退学少年の栄達〜才能0と馬鹿にされた俺が世界を震撼させるまで〜   作:山川真水

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密談

 

「すごいじゃん! 俺はあんな出力の魔術、見たことないな。もしかしたら噂の一級魔術に相当するんじゃないか?」

 

治癒を受けるために控え室へ戻ると、待っていたらしいウルグに声をかけられた。

 

「いや、たまたま出ただけで……」

 

「謙遜すんなって」

 

自分のことのように喜んでくれるウルグの顔が眩しくて、直視できない。

 

「ズルの代償」で出力が跳ね上がったに過ぎないのに。僕の力を信じて疑わない彼に対し、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

「しかし、ウィルって奴強すぎるよな。あの出力なら俺の岩石化でも貫通されるぞ」

 

……そうだ。彼が生きていてくれて安心したのは事実だが、あれほどの強者なら、ティアラや審判が知らないはずがない。

 

過去の入賞者に彼の名はなく、ぽっと出の新人があの強さ。

 

(彼も、黒魔術師なのか……?)

 

一瞬、そんな疑念がよぎったが、すぐに打ち消した。

 

罪悪感から逃れるために「仲間」を見つけようとする、僕の卑しい本能がそう思いたいだけだ。

 

「一週間後から本選だ。お互い頑張ろうな」

 

軽い世間話の後、分かれ道でウルグは背を向け、帰路についた。

 

師匠に会わなきゃ。

最高責任者ならどこかの会場にいるはずだ。片っ端から回って見つけ出さないと。

 

この「偽物の力」で、これ以上誰かを傷つけないための調整が必要だ。

 

僕は、焦燥感に突き動かされるように駆け出した。

 

――とある料亭――

 

「失礼します。ゴキブリの足揚げ、蟻のキャビア、蚊のハンバーグ。それとムカデの踊り食いをお願いします」

 

「……足揚げの大きさ、キャビアの量、ハンバーグの硬さ。ムカデのサイズと数は?」

 

「三、S、G、I、八」

 

「奥の部屋へ。他のお客様の目に触れぬよう、ご堪能ください」

 

亭主が、厨房のさらに奥にある地下への階段へと男を案内する。

 

複雑怪奇に歪んだ通路。戻ろうにも元の道が分からなくなる迷宮のような構造の先、一つの部屋が見えた。

 

「こちらへ」

 

亭主が扉を開ける。

 

男が入ると、襖越しに妖艶なシルエットが映し出された。

 

「遅いよぉ〜。私、待ちくたびれちゃった」

 

襖の向こうには、寝っ転がって腹を掻きながら、娯楽小説を読み耽る栗毛の美女――ティアラ・ローズがいた。

 

男は無造作に服を脱ぎ捨てると、慣れた手付きで着替え始める。

 

「やっぱいつ見ても、あんたの変装技術訳分かんない!こんなおっきいおっぱい、どこに隠してたの!?」

 

ベチベチと、ティアラが目の前の人物の胸を叩く。

 

先ほどまでどこからどう見ても男だったその人物は、着替えを終えると、凛とした美しい女性へと姿を変えていた。

 

「おやめください、ティアラ様」

 

「あ、ごめんごめん」

 

ティアラが座布団に座り直し、表情を(わずかに)引き締める。

 

「で、どうだったの? ウィレナ?」

 

「ハンスという少年……あの炎柱の中に、一部『黒い色』を見ました」

 

「つまり?」

 

「彼は黒魔術師だと断定していいでしょう」

 

「えーっ。あんな綺麗な赤色の魔術だったのに。疑ったのは私だけど、信じらんなーい」

 

ティアラが畳の上でジタバタと手足を動かす。

 

「私も同感です。まさか色まで偽装できるとは……」

 

「てか、あの炎柱やばいよね? 私が喰らってたら死んでたよ。どうやって生き残ったの?」

 

好奇心からかティアラは目を輝かせてウィレナに尋ねる。

 

「まあ属性相性的に草適性のティアラ様にはあれを捌くのは至難の技でしょうね。」

 

そう前置きを置くと続けてウィレナが説明すると。

 

「私を中心として爆風を外に流し続けていたんですよ。熱はほとんど外に出したので中はそれほど暑くありませんでしたよ」

 

「ほえ〜」

 

納得の表情で酒に手を伸ばすティアラ。その手を、ウィレナが強く掴んだ。

 

「――あの少年は、即刻処刑でよろしいですか?」

 

命令とあらば今すぐにでも、というウィレナの視線を、ティアラはひらりとかわす。

 

「いやぁ〜、やめといた方がいいよ。証拠はウィレナの証言だけだし。レオさんの弟子だし、いい子そうだし、優秀だし……可愛いし」

 

「半分くらい私情じゃないですか」

 

呆れるウィレナだったが、続くティアラの言葉に表情を真剣なものへと戻した。

 

「『可愛い』は私情だけどさ、それを抜きにしても殺すべきじゃない。……一つ、レオさんがどう動くか読めない。二つ、魔人たちの動きが消極的すぎるから近いうちに大攻勢が来るかもなんだよ、だから戦力は残すべき。三つ、トリスタンさんが見つかるまでは、私たちの独断で動くべきじゃない」

 

「兄さん……ですか」

 

「そう。黒魔術が偽装できると分かった以上、身内に黒魔術師がいる可能性もある。下手に動いちゃダメ」

 

ティアラが「分かった?」と確認するように覗き込む。

 

「……ですが、兄は国外追放された身。この国を恨んでいてもおかしくありません。力を貸してくれるとは……」

 

ウィレナが危惧している点はそこだ。

ウィレナ自身も兄を探したい気持ちは強い。

 

しかし6年前のヴァンパイア•アンデット襲撃事件で死力を尽くしたにも関わらず、戦犯として追放された兄が昔と変わっているかも知れないとウィレナは考えている。

 

「大丈夫。トリスタンさんは本質的に優しいし、最悪私のベッドまで連れてけば何でも言うこと聞いてくれるよ」

 

「兄のそういう話は、ちょっと……」

 

気まずい沈黙を破り、ウィレナが別の問いを投げた。

 

「……身内に潜む『黒魔術師』。見当はついているのですか?」

 

「うーん……レオさんとか、怪しすぎない? 弟子が二人とも黒魔術師で、本人も強すぎるし」

 

最悪の予測に、ウィレナの顔が曇る。

 

「もしレオ様を黒魔術師として告発すれば……どうなるのですか?」

 

「まず、私とウィレナが逆立ちしても勝てないね。あの人にハニトラは効かないし。……それに、仮に勝てたとしてもレオさんがいなくなれば、他国や魔人が黙ってない。彼一人の存在が、戦争の抑止力なんだから」

 

「じゃあ私たちにはどうする事も出来ないんですか!?」

 

感情が昂りつい大声を上げてしまったウィレナだが諭すように今まで通りやれば良いとティアラから告げられた。

 

結局、手詰まりなのだ。

 

「分かりました。またお力になれることがあればいつでもお呼びください。私たちの理想のためにも絶対に悪を捌きましょう」

 

ウィレナは悔しさを払拭するように悪に対する憎悪を口にして部屋を出る。

 

一人残された部屋で、ティアラが呟く。

 

「『理想』ね……。叶うわけないじゃん。努力する人が報われる世界なんて。……はぁ。トリスタンさんがいたら全部投げ出せるのに。あの子ウィレナの暴走も見張らなきゃいけないの!?でもレオさんと戦いたくないしなぁ。痛いの嫌だし死にたくないもん」

 

しばらく意味不明な叫び声を上げてストレスを発散していた彼女だったが、ふと、妙案を思いついたように呟いた。

 

「……いっそ、私も何か問題起こして国外追放されちゃおうかな」

 

けれど、と思い直して再びバタバタと暴れ出す。

 

ティアラの葛藤は、誰に知られることもなく一晩中続いた。

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