ポケットモンスター 窓際警部の逆転劇。あなぬけのヒモ一本で、悪の組織を全滅させて、壊れた世界を繋ぎ直す話   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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ミアレの灯、独り灯して

カロス地方の中心、ミアレシティ。放射状に広がる路地は迷宮のごとく入り組み、中心にそびえるプリズムタワーが街のすべてを見守っている。

 

俺は、サウスサイドストリートの片隅にある古びた雑居ビルの一室にいた。窓ガラスに貼られたカッティングシートには「ハンサムハウス」の文字。

 

「……俺はハンサム。世界で一番、不釣り合いな名前の男だ」

 

淹れたての安いコーヒーを啜りながら、いつもの独白を漏らす。

国際警察を休職し、この街で探偵事務所を営むようになってから数ヶ月。組織という巨大な歯車から外れた俺を待っていたのは、ドラマチックな事件などではなく、迷子のトリミアン探しや、買い物帰りの老婆の荷物持ちといった、拍子抜けするほど穏やかな日常だった。

 

「なあ、グレッグル。今日こそは大きな依頼が来ると思うか?」

 

デスクの脇で置物のように静止していたグレッグルが、不敵な笑みを浮かべたまま「フン」と喉を鳴らす。こいつは俺が組織のバッジを外しても、何も変わらずにここにいてくれる。

 

「わかっているさ。平和なのが一番だ。だが……この静けさが、時折、嵐の前の静寂に思えてならないんだよ」

 

俺はデスクの引き出しを開け、奥にしまってある1本の「あなぬけのヒモ」を指先でなぞった。ホウエンで漂流した際、俺の唯一の所持品だったそれ。イッシュで組織の正義に疑問を抱き、逃げるようにこの地に辿り着いた俺にとって、このヒモはもはや過去の忌まわしい記憶から抜け出せない自分を縛る鎖そのものだった。

 

その時、事務所の扉が遠慮がちにノックされた。

 

「……はい、ハンサムハウスです。どうぞ、お入りください」

 

姿勢を正し、低い声で応じる。入ってきたのは、仕立ての良いスーツを纏った中年の男性だった。その身のこなしから、彼がそれなりの社会的地位にあることはすぐに察しがついた。

 

「あなたが……ハンサムさんですか?」

 

「ええ。この街の困りごとなら、どんな些細なことでも解決するのが信条です」

 

「実は、私の娘が……。いえ、娘だけではありません。最近、ミアレの路地裏で子供たちが神隠しに遭っているという噂をご存知ですか」

 

俺は眉をひそめた。

 

「神隠し、ですか。警察……いえ、ジュンサーさんには?」

 

「報告はしていますが、証拠がないと。子供たちは数日経つとフラリと戻ってくるのですが、その間の記憶がまったくないのです。まるで、心をどこかに置いてきたかのような、虚ろな目で……」

 

依頼人の男は、震える手で写真を取り出した。幸せそうに笑う少女の姿。

 

「わかりました。その依頼、お受けしましょう。報酬の話は後です。まずはミアレの灯りの下に隠された闇を、暴きに行かなければなりませんね」

 

依頼人が去った後、俺はトレンチコートを羽織った。

 

「グレッグル、散歩の時間だ。ただの迷子探しじゃなさそうだぞ」

 

事務所を出て、夕闇に包まれ始めたミアレの街を歩く。プリズムタワーの灯りが美しく輝く一方で、その光が届かない路地裏には、冷たい霧が溜まっていた。

 

「……国際警察を離れても、結局俺が行き着くのはこういう場所か」

 

独り言をこぼしながら、俺はあなぬけのヒモの結び目を強く握りしめた。

組織という名の正義を捨て、個人として生きる道を選んだ。だが、目の前で誰かが泣いているのなら、俺のやるべきことは変わらない。

 

「俺はハンサム。名前だけの男かもしれないが……この街の灯りを独りで守るくらいの意地はある」

 

影が伸びるミアレの路地裏。

俺とグレッグルは、その深く暗い闇の中へと、静かに足を踏み入れた。

背後で事務所の看板が、風に吹かれて小さく軋んだ。

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