの有無ってところかな)

 

 さらさらとルーズリーフに書かれた簡単な間取り図にメモを取りながら歩いていく。なんだこの学校、ざっと見た感じでも無茶苦茶カメラが多い。これ見えてないだけで探したらコンセントの部分に隠し盗聴器があるって言われても納得するぞ。てかカメラないところには絶対あると思う。

 

(それにしても…)

 

 放課後の時間帯故に人の姿のない2年の教室がある廊下を歩く。窓から教室の中が見えるたびに様子を窺い、メモに記入していく。その時点で、恐ろしいことに気がついた。

 

「机が少なすぎる…」

 

 ぼそっと呟くと同時に思考を巡らせる。教室の荒れ具合(とは言っても誤差レベルだが)から見て明らかに治安が悪いのがD、逆にいいのがB。意外にも2-Aの教室はBよりもヤンチャしている印象を受けた。そして全ての教室において机の数は定員であろう40に満たない。

 

(高校退学率の日本平均は…たしか1.5%。しかもこれは退学者のでまくる治安の悪い高校を含めての話。そう考えると、名門校を謳っているこの学校の場合は…この学年の総数を俺たちと同じ160人とした場合、年に1人出ればいい方のはずだ。それに比べて明らかに多い)

 

 同様に3年のクラスの様子を見ても傾向は基本同じ。ただしこちらはAクラスが最も治安がいい。そして特別棟。ここにはカメラが一切置いてなかった。今まで置いていた場所にも、俺なら置くであろう場所にも、一切。

 

「ふむ…」

 

 大量の監視カメラ。異常な退学者の数。明らかに治安の悪い傾向のDクラスと、良い傾向のA、Bクラス。

 

「見えて来たな」

 

 推測でしかないが、この学校は要は会社と同じだ。

 

 ポイントの増減に関して茶柱先生は何も答えなかった。『はい』とも『いいえ』とも言わなかった。つまりは少なくとも今は明かすことができないということだ。だから正式にはわからない以上完全なる仮説推論にはなるがこのポイントはつまりは《給料》。学校の求める基準に対してどの程度達成したか、を示す指標と見るのがいいだろう。

 

 そしておそらくこの学校での退学とはリストラと同じだ。一定の成績を収められなかった者。あるいは学校にふさわしくないと判断された者。それが退学(クビ)になる。

 

「待てよ、こういうのはどうだろうか」

 

 今日俺に支給されたのは10万ポイント。これを初期ポイントとして、この学校にふさわしくないと思われる行動、言動の度に減点。逆に良いと判断された場合に加点。増減した上で残った分を翌月に支給するのを繰り返していき─支給ポイントが0になったら退学。割とわかりやすいんじゃあないだろうか。

 

「割といい線行ってるんじゃないかこれ…?」

 

 そう考えると退学者の数が多いのも、最初に10万ポイントなんて大金を与えられたのにも納得がいく。学校側が退学者を出したいのかどうかは知らんが、出てもいいだろう、くらいには間違いなく思っているはずだ。

 

「…ただ、これだけだとAの方が治安が良くてDの方が悪い理由づけにならない」

 

 クラス替えがない以上、学校が意図的に分けていることは確かだ。だが、何故?謎が謎を生み、思考の迷路に囚われてしまう。

 

「…わからねえ。もう帰るか…」

 

 そう言って俺はため息をつくと、トボトボと寮の自室へと歩き出した。

 

「あ、荷解きしなきゃなんねえの忘れてたわ…」

 

 

 

 

 

 

 寮への帰り道に夕飯を買い込むべくスーパーを訪れてポイントの減額があることを確信した後。夕焼けに染まる道をビニール袋を片手に鼻唄を歩いていると、知った顔を見てビニール袋を持ってない手を軽く上げた。

 

「松下さんじゃん」

「あれ、大石くん。今帰り?」

「ん。色々調べたいことがあってさ」

 

 まあ分からないことが増えただけなんだけども、とヒラヒラと手を振ってくる彼女に答えてから肩をすくめた。そんな俺を彼女は興味深そうな目で見ている。

 

「ふうん。わかったこともあるの?」

「…この学校が相当やばいってことぐらいはね」

 

 そう言ってから上級生に大量の退学者がいることと、確実にポイントの減額はあることだけを伝えた。憶測に過ぎない俺の意見の部分はスルー。違ってたら恥ずかしいし。ただそれだけでも彼女の興味は十分に引けたらしい。

 

「そっか。よく調べたねそんなこと。私全然気が付かなかった」

「俺が変なだけだよ。多分普通の人は気にも留めない」

 

 少なくとも去年1年間の強烈すぎる経験のせいで、普通とは違う観点を身につけたのは確かだ。暗殺者(アサシン)として標的(ターゲット)の情報は細かなところまで仕入れておく。マッハ20の怪物を殺すために培われた習慣はおいそれと抜けない。

 

「とは言っても分からないことばっかだし、これからも要調査だな」

 

 苦笑いしてそう言ってから松下さんと別れて寮への道を再び歩き始める。早くご飯を食べて荷解きをしよう。それから筋トレとナイフトレーニングだ。

 

 背中に松下さんからの視線を浴びながら、俺は再び鼻唄を口ずさんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大石忍、か…」

 

 自室で今日あったことを思い返しながら私はビールの缶を開けた。ぷしゅりと気の抜けた音と共に軽く白い泡が噴き出してくる。

 

「あいつ、放課後の時点である程度この学校のシステムに気がついていそうだったな…」

 

 普通は入学初日なんて日には親睦を深めるため、なんて理由でクラスメイトと遊びに行くものだ。だが、あいつは真っ先に学校全体の監視カメラの把握と、他学年の調査を行った。異常だ。

 

 私たちはその様子を監視カメラ越しに見ていたが、あいつは少なくともポイント変動は確信している。そして退学者が大量に出ることも。

 

 ただ、いくつかの推測間違いも同時にある。ポイントの変更は個人ごとだと思っているようだし、退学の条件も的外れだ。それにクラス変動─この学校のシステムの真髄にまでは辿り着いていないようだった。

 

 だがそれでも。大石は間違いなく歴代のDクラスに所属していた生徒の中で群を抜いた判断力をしていることは間違いない。通例としてDクラスは最下位のまま始まって、そのまま終わる。Aクラスなんて目指せようはずもない。だが、今年の生徒ならば、あるいは─

 

「…まだ諦めきれないのか、私は」

 

 浮かんできた思いを否定するように、私はビール缶を一気に傾けた。

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