退学少年の栄達〜才能0と馬鹿にされた俺が世界を震撼させるまで〜   作:山川真水

38 / 38
説得

「明かり役にハンス、治癒役にセクナさん、前衛の戦闘員は僕だ。君は衝動的な行動で僕たちを危険に晒すだけだし要らないよ」

 

そう吐き捨てると、ヴィクトールは振り返ることもなく洞窟の奥へと進んでいった。

 

「あの、ウルグ……気を落とさなくていいと思うよ。ウルグだって強いから……さ」

 

慰めのつもりで口にした言葉だったが、言った直後に僕はハッとした。

 

武闘会でもついさっきの戦闘でも、ヴィクトールとの圧倒的な実力差を見せつけられたばかりのウルグにとって、「強い」という言葉はかえって残酷な棘になってしまう。

 

けれど、他にどんな言葉をかければいいのか分からなかった。

 

実際にウルグの短絡的な行動のせいで、敵に襲撃を知らせてしまったのは否定しようのない事実だ。ヴィクトールの言い草は過激だが、指摘自体は一つも間違っていなかったからだ。

 

「いいぜ……あいつの言う通り、俺は帰るわ。お前ら、頑張ってこいよ」

 

ウルグは悔しそうに奥歯を噛み締めた。そして僕に背を向けながら、地を這うような低い声で激励を投げかけてくる。

 

「ダメだよ、こんな所で帰っちゃ……!」

 

「いや、俺はいない方がいい。危険度が低い任務とは言っても、命を預け合う仲なのに喧嘩してちゃ命取りになる」

 

もっともらしい理屈を並べながら、ウルグは自分を納得させるように来た道を歩む足を止めなかった。

 

「でも、評価とかにも関わるし……初任務で仲間割れして帰還したなんて上に知られたらさ……」

 

「俺の問題だ。お前には関係ないだろ」

 

突き放すような冷たい言葉に、僕の心が折れそうになる。焦りが募り、僕は思わず口を走らせてしまった。

 

「でもさ、次の戦闘とかで挽回できるかもしれないじゃん……!」

 

最悪な事を言ったとすぐに猛省した。

ウルグはさっきの戦闘でまさにそれをやろうとして、ヴィクトールにすべてを奪われたのだ。だからこそ、心を折られてしまったというのに。

 

「ハンス。お前が俺を引き止めたいってのは分かった。だから、俺も本心から話そう」

 

ウルグが足を止め、振り返った。その表情には、いつもの自信に溢れた面影はなかった。

 

「俺はあいつが嫌いだし、……怖いんだよ。自分がどうしようもなく弱いってことを、これ以上突きつけられたくない。だから、一緒にいたくないんだ。……頼むから、このまま帰らせてくれ」

 

すべてを吐露したウルグの姿は、ひどく小さく、弱々しく見えた。

 

その瞬間、自分の無力さを徹底的に突きつけられて、すべてを諦めて退学しようと決意したあの時の僕の姿が、今のウルグと痛いほどに重なった。

 

「僕はさ」

 

僕はゆっくりと、けれど真っ直ぐにウルグを見据えた。

 

「僕は弱いから、ウルグが近くにいてくれないと不安なんだ」

 

本当なら、全てを話してしまいたい。けれど今はセクナさんも近くにいる。

 

だから、ただ今僕が君に対して抱いている感情だけを、そのまま吐き出そうと決めた。

 

「ウルグが前で僕を守ってくれるから、僕は安心して戦える。予選で戦った時、僕がどれだけ怖かったか……その恐怖が、ウルグの強さを知らせてくれたから。」

 

「スライドの剣術士と戦った時もそうだ。僕一人じゃ完敗した相手だったのに、ウルグがいてくれたから勝てたんだよ」

 

一歩、ウルグへと足を踏み出す。

 

「ウルグが本心から話してくれたから、僕も本心で話したよ。僕には、ウルグが必要なんだ。だから……一緒に来てほしい」

 

理屈じゃない、ただの我が儘で感情的な引き止め方だ。だけど、この言葉には一切の嘘も偽りもないことだけは、天に誓える。

 

本心から紡がれた言葉は、まるで熱い炎のようになって、ウルグの心にまとわりついていた氷を着実に溶かしていった。

 

「……そこまで言うならよ。まあ……うん」

 

歯切れの悪い返答をしながらも、ウルグの足は完全に止まっていた。

 

「早く来てくれ! さすがに暗くて僕一人じゃ進めない!」

 

洞窟の奥から、ヴィクトールの急かす声が響き、僕の意識は現実に引き戻された。

 

「僕は行くよ。でも、いつまでもウルグが来るのを待ってるから。帰るなんて言わないで、一緒に戦ってよ」

 

それだけ言い残し、僕は洞窟の奥へと足を踏み入れた。セクナさんもアワアワと慌てながら僕の後を追ってくる。

 

まだ地上からの光が届く境目で、僕は最後に一度だけ後ろを振り返った。

 

暗がりの中、ウルグの足先がしっかりと洞窟の方を向いているのが見えた。その瞬間、僕の胸は、何よりも心強い安心感で満たされていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~(作者:不破ふわる)(オリジナル現代/ホラー)

上位存在に日替わりで性別をコロコロされる生贄系転生者が、因習村を抜け出して怪異風味の現代ダンジョンに殴り込み(強制)を仕掛ける話。


総合評価:23428/評価:9/連載:170話/更新日時:2026年08月10日(月) 20:00 小説情報

和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか?(作者:鬼怒藍落)(オリジナル現代/冒険・バトル)

一般和風好き転生者VS曇らせと理不尽と絶望▼ファイ!▼カクヨムにも出します


総合評価:4209/評価:7.97/連載:42話/更新日時:2026年05月07日(木) 07:10 小説情報

分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?(作者:sasarax)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

なお、それを何も知らないヒロインの前でやったとする。▼「俺が死んだと思ったって? いやそれ分身だから」▼そんな感じの主人公が周囲の人の脳みそをこんがり焼いたり、美味しいご飯を食べようとしたり、がんばってお金を稼いだり、分身が巻き込まれた事件の後始末をしながら、異世界でゆっくり成り上がっていく物語。▼※カクヨムでも連載中です。


総合評価:18054/評価:8.97/連載:72話/更新日時:2026年08月09日(日) 16:37 小説情報

悪役令嬢の腰巾着に転生した俺、「流石はお嬢様!」と煽てながら全力で生き残る(作者:延暦寺)(オリジナルファンタジー/コメディ)

現代日本、ダンジョン攻略が国力を左右する世界。▼九条財閥の従者の家に生まれた俺は、▼幼い頃の顔合わせの最中、ここが前世でやり込んだRPGの世界であることを思い出す。▼目の前にいるのは、金髪縦ロールを揺らし高笑いする、仕えるべき主――悪役令嬢・九条葵。▼原作の彼女は、突如現れた原作主人公に負け、最後には魔人に堕ちて討伐される、哀れな噛ませ犬だ。▼当然、その横に…


総合評価:8734/評価:7.43/完結:25話/更新日時:2026年06月06日(土) 12:28 小説情報

カードゲーム世界で考察配信したら、黒幕っぽくて楽しい(作者:マクロコスモス)(オリジナル現代/冒険・バトル)

カードゲーム世界で無名配信者をしていたヒカルは、ある時カードのイラストやフレーバーに関する考察配信をしてみることにした。▼転生者特有のメタ読みを活用した結果、見事にカードの裏に潜む悪の組織の意図に気付き、組織が壊滅。▼まるで黒幕のようだと、ヒカルは思う。▼そんな状況でヒカルは――喜んで配信を続けることにした。▼なぜなら彼は人の嫌がることが大好きな陰湿デッキ使…


総合評価:27100/評価:8.64/連載:16話/更新日時:2026年08月09日(日) 18:05 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>