ポケットモンスター 窓際警部の逆転劇。あなぬけのヒモ一本で、悪の組織を全滅させて、壊れた世界を繋ぎ直す話   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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七つの罪と七人の賢者

イッシュ地方の広大な大地には、冬の気配が忍び寄っていた。冷たい風が枯れ草を揺らし、沈みゆく夕日が地平線を血のような赤に変えていく。俺は、国際警察から支給された最新の端末を眺め、地図上に記された最後の1点を見つめていた。

 

「……俺はハンサム。世界で一番、不釣り合いな名前の男だ」

 

口をついて出た独白が、乾いた空気に溶けていく。ヒウンシティでの潜入を経て、俺は確信していた。この任務は、単なる残党狩りではない。組織が俺に課したのは、プラズマ団という巨大な「理想の残骸」を、法という名の不透明な布で覆い隠す作業だ。

 

「グレッグル。……準備はいいか。最後の一人だ」

 

傍らのグレッグルが、不敵な笑みを崩さずに喉を鳴らす。こいつだけは、俺の迷いも、組織への不信感も、すべてを承知の上で付き合ってくれている。

 

俺たちが辿り着いたのは、人里離れた断崖に建つ古びた灯台だった。そこには、七賢人の一人であるヴィオが、凍てつく海を見つめて静かに立っていた。

 

「……来たか。国際警察の捜査官よ」

 

ヴィオは振り返ることなく、掠れた声で言った。その背中は、世界を支配しようとした組織の幹部というよりは、役目を終えた老学者のように小さく見えた。

 

「ヴィオ。逃げ隠れは無用だ。他の6人は既に確保した。君で最後だ」

 

「逃げる? どこへ。我らに帰る場所など、プラズマ団が瓦解したあの日からどこにもない。……捜査官よ、君は我らを悪と呼び、断罪しに来たのだろう?」

 

俺は一歩、歩を進めた。手に持ったモンスターボールを、あえてポケットに収める。

 

「俺は、君たちの思想を裁きに来たわけじゃない。……ただ、話を聞きに来ただけだ」

 

ヴィオが怪訝そうに眉を動かし、ゆっくりと俺の方を向いた。

 

「対話か。……滑稽な男だ。法の番人が、犯罪者に言葉を費やすとはな。我らは王を担ぎ、ポケモンの解放を説いた。それは君たちの社会を根底から壊す行為だったはずだ」

 

「確かに、君たちのやり方は過激すぎた。だが……」

 

俺は夕日に目を細めた。

 

「君たち一人ひとりを追い詰めて分かったことがある。君たちには、それぞれの生活があった。守りたかった小さな正義があった。……中には、行き場を失って、ただ理想という名の熱病に縋らざるを得なかった連中もいたはずだ」

 

ヴィオは鼻で笑ったが、その瞳にはわずかな揺らぎが生じていた。

 

「生活、か。我らもまた人間であったと、そう言いたいのか? ……捜査官、君は組織から何を教わった。我らを冷酷な犯罪者として処理せよと言われなかったか?」

 

「……教わったさ。だが、俺の名前は『ハンサム』だ。組織が俺に押し付けた、本名さえ持たない記号だよ。だからこそ、俺は記号としてではなく、一人の男として、君たちという人間を見たいと思ったんだ」

 

俺たちはしばらく、風の音だけが響く中で対峙した。ヴィオは俺の瞳の奥にある「空虚」と「意志」を見つめているようだった。

 

「……フン。不釣り合いな名前だと言ったな。だが、その青臭い正義感こそが、あるいは君を人間に繋ぎ止めているのかもしれない」

 

ヴィオは懐から、プラズマ団のエンブレムを象った小さな記章を取り出し、海へと投げ捨てた。

 

「いいだろう。君の対話に免じて、投降しよう。……だが、忘れるな。我らを捕らえたところで、この世界から『格差』や『苦しみ』が消えるわけではない。第2、第3のプラズマ団は、常に闇の中で産声を上げているのだ」

 

「……わかっている。だからこそ、俺たちは歩き続けるしかないんだ」

 

俺はヴィオの手首に、静かに手錠をかけた。これまでのような、任務を完遂したという達成感はない。ただ、一人の人間の「正義」が、大きな現実の前に折れる音を聞いたような、重苦しい沈黙だけが残った。

 

「確保完了。……これで、7人全員だ」

 

通信機に向かって告げる俺の声は、どこか遠い場所から響いているように感じられた。

 

組織は、これでイッシュの憂いは消えたと喜ぶだろう。だが、俺の胸の中には、ヴィオたちが残した言葉の破片が、棘のように突き刺さっていた。

 

悪の中にも生活があり、正義の中にも闇がある。

 

俺が従っているこの「国際警察」という組織は、果たしてヴィオが言った「第2のプラズマ団」ではないと、誰が証明できるのだろうか。

 

「グレッグル。……帰るぞ。だが、次はどこへ向かえばいい」

 

グレッグルは俺の影をじっと見つめ、励ますように短く鳴いた。

 

夕闇が世界を包み込む。灯台の明かりが、周期的に海面を照らし出していた。

 

俺はハンサム。世界で一番、不釣り合いな名前の男だ。

 

7人の賢者たちとの対話を経て、俺の心にあった組織への絶対的な信頼は、冬の氷のように少しずつ、だが確実に、ひび割れ始めていた。

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