退学少年の栄達〜才能0と馬鹿にされた俺が世界を震撼させるまで〜   作:山川真水

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ヴィクトール戦

開始の合図と同時に、僕はいつも通り『ファイアボール』を放って牽制し、視界を塞ぐ。

 

同時に、二級魔術『フレイムボム』の構築を開始しながら、ヴィクトールの足元を凝視した。

 

放った火球は、予想通り水によってかき消され、立ち上る霧が視界を白く染める。

 

(ガイヤの時のように、これで終わってくれたら楽だったんだけどな……)

 

そんな甘い願望を霧の向こうへ投げ捨て、炸裂弾を放とうとした、その時だった。

 

霧の奥でキラリと光るものが見え、直感的に身体を捻る。

 

――直後。僕の右腕があった場所を、鋭利な氷柱が凄まじい速度で通過していった。

 

水属性は、草と同じく不遇だと言われている。

 

けれど、草が「才能次第で評価が一転する」のに対し、水は「才能があっても殺傷力に欠ける」というのが通説だ。

 

それを、こんな形で制御し、殺傷力を補っているなんて。

 

(どれだけ才能があっても所詮は決定打に欠ける水魔術だと楽観視しすぎてた…)

 

自分を戒めながら、『高温化』で周囲の温度を強引に引き上げる。

 

氷なら溶かせばいい。少しでも氷柱の密度を下げるため、熱気に耐えながら機会を待つ。

 

霧が晴れる頃、ヴィクトールは氷の剣を手にし、同時に『ウォーターボール』を放ってきた。

 

僕にはそれを消す手段がない。炸裂弾を溜めながら『フラッシュ』を放ち、右に身体を飛ばして回避する。

 

閃光に目を焼かれたのか、顔を伏せたヴィクトールの隙を見逃さず、『フレイムボム』を叩き込もうとした。

 

だが、目前に巨大な『ウォーターウォール(水壁)』が立ち塞がる。

 

直撃こそ防がれたが、ボムは広範囲攻撃だ。僕は構わず壁の向こう側へとそれを爆発させた。

 

轟音と共に出現した隙間に、僕は『ファイアボール』を構えて突っ込む。

 

――しかし、壁の向こうに広がっていたのは、想像を絶する光景だった。

 

「……っ、寒い!?」

 

目前が見えないほどの濃霧。そして、凍えるような冷気。

 

構えていた火球は、霧に含まれる過剰な水分に触れ、一瞬で消火されてしまった。

 

(ここはヴィクトールの領域だ……!)

 

本能的な恐怖で後退しようとするが、背後にはいつの間にか『氷壁』がそびえ立ち、物理的に退路を断たれていた。

 

溶かそうと魔力を練っても、この異常な霧の中では火種すら作れない。

 

『高温化』すらレジストされ、気づけば四方を氷壁で囲まれていた。僕の生存圏は、わずか二メートル四方。

 

そして見上げた頭上には、巨大な水の塊――『滝』が生成されていた。

 

落ちてくるまで一秒もない。確実に押し潰され、凍らされる、完璧な詰みの布陣。

(……やるしかないのか、痛いの嫌なんだけどな…)

 

僕は両の掌を合わせ、僅かな窪みを作る。

 

掌の中の空間を強制的に真空状態にし、霧を蒸発させる。

 

その極小の空間の中で、僕は一級魔術――『エクスプロージョン』を全力で生成し、放った。

 

本来なら長い溜めが必要な大魔術だ。未完成なのは分かっていた。

 

それでも、放たれた衝撃は凄まじかった。

 

「あああああぁぁぁっ!!」

 

轟音と共に、僕の肘から下が吹き飛ぶ。

 

衝撃で身体の正面を焼かれながら、僕は後方へと吹き飛ばされた。

 

脳が異常な痛みに悲鳴を上げるが、意識だけは無理やり繋ぎ止める。ヴィクトールの位置を特定するため、必死に目を動かした。

 

視界の端で氷柱を捉える。あそこにいる!

 

残った肘で無理やり『ファイアボール』を放ち、走り込む。

 

自分に肉薄する氷柱を紙一重で避け、ヴィクトールがいるであろう場所へ突き進む。

だが。

 

「……完敗だよ。今回、僕が勝てたのは属性相性が良かったからだ」

 

霧の向こうから、右半身を火傷したヴィクトールが姿を現した。

 

彼は「勝った」と確信した目をしていた。まだ勝負は付いていないのに、なぜ。

 

「教えてくれないか。どうやって、その強さを手に入れたのか」

 

「まだ……勝負は……!」

 

その瞬間、背中から焼けるような激痛が走った。

 

振り返る余裕すらなかった。

 

「曲がるんだよ、その氷柱は」

 

氷の棘が僕の身体に刺さる。

 

視界が急速に暗転していく。

 

「また、後で会おう」

 

ヴィクトールが背を向け、歩き始める。

 

身体の自由が利かない。まるで縛らているかのように動かせない。

 

「――そこまで! 勝者、ヴィクトール・ド・ヴァランティーヌ!」

 

審判の声が遠くに聞こえる。

 

僕はそのまま、深い闇の中へと落ちていった。

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