退学少年の栄達〜才能0と馬鹿にされた俺が世界を震撼させるまで〜 作:山川真水
見覚えのない天井が視界に入り、僕の意識は覚醒し始めた。
完敗だった、何もかも後手に回ってなんとか一命を取り留めたが運が悪ければ死んでいた…
「何があったんだ?」
ウルグが僕の顔を覗き込むようにして問いかけてきた。
「スライドと戦って、負けた……」
案の定の答えだったのか、ウルグは表情を変えなかった。
「相手の戦い方は?」
「とにかく素早くて、すごい剣術だった。魔術は使ってこなかったよ。少なくとも遠隔攻撃の手段はないはず。だけど、戦闘中に不自然に木が倒れたんだ。もしかしたら、僕の知らない魔術を使っているのかもしれない」
予想外の証言だったのか、ウルグは意外そうに眉を寄せた。
「それが魔術なら、一級の草魔術か水魔術の腐食の類だ。だが、そこまでの術者がわざわざ剣術だけで戦う意味がない」
「じゃあ、潜んでいた仲間がやった可能性はある?」
「かもな。けどそいつは非戦闘員か、サポートに徹しているんだろう。」
議論を重ね、僕たちは敵の全体像を結論付けた。
おそらく敵は二人組。ガイヤの財布を盗んだ実行犯と、僕と交戦した剣士はペアで動いている。そして、どちらも魔術師ではない――。
「そうと決まれば、もう一度やり合いに行こう。今度は俺もガイヤもいる」
ガイヤは少し気乗りしない顔をしていたが、最後にはコクコクと頷いた。
「でも、相手は強いよ。大丈夫なの?」
「打撃ならともかく、剣撃なら俺に掠り傷一つ付けることはできない。安心しろ」
その頼もしい言葉を受け、僕は奴らの足取りを追う決意を固めた。
ロートの城壁外。ティアラは地面を掘り進めるように、巨大な大木を急成長させていた。
膨大な魔力消費に冷や汗を流しながらも、城壁の内外を繋ぐ密道を完成させる。崩落を防ぐための木の柱で天井を補強し、安定を確認した。
(完成! ……でも魔力がもう二割しか残ってない…温存しないと)
不法侵入したティアラが辿り着いたのは、夜の静寂に包まれた住宅街だった。
手近な民家から馬を奪うと、彼女はそのまま収容所へと馬を走らせた。
「止まれ!」
看守の制止を無視し、全速力で突っ込む。放たれた風刃を華麗に回避し、馬上から一閃。抵抗する看守を叩き斬る。
(私が言うのもなんだけど、もう少し警備を強化した方がいいんじゃない……?)
夜勤ということもあり、魔術を使える者は一人しかいなかったのか、残った数人の看守は恐れをなして敵前逃亡を始めた。
ティアラは悠々とした態度で収容所に入って例のトロールを探し始める。
収容所の最奥。人間とは明らかに隔離された独房に、目的のトロールは収監されていた。
「君、会話はできる?」
問いかけに対し、返ってきたのは言語とは程遠い唸り声だった。
知性がないことはティアラにとって好都合だったが、同時に同種間での知能差が激しすぎることに深い疑問を抱く。
だが、知識欲を満たすより先にやるべきことがある。
彼女は即座に独房の鍵をこじ開けた。
解放された瞬間、トロールが巨体で襲いかかってきたが、ティアラは迷わずその足首を両断した。
機動力を奪い、木製の猿轡さるぐつわを口に捩じ込む。
その後、手際よく馬車の荷台を調達し生成した蔓を網のように使ってトロールを積み込んだ。
盗んだ馬を収容所の屈強な軍馬二頭と交換し、荷台に目隠しの布を被せれば、即席の「トロール運搬車」の完成だ。
(この辺りで駐屯兵がいなくて、ちょうどいい村……パリガ村あたりかな)
目的地を定め、遠回りではあるが整備された道を全速力で駆ける。
だが、逃走は長くは続かなかった。
横合から円錐形の岩が飛来し、馬の一頭を直撃したのだ。機動力を失った馬車が、ずるずると速度を落としていく。
(……ついてないなぁ、私)
心の中で恨み言を吐きながらも、一瞬で戦闘を終わらせるべく敵の足元に蔓を這わせようとしたその時、ティアラは今年一番の絶望を味わうことになった。
(しつこすぎでしょ……治しすぎたかな)
視界の先。炎球を構えたハンスと、その仲間たちが殺気立ってこちらへ突進してくるのが見えた。
(今度は完全勝利を収めるしかないけど、剣術だけで勝てるかな……)
最悪の事態に備えた逃走経路を脳内でシミュレートしながら、ティアラは再び、その剣を抜いた。