退学少年の栄達〜才能0と馬鹿にされた俺が世界を震撼させるまで〜   作:山川真水

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激突

僕は震える手足を叱咤しながら、川沿いをがむしゃらに下っていた。

 

(絶対に、スライドの連中がいるはずだ……!)

 

魔術の使い手がいるかもしれないという懸念はあるが、僕の力は大会である程度証明されている。大丈夫だ、やれる――。

 

そう自分を鼓舞して闇夜を駆けた。

 

しばらく走ったところで呼吸を整えようとした、その時だ。暗闇の中に動くシルエットを捉えた。

 

注視すれば、それは街中で見たあの黒ローブだった。

呼吸が整い切っていない最悪のタイミングでの接敵に、軽く運命を呪いながらも、僕は牽制の炎球を放つ。

 

炎の明かりが黒ローブの輪郭を鮮明に映し出す。逃走を図る敵の退路を、すぐさま炎の壁で遮断した。

 

「次は逃がさない!」

 

強気に宣言したものの、全力疾走の後では肩で息をするのが精一杯だった。

 

酒場で暴れ回っていた相手だ、魔術師である可能性が高い。

 

僕はいつでも炎球を放てるようチャージを維持しながら、黒ローブから一切視線を逸らさなかった。

 

敵は動かない。遠距離の攻撃手段がないのか、あるいは見えない場所で何かを企んでいるのか。

 

じりじりと不安が募り、呼吸が整う前に仕掛けようかと思ったその瞬間。黒ローブが川へと飛び込み、水面を切り裂いて擬似的な水壁を作り出した。

 

視界を遮られ、焦りが走る。すぐに水壁の向こうへ炎球を叩き込み、周囲の木々を松明代わりに燃やした。

 

すっかり明るくなった森の中、木々の隙間を縫うように走る黒ローブの姿が一つ。

 

(逃がすか……!)

 

安堵とともに、僕は必死に目を凝らしながら『フレイムボム』の充填を開始した。

 

いまだ反撃がないところを見ると、相手にはやはり遠距離攻撃の手段がないのだろう。

 

ならば、視界の開けたこの場所で敵を捉え続けるのが最善だ。僕は炸裂弾を完成させ、放つ機会を窺った。

 

その瞬間。背後から、体の芯まで響くような「ドン」という凄まじい衝撃音と地響きが伝わってきた。

 

(まさか、仲間が……!?)

 

一瞬、意識が後ろへ向く。振り向いた視界の端で、燃え盛る大木が一本、倒れていた。

 

状況が整理できず、脳がコンマ数秒フリーズする。

 

直後、右の手首に焼けるような激痛が走った。

 

「あ……っ!」

 

つい先ほどまで距離があったはずの黒ローブが、いつの間にか目の前に肉薄し、僕の手首を切り裂いていた。

 

パニックに陥った僕は、溜めていた炸裂弾を自爆の形で至近距離から解き放った。

 

顔に水飛沫がかかる感覚と、肌が文字通り焼けるような熱。

 

僕は凄まじい衝撃に弾き飛ばされ、背後の木に叩きつけられた。

 

全身を鈍痛が襲い、僕の意識は深い闇へと沈んでいった。

 

 

 

「……痛い。これだから、炎魔術師ってやつは本当に……」

 

ボロボロに焼け焦げた服と、自身の焼けた肌を見下ろして、ティアラは恨み言を吐き捨てた。

 

「この子は自爆が趣味だったりするの?」

 

聞く者もいない森の中で、愚痴がこぼれる。

 

ハンスの様子を確認すれば、放置すれば命に関わる状態であることは一目瞭然だった。

 

ティアラは怒りから一瞬だけ救助を躊躇したが、すぐに頭を振って応急処置を開始した。

 

全快させるわけにはいかない。だが、少なくとも死ぬことはない程度には、身体を治していく。

 

ハンスの呼吸が安定したのを見届けてから、ティアラは独りで感想戦を始めた。

 

ハンスに近づくために別の場所へ一瞬でも意識を向ける必要があったのだが、木を半分ほど切っておくことで自重で木が倒れるのを待つのはいい策であったと自分の機転を自画自賛する。

 

ハンスが周囲を燃やしてくれたおかげで、予想より早く木が倒れてくれたのも幸運だった。

 

だが、あの炸裂弾だけは、溜めきる前に撃たせるべきだったと反省する。

 

姿勢を低く保ち、川の水を被るようにして薄い水のシールドを張ったこと、そして直撃を避けたことで致命傷は免れた。

 

しかし、ハンスがコンマ一秒でも早く放っていたら、結果はどうなっていたか分からない。

 

何より、たった一撃でもまともに喰らえば、その正体が露見しかねなかった。それは彼女にとって、死と同義の致命的なリスクだった。

 

「……運よく気絶してくれて、本当に良かった」

 

もはや羽織ることすらできない黒ローブを見つめながら、ティアラはこれからの立ち回りに向けて、深い思慮に耽った。

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