退学少年の栄達〜才能0と馬鹿にされた俺が世界を震撼させるまで〜 作:山川真水
いきなりの魔術に彼らは戸惑いを感じていた。
身体を少しでも動かせば、深く侵入している棘によって身体が破壊されていく。
その一瞬、世界は凍りついたかのように誰も動かなかった。
刹那、ティアラの視界の端で黒いローブを羽織っている人間が3人いるのをたまたま見つけた。
おそらく壊滅させたスライド前哨基地の様子を偵察しに来たのだろう。
ティアラは心の底から自分の幸運に感謝した。
熱気を感じたティアラは彼らの方を見ると、ハンスは薔薇を燃やし尽くしていてウルグは岩石化でも使っているのか無理矢理棘を引っこ抜いていた。
それを認識した彼女は彼らの前に木を生成して視界を遮る。
その後蔦でスライドを1人誘拐し、即座に気絶させてティアラが先ほどまで倒れていた場所に倒した。
木がどんどん燃えてこちら側が見えそうになった時、もう一本木を出して時間を稼ぎつつ背後の闇に逃げる。
無数の細い棘が身体に食い込み、僕たちは一歩も動けなくなった。
少しでも身じろぎすれば傷口を広げ、更なる痛みに襲われる。
(一体何が起きてるんだ……? 目の前の剣術士は魔術を使えないはず…増援か……!)
心の奥底から這い上がってくる恐怖を、僕は無理やり闘争心へと塗り替えた。
身体に刺さっている棘を巻き付いている植物ごと燃やし尽くした。
ウルグも『岩石化』を維持したまま無理やり棘を弾き飛ばしていた。
ガイヤは何もできずに苦しんでいたようだがファイアエンチャントをガイヤに纏わせてガイヤの棘も燃やしていく。
脱出した一瞬の隙に、眼前に巨大な倒木が出現する。
ウルグが目を合わせてくる。意図を汲み取った僕は、最大火力でその障害物を焼き尽くした。
「……来た、あっちだ!」
ウルグが指差す先、暗闇からスライドの構成員二人がこちらへ肉薄してくる。ガイヤが掌に小さな水球を生成しながら、僕らに耳打ちした。
「あいつら、さっきの剣術士と同じ強さかもしれない。俺とハンスで気を引くからお前が奇襲しろよ」
心配そうな顔をしたウルグだったが、瞬時に切り替え了承の意を示す。
「目閉じてて」
報告のコンマ数秒後、僕は『フラッシュ』を炸裂させた。
閉じた瞼の裏まで白く染まるほどの閃光。それを合図にウルグが闇へと消え、ガイヤが水球を敵にぶつけて印を付ける。僕は周囲の木々を燃やし、逃げ場を奪いつつウルグに敵の位置を知らせた。
敵の視界が戻り、一瞬、目が合った気がした。
あの異常な剣術を使わせるわけにはいかない。草属性の魔術なら、すべて僕の炎でレジストしてやる――そう身構えた瞬間。
不思議なことに、敵は戦意を喪失したかのように背を向けて走り出した。
そこを逃さず、死角から現れたウルグが背後を強襲。あっけなく制圧は終わった。
「……呆気なかったな」
「そうだね」
ウルグが気絶したスライドを引きずってくる。
「あのレベルの草魔術を使えるくせに……何か腑に落ちない」
ウルグが不審そうに眉を潜めた、その時だった。
一箇所に纏めたスライドの体から、あの真っ赤な薔薇が再び咲き誇ったのだ。
「……っ、嘘だろ!?」
まだ仲間がいる。あの草魔術師が、闇の中から僕たちを監視している。
「逃げよう、今すぐに! 悔しいけど僕たちの負けだ」
あの薔薇は、おそらく敵の傷を癒すためのものだ。今にあの剣術士が起き上がってくる。これ以上の連戦は不可能だ。
ガイヤと僕が撤退しようとした、その瞬間。
ウルグの腕が、地面に伏していた剣術士の胸を容赦なく貫いた。
「……何、してるの……?」
目の前で、一つの命が消えた。
殺し合いをしていたのは事実だ。けれど、実際に命が枯れる瞬間を、僕は見たことがなかった。
「こいつは脅威だから殺しておくべきだ。」
「でも、そんな簡単に……!」
「言い争いは後にしろ! 早く逃げるぞ、敵の規模も分かってねえのに、こんな場所でくっちゃべってんじゃねえ!」
ガイヤの怒号が僕の思考を上書きした。
ウルグも撤退に同意し、走り出そうとしたその時。
「――ここで、何があったんだ?」
その声一つで、僕の心を満たしていた不安も恐怖も、すべてが霧散した。
師匠。いや、レオ・ブライトがそこに立っていたから。
ティアラは闇の中から、スライドとハンスたちの戦いを監視していた。
決着がつき、スライドたちが一箇所にまとめられた瞬間、彼女は薔薇をスライドたちに刺して棘から毒を流し込む。
「……証拠隠密は大事だもんね。魔力は空っぽ、剣も折れちゃった。急いで逃げなきゃ」
誰に聞かせるでもない独り言を吐きながら、ティアラは夜の森を駆けロート付近まで戻っていった。