退学少年の栄達〜才能0と馬鹿にされた俺が世界を震撼させるまで〜   作:山川真水

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不穏

「ねえウィレナ。新しい化粧品が出たらしいし、見に行かない?」

 

レオの監視がどこにあるか分からない以上、普段通りの生活を送る必要がある。そう考えたティアラは、ごく自然体でウィレナに接触した。

 

「ティアラ様、今は公務の最中では……?」

 

「いいのいいの。大会運営なんて、私がいなくても勝手に回るし」

 

そう言って、ティアラは強引にウィレナを化粧品店へと連れ出した。

 

「いらっしゃいませ。どうぞごゆっくりお選びください」

 

店員はティアラとウィレナの姿を認めると、何かを思い出したように営業スマイルを浮かべた。

 

「ティアラ様、ウィレナ様。いつもご贔屓にしてくださるお二方のために、特別な品のご紹介がございます。奥の別室へ……」

 

「ええ、どうするウィレナ?」

 

「……お言葉に甘えても、よろしいのではないでしょうか」

 

そんな白々しい茶番を経て、二人は店員に導かれ別室へと足を踏み入れた。

 

「それで、ご用件は何でしょうか。ティアラ様」

 

扉が閉まった瞬間、先ほどまでの華やかな空気は霧散し、剣呑な沈黙が流れる。

 

「私の影武者になってほしいの」

 

「……理由をお聞きしても?」

 

レオの追跡を撒くため――などと、口が裂けても言えない。ティアラは数秒の沈考の後、ウィレナを納得させるための「もっともらしい口実」を提示した。

 

「魔人たちの偵察と、ウィルの後始末よ」

 

即興にしては上出来だ、とティアラは心中で自画自賛する。

 

「魔人については理解できます。ですが、なぜウィルの後始末を……?」

 

(まあ、こんなことを言われても分からないよね)

 

ティアラは内心でそう思いつつ、わざと呆れたような態度でウィレナを問い詰める。

 

「あんた、なんで大会を棄権したの? 予選決勝であれだけ暴れ回った無名の選手が、本選で即棄権なんて怪しすぎるでしょ」

 

軽くため息を吐き、ウィレナを射抜くような鋭い視線で声を荒らげた。

 

「もし私が何も事情を知らない立場だったら、ウィルの出自を徹底的に調べる。当然でしょ? ポッと出の強者なんて、不安材料でしかないんだから」

 

ウィレナの顔が、みるみるうちに青ざめていく。

 

「……申し訳ありません。私の考えが及びませんでした……」

 

「別にいいけど。あんたの尻拭いをするんだから、ちゃんと手伝ってよねって話」

 

ウィレナが深い謝罪と感謝の礼を残して去ると、ティアラは安堵の息を漏らした。

 

(「どうやって処分するのか」まで聞かれなくて良かった……)

 

焦りを押し殺し、ティアラはこれから実行すべき計画の優先順位を整理する。

 

日が沈む前に「ウィルの筆跡」を偽造し、スパイの証拠となる手紙を捏造する。暗くなったら、ハンスたちが捕らえてきたトロールを解き放って騒ぎを起こす。

 

さらにウィルと自分が戦ったような痕跡も捏造しなければならない。

 

やるべきことは山積みだが、順序立てて処理していくしかない。

 

(頑張れ、私! ここを乗り切りさえすれば、安全安心の日々が待ってるんだから!)

 

 

 

「あー……負けた負けた」

 

ウルグが苦々しい表情で、独り言のようにつぶやいた。

 

「相性不利だったんだ、しゃーねえって」

 

ガイヤがそんなウルグを慰めながら、三人が入れる飲食店を探して歩く。

 

「どこも混んでるね……」

 

大会の熱狂冷めやらぬ街は人で溢れ、近場の店はどこも一時間以上の待ちが出ていた。

 

「てかハンス。賭博場での賭け金、ちゃんと受け取ったか?」

 

「え?」

 

予想だにしないウルグの問いに、僕は思わず聞き返した。

 

「さては、忘れてたな?」

 

「やば……ごめん!」

 

ウルグの勝利に全額賭けていたことを今さら思い出し、慌てて引き返そうとする。

 

「まあ待て。お前ら俺のこと忘れてんじゃねぇだろうな?」

 

賭博場に戻ろうとする僕とウルグをガイヤが止めた。

 

「言っただろ、今日は俺の奢りだって」

 

ジャラジャラと景気のいい音を鳴らし、ガイヤが小袋から金貨を取り出した。その数、およそ二十枚。

 

「ウルグのおかげで、さんざん儲けさせてもらったからな!」

 

ガイヤがケラケラと笑いながら金貨を袋に戻した、その瞬間だった。

 

金貨の詰まった袋が、ガイヤの手元から文字通り「消えた」のだ。

 

「ちょっ……!?」

 

目の前を、黒ローブで身を包み、布で顔を隠した何者かが猛スピードで駆け抜けていく。賊はそのまま、迷うことなく路地裏へと飛び込んだ。

 

「追いかけるぞ!」

 

ウルグの鋭い声を皮切りに、僕たちは夜の帳が下り始めた街へと駆け出した。

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