退学少年の栄達〜才能0と馬鹿にされた俺が世界を震撼させるまで〜   作:山川真水

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試合開始

あれから三日。ついに武闘会の開戦日を迎えた。

 

予選はAからHまでのグループに分かれたトーナメント方式で、各ブロックの入賞者が本選に上がれる仕組みだ。会場の都合上、初日はA〜Dグループ、二日目にE〜Hグループの予選が進行する。

 

僕はCグループなので初日に試合があるのだが、どうにも気が進まない。

 

師匠から戦術を叩き込まれたとはいえ、1級・2級魔術が使えないのはやはり痛い。

 

しかも、これはロートで開催される青少年大会だ。アイビス魔術学園の、力に自信のある生徒たちもわんさか参加しているだろう。

知り合いにはなるべく会いたくなかった。

 

だから、遠回りになっても人通りの少ない小道を選んで会場へ向かい試合場まで到着する。あとは受付を済ませだけなのだが――運悪く、正面から一番会いたくなかった連中が歩いてきた。

 

「でよー、組み合わせを見たら相手の名前が『ハンス』なんだわ。こんな田舎くせぇ名前、あいつ以外にいねーだろ? 初戦は楽勝すぎて笑えるぜ」

 

僕を執拗に虐めていたガイヤと、その取り巻きたちだ。

 

ドクドクと心拍が早まるのを感じる。気づかれないように下を向いて通り過ぎようとしたが、すれ違いざま、後頭部に衝撃が走った。

 

「ガッ……!?」

 

予期せぬ痛みに変な声が出る。

背後から下品な爆笑が上がると同時に、髪を強く引っ掴まれ、視界が強引に反転した。

 

「久しぶりじゃーん。学校辞めてママのところで泣いてるって聞いてたんだけどさぁ、ハンスくぅーん?」

 

恐怖と屈辱が胸の奥からせり上がってくる。

 

「あ……はな……し……」

 

声を出そうとしても、喉に何かがつっかえたようで言葉にならない。

 

「声が小さくてイライラするなぁ。どうせ一時間もしないうちにボコすわけだし、今やっちゃっても同じだろ?」

 

ガイヤの拳が振り下ろされようとした、その瞬間。

目の前に、鮮やかな「薔薇」が出現した。

 

「いってぇ!!」

 

ガイヤの手が僕の髪から離れた。

 

体勢を立て直して前を見ると、薔薇の茎がガイヤの腕に絡みつき、その拳からは一輪の薔薇が咲き誇っていた。

 

「まだ試合は始まっていないよ、君たち」

 

横から聞こえた声に、お礼を言おうと顔を向けて――心臓が止まるかと思った。

 

目視した人物はティアラ・ローズ。

 

彼女は僕には目もくれず、ガイヤの方へと歩み寄り、薔薇を消して治癒を施した。

 

「試合が始まるまでは、みんな仲良く、ね?」

 

ティアラがガイヤの額を指でツンと突くと、そのまま審判室へと消えていく。

 

ガイヤはといえば、頬を少し赤くしてポカーンとしていたが、すぐに取り巻きたちと猥談を開始した。

 

近付くのはまずいかもしれないが助けてもらったのは事実だ。一言お礼を言おうと審判室まで行ったが、「関係者以外立ち入り禁止」と警備員に止められてしまった。

 

結局、お礼を言えなかったモヤモヤと、ティアラがこの会場にはいたのは偶然か必然かという疑問を抱えたまま、僕はベンチで開会式を待つことにした。

 

『青少年武闘会運営よりお知らせです。まもなく開会式が始まりますので、選手の皆さんは会場内までお越しください――』

 

いつの間にか、少し微睡んでいたらしい。

アナウンスに従ってアリーナへと向かう。

 

圧倒的な熱気。一つのグループだけでこれほどの人数がいるのかと、僕はその雰囲気に気圧されそうになった。

 

開会の辞から選手宣誓までが終わり、いよいよ試合が開始される。

 

第一試合場へ行くと、ガイヤがヘラヘラした面構えで待ち構えていた。

 

試合開始直前、対戦相手と本部へ敬意を払って礼をするのが決まりだ。

ガイヤは勝ちを確信しているのか、ニヤニヤと笑いながら十度程度の浅い礼で済ませていた。

 

だが、これは好都合だ。

 

師匠からは「相手に自分を舐めさせろ。避けるまでもない攻撃だと思わせてから、強い一撃を叩き込め」と教わっている。

 

三級魔術しか使えないが、ガイヤは学園時代もそれほど成績は良くなかったはず。

 

勝てなくても、せめて「勝負」にさえなれば。元同級生たちを見返せるかもしれない。

 

「両者位置について……試合開始!」

 

審判の合図と同時に、僕は掌サイズの小さな『ファイアボール』を放った。

 

狙いはガイヤの右胸。放った直後に身を屈め、炎で視線を遮りながら右側から崩しにかかる――。

 

そのはずだった。

 

ズドォォォンッ!!

 

激しい爆音と共に、ガイヤの体が派手に吹き飛び、地面に転がった。

 

「え……?」

 

予想とかけ離れた光景に、僕は思わず素っ頓狂な声を漏らしていた。

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