【暗殺教室】は終わらない   作:チキンうまうま

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暗躍の時間

 

 沈黙は金である。たとえ人の口に戸は立てられぬとはいえ、それが、そう─例えば口外すれば罰則があるような規則でもあれば、相当な見返りがない限り立てられた戸を重くすることは十分に可能だ。

 

 だが、それでも十分ではない。気の緩んだ時にうっかり秘密を口外することはあるだろう。そのための対策としてそもそも外では誰とも口を利かない、というのは全然アリだ。それができないなら秘密を共有する相手と意図的に話題を制限する、というのも全然アリだ。

 

 だからこそ、細やかな所作にこそ情報は見え隠れするのだ。人は沈黙するだけでは情報を隠せない。衣服の質に、身につけたアクセサリーの数に、整髪料や香水の香りに、爪先の手入れされ具合に、クラスメイトとの談笑中に浮かぶその表情に、歩き方の癖や靴の踵のつぶれ具合に。その全てに情報が宿っている。

 

(ピースは揃った)

 

 入学してから5日目。その間に3度にわたって行った昼休み中の上級生の教室への偵察によって俺は答えを導き出した。

 

「ポイントの増減はクラスごと、ってことかい?」

「ああ、そんでもって俺たちDクラスは…一言でいえば負け組の集まりだ」

 

 監視カメラのない屋上で昼ごはん(自作の弁当)を食べながら導き出した結論をクラスメイトである平田に伝えると、平田は目を丸くした。うーむ良いリアクション。そこまで驚いてくれるとこっちとしても時間をかけて調べた甲斐がある。

 

「十中八九間違いなく、な。見てる感じ服装やアクセサリーに相当な偏りがある。Aがかなり良いもの使ってて、それに比べりゃDは明らかに劣る。2年も3年もそうだ。それから考えれば、ポイントの増減は個人単位じゃなくてクラスごとって考えるのが自然だろ。…ああ、飯もだな。Aの連中は高いの食ってたが、Dの連中は山菜定食(0ポイント)食ってるやつがまあまあいたぞ」

 

 というか俺の感覚だと山菜ってまあまあ値が張ると思うんだが、なんであれが無料なのかね?あく抜きとかめちゃくちゃ手間かかるし仕入れ量も安定しないぞ。それよかおにぎり定食とかの方がいいんでない?

 それは置いておいて、俺の話を聞いた平田は頷きながら色々と考えているようだった。初日からリーダーポジに名乗りを上げているだけはあって、クラス全員に関わりがあるとなればかなり真剣なようだ。

 

「…初日に大石君が茶柱先生にポイントの増減について尋ねただろう?あれから気になって僕も部活の先輩に尋ねたんだ」

「へえ。答えはもらえたか?」

「ううん。ちょっと笑いながら変にはぐらかされて終わったよ」

 

 なるほどね、と呟いて箸を動かしていた手を止める。なお今日の昼飯を食べているメンバーは俺と平田のみ。普段女子に囲まれている平田には申し訳ないが、話があると言って屋上まで連れ出した。

 

「…箝口令でも敷かれたか。1年にはこのシステムについて語るなっておそらく生徒と教師全員にお達しでも出たんだろ」

「確かに君がポイントの増減について茶柱先生に尋ねたときにも先生は意図的に話題を逸らしてた。それもそう考えると全部納得がいくね」

 

 平田は背を逸らして天を仰いだ。

 

「それにしてもDクラスは1番ポイントの少ないクラスかあ…。最初からそれを見越してクラス分けしたのかな」

「…多分?ほら、『働き蟻の法則』ってあるだろ。『働きバチの法則』でもいいけど」

「『働き蟻の法則』?聞いたことはあるね」

 

 まあ有名な法則だし多少は知っててもおかしくはない。一つ頷いてから続ける。

 

「どんな集団でも20%は怠け、20%は働き、60%は平均に落ち着くってやつだ。それをこの学校に当てはめるとだな」

「25%の働き者(Aクラス)、50%の平均(B、Cクラス)そして残り25%の怠け者(Dクラス)…」

「それだ。そしておそらく俺たちDクラスは怠け者、扱いであると同時に『ガス抜き』と『カンフル剤』を兼ねている」

 

 こう考えるとこの学校のシステムって椚ヶ岡に似てんな。案外設立の際に浅野理事長…もう『元』か。も1枚噛んでたりして。

 

「『Aクラスの奴らはあんなにポイントもらっているのか』『羨ましいなあ』『あ、でもDクラスは俺らよりもこんなに少ないのか』でもって『でもこれ以上ポイント減るとDクラスと同じポイントだ』『それは嫌だなあ。もっと頑張らないと』って具合か?」

 

 人間は下を見つけて安心する生き物だ。─だから、学校がその『下』を用意した。

 

「エリートを養成して全員に希望の進路を用意する学校、てのは聞こえがいいけどな。実際のところはわかりやすく『下』を用意して上の連中には輝かしいエリート街道を歩ませ、負け犬根性染み込んだ下の連中には『希望した』って名目で身の程にあった道を歩ませる。そういう学校なんだよ、ここは」

 

 俺がそう言うと、平田は両手で顔を覆った。この学校の裏を知って本気で苦悩している様子だ。いかん、悪いことをしたかもしれん。

 

「…なんで」

「ん?」

「なんで、それを僕に言ったんだ?」

 

 平田が絞り出した声は掠れていた。それにしてもなんで、か。そんなの決まっている。

 

「平田。今日の放課後でいい。HR終わりにこの話を全員に伝えて欲しいんだ」

 

 ギョッとした顔を向ける平田に構わず続ける。わかるぜ、このシステムは理不尽だ。でもな、

 

「ネタがわかったんだから今からなら対策なんていくらでも取れる。クラス全員で、こんな最初から負け組扱いしてきた学校に一泡吹かせようぜ」

 

 俺は理不尽と戦う方法を知っている。中学最後の1年間、俺たちはそれをたくさん教わったのだから。

 

「…わかった。僕からでよければみんなに伝えさせてもらうよ」

 

 ニヤリと笑った俺に、平田は覚悟を決めた様子で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の頼み通り平田はクラス全員に俺の推論を語った。その結果─

 

「「「「「「「「ふざっけんじゃねえぞ!?」」」」」」」」

 

 当然の如く教室内は悲鳴と怒号に満ちた。まあ、そりゃそうなるわ。なお教室に残っていた茶柱先生は知らん顔で外を見ている。我関せず、ってか?

 

「嘘でしょ!?誰が負け組よ!」

「おい平田!本当にポイントは減額されんのかよ!どうせ嘘なんだろ!」

「イケメンだからって調子乗ってんじゃねえぞ!」

 

「うわー大惨事」

 

 クラスメイトに詰め寄られる平田を見ると渇いた笑いしか出てこない。まじですまん。でも俺が言ったらもっとヘイトを買う未来しか見えなかったんだ。その間にも怒りを浮かべるクラスメイトを宥める有能な平田を見ていると、隣の席の松下がちょいちょいと指で突いて来た。

 

「あれ、考えたの大石君でしょ」

「まあね」

「だよね。…もしかしなくても大石君ってキレる人?」

「俺が?ないない」

 

 ちょっとこの学校のシステムが中学時代のものと似通っていただけだ。他のやつが同じ経験をしていたら、当然同じ結論に至るだろう。というか赤羽や浅野なら初日に気づくだろうし。なんなら浅野ならその上で全校を掌握しにいくだろうし、俺なんて観察結果から推論しただけで本当に大したことない。

 

「そういうことにしとこっか。…なんで平田君に伝えさせたの?」

「そりゃあいつが実質リーダーみたいなもんだし。それにこんな目立つことするには俺はクラスメイトと関わりなさすぎるしね」

 

 クラスメイトの中で関わりがあるのなんて松下を除けば平田、幸村、綾小路くらいだ。てか綾小路はなんなの?あいつ明らかにカタギじゃないでしょ。平穏を知らずに育った暗殺者(アサシン)って言われても信じるぞ。

 

「休み時間のたびにフラフラどっか行ってたもんね。友達付き合いはちゃんとしたほうがいいよ?」

「耳が痛いな…」

 

 お、平田がうまいことヘイトを学校に持って行ってる。平田の周りが『学校に一泡吹かせようや』にシフトし始めていた。でもいいのか。すぐそこに教師いるぞ。

 

「ま、学校っていうクラス共通の標的(ターゲット)もできたことだしこれでしばらくはどうにかなるでしょ」

 

 あとはこれからの方針を詰めるだけだ。そう考えてから、助けを求める平田のもとへ向かうべく俺は立ち上がった。

 

 





「堀北会長聞きました?今年の1年、もう何人かこの学校のシステムに気がついたらしいですよ?」
「ほう、Aクラスからか?」
「いや、A、C、Dから出たらしいです。なかなかやりますね、今年の1年」
「3クラス、か。裏付けはあるのか?」
「2年の教室にA、Cからは何回か2年のクラスに偵察に来てたの見ました。Dだけは目撃情報が入ってないんでどうやって気づいたかわかりませんけど…堀北会長?」
「…いや、それより気が付いたやつの名前はわかるのか?」
「もちろん。Aクラスは坂柳。Cクラスは龍園。Dクラスは…噂が2つありますが候補としては平田と大石ってやつの2人ですね。ただ平田のやつは俺に聞いて来たくらいですし違うと思います。なんで消去法で大石…堀北会長?どうしたんすか?」
「…なんでもない」
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