退学少年の栄達〜才能0と馬鹿にされた俺が世界を震撼させるまで〜   作:山川真水

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推薦

「凄腕の草魔術師が付近に潜伏しています。この場での現状把握は、そいつに対処してからでお願いします」

 

ウルグが簡潔に現状報告を終えると、師匠は小さく頷き、軽く右腕を振った。

 

刹那、肌を焼かれるかと思うほどの爆熱が一瞬だけ周囲を襲う。気付けば、あれほど鬱蒼としていた夜の森は、一瞬にして見渡す限りの焼け野原へと変貌していた。

 

「半径五十メートルほどを焼き払った。潜伏しているなら消し飛んだか、これを見て命からがら逃げ出しただろう。では、何があったか説明してくれないか?」

 

あまりに規格外の炎魔術に、ガイヤやウルグだけでなく、弟子である僕ですら目を丸くした。

 

張り詰めた沈黙と緊張ののち、僕たちは街でスライドが暴れていた一連の顛末から話し始めた。

 

すべてを聞き終えた師匠は、一つ深く頷いてから、衝撃の言葉を口にした。

 

「流石は魔術団候補だ。よくやったな」

 

師匠はウルグの目を真っ直ぐと見つめ、ここまでの彼の冷徹な立ち回りを称賛した。

 

「君、人を殺したのは初めてだろう? 迷いなく脅威を排除できるというのは、一つの才能だ。今後の活躍を期待しているぞ」

 

僕だって命懸けで頑張ったのに、と胸の奥に少しだけモヤついたものが広がる。それでもウルグを純粋に賞賛しようと言葉を探した、その時だった。

 

「それに比べて、ハンスはまだ未熟だな。お前たちはこれから同じ任務に就くことも増えるだろう。彼を見習って成長していけよ」

 

唐突に突きつけられた言葉に、僕は硬直した。

 

「え……師匠、それって……?」

 

「お前も魔術団に推薦してやるって意味だ。十六歳の少年が同時に3人も推薦を受けるなんて、前代未聞だぞ」

 

今までの悔しさも、取り残されていたような疎外感も、すべてを吹き飛ばすほどの歓喜が僕の全身を支配していった。

 

「えっ……三人ってことは、もしかして俺も……!?」

 

ガイヤが期待に満ちた眼差しを師匠に向けたが、師匠は気まずそうに視線を外し、「いや、別人だ」と告げた。

 

ガイヤの首が、ガクリと力なく折れる。

 

「……おいハンス、疑ってたわけじゃねえが、お前の師匠があの『レオ・ブライト』ってマジだったんだな……」

 

ウルグが畏怖を滲ませながら耳元で囁いてきた。僕は誇らしさを隠せず、小さく声を返す。

 

「自慢の師匠なんだ」

 

「では、兵舎の案内をしよう。魔術団なんてラフな名前がついてるが、実態は軍隊と何ら変わらん。覚悟してついて来いよ?」

 

師匠が手招きしながら、ロートの街へ向かって歩き出した。

 

僕はガイヤの肩を軽く叩く。

 

「ガイヤも、次の大会で結果を出して魔術団に来てよ。待ってるから」

 

「ざけんなよ。お前らみたいに怪物じゃねえんだから、せめて三年は待てよ」

 

普段通りの軽口を叩き合いながらも、僕たちは生き残った二人のスライドを引きずり、夜明け前のロートへと帰還した。

 

 

 

夜の森にしてはあまりに不自然な、あの熱風。

 

ロートの間近まで帰還していたティアラは、瞬時に危機を察知して巨木に登り、後方の戦場を確認した。

 

遠くで夜空を赤く染める大火。

 

(……レオさん、来てるじゃん…)

 

どこまで状況を把握されているか分からない。凄まじい恐怖がティアラの背筋を駆け抜けたが、スライドに罪を擦り付けるミスリードは完璧なはずだと自分に言い聞かせ、ロートへと密入国する。

 

裏通りや建物の屋根を忍びの如く渡り、彼女は窓から団長室へと滑り込んだ。

 

「終わったよ、ウィレナ。――じゃあ今から『ウィル』になって、私と追いかけっこをして。アリバイを作りたいから」

 

団長室の椅子に座る、自分と瓜二つの顔をした存在に向かって、ティアラは話しかけた。

 

「かしこまりました」

 

ティアラの顔をしたそれは、静かに更衣室へと消え、少しの時間ののち、今度は青年「ウィル」の姿となって戻ってきた。

 

「その魔道具って、骨格を少し変える程度しかできないはずよね。何度見ても、あんたの変装技術は意味が分からないわ」

 

「声や顔の形も、多少はいじれますので」

 

一般男性としか思えない低い声と、その風貌でウィレナは返答する。

 

「私も使ったことがあるけれど、そんな別人にはなれない。やっぱりあんたは凄いわね」

 

ウィレナの技能を素直に称賛しながら、ティアラ自身も普段着へと着替えた。

 

「少し『亜人王』と戦闘になって、魔力が空っぽになっちゃったの。だから、少し控えめの速度で走ってね」

 

「……後ほど、詳細をお聞かせください」

 

溢れんばかりの好奇心をグッと抑え込み、ウィレナは夜の街へと駆け出した。

 

深更のロート。まだ明かりの灯る夜街の民衆の前で、二人はティアラとウィルの追走劇見せつけていく。

 

十分に衆人環視の目を集めたのち、ロートの外壁付近でウィルの痕跡を完全に抹消した。

 

「ご苦労様。今日は野宿していてね、ウィレナ。明日の太陽が一番高い時間、私が門番を一度退かすから、その隙に帰ってきて」

 

露骨に嫌そうな顔をしながらも、ウィレナは無言で承諾し、人の来ない獣道へと消えていった。

 

すべての工作を終えたティアラは、自身の邸宅へと滑り込み、今日一日の限界を超えた疲労を全身で受け止めながら、泥のように深い眠りへと落ちていった。

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